29.はずれ
遅ればせながらようやく異世界の話に入れました!
過酷さを乃亜と奏波に見せ付けるためのデモンストレーションのようなものなのでジェスからするとヌルゲーの章になるかもしれません。
門で渡るときの謎の空間を経て反対側、すなわち異界側の門の入り口に足を掛けた。
その突如に俺だけ重力が背中を引くように働くような感覚──では無い。実際に俺だけ重力のベクトル方向が九十度傾いている。唯一門を越えた場所にあった片足で枠組みに足を掛けるようにして転倒を回避。急に歩みを止めてしまったせいで背後にいた二人もつっかえてしまう。
「どうしたの?」
「『ネメシス』のときと同じで門が倒れてる。ひとまずこの順番のまま俺が上がるから、次に奏波が乃亜を押し上げてくれ。奏波は自力で上がってこれるだろ」
俺は力任せに片足で全身を引き上げて門を越えた。
目に映った光景は崖の間と言える場所であり、地面と絶壁に加えて空気までもが薄紫色に発光している。
安全確認を名目に空間魔法の感知能力を一瞬だけ過剰な全力展開した。
「……ちっ」
少なくともこの辺りにすぐに遭遇しそうな生物は居ないと判断して二人を確認する。支持通り上がってきていた二人は俺と同様に見慣れない異世界の世界観に驚いている様子だ。
「ここ、先日の訓練場みたく空気が重たいですね。魔力濃度が高くないとこうはならない筈ですよね?」
「ああ。少なくともこんな環境じゃ一般人は住めないだろうな」
聞く話では昔から魔力濃度が平均的に最も高いのは『マナグラノス』らしいので、比例して実力者も多いとのこと。ただし乃亜のように魔力を一人で牛耳るような特例がある以上は楽に事が進められる訳でもない。
「つまりこの世界で生きてる人は居ないってこと?」
「いや、どうやらこういう状況下にあるのはこここみたいな地の底みたいな場所だけらしい。上に行けば大勢がそこで生活してるみたいだ」
「空間魔法でしたっけ。便利ですね。ここからじゃこの絶壁の先が見えませんよ」
奏波の言う通りこの崖は相当に深く、それぞれ歪ではあるが数キロの場所もあれば数百キロに及んで掘られている場所もある。おそらく地殻を無視して星に合わせて緩い円形を描くよう象られているようだ。
幸いこの場所はまだ浅い方なので上に行くことにそうそう苦労することは無い。
「なんかこの崖どこまでも遠くまで繋がってて迷路みたいだよね」
「その迷路を少し散歩しようか。さっきも言ったけど大勢が"上"に居るってだけで、この"下"にも個々で動いてる奴等がいるようだし」
上だの下だのと言っているのはあくまで仮称だ。実際にはこの世界特有の呼び名があるかもしれないが今は関係無い。とにかく人の住めないこの"下"をほっつき回る者が居るというのが肝であり、まずはこの世界について色々と教えてもらおう。
「というわけで奏波、先頭頼む。何かと遭遇したら対処してくれ」
「一番索敵能力があるかつ実力もある人の役目じゃないですか」
「俺が全部片して行ってもお前が成長しないだろ。何かあったらサポートには入るから、先ずは俺の指示無しで何とかしてみてくれ」
「はぁ」
渋々提案を受け入れてくれたと言ったところだろう。というかこれにはちゃんと別に理由があり、先程から視られている気がする。厳密には乃亜の方を。ハッキリ言ってその辺りの魔物に関わっている余裕が無い。何故様子見で済ませているのかは謎だが。
あるとすれば弱い俺達が陽動に見えているから他を警戒しているのか。
本当にそう思われていれば都合が良い。このままハッタリを貫いてシラを切らせてもらう。
しかし本当に攻撃を仕掛けてきた時に備えて内密に袖の中で魔法陣を作ってカウンターで仕留めるよう準備を怠らない。
「行こうか先ずはそこを曲がってずっと真っ直ぐ歩けば人もいそうだ」
「含んでますね」
「さぁな」
俺たちは本当に散歩程度の速さで進んで行く。
どこを見渡しても岩壁に囲まれており、崩れて今にも崩落寸前の場所は慎重に進む。小型の魔物が徘徊しているが襲ってくることは無く虫のように通りすがって行く。
魔物は生存本能に従順だ。生きながらえる選択をしようとするため無意味に格上と認識した者に干渉することはせず、必要とあらば取り付きに行く。強者の周りにいれば必然的に外敵から身を守れる。
「こういう大きめの虫みたいなのってどうするべきですかね」
「鬱陶しいと思うなら切り捨てて構わないぞ。他の奴に報復されるような心配も無いと思う」
「耳元で羽音を出されるのは普通に気持ち悪いのでそうしますか」
奏波は一歩引きながら細剣を鞘から抜いた勢いのまま切り捨てた。
だが蚊を叩くくらいの感覚だったのか血の処理を考えていなかったようで慌てて更に引いた奏波は裾に一滴青緑の到底人では無い色のものが付着した。
「うえっ」
「奏波もそういう声だすんだな」
「私を何だと思ってるんですか。先程同様に気持ち悪いなどと言いたいことは正直に言う人間ですよ私は」
「でもどうしても表情が変わらないし悲鳴も棒読みだから感情表現になっていないように見えるんだよね」
「良いですよね乃亜は。お姫様みたいに守って貰えて」
「そういうところ言葉を変えよう!?」
なんか奏波が少しムキになって乃亜を揶揄い出している。
実際俺は自分に返り血がかかるのが嫌だったので風魔法で逸らしており怖がってすぐ後ろにいた乃亜もその恩恵を受けている。
そして奏波を試すのはこの先の予定だ。
攻撃を警戒して先程から範囲を狭めて精度に注力しているため最初に門を出て一度見たのが最後だが、確かこのまま行けば、
「……わぉ。思ったより惨いこと」
「ヒ……っう、」
悲鳴を通り越して呻き声を上げた乃亜が躊躇なく俺の服にしがみ付いた。
そこに居たのは絶賛食事中の五メートルを優に超える巨大な魔物であり、被捕食者は──既に上半身を食いちぎられている人間。この光景は弱肉強食と言えば一言で説明がつく。
「よぅし奏波。異世界初の実践いってらっしゃーい」
「えぇ……」
返ってくる声に惑いがあり、奏波もかなり嫌そうにしている。
流石に人を食い散らかす動物を相手にするのは精神的に抵抗が残っているようだ。『ネメシス』風で云えば熊や猪をぶっとばして来いと言っているようなもの。そして奏波が『ネメシス』で遭遇した事がある魔物も絶対にここまでのサイズのものは居なかった筈だ。
そして魔物が咥えているのが、あまり見慣れない血の匂いを伴うガチの死体ということでどうしても恐怖の対象にも見える。
「大丈夫だって。お前だって強くなってるんだからチョチョイのチョイと行けるから」
「……やりますよ。そういう契約なわけですし」
どうやら俺の「実践」という発言を修行の延長と捉えてしまったようだ。
奏波は緩く慎重に細剣に魔力を浸透させていく。権能の効力を付与するための下準備である。
現状はこれが奏波の最強の攻撃手段ということもあり、何かしら命名しようと俺が提案したのだが面倒とのことで丸投げされた結果、こうなった。
「『ヴィブレード』」
奏波も詠唱、技名を一言口にするだけでも勝手が良くなることを感覚的に理解してくれたようだ。
そして一息吸って駆け出す。
五メートルを優に越える巨体が間合いにおいてアドバンテージ得られるのは言うまでもなく当然。
地につけられていた前脚が乱雑に振るわれるが、奏波は身を低くしながら滑り込み接近に成功。加速させた駆動を減速させることなく慣性の力を借りて大木の幹のような首に刃を通し一閃。
しかしながら致命傷に止まる。人が扱う細剣の長さでは到底即死に至らず、知恵を持たない魔物は自らに害を為す存在を本能的に追撃を仕掛ける。全ての脚を使い僅かに跳躍することでまんまと懐に忍び込んだ奏波を地面に押し潰そうとする。しかしその対象となる相手は楽々と回避。
ズゥーン、と重い音が鳴った時奏波は巨体の背に立っており抵抗が許されない魔物に追撃。角度を変えながら二閃振り抜けば今度こそその頸は地に落ちた。
十秒で完結した短い狩りであった。
「ほらな。余裕だったろ」
「……確かに思ったよりは。お師匠様のときと違って当てやすかったですし」
それは的が小さいということもあるしそれ以上に俺と奏波の間に技量の開きが大きすぎるからである。俺だってここまであの化物の手ほどき(虐めもしくは蹂躙)を耐えてきているのだから舐めないでいただきたい。
「実感が無いだけで力の使い方は上手くなってるんだ。魔力を用いた闘いでは魔力操作技術を含めた技量で天と地の差が出る。魔法も権能も使わずに俺が奏波に勝てるようにな」
事実、奏波の魔力量や出力は『ネメシス』で俺と闘ったときとほぼ変わりない。知識すら無かった打ち出し方を軽く教えて剣の扱いを入門程度に習得させているだけなのだ。
「さっきのあれって、なんて種族なの?見たところモチーフみたいなものは何も無かったけど」
「実際何者でも無いんだろうな。こういう魔力濃度が高い場所じゃ自然発生することもあるだろうから、本当に雑に魔力を練りまくった結果出来上がった肉体というところだ」
先程、奏波が五メートル程の大きな魔物に遭遇したことが無いと勝手に考えたのもこれが起因している。魔力濃度の高さに比例して自然発生する魔物の強さもまた強くなる。
「それだと『マナグラノス』で自然発生する魔物が居ないのはおかしくありません?『ネメシス』よりはずっと魔力濃度が高いでしょう」
「発生にある程度条件があるから、出現場所を制限して最初から檻の中に出没するようにコントロールしてる。最初から鳥籠の中にいる魔物なら処分は容易いからな」
「でも一応動物な訳で、その、友好的にとかは──」
「無理。物質生成でも魂は造れないし、脳細胞を構築するのも不可能に近い。自然発生した魔物ってのは本能的に当たり散らかすだけの化物だ」
魂を構築することが出来れば死者の蘇生すらも可能とするのではないか。という研究が長年されてきたようだが、そもそもの「魂」とは何かという指標が無いため何一つとして進展が無いらしい。強いて言うなれば権能は肉体そのものに宿ることが無いと証明されたことから、その宿り処を便宜上として「魂」として位置付けられている。
なおこの結論に至るまでの過程は、精神を他者に乗り換える──即ち元の者の意識を完全に上書きするという殺人と同義の非人道的な実験が行われていたりもする。興味は無いがちゃんと調べれば、もしかすると他にも余罪が浮かんでくるかもしれない。
時間を無駄に浪費する理由が無いため先を急ぐように二人を急かしたが、せめてと乃亜が言うので軽く掘った穴にその辺りに散らばっていた遺体を埋めてやってから、引き続き散策して行く。見知らぬ者の埋葬なんて、誰かが報われる訳でもあるまい。
───先程、魔物と友好的になれないかと聞いてきたりと本当に甘い奴だ。
道中あの巨大な魔物以外に手頃に奏波の実践相手になりそうなものが居らず、崩れてひどく狭くなっている崖の間を通るときに胸がどうだかこうだかで乃亜と奏波に諍いが起こっていたことを除けば何事も無かった。
感覚的に十キロ弱を歩いたと判断したところで俺が休憩を切り出した。
「疲れましたね」
「はぁ、はぁ、流石に奏波にもそういうの、あるんだね」
「身体強化を使ってないときは、奏波もまだまだ普通の人間だからな。魔力が自然体に浸透していけばこのくらい大したことなくなってくる」
俺もある程度この影響があるためこの二人とは基礎体力が全く違う。種族次第では各々の特性に合わせて牙などを魔力で強化すれば脅威となるため、基礎能力は割と大切だったりする。俺とか人間は無いけど。
「乃亜、脚出して」
「ぇ……何で?」
「マッサージケア。お前体力が無いからなるべく足を攣らないようにしないと」
下心など一切無いちゃんとした懸念だ。いざという時に動けなくて足手まといなんて笑い事じゃない。
「だ、大丈夫だよ。私まだ元気だから!」
「起立」
「え?」
「起立」
「あ、うん」
「ジャンプ」
「はい、──うわぁ!?」
乃亜にジャンプさせたら疲れのあまり着地に失敗して盛大に転んだ。これでも俺は、ノスタジルに至るまでに数多の醜い火事場を見てきたのだ。強がったところで肉体的な痛みをこんなひ弱な女の子に誤魔化せるはずがない。
しょうがないということで奏波に乃亜の両手を背中の後ろで拘束してもらい応急処置で俺が脚だけマッサージをしたのだが、ツボを押す度に変な奇声(もしくは喘ぎ声)が上がるため風魔法で俺だけ音を聞き取れないようにして事なきを得た。
加えて俺が教わりたての初心者ということもあり効きが悪かったため、散策を再会してからは奏波がおんぶして持ち運ぶことになる。
「ここからは選手交代で俺が戦闘するからな。何も気にせず普通に着いてきてくれればいいぞ」
「さっきより楽になりましたね」
「ごめんね。案の定担いでもらうことになっちゃって」
「柔らかいモノが背中に当たるのは良い感触ですから気にしないでいいんですよ?」
「全くフォローになってないから止めてぇ!!」
乃亜が顔を赤くしてジタバタとしたそうだが運ばれている今の状態でそうすれば地面に激突することが分かっているためら奏波を手足で縛りつけることで抵抗している。新手のバックハグだな。
……それはそうと奏波ってこんなに愉快な性格してたっけな。
初めて会ったときは物静かで冗談が通用しない馬鹿生真面目だと思ってたんだけど。完全に奏波優勢ペースに見て取れる。
二人の仲が良いのはこちらも大助かりだ。乃亜が俺に協力してくれる理由に奏波の存在が関わり、奏波が積極的になってくれる理由に乃亜が関わる。これ以上望めない程の相互関係。
俺を理由にしないことがこの先、どれだけ気楽でいられることだろうか。
「それよりもなんでこのかたちなんですか?基本はお師匠様が闘って、私を実践させられる魔物と遭遇したタイミングだけ変わるほうが効率的ではないですか」
「盗み見みされていたから」
「え?」
もう監視にも近かったそれは無くなっている。だからこの会話のせいで気付いていたことに気付かれることは無いので話しても問題無い。
なお盗み見みが解けたタイミングは先程休憩を挟む直前だ。解けるまでは歩き続けようとしていたため相手がもっと根気強かったのならもっと長い距離を歩くことになっていた。
「門を潜った瞬間くらいからな。どうもかなり遠くから目をつけられていたようだからいつでも対処出来るようにするために雑事を奏波に押し付けてた。これが理由」
「……なんで黙ってたの」
「自然体に見せるため。敵を騙すには味方からってよく言うだろ。それを体現しただけだ」
「ここまでする必要があるなとか、そういうの分かるものなんですか?」
「相手の曉圏範囲が尋常じゃなかったからな。それを通して相手の魔力量は最低でも俺の十倍はありそうだったから、かなり化物の類だろうな」
闘ったらどうなるかまでは分からないが。俺の権能は初見殺しの性能を複数持つからもしかしたら勝てるかもしれないし、全て見切られ対応されたら地力の差で押し負けるというとこだろう。
「少なくとも遠距離戦とかにはなって欲しく無いですね。私魔法使えませんし」
「さてはあんま教えられなかったこと根に持ってんなお前」
「少しは、ですけど」
どう考えても少しじゃない。少しは、を分かりやすく強調していた。
そんなことよりだ。
「そろそろ乃亜を降ろせ。もう少ししたら人集りがあるから一応気を付けるように」
「人なら助けてもらえるのでは?」
「こんな、本来人も住めないような場所を歩き回る奴を人と判断してくれるはずが無い。というか、敵味方の区別を一番つけづらいからむしろ面倒なだけだ」
そもそも言葉が通じるか分からないしな。
二人は複雑な心境だろうが、他人の前に自分の身に気を使ってもらいたい。
数十メートル歩いた先の曲がり角。そこで足を止めると二人に合図を出して少々盗み聞きをする。何も知らないこの世界の情報収集の前に、俺たちに話を聞かせるものがまともかどうかの情報収集だ。
顔は出さず、多少距離があるため微かに聞こえてくる程度。
「おい。あいつらちゃんと飯取りに行ってんだろうな?」
「どうせビビり散らかして逃げたんだ。俺たちに媚び売って挙句干からびるのが一番長生きするってことを分からなねぇ馬鹿共なんだからよ」
「くっはは、違いねぇ」
「笑い事じゃないっ!今晩の食の前に彼らが亡くなってしまうだろう!」
「あん?んじゃあお前行けよ」
「私も勿論行くが皆でだ!力を合わせればそも一人として死なせない!」
「おいコイツ抑えろ」
「な、何を」
「おい賭けようぜ。コイツが何発でオちるか。俺は三発」
「はっ、俺は五発な」
「何をしている!こんなことをしようと何も、ゔ、オぇ」
「にーはーつ、目!はははは!」
その様子に気を配りながら俺は後ろを振り返り、口の動きだけで念を押す。
「(動くなよ)」
「……!?」
乃亜の身が強張る。
「(もう良い人たちじゃないってことがわかったなら十分なんでしょ!はやく止めないと……!)」
「助けてやる理由が無い」
あいつがどうされたところで特段困る訳でもない。そのくらいなら内状を勝手に白状してもらうのを待った方が後々方針を定めやすい。
それ以上に、俺たちは本来この世界に存在しない人間なのだ。顔も名前も、まだ誰にも認知されていないというアドバンテージをこんなどうでもいいところで棄てるのは割に合わない。
「(奏波、乃亜抑えてろ)」
「(……私も乃亜派です)」
俺は気付かぬうちに小さく舌打ちをしてしまうくらいには苛立つ。だがこうなると待つだけの行為にも相応のデメリットが生まれる。
(ここでコイツらに不信感を持たれるのも考えものか……)
いつかそうなるとしてもまだ早い。可能ならその手の手札は本当にいざという時まで温存しておきたい。
思案した後、従ってやることにした。
「……やり辛いなクソ」
「!?、誰だ!」
姿を現した俺に野次を飛ばすような大声を目の前の男が出す。
「迷子のはぐれ犬、てところだ」
「なんだそりゃ?つぅかなんだぁその服は」
「おい、剥いたら良い値で売れるんじゃ……!」
「あぁ、金が転がり込んで来たぜ」
より良いオモチャを見つけたのか既に顔がボロボロになって虐められていた人を離してこちらに近づいて来た。
「なぁ、さっき言ってた『飯を取りに行ったあいつら』って、あんたらと同じ色の服を着てた黒髪二人とと茶髪二人の四人のことか?」
「そうだが」
「一応知らせとくけどもう死んでるよ。全員魔物に食い殺されてた。そっちのボロ雑巾になってる奴も囮、というよりは餌として使うつもりなんだよな?」
「察しが良いな。じゃあ多くて困ることが無いってのも分かるはずだ」
俺も同じ目に遭わせる気か。
「ここはお互いに見なかったことにするの方が損が無くていいんじゃないのか?」
「俺たちが損をすることがあるかよ」
「やる気満々か。じゃあずーっと奥にいるお仲間さんがたに無様に負ける様でも見せてやりなよ」
「はっ、笑せ──」
忠告はちゃんとしたので死んだとしても文句は言わせない。あ、死んだら喋れないか。後ろで乃亜と奏波が見てなければ本当に殺っても良いんだけど。
直線、最短距離で手前にいた男を前蹴りで吹き飛ばし、勢いを殺さずもう一人の頭を正面から掴んで地に叩きつけた。
両者一発で伸びた。
なんかさっきから更に奥の方でまたもやコイツらと同じ格好をしている奴が覗き見ていたが、前蹴りで百メートル近く飛ばしたやつを抱えて消えたようだ。
周りには他に誰もいないので後ろの二人をこちらに来させる。事も一段落しまので歩いてくるかと思いきや、乃亜は自分なりに全力で走ってきた。
「ジェス!これ殺して──」
「ないから安心しろ。そもそもこんなところで平然と生活してるような奴等なんだから、どっちも息はある。にしてもこれじゃ流石に弱過ぎだし、さっき『ボス』とか言ってたから徒党組んでるんだろうな。おいそこのあんたは生きてるな」
「ぁ、」
「あー、顎骨歪んでんな。じゃあ首振ってイエスかノーで答えろ。嘘を言えば俺たちは手を下さない」
「そんなことより!血が、こんなに出てるんだからまずは止めないと……!」
そういう知識が全く無い乃亜が何かしようとしたが、俺は首根っこを掴んでそれを制する。
「悪いが今回ばかりは俺を待て」
「ジェス!」
薄らと怒りが込められた叫びだが、後回しだ。それに話しているうちに勝手に冷めるだろう。
「お前達は死刑囚か何かの罪人か」
「──え?」
乃亜が疑念の声を洩らす。そしてこのリンチにされて倒れている男は俺の問いに首を縦に振る。
「な、なんで」
「こいつらが全員同じ色の薄い布切れみたいな服着てるだけならまだ分かるが、加えて性別や体格差を度外視した完全に同じサイズというのなら話は別だ。ここへの先遣隊と言うにはあまりに扱いが雑過ぎる」
「……観察眼と推察力どうなってるんですか」
「見てきたものがお前たちとかけ離れてる、てだけだ。何も大それたことじゃない」
正当防衛の人殺しで罪に問われるような場所でここまで育ってきた二人だ。そもそも人一人殺して重い罪と称している乃亜だが、猟奇的殺人というほどではないだろうがそれなりの数を殺した俺は後腐れなど無い。
「次、ここはお前達のようや成れの果てしか居ないのか」
男は首を横に振る。
「ちゃんとした正規の兵隊さんもいる」
男は首を縦に振る。
「お前達はそいつらに対抗出来た試しがあるか」
男は首を縦に振る。
「お前達は何人だ──あ、そうだな……俺の言う人数を超えたら頷け。三十、五十、百、百五十、二百」
二百を言ったところで頷いた。百五十以上二百以下。素性すら知り得ないコイツの言う事を全て当てにする気は無いが、妥当な人数ではあるか。
他者をまとめ上げるボスを据える必要のある人数に加え、コイツを餌にしようとする程残数に余裕がある。加えて常に魔物に命を危ぶまられるこの環境。そこから逆算すれば多くても三百弱という予想だったので信用に値する数だったのだ。
「最後だ。この世界にこの下の地より過酷な場所はあるか」
男は首を横に振る。
もう聞きたいことは無い、というか聞ける容体じゃない。放っておいて先を行きたいが黙って話を聞くようになっていた二人を説得する言い訳は思い付きそうにない。
デイファの見様見真似だが、仕方無く応急処置くらいは施した。
ジェスたちを盗み見みしていたのは天越の上位クラスの実力者です。何者かの妨害が無ければジェスたちは全滅してました。




