41.冷めぬ怒り黙しまま
ルワンダが回復したことは未だ伏せたまま、こちらのほうは下準備を終える。
待ち時間は何をしていようか、と考え耽る。
「こっそり罠をイジっておくか。意図的に誤作動起こして余計に困らせてやろう」
もちろん人的被害は皆無になる程度にだ。
ここまでくると完全にただの嫌がらせでしかないので子供の軽いイタヅラ心を存分に開花させる。
魔導具の炎の射出口をその辺の部屋の中の豪華な花瓶に命中するようにしたり、
射角を変えて出力を上げて謎に薄い床、天井を貫通させてドアを故障させて開かないようにして閉じ込めたり、
水流魔法に重ねるように氷結魔法を引き起こす魔導具を寄せておけばツルツルの床を作れたり、
引っかかる奴の間抜けな姿を想像しながら改造するのが楽しくなってきてしまいそのまま何十個もの箇所に改悪を加える。
しかしこれは俺だけが悪いのではない。
こんなにも後から術式回路に手をつけやすいものを使った製作者が悪いのだ。
前にも言ったが俺自身そこまでこういったものが上手いわけではなく上には上がいる。
毎度お馴染みのアルに加えて、デルードが作るものも術式回路に後から手を加えるなど出来ない。干渉するために特定の暗号を刻む、つまりはパスワードや認証キーのようなものを備えているのだ。
そんなものを一切取り付けていないこれらなど、もはや工作に使って下さいと言っているようなものだ。
「そんなわけないだろ。勝手に弄りすぎたら今度はここを守り辛くなるだろうが」
「あ痛」
テオに軽めの拳骨というお仕置きをもらってしまった。
「……お前って餓鬼っぽく振る舞ってるのか、本当にそれが素面なのか本当に分からねぇよ」
「それは貶してるのか褒めてるのかどっち?」
「どっちでも無いが、まぁお前何歳だよ」
「知りたいか?」
そう聞かれたので正直に答えたのだが、何故か真顔で「マジで?」と聞き返されたので「マジマジ」と応えておいた。
「それで、そっちの準備は出来たのか」
「まぁな。あとついでに一つ頼みたいんだが、奏波の奴も参加させていいか?ジェスを捕まえる要因で」
「奏波の実力も一度見ておきたい訳か。良いぞ。流石に今の奏波が一人加わったくらいじゃ変わらないから」
「お前なぁ、本人を前にしたら絶対に言わないようなことをさらりと」
そうは言うもののやはり発展途上真っ只中の奏波には師匠としての威厳を保つためにも負けていられない。
……実はアレでも持てる力の全てを使えると仮定すれば今のままでも俺に勝てる可能性は五分五分、ということは本人には言わない。
そこから魔力量と出力は数倍伸びる想定である。いやはや恐ろしい。
「『奈落』で奏波が倒した魔物くらいテオでも勝てるだろ」
「勝てはするが、流石に一撃で一刀両断って訳にもいかないぞ」
「どんなに強い攻撃も当たらなきゃ意味無いんだよ。俺の見解では奏波とテオが殺し合えばテオが勝つ」
逆に言えば地上戦限定かつエリアを指定すれば奏波が勝つだろうが、そんな状況にもっていくための技量が奏波にはまだ無い。
「凄いじゃん。失礼だけどこんな碌でもない世界且つ魔法の伝承すら不安定な状況でよくそこまで強くなれたもんだ」
「昔から喧嘩っ早いから場数こなしてきただけなんだがな。魔法も魔法使いの親父から初歩を教わっただけだ。死んじまったがな」
「お前って聞くところ辺境とかで生まれ育った訳だよな。やっぱり魔物が原因なのか?」
「まぁな。前にも言ったが『奈落』から這い上がって来られるのは基本的に飛行可能な魔物だけだ。そういうのは軒並み倒しづらいとされているから、親父は食べられながら相打ちで俺たちを守ってくれてな。村の奴等全員で火葬したのを覚えてる」
飛行可能な魔物となると、この世界に最初に来た時に空間魔法で見渡す限りは飛蜥蜴だろう。
時折り属性に合ったブレスを吐いてくるためそれは厄介だが、知能が低いため単純に食い気だけしかない。
「つかぬことを聞くが、ここに巣食う奴等がちゃんとしていればそもそも誰も死ななかったんじゃないのか?」
「だろうな。だから偉い奴なんて嫌いでしかなくて今でもそうだが、そんな大きな括りにルワンダとエレナが入っちまうのが気に食わない」
何気に当の本人たちがいないところでは呼び捨てなんだなと気付いた。
テオの友達はこの連合国でも比較的最高位ともいえる権力者で、昔のテオと対極に位置する存在だ。
「俺も一度は言ったことあるさ。『偉そうにすんな』って。そしたらルワンダの野郎は上から目線の態度をどうしたら解消できるかなんて直球で聞きにくるような馬鹿でさ」
「それはルワンダの神経がおかしいな」
ルワンダにつられて俺も苦笑してしまう。
それでは完全に上から目線で人を見ていたことを自白した上で、その被害者に解決法を問うとは。
そして今度は王太子を野郎呼びしていたことも聞き逃さない。
これは完全に元ヤンが滲み出ている。
「エレナもエレナで、なんか色々あったみたいでな。なんというか、愚直すぎて笑えちまうんだよ。親父もそんな感じだったななんて。そしたら放っておけないだろ」
「面影に魅入ってしまったわけか」
「というよりは、俺がドラマチックな展開に弱いだけなんだけどな」
「へぇ。そこは是非とも三人称視点のテオからお話を伺いたいな」
「ついでにルワンダも酒に呑ませて色々と吐かせてやるよ。
うしっ、もう良いな。何かしてないと落ち着かないからって変なことしだすなよ」
「……ふっ。余計なお世話だよ」
やっぱルワンダ同様、俺に何か気になることがあったから足を運んできたようだ。
お陰で焦りはない。
ゆっくり、楽しんで、思い出話を膨らませないと──
「もの寂しい旅路を語っても、お前は口を尖らせて嫌がるもんなぁ。そしたら何もないに越したことは無いですよって叩かれて──」
すこし、わちゃわちゃしていたほうが面白い筈だ。
俺は自分の身体の中に手を突っ込んであるものを取り出す。
案外捨ててなくてよかったと思っている外套と、折りたたみ式木製大鎌を取り出す。
まさかもう一度『死神』ごっこすることになるとは思ってもいなかったけど。
*****
「──ということで、乃亜には完全にお留守番状態で居てもらいます。使用人を複数人この部屋に配置しているので欲しいものがあれば彼女達に申しつけて下さい」
エレナの後ろに五人くらいのメイドさんがいる。
のはどうでもいいとして。
「本当に私だけ?奏波は?」
「どうやらテオさんにこの作戦に参加してほしいと言われているみたいなんですよ。エレナさんたちの手伝いではなくお師匠様の妨害のほうに参加させられるようですが」
なんで?
何故に奏波がジェスの妨害役をすることになるのか。
「シンプルに、ルワンダもテオもジェス以外が闘うところを見ていないので実力の程を測りたいということです。クロードのところに行くために戦力が多いことに越したことはないので」
それで非戦闘員の私は除名ということか。
こればかりは役割というものがあり、全員の総意で決められたものなので反論も出来ない。
理解はしたが不甲斐なさで心が埋まる。
「私は本気で妨害していいんですか?」
「テオがジェスに聞いたところ、『相手にならないから余裕』と言っていたそうですよ」
「絶妙に言いそうで言わなさそうな答え方ですね」
確かにこれではテオの独断で言葉がすり替えられているのかどうか判断しづらい。
本人が言いそうで言わないような、奏波に重ねるがそういう絶妙な線。
「そういう訳ですので、騒がしくなったと感じたら下の玄関ホールの方に向かって下さい。奏波が不審人物と誤解されないようにこちらで対応しておりますのでご心配無く」
「ありがとうございます」
では頑張ってください、と前労いの言葉を残して何処かへ行ってしまう。
残ったのは私と奏波と謎メイド集団。
……謎メイドは失礼か。
「その疑心暗鬼な目、刺さりますわぁ〜……」
「ご安心ください。我々はエレナ様の使用人ではありますが対価は裏でひっそりいただいておりますので」
「エレナ様の衣服の柔軟剤、香水を選り抜くという栄誉を授かっております故(特に下着を念入りに)ボソボソ」
「皆で一緒に、」
「「「『クンカクンカハァハァエレナ様ぁ』」」」
……やっぱり変態メイド集団でいいや。
もうこの人達は無視しよう。危ない。色々。
「奏波は本当に全力でジェスの妨害をするの?」
「しないと頑張っているテオさんたちに悪いですし、何よりさっきの借りを返すつもりでやりますよ」
奏波って絶対にやられたらやり返さないと気が済まない性格してる。
「ごめんね。それは私のせいだから当たるのは私に対してだよ?」
「それならそこのメイドさんたちに勝負下着でも選んでもらって下さい」
「相当な罰ゲームになること分かってて言ってるよね?滅茶苦茶に性格が悪いこと言わないで」
それだけは勘弁願いたいといえるレベルのものがこんなにもサラリと思いつくものなのだろうか。
「ラグナさんに乃亜のお気に入りは熊ちゃんイラスト入りだと聞かされて──むぐ」
追い打ちをかけようとさる奏波の口を慌てて塞ぐ。仮にもここには話しかける前で既に忌避する存在(ド変態メイド集団)が居る。
帰ったらラグナちゃんにはお仕置きしてやると誓った。
「そんなことより乃亜はお師匠様と会う時の開口一番を考えておくべきでしょうに。気まずさ全開の空気に私を巻き込むのは勘弁願いたいです」
「そ、それもそうだね」
あくまで私たちは三人でこちらの世界に来ているのだ。
奏波を余計な諍いに巻き込むのは現在進行形で大変心苦しい。
「先ずは謝罪の言葉?っていうのは安直だしジェスも求めてないだろうし……」
「メイドさんたちに弄ばれたという猥談話から入るというのは」
「いい加減にその話題から逸させて。お願いだから」
気付いている上で煽っているのが見え見えだ。
こちらは真面目に思案しているのだから、冗談でも無いことは控えてもらいたい。誠に。
「とうとう真面目に話をして欲しそうなので真面目言いますが、」
「いや最初からずぅっとなんだけど」
「お師匠様が『奈落』にて言っていた『理想をちゃんと言葉にして俺に伝えられるまで、絶対にお前の意見は呑まない』というのをそろそろ回収してはどうでしょうか」
それはこの世界に来て間もないころに言われた時の言葉だ。このすぐ後に私の出所不明のフラッシュバックが発生して気絶したのだ。
……たしかにあの後、ジェスが私に対して覚悟を問いたけど、それだけで終わっていて私からは何も言ってない。
つまりあの時の口約束を半ば無視してここまで来ているのだ。
けれど、先程私を殴る勢いだったのも然り、こういったジェスの情緒が謙虚に現れている瞬間こそ見るものがあると考えられる。
つまりはこの時のジェスの怒りも本心からのもので……
確かこの後の台詞は。
『それまでは俺にとっての当たり前を貫く。お前たちが、仲間が誰一人居なくならない確実な方法を。これ以上は譲歩出来ない』
少しばかり失礼だが、これもジェスの本心からのものとして受け取って良いのだろうか?
甘んじて有り難くそう仮定するならば、ジェスが優しさを向ける対象の選び方がふんわりと浮かび上がってくる。
内から手を広げるように、といったところだろうか。
身内が傷付かないことが絶対。
それから多方面に手を広げて可能であればそれで良し。
しかし多方面にその手を広げるにしても身内が危ぶまれるのであらば手を引いて身内を再度守る。
喩えるものとしては悪いかもしれないが陣取りゲームのようなものだ。
だからジェスはノスタジルが絶対に安全安心だと仲間を信じ預け、はるばる遥か遠くの別世界にまで来ている。
「……うん。ありがとう奏波。その方向性で考えておくよ」
「別に。やることなくてウズウズとする乃亜に暇の潰し方を授けただけですし、肝心の成果が伴うかは人任せです」
「相談事に真剣に乗ってもらえるだけで頼もしいよ。今も、これからも」
「……あんまりそういう顔で言わないでもらっていいですか」
「えぇー、なんでぇ?」
奏波がそっぽを向くので肩を揺らしてたり私自身が立って動くが、暫く一向に視線を合わせてくれくなった。
「あれどう思う?」
「女誑し。罪な女よ」
「エレナ様と同じくらいの美顔ですからね」
「あれを食らえば男はイチコロでしょう」
ちょっと外野がうるさいと感じてしまう私は別に悪くない。
後でエレナに苦情を出しておこう。
*****
場所は例の魔導具格納庫前。
時間はまもなく。
「3、2、1、」
ぜろ、の合図は格納庫の扉を蹴り壊したことによる警報である。
*****
警報が城内に鳴り響く最中、喧騒が時を追う毎に増していく。
時刻は夜明け時であり、未だ就寝に着く者のほうが多いので本当に徐々にだが。
警報の音の質の違いによって何が原因かを伝えられるようになっているため、兵たちがすぐさま謀反者が居るであろう格納庫へ行くために上へと、もしくは出入り口を封鎖するために動く。
その光景を観察しながら三人は久しぶりに廊下で立ち話をしていた。
「朕はつい先程やることを聞いた時には驚いたが、まさか本当にやるとはな」
「おいルワンダ。お前はまだ顔色悪いんだから寝てやがれ」
「こちらはルワンダ抜きでこれをする前提でしたのでどうぞお帰りになって下さい」
「い、いやだが居るに越したことはないだろう!?」
これは全員が正しいことを言っている。
先ずはテオ。ルワンダの顔色が悪いのは体力的にはこうして立ち話していることは限界に近いな負担だ。
そもそもルワンダの治療法として、ジェスは魔力による自動治癒能力を無理矢理向上させている。これは全てルワンダの魔力で賄われるものであるため今のルワンダは魔力が殆ど残っていない。この状態の症状として軽い眩暈に加え酸欠の時のボーっとするようなものがある。しかし普通に休んであれば治る程度だ。
次にエレナ。こちらもルワンダは休ませたかった。単純に怪我の具合が心配とか他にもあるが、クロードのところに行く際にも戦力的にどのみち必要になる。不本意だけれど。
最後にルワンダ。何かしらの不始末があっても王太子という立場、権威に物言いさせて処理出来るため保険という意味合いでは居るに越したことはない。
だがエレナとテオはそれ以上に問いただしたいことがある。
「それにしても、何でわざとあんな重傷負ったんだよ。死刑囚のチンピラ程度数人、お前ならボコせただろ」
「土流操作でなんとでもなったでしょうに」
「……実は魔力を放出出来ないようにする腕輪を着けられてだな、」
「嘘吐くならもっとマシなのを考えろよ……」
「今は呆れるときではないでしょうに」
「エレナはどちらかと言えばボケ側ではなかったか?」
それぞれがそれぞれに対してツッコミを入れるせいで話が進みづらい。昔からずっとこの調子だ。
こうなることはなんとなく分かっていたテオが、ルワンダの胸ぐらを掴み力技で捲し立てる。
「てめぇが死んだらこっちが人質を気にせずに動けて楽だろうな。なんて気遣い要らねぇからな?」
「お願いだから変な無理はしないで。民の為の犠牲なんて体のいい口実なんか使わないで。誰かの為に何かを成したいなら、生き続けて」
単純に長生きすれば救える人が増えるというわけではないが、『誰か』というのがエレナやテオを指すのなら意味が変わる。
良い子ぶらなくていいその関係を三人それぞれがかけがえのないものとしているから。『普通』の友達が、隣人がいてくれることが何より居心地が良くその空間を大切にしている。
「……悪い」
「ほう?言い残したいことはそれだけか?」
「おい待て何だこの死に際の奴に掛ける台詞は──、朕は何故いきなり羽交い締めにされるんだ!?」
胸ぐらを掴んでいたテオはルワンダの抵抗より早く肩と首の位置を固定する完璧な羽交い締めにもつれこむ。
「処刑だコラ。エレナやっちまえ」
「待っ──」
「そーれ!」
エレナの鳩尾への正確なボディブローにより疲労困憊のルワンダは気絶。この大騒動の最中にひっそりと自室に強制送還されるのであった。
*****
この王宮の廊下は天井が比較的高い。
だから普通に壁を歩くように移動していれば人の手だけでは届かないような場所を自由に移動できる。
「いたぞ!撃ち落と、なんだこれ滑る!?」
「何で罠の魔導具が我々に向くんだ!?」
先程調べていた結果、罠の発動条件は何かしらの中枢施設から信号を送らなければならないようになっていた。空間魔法で調べるとおおよそ王宮の中心、高さ四百メートル程度の部屋にある。
今誤作動を起こしている一部の魔導具は俺がさっき魔術式を書き換えておいたものだ。射出方向に加え、発動を感知式にしておいたため謀反しでない誰であっても踏み越えれば作動する。
空間魔法で周辺階層を見ると、今目の前の人たち以外でも別階層で困りに困っている人たちが想像よりも多く出ているようだ。
それにしても、いくら罠が誤作動するように設定し直したとはいえ立て続けに引っかかりすぎだ。対応力がまるで無い。
(自分たちで置いた罠の位置と効果くらい頭に入れとけよ……)
呆れて物言えないとはこのことだ。
スパイ映画のように追っ手をカッコよくアクロバティックに避ける光景を夢見ていたのだが、こんな体たらくでそれをしてしまえばただ小学生の試合で無双するだけの大人気ない様になることは間違いない。
当初の予定ではこいつらを王都外壁まで引き連れ逃げ、当面の間王都の守りに半ば強制的に参加してもらうように仕向けることだ。
要するに、逃げ足を早くしすぎても遅くしすぎてもいけない。
「おい!誰か魔法撃て!あの見下してくる野郎を叩き落とせ!」
見下しているとは失礼な。
ただコウモリのように天井に立ちぶら下がり、自分たちが仕掛けた罠に馬鹿みたいに引っかかりまくる様を微笑ましく眺めているだけじゃないか。
「その冷めた目がムカつくんだよ!」
その中の一人が長々と詠唱して火球を飛ばしてくる。
フルで詠唱した癖に威力が無い。
「あー……。ギリギリ汗かかないくらいのぬくい火だ」
受けたとしてもなーんの影響もない。
土台無理な話だが、大陸を両断したラグナを見習ってほしいものだ。
「んー。歩くか」
コウモリのようにぶら下がりながら天井を歩いていく。
ちなみにカラクリは大したことではない。風魔法を使って掃除機のように風を吸引しているだけだ。
道中ちまちまと弱攻撃魔法が飛び交うが受けるか大鎌で弾く。
テオから聞き及んでいたが、この世界の主な闘い方は拳や剣による白兵戦とのこと。魔法を使える者のほうが少ないだろうし、これくらいの威力なのは致し方無いか。
「よく考えたらこっちが時間をかけたほうがエレナとテオが長く捜索できるか」
*****
「あいつ、完全に舐めてるな」
「余裕綽々ですね」
泥棒が歩いて逃げているのだから当然の話だ。
テオの両手は内通者の首根っこを掴むことで埋まっている。
エレナがあらかじめ誰が怪しいかのリストを作っているため、要注意する対象は最小限で済んでいる。
エレナとテオの部下も王宮外の王都含めて各地に散って同様のことをさせることで、一斉排除に動いている。
ジェスの予想通り、騒ぎに乗じて虫が一斉に湧き出した結果現行犯で捕まえられているため手荒な方法も認められる状況を作れている。
いつかエレナもやろうとしていることだったが、流石に隠滅される程度の証拠では動かせる人が少ない等の問題があったがこれは楽だ。
エレナの下に部下の一人が報告にやってくる。
「第二棟の食物庫が爆破されています」
「あそこは九割ほどは空にしてありましたので問題ありません。主犯は?」
騒ぎを助長する者は現行犯として捕えられる。
その現場には別の者に消火を任せ、エレナは暴君を思う存分振り回して行く。
その後もエレナとテオの無双は数時間ほど続いた。
*****
ついには鼻歌をしながら一階まで着いてしまった。
あまりにもゆっくり移動するものだから、階下には百人以上の兵が往生する事態にまで陥っている。
「あ、そこ踏むと床が凍るよ」
「え?うわー!?」
大の大人、それも数十人ががみっともなくドミノ倒しのように倒れて行く。
見てられねー。
見てるこっちが恥ずかしく思えてくる。共感性羞恥心という言葉の意味を正しく知った。
そろそろ奏波に出くわすだろうから、掃っておくか。
人に当たらないようにワインドを斬撃状にして飛ばしまくる。
それで怖がってもらうことで勝手に道が空けていった。
俺は開いた道を悠々と、引き続き鼻歌しながら歩いていく。
そして王宮から踏み出たところで、角で待っていた奏波が細剣を振りかざした。
「バレバレ。慎重にタイミングを測ろうとするあまりこっちを見過ぎだ。空間魔法も曉圏も使うまでもない。どうする?こっから一戦やってもいいけど」
「それは遠慮します。けれど一つ聞かせて下さい」
「手短に済むなら構わないぞ」
奏波は細剣を鞘に仕舞う。
どうせ追っ手に復帰するのは少々時間を要するだろう。ならば立ち話もやぶさかではない。
「乃亜に対して、何か線を引いてませんか?」
「そうだな。けどそれはお前に対しても同じことだ」
「?」
奏波が首を傾げて不思議そうにする。相変わらずだが奏波は自分に対して疎すぎる。
「内緒話にするかはお前に任せるが、才能があるお前たちを少し、ほんの少しだけ妬ましく思ってるのは確かだ」
「お師匠様だってあるから、アルネーブさんが目をつけたんでしょう?」
「難しいな。俺の今の力は後天的作用で、最初はただの一般人だったんだ。……遅ぇんだよ」
「遅い?」
遅すぎたんだ。何もかもが。
遂には一度も勝ったことなんてなかったな。
「何度も言うが勘違いするなよ。俺は率先してお前たちを蔑ろにはしないし下に見ることもない。話し合う土俵に立ててないのに文句をつけるから怒ってるんだ」
机上の空論、奇想天外の意見を持ってこられても困る。
現実を見ろとも言ってない。ある程度の高望みは聞き入れてやるとはちゃんと言ってるし、何がどうなろうとも責任は俺が負うとも言っている。
「乃亜は、『守られている』という立場が事実上下に見られているんだなと想っているんですよ」
「それが話し合いの土俵に立ててないって言ってるんだ。弱いと自覚してるくせに守られたくない?舐めるなよ。餓鬼みたいな主張を受け入れてやれるか」
「なら、」
「答えはそっちで出せ。教えられた通りに動いてくれるなら有難いに越したことないが、道化にまでは堕ちたくないないだろう?乃亜も奏波も」
「………」
さすがに立ち話もこれまでだ。
奏波を王宮に戻らせて、俺は王都を駆け回る。
なぁルワンダ。人は確かに成長するよ。それは俺自身が証明の材料になるだろう。
けどな、己の力量を理解しないで高い理想を唱えるだけの馬鹿には到底期待できない。そんなことは誰にでもできる。
圧倒的な力の下に自らの願いや欲望を叶えようとするのは自然の摂理だ。力無き者が策を弄し鍛え、賢く生きる様は美徳だ。
英雄のような生き様をするのも悪くない。悪を捻じ伏せ仲間を守るのは、悔しいがやっぱり格好いい。
出来るのならだが。
乃亜にこんなにも悪感情が湧いてしまうのは、おそらく劣化版を見ているようで腹が立っているのだろう。
「乃亜なんて、誰よりも力に恵まれていた癖に……!」
何でもっと、持つべき者が持てるようにならないのか。
死ぬ気で戦禍を生き抜く者たちが、本当の平和を知らずに戦う者たちが、人の悪意に理不尽に犯されるありふれた者たちが、苦しみ死ぬ様を何度見ればいいんだ。
妬ましいさ、羨ましいさ!
殺すのが怖い?傷つけることが怖い?
こっちはそんな域超えてるんだよ。
殺しは何も生まない?生むさ。
憎しみだけじゃない、歓喜も喝采も。
仲間たちを守るためだったら俺は、
『世界』を殺し尽くしても構わない。
少しだけギャクモブを登場させたい欲があった。
それと変態メイド集団が言ってますが、乃亜は見た目は相当美人です。作中三強くらいには。




