37.助けるべき存在
補足。ジェスたちがいる現代の年齢を表示しておきます。
ルワンダ・フォン・レガリア・アイテール→24歳
エレナ・カーディス→24歳
テオ・ウィンシェル→22歳
クロード・アルヴァ・カーディス→19歳
ローテ・ノーブル→20歳(クロードと同年代)
「わたしと弟は血が繋がっていませんが、養子として家に取り込まれた彼を幼い頃から見てきました」
エレナが取り乱すことがあったので話はゆっくり進められている。
「養子として加えられた理由は単純で当主の後継ぎの問題です。『連合国』となり小国同士が纏まる以前の『アイテール』という一つの国でしかなかったころから、代々国王の親衛の役を担ってきているという格式から実力主義が家内での掟。性別以前にその役を担う者が当主となる。
戦争続きの時代が終えれば一時的であっても世は平和になり、魔法の技術が衰退を辿るにつれ当然ながらその資格を保ち続けることが困難になることは必然。
そしてその時が遂に来たというのがわたしが生まれた世代。ですから解決策として、テオのような一般市民で特筆した才能を持つ者を招き入れる。先代当主が扱いやすいように『仕込み』を与えました。この境遇を経験してきたのがクロードです。そのおかげで……せいで、今も連合国内において事実上の最強と言えます」
「補足しとくと、少し前から俺が言ってる白兵戦に関しては最強ってのがこのクロード・アルヴァ・カーディスだな」
テオが追加で説明を加えてくれる。
これまで俺たちの前で名前を出していなかったのは、エレナの弟だという事実はエレナ本人から明かすべきだと考えていたからなのだろう。
「だが『アルヴァ』ってのは旧姓か?」
「はい。戸籍上は抹消されていますが、せめてわたしだけは憶えておこうと思いそう呼んでいます」
「だけ?そいつの親兄弟は?」
「『身柄を保障する』という名の人質で家内に住まわれていたと聞いていますが、存命されているのを確認したのは誰も……」
成程。大方エレナの言うところの『仕込み』として消えたのだろう。
「非道い……」
「例え一家を丸ごと巻き込んだとして、事実段階の確認で足がつかないものなのか?」
「つかないでしよう。後で死を偽装させてしまえば、カーディス家は身寄りの無いクロードに引き取った良家としか世間は見ない。あとは監察を賄賂か弱みを握るでもして丸め込んでしまえばどうとでも」
身寄りの無い、支配下に置いた子供を使うか。
それでクロード本人がその立場を心の底から受け入れられているのなら関わるのは迷惑な話になるのだろうが、エレナはそれは違うと分かっているからこそ悩み苦しんできた。
「あの子は、いつも泣いてたんですよ。痛いし苦しいし厳しいしと。才能が有るか無いかなんて関係無い。ただ子供として在ることが一番幸せな筈だと思ったから、せめてもと手を尽くしてきましたが………いつしか、それがきっかけで揉め事になったっきり。既に四年以上接触を絶たれています」
……あまり深く知る必要は無いだろうし、これ以上語らせると精神的なダメージが大きそうだ。
「二人の関係については時間をかけてもらうとして、今はこの話を続けるのは打ち切ろう。で、今の敵対派閥の発端がそのクロードということは全体を指揮してるのも、」
「……はい」
「エレナ様。やはり一度語り手を変えましょう。あなた方二人に何があったかは存じ上げませんけど直近のことなら俺でも把握してる。それに、弟のしでかしたことを自ら語るのは酷でしょう」
「大丈夫です。また、逃げるのは怖いから」
「代理を任せ放っておくのは逃げかもしれませんが、貴女は違うでしょう」
「ですが」
「俺からテオに頼む。続きを」
「……すみません」
別にエレナを無下にしようとしているわけではないし効率を求めたわけでもない。
ルワンダの悲痛な表情が見たくないという俺の勝手と、エレナには自分を想う人の顔を見る時間を与えるべきだと思ったから。
語り手を代えテオが話し始める。
「革命どうこうっていう妄信は兵卒を活気付かせるための建前で、実際のところはあらゆる方面で力を持つ派閥や貴族を下らない思想や独占欲、王座を奪い取るような向上心をクロードは裏で煽り立て続けてきていた」
まぁ確かに『魔法技術を王家が独占している』とか言い聞かせておけば士気とか協力意識は高まるし、既に魔法を闘いに運用することが出来ている者か魔導具造りに執心な者は更なる可能性を求めて躍起になる。これらが結果的に今の結束を作り出して厄介になっているようだし。
「そういうことを続けて来たことでクロード以外の全員が惑わされていたんだ。『協力は自分とクロードの一対一』だってな。だからそちら側からの内通なんて一切無かったし、違和感を持っていたエレナ様も各方面調べ回っても協力者なんて炙り出せる筈が無かった」
随分と計画的に事を運んできたものだ。
おそらく精神的には最も身近のエレナを欺くために手を尽くしてきている。
それに今現在で俺たちがついているこちら側が負けそうになる程、クロードやローテ・ノーブルがいることを踏まえても最低でも全体の四割近い戦力に達するまで増幅させ続けている。
「だからこそ火蓋を切ったのはクロード自らだった。未だ誰にも直接的な妨害が出来ない状況と本人の実力をフルに活用して、ルワンダ様とカーディス家の会談中へ乱入しルワンダ様を生捕りそれ以外の使用人を除く全ての者殺害して逃走した。これが約十ヶ月前に起きた大事件だ」
「十ヶ月前ね。それなら俺たちとルワンダがお前たち護衛兵と出会ったあの時の平静を保てない焦りようも分かる」
「あの時は本当に悪いな。久しぶりにルワンダ様と顔を合わせたら顔はぐるぐる包帯巻きで取り返さねぇとって慌ててたんだ」
別に今更責めるつもりで言ったことではない。二人の仲は短い間ながら観られているし、そういった事情を抱えているのなら当然だ。
友達の命がかかっている時は信じていない全てのものが邪魔に見える。そういうものだ。
少々察しが悪かった奏波が先程のテオが語った事件の詳細を尋ねる。
「事件が起きたのって王宮内なんですよね。いくら最強の人だとしても衛兵の人か防衛機構の一つや二つに引っかかるものでは?」
「普通なら、な。だが悪いことにルワンダ様とカーディス家当主の会談は事前にセッティングされたものだったんだ。おそらく逃走経路は事前に組まれているし、後から判明したこととしてほんの数分の間だけ俺たち全員ががその経路に割り込めないように担当区域が偽装されていたんだ。加えてエレナ様も王宮を空けざるを得ない予定が組まれているのも把握した上でな」
理想的で完璧な布陣が整う一瞬を作り出すまでの苦労は果てしないだろう。誰よりも多くの情報を得たうえで巧妙な情報操作に全員が気付かずに騙されている。
テオは唯一止めれたかもしれないと考えているエレナが居ないタイミングというのも、もはや狙って引き起こしたのかもしれない。
「現場も酷いものでな。実際にこの目で見たんだが、暗殺は基本として首を断つか眉間を貫くかで即死させるのがセオリーのはずだが、カーディス家当主に対しては声帯を潰された後で顔の一部を斬り離し、発見後に失血で死んでいた。積年の怨みを晴らすためだったとはいえ度を越しているとは思うがな」
怨念晴らしとしてだろうが、はたして時間を急がねばならない状況下でそこまでするか?
必要性があったのかは謎だが、ある程度の実力を保持するルワンダを生捕りにすることも考えればことさら違和感が湧いてくる。
加えて忘れそうになっていたが、エレナの話を汲み取ればそのカーディス家当主は現役の国王直属の護衛長だ。
ルワンダを生捕るにせよ当主を殺すにせよ、会談中にどちらかを初手に定めれば片者が迅速に対応して戦闘に入り周りに待機していた筈の護衛たちも黙っているわけがない。
護衛たちを協力者にすり替えた線もあるが、その予測をテオが立てない以上は本当に正規の人が殺されていたのだろう。
(ルワンダがクロードの協力者であり手を貸した。というのは飛躍しすぎか)
とはいえ可能性として頭の片隅に入れておく。
信用するのと疑わないことは同じことを意味しない。
臨機応変を迫られる事態でこういう前提に近い想定を覆されては判断を誤る。多くのパターンを想像しておくのは鉄則だ。
「カーディス家当主が会談前から影武者だった可能性は?」
「……考えてなかったがあり得るかもな。実はその事件前にカーディス家内の一部親族と使用人が姿を消している」
ふとテオの隣のルワンダが俺たちに分かるように首を横に振る。確かにルワンダという目撃者がいるなら影武者を立てるのは難しいか。
「そもそもルワンダを生捕りにする理由は一度置いておいて、どうやったんだ?正面からか背後からかとか」
「そこは俺たちだけでもう聞いた。背後から急襲されて意識がオチきる前に袋被らされたみたいだけらクロード以外の犯人はいるかどうかも分からんな」
ならば現状では、『護衛兵に潜入していた者と協力し、その協力者ごと殺害した』という線が最有力だろう。
「事件現場の話よりも、クロードさん自身にまつわる話をした方がいいんじゃないの?」
ここまで展開してきた議題に乃亜が異論を唱える。
たしかに普通ならば意味はない。確かにこれから何かを変えられる訳ではないし、クロードの権能をこれで見極めるのは不可能に近い。
ただ、
「ジェスの懸念通り、内部で情報操作が行われていたなら内通者が居たのはほぼ確実だろうな」
テオが答えを出した。
「大量の貴族連中を長期間繋ぎ止めておくのは、普通に考えてクロードの権力的に無理があるからな。それこそ最初に手中に落とし込んだのはローテ・ノーブルとかじゃないのか?」
「あると思うぞ。奴のところは母方にあたる人物が病で伏せているから、数年前から一時代理当主として家を動かしているはずだ。しかも魔導具諸々の開発で最も連合国の利便性を高めた名家だから信頼もツテも果てしなく多いと聞くし、本人の実力も相まってクロードからすれば一番利用価値がある女だろうな」
「俺が自分で言っておいてなんだがその二人には接点が無いだろ」
「いえ、」
話に割って入ったのはエレナだ。
持ち直したのか、何かしていないと落ち着かなかったか。とはいえそれが有力な情報であることに変わりないだろう。
「ノーブル家とカーディス家は昔から長く魔法、魔導具に深く関ってきた側面から交流が多いです。この関係性もあり内務卿として接することも多々あったついでに偶然耳にしたことですが、クロードとローテは同じ学園で学園に入れられています」
「あー。あそこの教師どもは名家の奴には強く出れなかったから一つや二つ不可解な行動あっても見逃すだろうし、隠れて話しごとなんてザルに出来るしで他にも協力者を仰ぐには絶好の場所だな」
俺未だにあそこの小心ジジババは嫌いなんだよというテオの愚痴が加わる。
この様子だと理不尽な目に遭わされてきていたのは間違いないだろうが、本人は逆に良い思い出として残っているようなので余計なツッコミは入れない。
「となると、そのローテ・ノーブルだけはまだ王宮内に潜伏してる可能性もあるのか」
「その分ならクロードもあり得ます。一度退散した後であっても一般的に顔を知られていませんので、わたしたち三人に見つからないのであれば可能性は捨てきれません」
「おいおいちょっと待てよ。捜索も兵管理もグダグダじゃないか。こんなんじゃ革命派の連中と戦争にならないだろ」
「実際にこの半年成り立ってないんだよ」
テオが既に分かっている失望を込めて大きく溜め息を吐いた。それも頭を抱えて顔を覆いながらとても疲れていそうにして。
「どいつもこいつも大義なんて持ち合わせてないから危機感なんて持っちゃいない。数だけでいえば俺たちのほうが十倍近かったから上の輩はイキりたって何の指示も対策もしないから数の利を全く活かせないんだ。心配するのは己の身の安全のみで半数はこの王宮とその周りの王都に集結させたままだ」
「だからそんなに危機感持って俺を勧誘してたのか」
「ああ。今となってはジェスと奏波みたいな権力にかからず自由に動ける戦力は猫の手でも引っ張り出さないと戦争になっても勝負が成り立たない」
ひ、酷ぇ。終わってるとしか言いようが無い。
先程連合国全体の四割近い軍力を取り込んでいるだろうと考えていたが思い違いだったようだ。なんとこちらの十分の一の数を相手に負けそうになっているらしい。
「実際に政治も無茶苦茶だったからな。ルワンダ様とエレナ様は連合国民からみれば、戦争も起こってないのに英雄だ。冗談でも大袈裟でもなくて、大マジで」
連合国になった経緯とかそれから何年経ってるとかは存じ上げないが、よく体裁を保てていたものだ。
まともな性格してない者でも優秀なのは間違いなくいるのだろうし本当の無能で構成されていることはないと願いたい。
本当にこれ以上味方にしてていいのか疑わしくしないでほしい。
「それで今更やばいとかころされるとかぬかすんだから救えないぜ」
「王様とかどうしてるんだこれ」
「知らね。顔見たことないし、政治関連で根回ししてるとかも聞いたことないぞ」
「同職だから気になってるんですか?」
「……奏波。余計なこと言うな。恥ずいだけだけだろ」
本当に俺は何もしていないので仕立て上げられているだけの飾りなのだ。変な権力をふりまわしてでしゃばる資格は到底ない。
殆どはアルがやっていることだ。
「そういやジェスが『俺の権限の下──』とか言ってたな。そういうことだったわけね」
「はいはいこの話もういいから。政権の話はもう終わりにしてクロードの話に戻そう」
「そうだな。クロードがルワンダ様を引きずって王宮から逃走した後の話からだったよな?」
合ってる。そこから王宮内に内通者がいたのでは?、という話に切り替わったことで管理の脆弱さが露呈していたのだ。
「事実上、クロードが『決起』を自ら行ったことでクロードと交わした契約通りはたらきかける貴族が出てくるわけなんだが、ここでようやく唆された貴族連中同士が仲間の間柄にされていたと気付くわけだ。仲間が多いことに越したことはないみたいな謎の結束で滞りなく一斉に謀反者になった」
「『赤信号、皆で渡れば怖くない』ってやつか」
「は?赤信号?」
そうだった。ついノリで言ってしまったがこの世界に信号なんてないから分かるはずがない。
気にしなくていいと一言足して話を進めてもらった。
「当然俺たちも王太子を攫われているから流石に上の連中も手を尽くそうとしたらしいが、結果はボロボロだ。捜索以前に誤報や虚言を意図的に紛れさせる裏切り者を対処しないと何も始まらなかったからな。エレナ様がこの辺りの時期は不眠だから心配でしたけど」
国を滅ぼすのは敵にあらず。たまに聞くこの言葉通りになっていたわけだ。
「それは……クロードとルワンダの件で居ても立っても居られなかったからですし、内通をはたらく謀反者とその協力者を相手に無敗で競り勝っていたのはテオじゃないですか」
「だとしてもあの時休んでて下さいよ。貴女様にぶっ倒れでもしたら後でルワンダ様にブッ飛ばされるのは俺なんですよ?」
「そ、そんなことしませんよ?ねぇルワンダ」
これに対してルワンダはニッコリ笑顔。
これブッ飛ばすどころか殺すんじゃないか……?
それを見たテオが逃げるように続きを語る。
「と、とにかく今は王宮内には徒党を組んでいる奴等はいない。だが単独で潜入しているような猛者がいる可能性も考慮しなくちゃなんねぇから安心していい状況でもないけどな」
「まずは早口を直せよ」
「いや本当に怖いんだって。この人けじめつける時はマジで徹底的にやる人だからな」
戸籍抹消されないかな?とか意外にもマジトーンで言っているので煽るのは止めておく。イジるにしても可哀想なラインに入ってきそうだ。
このビビり方には昔馴染みの何かがあるのだろうがいつか聞かせてもらうとしよう。
「一ヶ月もすればクロードの身柄が補足出来なくなりはしたが、あちら側もこちらの内情を探る手立てを大きく削がれている状況に置かれた。情報戦をある程度重ねて本拠地の特定にルワンダ様という人質の居場所と取り返す手段を考案しなくちゃなんねぇってときに、なぁんでやらかす奴等が出てくるんだよなぁ!」
「何このキレ気味な語り手」
「『王太子を我が手で取り返せば国王様からのお墨付きがもらえる』とか『我が家の底力を見せてくれるわ』とか噛ませ犬アクションしまくる貴族連中や兵団組織がわらわら出てくるせいで、殆どが各個撃破されて見合った手掛かりも収穫もない!しゃしゃんな糞餓鬼共がぁ!」
「ごめんエレナ。またチェンジで」
「あ、はい」
「えっと、テオさん落ち着いて」
「乃亜。これはそっとしておいたほうが良いそうですよ。私は悩み事でストレスを溜めていた顔見知りに『彼氏のつくりかた』という漫画を適当に買ってあげたらキレ散らかしていましたよ」
「それ絶対に焚き付けただけだよね」
そりゃ彼氏ほしいとか言ってる奴にそんなもの送っても舐めんなと怒鳴られるだけだろうな。
「その人のお金とショップアプリを使って買ったからかもしれませんが」
「……奏波以外に悪い人いないよそれ」
本当だよ。
まぁ俺も『ネメシス』で遊ん──。おっほん。潜入調査していたときに友弦のスマホを勝手に開いてたりしてたし似たようなものだが。
あとなんだよこの無駄な会話。こんなのまじでどうでもいいんだよ。
「エレナ。気にしなくていいから、本当に落ち着いてからでいい」
「いえ。このくらい軽いほうが気楽で助かりますよ」
案外エレナは貴族というよりは普通の一般的な女性として産まれるほうが向いていたのかもしれない。
期待とか重圧が乗せられる立場というのが苦手そうにしか見えない。
先程の錯乱から本当に落ち着いている様子で話を続ける。
「テオが先程申した通りの余計な暴走による被害者数は大多数ですが幸い死者は少ないです。しかし例外に当たるのが一定以上の実力があると見られていた者と指揮官で、公式に動ける司令塔は実質的にテオだけです。それ以外は先に述べた無惨な結果により逃げ腰ですので頼んでも行ってくれないでしょう」
「えぇ……。これはテオのブチギレも分かるな」
「だろぉ!?最初の方こそ俺のことを『謀反者に怖気付く軟弱者』呼ばわりしておいて、後になったら『連合国を護り抜く誉の座を譲ってやろう』だぁ……?負けそうになった途端に尻尾巻いて他責する奴がいい気になりやがってぇ……!」
「……なぁ。いい加減に真面目に検討するべきな気がしてきたんだけどさ、」
そろそろ本気で、当初に考えてきていたことを考えていかねばならないラインを越えている。
「クロードが率いている革命派。ある程度政権が崩壊するまでは戦っている体を装って、最後にお前たちが劇的な逆転勝利。これが一番理想的な終わらせ方なんじゃないか?」
「ジェスそれは──」
「乃亜。悪行と愚行は違う。これは捉え方次第ではチャンスだろ。薄汚れた老ぼれ共を一斉に、正当に排斥して国の浄化を図る。今生じる犠牲を顧みてもルワンダとエレナなら今より確実に、その後の戦争を確実に抑制させられるならやる価値は大いにある」
「駄目です」
しかし意外にもエレナが否決した。
それもこれまでより限りなく強い意志を明確に持って。
「クロードが本当にやろうとしていることは、今まさにジェスが仰ったものなんです。実際には完膚なきまでに叩きのめさずに、悪名として名高く残り国王を殺害して浄化を狙って、一連の騒動を起こしています」
「ちょっと待て。最初から負ける気でここまで派手にやっていたのか?」
「おそらくクロード本人にとって最も大切なのは筋書きです。負けようとしているというのは現時点でのわたし個人の勝手な願いと夢想を兼ねていますが、実際に本気で連合国を潰そうと思えば指揮官を除いた一般兵を殆ど殺さないなどという意味のない行動は人はしません。なりよりルワンダを攫っておいて手にかけていないのは……わたしにとっても幸いですが、どう考えても不自然でしょう?」
そこも気になっていたが、話が進まなくなるので最後に聞こうと思っていたところだ。
何故ルワンダを殺害ではなく生捕りにしたのか。
エレナの言う通り、本気で連合国を潰し国家転覆させるなら王家の血を引く者は皆殺しにするのが常である。王太子のルワンダが例外であるはずがない。
謎めいていたところにテオが付け加えた。
「目的どうこう以前に殺す気がさらさら無かったんだと思うぜ。強いて言うなら連合国の中枢を麻痺させるためにルワンダ様の誘拐というキャッチフレーズが欲しくて生捕りにしたくらいだろうな」
本当にクロードには国家転覆を狙う気が毛頭無いのだろうか。
だとすれば、自身が焚き付けた革命派の連中をどのような落とし所で締めるのか。
「……だから、か。確かに革命派の連中を壊滅させるよりも、クロード一人をエレナと自由に会わせるほうが数段難しい」
「え、どういうこと?」
乃亜と隣の奏波が疑問の色を示す。
そもそもこれが難しいことには、もっと早く、クロードという名前が登場した瞬間に気付かなければならなかった。
俺も遅かったのだ。
「クロードが道半ばで俺たちが勝てば、クロードは革命を起こし国家転覆を目論んだ大罪人として処刑されることは避けられない。
かと言ってクロードが本当に負けるつもりなのなら、クロードが国王を殺した後でエレナたちを勝てせてしまえば、国王殺しも追加され悪名を背負い処刑される」
「クロードがこれから何をしようと、必ずクロードは自分を殺す結果になって、それを受けれてしまいます」
「そんな……」
クロードが、善良な人間としてエレナに会う日は来ない。
「だったら一度革命派の人たちに成功してもらって、その後でエレナさんが生き残るようにすればいいのでは?」
唯一の抜け道を見つけたと言わんばかりに奏波が疑問の声を上げる。
「それをエレナが嫌がってるから困ってるんだろ。クロードがこれからも最終目的に向けて動き続けるなら必ず人殺しは避けられないし、お前たちも俺に対してそう思ったからルワンダを助けたんだ」
「そうでしたね」
………頭がキレるくせにそういったことを忘れてしまうということは、本当に心の奥底ではどうでもいいと感じているのかもな。
(とはいえ乃亜と奏波を別行動させるのはまだリスクが高過ぎるかな)
奏波に相応の実力があればこちらで引き受けて単独行動させても良いのだが。
どうせ今は出来ないのだし考えるのは今度にしようと思考を切り替える。
乃亜も意気込んでいるようだし。
「とにかく、エレナは正確には革命というマッチポンプを掲げている集団じゃなくクロード一人を連れ戻したいわけだからそのための作戦会議をしていかないとね」
「追加でいうとその後の落とし所の話もな。やたらにクロードの根城に乗り込んでもさっき話してた最悪の結果になるだけだ」
「まぁまぁ。ジェスみたいな現実主義みたいなのも必要だが、今はこのくらいふんわりさせておいたほうが良いだろ。それに長々話してたんだから休めよ」
「それではわたしが少し王宮の中を案内しましょう。一室にこもり続けていらしたので気晴らしついでに。ジェスさんは内部構造からクロードが国王暗殺のために通りそうな道順の予測を手伝って下さいね?」
テオとエレナが俺たち、というよりは乃亜と奏波を気遣って休ませようとする。
余裕だからと嫌々言うであろう俺にエレナが正当な理由を付けて従わせようとする魂胆は隠そうともしていない。
「そう言われると聞くしかないか」
「テオも休んでいて下さい。一週間も遠征していてろくに気を緩めていられなかったでしょう?」
「そうですね。じゃあ自室に行って仮眠取ってますよ」
「ちゃんと寝て下さいね。それとルワンダは絶っ対に安静にして余計なことはしないでね?怪我を悪化させたらもう一発いきますよ」
エレナが拳を強く握り高々と持ち上げる。
この部屋に入れられた直後にエレナからもらった『おかえりなさい』代わりのボディーブローパンチが思い返されルワンダが慌てて首を高速で縦に振る。
どうやらあれがよっぽど痛かったらしい。
しかし僅かにルワンダが頬を綻ばし笑っているのをみて、その光景がある日の情景を思い出させた。
いつものように怪我をして帰ってきたら、怒られて、それでいながらいつも通り花畑で笑い合う二人の顔をふと思い浮かべてしまった。
【ひとりごと】
作者の都合でルワンダを無理矢理にでも黙らせるような筋書にしたのは、この辺りでエレナの精神的な支柱としての役割を弱くしたかったからです。
エレナはあらゆる方面で全快で登場させるとジェスより無双することになりかねない、つよつよお姉様なのです。




