40.叶うはずだった祈願
ジェスの好感度ティア+もし死んだら
S+・????、?? 何を仕出かすか分からない
S ・ノスタジルの幹部クラス(仲間) 十日十晩泣いた後で更に引きずる
︙
B ・テオ、ルワンダ、エレナ 平静を装うがキツイ
C ・奏波 悲しみはする
? ・乃亜 ?
無駄としか思えないような馬鹿みたいに長い廊下を歩く。ただそれだけなのに妙に足取りが重い。どう考えても、諭すならばもっと言葉を吟味してからにすべきだった。そのうえ殴りかかるとか、餓鬼みたいな後先考えない愚行を犯して。
「乃亜が悪いわけでもないし、これは黙ってる俺のせいだ」
服に隠れて見えないところに爪を立て掻き毟る。
言い聞かせるだけでは足りない。痛みで自制しなければ耐えられない。
急げという焦りを止められない。
起きると決められるはずのない絶望の光景の想像が止めどなく溢れて恐怖が止まらない。
更に連なり、泣きじゃくるだけで全てを零したあの日の自分を呪う。
もう何度目か分からないが数えることが億劫になるくらいは確実にしてきた。
呪い尽くしてなお足りなかったからただでは死ねない。
「こんなんじゃ駄目だよなぁ。お前みたいに強く在らないとやっていけないなんて。辛すぎだろコレ」
そう、所詮は真似事。
隔たれ見えなくなった背中を追い続けているだけ。その先にある幻ではない確かにある久遠を目指して。
「いい加減に告るくらいはしててくれよ?まどろっこしい」
あの『甘さ』が果てしなく昔のようで、ひどく恋しい。
「いやでもやっぱり告白シーンは是が非でもカメラで残したいな」
ならば尚更躓いていられない。
「はぁ……。よし」
精神的疲労が残る体を動かして下見を続ける。
侵入経路と脱出経路の決定。それに基づかせるために脆弱な管理システムと兵を配置浅はかな考えを覆させる屈辱的な方法を模索する。
さぁ。一石二鳥の──いや、虫の居所が悪い俺にとっては一石三鳥となる防犯訓練、楽しんでくれ。
*****
「完全にキレてましたね。お師匠様」
まだ痛い、と奏波が背中に手を伸ばす。
「意識的にではなく突発的に反応して殴りかかろうとしてましたし、止めようと割り込んだら手首を返されて投げ飛ばされました。変に踏ん張りを効かせていたら折れていたかもしれません」
あれからジェスは泥棒してくるの言って何処かへ消えてしまっている。
最初からの一部始終を全て見ていたわけではない後から来たテオが状況を分析して私か奏波が何かしでかしたのだろうと悟る。
「おいあんたら、ジェスとの付き合いは長いんじゃないのか?」
「……私たちも一週間程度」
「何言い出したのか知らねえが、あれはそうそう怒る奴じゃないことは分かる。どうせ考え無しに地雷踏み抜いたんだろ」
乃亜はただひたすら自責の念に囚われ、自身の発言を思い返す。
直前に口にした言葉がテオの言うそれなのだろう。
『何でも出来るから助けられるから──』
(きっとそれが私の知らないジェスの琴線に触れた)
「……これはルワンダ様とエレナ様の友人としての俺の独り言に過ぎないが、ハッキリ言って実力者の集中を削ぐだけならお前たちは必要ない」
ごもっともである。
足を引っ張るだけでそのマイナス面見合うだけの成果が無いのなら本当に不要な物だ。
テオは大切にしている友人のために闘っているのだ。
その友人を巻き込まぬよう一人画策を続けて来た。
直近では危険な『奈落』に出向く際、実は隠れてこっそりと出て行っており見張りの兵を買収、もしくは殴り倒したりしている。
本気だからこそ、解決の糸口として偶然クロードたちより先に接触して自陣に取り込むことができたジェスを重要視するのは当然だ。
そう思っているのも間違いないが、単純な話テオはジェスのことをわりかし気に入っている。
当初は得体の知れないだけの奴だったが話すうちに段々と気軽になっており、昔の自分や懐かしの学園話なんかをしてみたいと気付けばプライベートな口約束をしている。
あれは闘いに明け暮れるような狂人でも、人の不幸を笑う悪人でも、感情を真っ向から否定するような独善者でもない。
ただヒトとして真っ当な生き方を望んでいるだけのように見えた。
案外正しい思い込みだが、テオ自身が乃亜と奏波よりかはジェスに懐かれているように見て取れる。
だから無駄にクズを気取る癖に優しさを抜き切れない可笑しな奴の変わりに言ってやってるのだ。
「他人を憐れむくらいなら、自分の生き様を見直しやがれ。出来損ないが努力する様を可哀想と思うだけのクソッタレを」
ジェスにはテオ自身と似て通るところを感じたからこそ送る経験からの言葉。
一度ルワンダにも言ったことがあるそれを今度は乃亜に言い放った。
*****
エレナとテオが聞いたジェス発案の「泥棒作戦」はこうだ。
シンプルにジェスが外部からの侵入者かのように紛し、魔導具の格納庫からいくつか拝借(強盗)するという極めてシンプルなものだが裏で行ってもらうことは案外エレナとテオ、そして復帰予定のルワンダのほうがきつかったりする。
目的は二つ。
一つ目は、クロードのもとにエレナを連れて行くに当たって不足真っ只中の指揮系統をこれ以上摩耗させるわけにはいかないため通信機代わりにする魔導具の部品回収。質の悪い安価なものでは仕上がり品の出来に差し掛かる可能性が高く(安価なものでも不可能ではないがジェスは自身の腕に自信が無い)、かと言って高価品をエレナに入手を頼むには時間が惜しくためらわれる。そこで丁度、解体すればいくらでも調達可能な便利グッズが格納庫にあるではないかという話だ。普通に格納庫へ入るだけでいいだろと思うところだがこれまた許可にやたら時間がかかるため却下。
『スティグマ』の魔導工学がジェスの技量よりも劣っていることはジェスがリフトを魔改造して嘔吐した被害者を続出させたことで証明されているので、テオが太鼓判を押してエレナに伝えているため解体許可をもらっている。
二つ目は、未だ潜伏しているであろう内通者の炙り出し。先の迫撃射撃を越える混乱を狙って引き起こすことにより、それを増幅させようとする動きがあるものを補足。その場で大きく動けば国家反逆罪で現行犯で捕まえれば良し。そうでなくとも不審な動きを見せれば後で問い詰めて吐かせるか、監視を置いて抑制をかける。その抑制も短期間しか保たないだろうがこちらも時間をかけずに攻め出るため問題無い。
全てを炙り出せるとは限らないがごく少数になることに違わない。人は精神的に焦燥に駆られる最中では既に多数の意見を選択する傾向があるため、少数まで減らせればいざというときに内部崩壊を誘発させる難易度は格段に引き上げられ、それで十分だろうと考えている。
問題の特定方法だがそこは例の三人に任せており、だからこそそちらのほうがキツイかもしれないという話なのだ。
それとここからはジェスの勝手な理由である。
アルネーブ曰く、『堕落を極めた貴族気取りを叩き起こすなら一度半殺しにすべし』という教訓をジェスに伝えたりしてある。
流石にそれを真に受けて実行するほどの鬼畜ではないが、少しくらいは痛い目を見てもらおうと考えている。ほんの嫌がらせ程度だが。
加えて懸念事項。これにより残して行く戦力が王宮に固められてしまい王都の守りが不十分になるのではないか、という点。
これをある程度解決するために奮闘する役目もジェスが責う。
逃走する際にぶっちぎって引き離すのではなく、あと少し追いかければ捕まえられると思わせてそのまま王都外壁まで誘導させてジェスはそれを乗り越えて外部へ逃走後、こっそり戻って来るとのこと。
最後のところが果たして上手くいくのかというのはエレナとテオが心配しているがチョロいとジェスが言うので渋々承諾。
ここまでの取り決めを行った後、冒頭の長い廊下をひたすら歩き下見を行うジェスに至る。
*****
ほぼ完璧に経路の確認を終えた。
結果的にはエレナに連れられて王宮を案内してもらっていたのが功を奏しており、思いの外短時間で済んだ。
それは良いのだがやはり心の中で先の出来事がつっかえる。
俺自身が悪いとは思ってないが殴りかけたのを奏波が身を挺して止めてくれた事実は変わらない。
「……流石に謝っておくべきか」
「朕は要らぬと思うがな」
聞き慣れない一人称だから誰かと身構え背後を向き姿を肉眼でしっかり捉え──その必要が無かったことを直ぐに知る。
「ルワンダ?思ったより声太いな」
「開口一番それは中々失礼ではないか……?確かに細身の割に声太いなとテオにも同じことを言われたが」
俺はガキと言われることの方がしばしばなので分からないが、これはこれで意外と傷付くものなのだろうか。
「というかそもそも朕の声を聞くのが初めてというわけではないだろう。其方自身が見殺しにしようとしていたと自白したではないか」
普通に忘れていた。
乃亜と奏波の言うがままに出てしまい結果的にこのような良い方向に行ったという有様だ。
「要らないって、何が?」
「とぼける理由などないだろう。謝罪するべきだと自問していたことについてだ」
「そもそも見てたのかよ。エレナに絶対安静を言いつけられてたのをもう忘れたなんて馬鹿なこと言わないだろうな」
「また殴られるのは怖いからな。内心切羽詰まってるんだ」
実際本気で焦ってそうである。
すぐ横で見ていたが、あれは普通に殴り方が上手いので非力なエレナであってもそれなりに威力が出てる。適当にやったのであれば凄まじい才能だ。
「だから手短かに言うが、これは其方ではなく彼女たちのために謝罪はよせ」
彼女たち。乃亜と奏波だ。
ルワンダが二人に求めそうなものなんて考え方を矯正するくらいしか思いつかない。そしてそれに俺の手は邪魔だと。
「……不要な気遣いってか。それで何になる?」
「信頼関係というものは内面的に対等でなければ成立し得ない。そういう意味合いで彼女らは幼すぎ、其方は悲観すぎる」
「あいつらは分かるが、俺にも諭すか」
「夢を叶えるのは力有りし者の特権だろう。『傲慢』は必ずしも否定的な言葉に非ず。競い、争い、勝ち取れる筈の未来を、其方の不戦敗で決着させるな。かえって侮辱になるぞ」
「……何が言いたい」
「利他主義は其方の勝手だ。だが自虐ネタは今時ウけぬぞ」
「それなら心配要らないさ。もう、後戻り出来ないくらいやってることは卑劣だから」
自分でそう言っていて、どこか少し安心してしまう。
それらは、たとえ大悪党だと罵られようとも駆け抜いてみせる俺の覚悟を示せている証明だ。
「その『卑劣』が半端だと言っている。其方自身が、相手が完全に崩壊する手前で無意識に制御しているだろう。今やろうとしている謝辞もそう、『奈落』の時も朕が静止せずとも手は出さなんだ」
それは『奈落』で、俺が死刑囚たちを殺していくべきだと告げた時に乃亜が反感を示しそれに奏波も乗じたものだ。
あの時、あまり思い出せそうにないが言ってはいけない何かを言おうとした際ルワンダに止められたのだ。
「……仮定の話だろ。話が発展すればそうならざるを得なかったかもしれない」
「しないだろう。擦り傷一つが関の山だ」
「俺をどこかの聖人君主と見間違えてるんじゃないか?さっきのもそうだ。俺は本気で乃亜を殺しにいった」
「推察するに、土壇場で手を止めていた筈だ」
あぁ。そろそろ否定の言葉が見つからなくなってきたな……。
「とにかく一度、あの二人は時を与え好きにさせてやって欲しい。其方の仔羊ではなく、其方の隣に在るが為に己の力で進めるように。なにも成長を望んでいないわけではなかろうて」
それではエレナに見つかる前に朕はこれにて。と残してそそくさと退散していった。
なんか、テオが"様"まで付けて慕う理由を分からされた気がする。
親友に、似てる。
「強いな」
*****
ジェスが消えた後、半ば無理矢理にエレナが私と奏波をジェスから遠ざけるように自室に案内してくれた。
やはり連合国にとって非常に重要な存在だからかちょっと見たこと無いくらい部屋が広い。縦横ともに二十メートルといったところだろう。
「無駄に部屋が広いのでくつろげるかと思いますよ」
エレナが『無駄に』というのを僅かに強調していた。
確かに何も置かれていないスペースが多く見られ、家具同士の間が不自然な程に空くことになっている。
「奏波はまだ痛むようでしたら薬は有りますよ」
「もう支障をきたさない程度に治ってますので大丈夫です。お気遣いどうも」
あの後よく見ると奏波が打ちつけられた壁にひびが入っていたらしい。いくら奏波が相手だったとはいえ強すぎで、発端が私だと思い返すたびやるせなさだけが募る。
「不粋は承知で、彼はそこまで頼もしいのですか?」
「彼って、ジェスのことだよね。うん、それはもう」
仮にも命を救ってくれた恩人だし、独り心の内で閉じこもってばかりいた私を引きずり出してくれたから。
「奏波はどのように?」
「まだよく分かっていないといった感じでしょうか。私はお師匠様についていく乃亜についていっているようなかたちですので」
これが何になるというのかと疑問に思う。
「……ジェスの強さは歪さを兼ね備えています」
思っていたらエレナによるジェスの見解を告げられる。
──『歪さ』とは。
「心の棲み分け方が根本的にあなたたちと違うんです。生き方を後から自在に変え、多角的な視野で見聞を開いていく"あたりまえ"で、ありきたりで、その理想の最中に居るのがあなたたち。
しかしながらジェスはその枠に無い。何かに縛られなければ生きていけない。その依存の分だけ確固たる精神力が保たれている。『何か』が失われることを自他含み世界を代償に覆さんとするだけの狂気です」
「何か、って一体……?」
「そこまでは推察出来ません。欲望か悲願か友情か愛か、もしくは感情では表せない何かかもしれません。そもそもこれら全て私の見解でしかないので確たる証拠も何一つとして在り得ないのですけれど」
ジェスの感情。一度も勘繰ることが出来ないブラックゾーンだった。
けれどもしかしたら、端々見せていた非効率な行動そのものに何か手掛かりがあったのかもしれない。
「……そしてこれらを抱える方々の共通点として、彼らはいつも怯えて生きています。その『最悪』が死よりも恐ろしいことを体感しています」
ジェスが、怯えて生きている……?
何かが『失われる』ことに?
「だからあの言葉が、ジェスを怒らせたのかな」
『何でも出来るから助けられるから──』
「『そう』じゃない過ぎたものがあったのかな」
だからテオが言っていた。
『他人を憐れむくらいなら、自分の生き様を見直しやがれ。出来損ないが努力する様を可哀想と思うだけのクソッタレを』
「……そうだね、」
ジェスも『奈落』にいたころから言っていた。
『お前は!現実を見ようとせずに現実味の無い希望的観測しか語らずに、縋ってるだけなんだよ!!』
「ずっと口先だけだなぁ、私」
自分で言ってて苦笑してしまう。
「それと言いたいことはもう一つありまして。先程の騒動の後にジェスが一人でどこかへ行ってしまうとき、怖がっている様子でしたよ」
「怖がっていた?」
ちなみに今の返事は奏波だ。
奏波としてはあの後しばらく痛みに悶えていて周りをよく見れていないというのと、加害者が怖がっていたという少々奇妙な様を不思議思っているのだろう。
「それこそエレナの言う『何か』なのかな?」
「それもまた分かりせんが、狼狽していたのは間違いなかったですよ」
何に対してなのかはまでは推察が効かない。
今のままではあまりにも情報が無さすぎる。
「単純に暴行未遂に対しての自己嫌悪じゃないですか?」
ふと奏波がそう言った。
今のジェスにそういったことがあり得るのだろうか。
「なんで乃亜が一番不思議そうな顔をしてるんですか。普段から『ジェスの魅力は優しいこと』と周りの人に言い散らかしてるじゃないですか」
「いや一度も口にしたことはないから!」
「なら今ので実質一言目ですね」
思っているが口にしたことが一度もない、みたいな言い方をしてしまったところを奏波に掬われた。
「実際にそれもあり得なくはないのでしょうか?テオから『奈落』での出来事と様子を聞きましたが、理由も無く人殺しに及ぼうとしたわけではないようですし、そもそもその対象は大罪により国を追放された死刑囚です。そういった正当な理由が無ければ誰かを傷つけること自体嫌うはずです」
「ですが、逆に言えば理由さえあれば人を殺せるということですよね?」
「……でもこれって、もしかして、理由がなければジェスは自分すらも守ろうとしない──?」
単なる思いつき、もしくは適当な独り言とも言えるくらい、思考と同時に口が回った。
が、妙にこれが今までで一番ジェスの核心に近いような気がしている。
──のだけれど……
「それだけじゃ何か薄いような気がする」
「一先ず、エレナさんの言う通り精神的に少し距離を置いてお師匠様を観察するのがいいんじゃないですか?」
「わたしも可能な限りであればお手伝い致しますよ。ほんの少し、クロードに似ているところがある気がするんです」
クロードに?
今は隠れているエレナの辛さも何とかして解決させてあげたいと考えている私はそのことに関してもっと話を聞くべきだと、考えたがエレナに止められる。
「仮眠でも構いませんので少し休息を取って下さい。暫くしたら、騒動で煩くなって寝られませんよ?」
そういうことで、次起きるのはエレナの指示があった時だ。
*****
一方
仲間の遺体の護送を消沈しながらもようやく終えたローテ・ノーブルとその作戦に参加していた一派は一時退却し、連合国王都から百キロ弱離れた場所にある大拠点に入っていた。
一般に革命派と呼ばれている彼らには数々の拠点が世界中に散らばっているのだが、その中でも目立つ拠点が二つ。
一つは連合国が世界地図の拡張や、国外における有効資材の発掘などを行う探索家のために造られていた施設。それに携わる人々全ての中継施設であり大規模な宿泊施設でもある。且つ連合国公認施設というで本当に大人数の収容が可能であるため便利はもっとも良かった。
二つはカーディス家、エレナとクロードが居た"元"貴族であるこの家の別荘と名義されるものが連合国王都から離れた位置に点在しておりその内の一つである。しかし、クロードは個人の調査により不当な手段で手に入れられた魔導具や魔導書といったものが大量に収納されていることを把握し、当主の暗殺後である現在も有効活用している。
ローテが今いるのが後者である。
責任者であった自身の口から何があって全隊撤退に踏み切ったのかを説明しなければならなかった。
当然だが、この一体を仕切っていたのは調査により周辺の立地によりくわしかったクロードである。
「申し訳ありませんクロード様。予定外の戦力が登場し、最悪の事態を避ける為に作戦を中止しました」
「構わない。作戦の一つや二つ潰れようがやりようは如何様にある。ここに来るのもノイラの死を悼んだ後でも遅くはなかったのだぞ」
「そちらにはちゃんと時間をかけたいのです。……失礼ですがノイラの名は暫く伏せていただけますか?」
「了承する前に死因だけは聞こう。それがお前の言う予定外の何かなのだろう?」
クロードとしてもノイラを失ったのは惜しい。
ローテと組ませておけば世界最長の有効射程となり得る手札を失ったのは大きすぎる痛手だ。はっきりいってこの二名だけでも数千人分の働きがある。
「それでは経緯から」
まず、当初ルワンダ・ファン・レガリア・アイテールを適当に『奈落』に落とした理由として交友が深いテオ・ウィンシェルを誘い出すためでありこれには成功している。
ルワンダがそれなりの戦闘能力を持っていることは承知であり栄養失調でもないほぼ万全の状態で『奈落』に置いていたためテオが生存しているルワンダを発見するところまで織り込み済みである。
手筈ではテオたちが『奈落』から出る際にリフトで上昇する間を魔法で迫撃し撃破するはずだったが、想定以上にその期が早過ぎた。
なにしろテオが『奈落』に潜る以前に奇襲する自分達が見つかってしまっては意味がない。頃合いを測りテオを『奈落』に沈ませた後に出立をする必要があり、且つ帰還までの時が想定の半分以下だったため間に合わなかった。
疲弊したテオを抹殺し、ルワンダをもう一度人質として捉える当初の作戦が失敗したわけだがこれにはサブプランが存在していた。
それが例の王宮への魔法による迫撃射撃である。
こちらの方が作戦の決行に数をかける必要があるものの、疲弊しているテオを討てることに変わりない。
実際のところ、あちらの陣営でテオだけがクロードとローテに勝てる可能性がある。それがクロードの見解であるために、狙い撃ち、確実にここで倒しておきたかった。
が、
「正体不明の何者かが十キロ近い距離からノイラを瞬殺したのか。それも斬撃を飛ばしているのではなくいきなり出現、遠隔魔法の違いだとしても出鱈目だな」
遠隔魔法はあくまでも発現起点を術者から離れた位置に設定するものであり、魔法そのものが転移しているわけではない。傍目から見ればただ遠くの地点で魔法が起こるという地味なものだが、それに伴う技量は果てしない。
『スティグマ』における最長記録がローテの八百メートルだ。十キロともなると前代未聞すぎて耳を疑う。
「それと同じ程に、その距離を正確に見切る感知能力の範囲が恐ろしいか。下手をすれば時を空けずにここまで攻めてくる可能性も視野に入れなくては……」
面倒なことになったな、とボヤくのは当然だ。
未だ近距離における戦闘力は不明だが、弱いと言われる方が違和感を覚える程の所業だ。現状、人手を見れば数でも質でも劣っている。
やはり先の作戦でテオを始末しルワンダを再度無力化できていないのが大きすぎる。
だがあくまでこれらは『人』だ。やりようがあるにはある。
なお、あんな奴がどうしていきなり現れたのか。とはどちらも口にしない。分かるはずのない問いは互いにとって時間の無駄だ。
邪魔するならば如何なる手段を用いてでも消す。それだけを胸に。
ローテの報告を聴き終えたクロードは奥へ引っ込んでいった。
*****
クロードは最上階の静かな廊下を歩き、辺りを見渡せるバルコニーに立つ。
高い。
高いだけ。
何もかもを見下すかのように造られている。
カーディス家当主はこの連合国の有様を遵守するかのようにこの隠れ家を高く造ったのだ。
「これが、あなたが嫌う景色なのでしょう?エレナ姉様」
連合国がどうなろうと関係ない。
己の人生で初めて人の優しさを教えてくれたあの人は、誰よりも強いのに誰よりも強く在ろうと出来なかったのだから、望み通り、縛られることなく生きてほしい。
あなたが、望むままに、この世界を堕とす。
こういう主人公たちの意義を問う話を描いてみたかった。




