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流離う世界に私は  作者: 眠井ネタイ
第二章『スティグマ』篇
34/38

30.交錯しない想いと義

ジェスが相当に性悪に見えるように描いていますがほぼ全てが正しい行動ではあり、一番"人間"らしいキャラです。

この後の展開で、前話で乃亜たちに従わざるを得なかったことが良い方に行くのは結果論でしかないです。


リンチにされボロボロになり物理的に喋れなくなっている男の応急処置を終えた。不幸中の幸いにも暴行の対象は胴とそれよりも上にのみ及んだいたため脚に影響は無く歩行だけでなく走行にも支障は無い。


「念を押しとくが手負い、ましてや赤の他人を相手に俺は情けを掛けてやる気は無い。不自然な行動、俺にとって不利益な行動をした場合は即罰する。それで良いなら何処へなりとも行くといい」


男は頷いて、何か言いたげな様子だ。


「あ、あの。着いて来ますか?ジェスと奏波は強いから守ってくれますよ」


男は感謝するようにがむしゃらに首を縦に振りまくる。

奏波は納得気だから多数決で完全に負けてるわけだし、まぁ良いか。

罰する、イコール殺すということはこの男にちゃんと伝わっていることだろう。


「えっと、なんて呼べば良いですかね。名前とかは」

「喋れないなら何か書くものでもないといけませんよね」

「あんた、文字は書けるのか?」


男は首を縦に振る。

スルーしていたが、以前アルに聞いてた話通り『マナグラノス』の共通語とこの世界の言葉は同じなようだ。元は七つの世界は共同体だったと聞くし不思議では無い。


「なら宙にで良いから自分の名前書いてくれ。俺が分かるから」


男は指示通り宙に空字を描く。気を使ってくれているのかなるべく大きく、丁寧に、ゆっくり。


「名前はルワンダと言うらしい」

「宜しくね。ルワンダさん」


口周りは折れた顎の骨を支える為に布切れをグルグル巻きにして支えているので、目だけが笑っているのが見える。


「それで、これからどうするんですか?」

「先ずはその死刑囚の集まりを壊滅させる」

「あ、危ないから良くないと思うよ」

「お前、もはや俺じゃなくて死刑囚が本当に死なないか心配してるだろ」

「ソンナコトナイヨ」


その自爆してるカタコト口調はどうにかならないものか。『ネメシス』では人と関わることを自分から避けていた乃亜はあまり影響を感じなかったようだが、こうしていざ知り合いを持つと顕著に現れることが多い。


「それこそ、お師匠様が言っていた『理由が無い』というものになりますよ」

「理由はあるさ。粗暴な死刑囚よりもこの男の言う正規の兵隊に取り憑かせてもらうほうがマシだ。でもここはあくまで死刑囚が送られてくる場所であり、そこに居る俺達も同類に見えるわけだからな」


もはや装いが死刑囚たちとは違うくらいで通せるレベルの話ではない。最悪は死刑囚ではなく魔人として警戒されることも十二分にあり得る。


「でもそれ、死刑囚を壊滅させた死刑囚と見做されて終わりません?」

「そもそもこの場所は罪人達の成れの果てとした行き着く所なんだろ。そこに正規の兵隊ってのが来る理由は少なくともそいつらの処理ではない。放っておけば勝手にのたれ死んでくれるわけだしな」

「…………」


乃亜は何かしら否定の理由を探そうとしているようだが、相手が死刑囚ということで言葉に詰まっていることだろう。


(いったい誰に似れば、こんな甘さが身につくんだよ)


親譲りなのか?という疑問は置いといてだ。


「正規の兵隊が来るってのは十中八九調査団みたいなものだろうな。この下の場所、それなりに面積あるしこの魔力濃度の高い土地を使えば魔道具なんかも作り易くなるだろうしな。だけどゴミ捨て場に捨ててきた死刑囚が邪魔してるわけだから致し方無く交戦することになる、というところだろ。さっき兵隊と死刑囚で争うことがあるって、そいつも言ってたしな」


男は頷いて肯定する。おそらく大半の考察が当たっていたのだろう。


「一応聞くけどさ、壊滅ってどこまでのつもり?」

「最低でも戦闘意欲が無くなるまで。最大(マックス)で半数は息絶えてもらう」

「──っ!?言い方を変えれば良いって話じゃないでしょ!」

「……そういえばお前達には異界進行の目的を伝えてなかったな。この目的は偵察も兼ねてはいるが基本的に俺たちだけで行うし、最終目標はこの世界そのものが、()()()()()()()()()()になることだ。平穏で協力的な姿勢が見られれば良しだが、圧政を敷くことで支配体制を作り上げるのもまた良し。あくまで俺の方針は前者でそのために一番手っ取り早いのが恩を売り付けることというだけ。結局のところ俺とお前達の違いは近道か遠回りでしかないだけで目指すゴールは変わらない。異論は?」

「その近道で、踏み越えて行くものがあまりに見ていられないって言ってるの!」

「私はあくまで弟子であり乃亜程強く反論出来る立場ではないのでしょうけど、多少遠回りになったとしても最後に笑えるほうが、それこそ後腐れ無くて良いと思いませんか?」


…………


(……はぁ。俺にだって、守りたいものがあって、それを今度こそ為すためなんだよ)


気付かれずに内心で、そう思う。

だが赫怒を完全には抑え込めず表情を一切動かさずに奥歯を噛み締めるという負荷の発散行動に出てしまう。


(知らず知らずに自分で家族を壊したコイツらとくれば、理不尽に、誰も悪くないのに奪われ続ける不条理な世界も知らないでしゃあしゃあと……!)


ノスタジルで、俺の仲間となった人達が、どれだけ理不尽で、避けようの無い運命を歩んで来たと思ってる………。


世界に産まれ落ちたその瞬間から自由どころか自身に在るべき選択肢を奪われ、感情に憧れた少女も。


そこから救いだそう藻搔いた結果に種としての価値を失うことになった、未だ後悔を抱える女性も。


汚い欲望と誇りのためだけに奴隷にされ、純血のためにと幾度に渡り望まぬ子を作らされることになった、卑屈な少年も。


普通の生活を送っていた筈が、自身が産まれる以前の母親のせいで同じ罪を被ることになった、愛されるべき幼き子供も。


遺言を守って死から逃れるために人を殺し名を盗み、味方のいない敵中で彷徨い続けた女性も。


人々をから慕われていたのに、気に食わないと権力任せに迫害を受け、救ってきた人々に罵倒され彷徨うことになった、生き様を貫き通す女性も。


親の顔すら拝ませてもらうこと無く、ましてや人の温かさに触れることも出来ずに道具として使い潰されるために産まれてきたような、ぎこちなく笑う男も。


乃亜や奏波みたいな、孤独に生きることを強いられてきた訳でもないぬるい世界で育つことが出来たコイツらが、"人"として正しく在ることこそが最適解であることしか思ってないような、コイツらが……!


(易々と、一丁前に自己満で正義掲げてんじゃねぇぞ……!)


正義なんて、所詮そんなモノはなぁ……!


突如、ドンっと身体を押された。真正面からの衝撃に後ろ足で支えを作る。

意識が現世から遠退きつつあった思考が半ば強制的に引き戻される。……正直、助かった。

もしかするとあのまま、この場の誰かに当たってたかもしれない。焦り過ぎていたとしても、そんなことをしてしまえば計画が台無し(パァ)になりかねない。

お礼はしなければと思い前を向き直れば、正面にいたのはボロ雑巾同様になっている男が俺を憐れんでいるような目で見つめていた。ひたすら真っ直ぐに、何処にも逸らさずに。


「……悪い。ボーっとしてた」

「あ……うん……」

「取り敢えずはお前達の思想を優先してやるから、文句があるんなら可能な限り従ってやる。ただし俺主導であることは変えてやらないからな」

「うん!」


乃亜は勿論とこと傍にいる奏波もそれで納得してくれたようだ。


(さて、いつこの決め事を裏切ることになるかな)


結局俺はコイツらが行き過ぎた甘さを発揮しないためのブレーキにならなきゃいけない。

まったく、なんの因果か。


……変わらないな。



*****



その後基本的に実力行使の解決を徹底的に否決され続けたため、俺の感知能力を活かしてうろつく正規の兵隊さんがたに保護してもらおうということになった。

俺たちを攻撃してきたとしても傷つけずになんとかしろというあまりに傲慢な発案だったが、「出来るよね?」と命令に近い疑問系を使われて強行してきた。実際『ネメシス』で散々暴れたから無理だと嘘を吐く言うことも厳しいと思われる。


「殺しは最終手段としてあり。覚えていませんでしたなんて言わせないからな」

「何度も言うけど、本っ当の本当に最終手段だからね?」

「へいへい」


出てきたのは我ながら驚くほどに気怠げな返事だった。

実際に道のりも遠回りなので面倒である。


「次の分かれ道を左に進んだあと一時停止。接敵を避けるために隠れてやり過ごすからここからは喋らず黙ってついて来い」


三人は頷いて指示に従う。

足音を殺して進み、俺の合図で停止。

この距離に加えて実力差も加味すれば俺程度の精神干渉魔法でも効果はあると考えた。五人のまとまり全員の思考を誘導し俺たちの進みたい道を開けてくれるかのように立ち去らせた。


「一息つけ。緊張感は持って欲しいが息を詰まらせて無駄に体力使うのもやめて欲しい」

「さっきのお師匠様、あの人たちに何かしてました。進路の変え方が不自然に感じたのですけど」

「精神干渉魔法。やっぱり奏波はまだ目に見えないものを観測するのは難しいようだな」

「む」


煽ったら少し悔しそうにした。

目に見えてなくても魔力そのものを観測することが出来れば特段難しいことでもない。普通に軌道が線で見えるため俺のように特化していないような者が相手なら余裕で躱せるし、魔弾でも抵抗出来る。


今回のような遭遇を避けながら進むことを実に十二回繰り返して漸く目的の人物たちのいるところに辿り着いた。


「もうすぐちゃんと武装してそうな団体にぶつかる。戦闘になったら奏波は戦闘能力皆無の二人を連れて下がって、終わり次第俺を手伝ってくれ。ここまで歩くこと以外してなかったから疲労はともかく魔力は回復してるだろ」

「行けますけど、入るタイミングがいまいち分からないなんてことになりそうですよ」

「一人に対してでも不意打ちが成功しそうなときに来てくれれば良い。俺が合わせる」


これよりこの鋭利な岩石が多く突き出ている場所に止まってから迎え打つ。

念の為にと近接戦を得意とする俺や奏波が闘いやすいようにするだけなら乃亜も文句は言うまい。と思っていた矢先、連れていたが意外に静かだったルワンダのほうから肩を叩かれて待ったがかかった。

ルワンダの方を振り返るとジェスチャーで文字を書くから読み取って欲しいと言わんばかりのアピールをしていたので書かせてみた。


「何、『顔見知りかも。前に居させて』。正規軍に顔見知りがいたとして死刑囚を助けるかよ。あ?今度は、『探索じゃなくて捜索』。お前の?」


ルワンダは頷いた。いやいや、全く信用出来ない。そもそも死刑囚を探索する物好きが何処にいるというのか。


「別にいいんじゃないですか?私の合流が多少遅れる程度でしょうし試すだけ試せば」

「私も。嘘を言うような人にはあまり見えないかな」

「……好きにしていいが、念の為にそいつと二人の間に俺を挟め」


もし、ルワンダの狙いが俺たちを仕留めて差し出す。なんてことになるとして奏波は自力でなんとか出来るが乃亜の場合は危険過ぎるため最低限譲歩だ。


一分ほど待ったすえお待ちかねというかたちになった。

もとより感知で知っていたことだが、約五十名で装いから前衛と後衛の役割分担がしっかりされている訓練された者達だ。

なお前に居させろと言った(書いた)ルワンダは本当に先頭に立たせている。顎が動かせないので喉を震わせるだけで言葉を言えていないとでもいうべきような発音で必死に大声を出している。

すると本当に不可解なことが起きた。

何やら真偽を疑うようなざわめきが団体の中で溢れたのだ。

それにこうしてよく見てみると戦闘に必要なさそうだったので気に留めていなかったが一々鎧や杖に宝石のようやものがあしらわれている。


(もしかすると立場上は仕立て上げられて冤罪扱いだっただけで、割と身分があるのかこいつ)


とはいえ、なぁ?

あの団体からしてみれば、ボロボロの保護対象の後ろに得体の知れない人間のかたちをした何かがあるというわけで。

代表者らしき者が一人、団体から数歩出てきた。


「そこの三人の賊に告ぐ!すぐにルワンダ様を明け渡せば去らせてやる!」


ですよね。俺たちってそういう扱いですよね。当たり前だよ。

だから俺は死刑囚を吊し上げて第一人称をマイナスイメージではないようにしようと言っていたんだ。そのほうがあちら側に得を与えられるということで。


ルワンダはそれに対して両腕を重ねてバツのかたちを作ると、ますます後ろの団体は困惑し出した。

おそらくは闘ったらいけないと言おうとしているのはわかるがルワンダの命を優先する役目を負っていることもあり次手に迷っている。

待っているだけなのも焦ったいし、いつまでも賊扱いをされるのも迷惑な話なので俺が応答した。


「そこのルワンダってのは渡すから、こっちの言い分を聞いてくれないか!」

「……いいだろう!聞くだけ聞いてやる!」


ルワンダはこちらを振り返るが、俺があっち行けとサインしたことで団体の中に埋もれて行った。

ある程度距離も取れているためこれで約束通り対話には応じてくれると嬉しい。と思っていたが、


「「「『柔肌撫でるそよ風よ、荒ぶることなくただ囁け』!『ワインド』!!!」」」


これは魔法技術でいうところの集団魔法という複数人で一つの魔法を完成させるというものだ。各々が魔法術式の一部のみを担当することで相対的に操作量が少なくなる。これにより魔力の浪費を少なくすることで全員が一つずつ使用するよりも効率が良く規模も大きくなる。


………いやそんなことはどうでもいいんだよ。


団体全員を乗せた『ワインド』で空を飛んで、狭い崖の間をするすると通り去って行く様を見せつけられた。あの混乱の中に乗じて魔法構築を提案していた冷静な奴がいたようだ。

後ろをみると、あまりにも滑らかに約束事を破られる様を目撃したのか乃亜と奏波がポカンと呆気に取られていた。


「あれは流石に叩き落としてきていいよなぁ?」

「いや待って待って待って!きっと何か事情があるんだよ。ほら、事実私たちは見逃してもらった訳だし」

「当初の信用を得る話が全部ズタボロになってるんだよ」


流石に俺も少しキレ気味である。なにしろ最初に思い描いていたこの後の予測構図がこれで全部台無しになった。


「だいたいな、初対面の人に対しては温情なんて目に見えないものより実績見せつけておくほうが遥かに価値を付けられやすいんだよ。俺たちはいま値札をおろされようにも端から端まで得体が知れないから基準が無い、つまり捨てるという一番安牌の選択を取られるのが普通なんだよ!」

「わ、分からないじゃん。世の中広いし」

「お前は!現実を見ようとせずに現実味の無い希望的観測しか語らずに、縋ってるだけなんだよ!!」

「っ、」

「お師匠様。ヒートアップしすぎです」


何もかも爪が甘いくせして理想論を語る乃亜に、言ってしまえば早々に絶縁するかもしれないことを口にしてしまう前に、奏波が詰め寄って俺を引き剥がした。


──はっ、あはははははははははは……

乃亜なんだな、擁護するのは。

でもまぁ俺は、人のこと言える立場でも、ないよな

いつだって、逆境を乗り越えて、理想を体現しようとする者が、『主人公』と言われるのだから。なんかこの前も言った気がする。「弱い者を倒している方が悪に見える」と。

だから、忌み子と罵られながらも『英雄』を目指してるくせして、怪我する度に半ば嬉しそうに怒鳴られて、ただの人として生きることだって出来るはずの友達を、傍らで見てるだけの日々をいつしか、『楽しい』と一言にまとめられないくらいに特別に感じるようになるように。


今の奏波には俺が乃亜を蔑んでいるようにみえて。だから、こうなってる。事実として乃亜は否定の言葉を出せずに半泣きの状態だ。


「……乃亜。お前の望むものは形すら保てない夢想でしかない」

「だからお師匠様」

「理想をちゃんと言葉にして俺に伝えられるまで、絶対にお前の意見は呑まない。それまでは俺にとっての当たり前を貫く。お前たちが、仲間が誰一人居なくならない確実な方法を。これ以上は譲歩出来ない」

「……分かった」


その返事は今まで聞く声で、一番か細く弱々しかった。



*****



私は誰も傷ついたり、ましてや死んでしまうなんて、そんなことは絶対に起きて欲しくなくて嫌という個人的な考え方しかしていない。


だからこそ最初にルワンダさんが虐められているときなんかは助けてあげたかった。目の前で誰かが死んでしまうというのはたったの一度だけで十分過ぎていたから。なのに、ジェスが見殺しにしようとしているのを見て困惑とともに強い反発の感情が揺らめいた。もし奏波が私に味方をしてくれなければジェスは本当に見殺しにしていたとおもう。


ジェスは私はたちとは隔絶された別の世界で、ずっと過酷な戦争に身を投じて来たのだと聞いている。そのせいで本来あるべきだったものが決定的に欠落しているように見えた。

けれど振り返ってみれば、全て私たちの身の安全を案じたうえでの判断と行動だった。


結果としてそれはルワンダさんだったが、あの服装をしている人たちが死刑囚の罪人なんて気づきもせずに治してあげないととか言って、それで本当に悪い人だったら、ジェスが止めなかったら、そう見れば助けてくれていた。

他にもそうだルワンダさんを常に警戒して間に奏波を置くように動いて、さっきの兵隊さんたちのときの間にジェスを挟めるようにしていざというときに備えようと動いていた。


それでもやっぱり、不確かに近づく物事を全て排斥して周囲との間に壁をつくるやり方を認めたくは無い。

でもそれは誰かが傷付く様を見たくないというだけではないのも自分自身で分かっている。


ジェスだけが全ての負担を背負うことになって、誰よりも苦境を歩むことになっている事実が、何もかも庇われるようで苦しい。


ジェスは優しいという私の見立てはずっと変わらないだけでなく、『ノスタジル』のみんなに慕われていているのを見るうちにより一層強くなっている。


そのはずなのに、ジェスは奏波と違って私には一歩引いて、どれだけ近づこうとしてもまた引いて、何かに隔たりが感じられる。

もっと近づきたい、追いつきたいと思うからこそ、その隔たりが何なのかを知りたいと思っている。


そのために、ジェスが世界を救おうとしている中で、力の無い私はせめてジェスだけでも救ってあげたくて、その為に本当の意味で『皆が幸せ』ということが大事な気がしている。


そうでないと、何故か、肝心なところに触れられないような気がして、一人で勝手に届かない場所まで行ったきり帰ってこないような気がして、怖い。初めて会ったときから口癖になりつつある「大丈夫」なんて言葉だけを残して、永遠に。


だから、()()()()()()()───



『正直な話、ボクは君に■■■■様と同じ道を辿って欲しくはないかな。生きていたらあの人もそう思ってくれる筈だよ。■■■■ちゃん』



あ、れ、

私のさっきまでの思考が一瞬で掻き消されるような、削り取られた感覚に突如として襲われた。消えてはならない何かが。

またこれだ。何かが抜け落ちているせいで繋がらず何を言われているのかわからない。でもなんで。

今私は、絶対に権能(フォルトゥーナ)を使ってない。魔力なんて込めようともしてないし、そもそも圧縮された体感時間の中で思考しているだけで体は一切動かしていない。


そういえばいつかジェスが言っていた。

権能(フォルトゥーナ)の発現や発動には少なからず潜在意識が絡むと。


(思い出さないと……!)

『駄目』

(なんで)

『生まれ落ちた以上は権利がある。伝説の再※■×◇□◆※×■□◇◆×※ ────────』


何も聞き取れない。理解出来ない。


足りない、何もかもが。思い出さないと、まだ、()()()──

『もっと、ずっと、一緒に、居たかったなぁ』


視界が現実のものに戻ってきた瞬間、目から一筋水滴が溢れる感触と同時に、目がチカチカして真っ白に染まる。

そこでふつりと私の意識は途絶えた。



*****



「っ、乃亜!」


奏波が前につんのめるようにして倒れる乃亜を受け止めた。

乃亜には人が反射的に出すであろう支えるための手を出すようなこともなく、完全に意識が無いと分かる。

少なくともこうなる前兆は全く無いと思われる。


「は!?おい、どうした急に」

「知りませんよ!何故か目から血が出てますし、もう何がなんだか──!」


奏波は乃亜に意識を取り戻させようと激しく肩をゆすり続けている。それは俺が初めて見る奏波の焦りだった。


「なんでかは知らんが、目から流血しているなら脳になにかしらの影響が出ているしれない。やたらに揺らすな!」


奏波は僅かに取り戻した冷静さを発揮し俺の言葉を聞き入れ手を止める。


「……お師匠様。乃亜はまだ色々と棲み分けが出来ないような年齢なんです。ましてや私みたいに初めから他人の関心を抱かないなどと何かが欠落しているわけでもないだから、」


先程の言葉がブーメランとしてその身に返っていることすら気付いかずに段々とその口調は勢いを増していく。


「だからこれからはなるべく、乃亜の負担にならないように出来ませんか。私は正義感なんて芯のある人間じゃありませんけれど、せめてこれだけは、漸く本音で話し合えることが出来るようになった友達だけには!傷ついたりして欲しくないんです……」


ヒートアップしていく口調が、最後の最後だけ小さく哀しげに。かつて母を失いそうになったときの焦りがぶり返して来ている。


俺はどうするのが正解なのか、本当に分からない。

だがこれだけは事実として残り続ける。


俺が正解を選べていれば、こいつらに出逢うことは無かったと。


気づいた人もいるかもしれませんが、ジェスは初登場時点からまあまあ病んでます。

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