25.経験の差
修行シーン割愛しながらトばしていきます。
たらたらやり過ぎていると私自信感じていましたので。
この話で修行話は一段落させてます。
俺は適宜対処を済ませた後に乃亜と奏波のいる宮殿へと向かった。ここにはクリフが吹き飛ばした屋根が落ちているため、念の為に乃亜達の現状を確認する必要がある。
魔力の使用を解禁された今なら空間魔法を広げればそれだけで事足りるが、外壁付近には居ないと確認したら必然的に中央塔にいるのは確定するためそこで解除した。よほどの理由が無ければ女子の部屋を覗き見る度胸は流石に無い。
移動はこれまでと違い一瞬だ。足を引っ張るものが何も無いなら塔の中の壁面の階段など使う必要もなく、真ん中の吹き抜けを一っ飛びすれば一瞬にして階を跨いで登ることができる。
乃亜と奏波の部屋は隣接してあるため、少し声を張ればどちらの部屋にいようとどちらにも聞こえる。
だから少し大きな音くらいはこちらも聞こえるのだが、どうも乃亜の部屋からバサバサと大きな布をはたくような音がする。
………
俺は一度下に降りて遅れて登場することにした。
うん。俺は何も知らないし何も聞こえてない。そして何も覚えていない。いいね?
面倒な登り直しになることも厭わずに一度階下へ飛び降りて、『ネメシス』で大人買いしたラノベを読んで時間を少し潰してから、今初めて乃亜達の部屋に向かった。
今初めて耳をすましてみても二人が談話しているということしか分からない。
「乃亜、奏波。いるか?」
「い、いるよー」
乃亜がドアを半開きにして顔だけ出して返事した。
体調が悪いと奏波から聞いていたが、顔色はこれまでと何ら変わらなさそうだ。しかしそういう良し悪しは本人が一番よく分かることなので一応尋ねておく。
「奏波に乃亜の体調が悪いってきいたけど大丈夫か?」
「体調が悪い?……あ、あぁ!悪かったけどもう大丈夫だよ」
口裏合わせ下手くそか。
そして俺は既に分かっていることを聞く。
「奏波も中にいるのか?」
「いますよ」
「ならいいか。二人とも、悪いけど今から少しだけ付き合えるか?異界への門を使うのが3日後に決まったから急いで諸々調整していきたい」
「は、早すぎない?」
それは当然だ。たった今俺が定めた時間なのだから。
俺も当初の予定では二週間はかけて奏波を鍛えて一般的なレベルまで成長させてから行くつもりで、その間の時間を縫って乃亜の権能を調整していくつもりではいた。あまり早すぎるようでは俺に別の目的があることを疑われかねない。もしそうなれば長期に渡って進行を遅らせられる可能性がある。かと言って反抗しても勝ち目はないし、見送る方針に一度待たれてしまえば数十年もの時を無駄にしてしまう可能性がある。何せ歴史を辿れば五千年もの間異世界とコンタクトを取れていないのだ。そのくらいは視野に入れている。
だからこそ衝突を避けるためにゆっくり進めていくのが最速の結果につながると考えていたのだ。しかしデイファの勧めを理由にしてしまえば少なくともアルは味方をしてくれるので、奏波を連れてきた恩恵が思わぬところで得られた訳だ。そして新戦力の増強という取り組みにも協力することにもつながるため文句は出される可能性は低い。
「というわけで今から少しだけ修行・練習をしよう。乃亜はこの前と同じことを少し手法を変えながら継続。奏波は魔法の習得は後回しにして今できることの練度を上げて継戦能力をつけさせる」
現状二人を即仕上げるとしたらこうなるだろう。
乃亜にはそもそも戦闘能力はからきし期待していないため、門の結界を確実に破れるようになることに重きをおく。
奏波は魔法を覚えさせれば勝手に搦め手を考えつきそうではあるが、魔力操作技術が間違いなく追い付かなくなり戦線離脱が早まることが目に見えるため、多少苦戦を強いられることになったとしても自衛を確実にこなせるようにする。
「分かりました。またあの丘ですよね」
「そ。出れそうなら直ぐにでも行こう」
これで俺がこの場から即刻離れる理由をつくり、全員の利害の一致により例の丘に直ぐ向かった。
*****
数時間後
「うん。奏波も見違えるくらい良くなったな」
「はぁっ、はぁ」
「奏波大丈夫?水とタオル持ってきたよ」
「はぁ、ふぅー。……助かります」
乃亜が持参して来ていた必需品を奏波に渡していた。
奏波の身体強化術がある程度良くなってきたのを見計らって、実践に入ってみたのだ。
勿論だが加減はしている。総合的な身体能力はほぼ同レベルに合わせたし、奏波は細剣持ちで他何でもありに対して俺は素手で魔法や権能も無しの完全格闘オンリーで、強いて言えば差があるのは暁圏の精度だけだ。
「もしかして、元の世界で私と闘ったときは、ハァ。技術面でも加減されてました?」
「そりゃあ奏波の力量を確かめるのがメインだったわけだからな。俺も直線的な攻撃しかしてなかったし」
事実あれはかなーり手加減していた。格闘術なんてほぼ使ってないし、そもそも大鎌使ってる時点で舐めプと捉えることも出来る。
「まさか攻撃が掠りもしないとは……一発も当たらないとなるとかなり気落ちしますね」
「ジェス、流石に厳しい過ぎると思うよ。自分だけ攻撃何回も当ててたみたいだし」
乃亜からしてみれば俺たちの動きが早過ぎて「らしい」という表現になっている。
「そ、そんなにか?あんまり俺が悪者みたいに見えるのは良くないと思うんだけど。俺自身寸止めしてから当ててるから相当弱くなってる筈だが」
「乃亜、お師匠様が言ってるのは本当なので気にしなくて良いですよ。ですが気遣ってくれたのはありがとう御座います」
「いや、でも傍目から見たらやっぱり、ね?」
嘘だろ?これ結構キツめなのか。
確かに俺が奏波に叩き込んだ攻撃数は数百にのぼるのけど。
「やっぱりそうか。アルが頭おかしいだけなんだな」
「忘れかけてましたけど、私の師匠の前にアルネーブさんの弟子でしたね」
「俺の場合は強制的にアルの弟子にさせられたときから総合的に今の奏波と同じくらいの実力はあったと思うんだが……虐められてたな」
「身震いするほどって一体何されたの?」
「聞くな。思い出したくもない」
本っ当に大変だった。今でも闘ったらボコされるのに変わりは無いだろうが、それでも数段マシになっただけ成長を感じられる。
「そんなことより乃亜の方は……まだ安定しているとはいえないな」
以前にフェアの《縛魂契》で乃亜の権能の使用に俺と奏波の承認という制限をかけたので、俺の独断で使用させることが出来なくなったのは悔やまれるが門を使えるようになるだけでも充分だと満足するべきだろう。
今乃亜には別で普通のゴミ捨て場から持ってきたなるべく綺麗な額縁のような物が付いているものを使って、額縁だけ消さずに残す練習をしている。
乃亜に消して欲しいのは結界だけであり、もし門そのものまで消してしまえば一発で詰む。なので一つの物体の中から指定対象を絞るという練習なのだ。
実際のところそこまで難しくもないことなのだが、自力発動が出来るようになったばかりということもあり、不発混じりがありながらの調整に大苦戦しているようだった。
「ごめんね。どうしても零か百しか出来なくて」
「安心しろ。これも想定内ではあった」
「それはそれで傷つくね」
「一応対応策はあってな。初めから限界ギリギリまで魔力を消費させておけば否応でも最大効果は発揮されないからそれを使っても良いんだが……念の為に魔力は温存の方向性で行きたいな」
前にも言ったが、詳細が一切不明の原初の界核と対面した時の対抗策として取っておきたいのだ。
それでも、一日から数日程待って魔力の回復を図ればなんとかならなくはない。
「だからそんなに慌てなくても良いぞ。魔力操作技術がボロボロなのは既に分かってたことだし、門を通れるだけでも充分だ」
「……うん」
「お師匠様。乃亜がもう少し期待して欲しいみたいですよ」
「代弁しないで!」
確かにこれでは扱いが雑過ぎるな。
「それじゃあ魔力量の底上げをするか。乃亜の記憶を掘り出すのにも必要になってくるわけだしな」
現状乃亜の記憶に関して俺が把握出来ているのは、権能一発で使う魔力量に応じて読み返せる記憶の量が増えることだけだ。
必然的に魔力量とそれを押し出す出力が乃亜の両親の手掛かりに直結する。
「魔力量を上げるには魔力を使いまくるしか無いからな。どうする?逆バンジーもう一回行っとく?」
「嫌」
「ということで、一石二鳥の方法だ。魔力の受け渡しをやろう」
一応乃亜の前でも出来るということは言ったし、アルが俺にやったのを見ているため何のことを言っているのかは伝わっているだろう。
「で、でもアレって触れ合ってなくちゃいけないかったんじゃ──」
「接続を強くするために必要ってだけで必須じゃ無いぞ。有線か無線かみたいなイメージだ」
乃亜の躊躇いは権能の暴発による俺への被害を考慮しているのだろうが、これは本来ならこういう時に活用するものなのだ。
「フェアの《縛魂契》があるから安心しろ。俺が不可認にしておけば発動しない」
「そっか。なら大丈夫だよね」
「ちなみに体内で魔力操作が出来ない人なら接触面積が大きいほうが当然受け渡しの難易度は下がるけど、どうする?」
「え、えっと……」
揶揄うことも忘れない。
普通に手を繋ぐとか言えば解決する話ではあるのだが、それすら恥ずかしさで躊躇いがあるらしい。
そしてかなり考えて思いついたようにハッと顔を上げて提案したのは
「せ、背中合わせ、で」
成程そう来たか。思ったよりも頭が回ったな。
乃亜の提案通りにするために、俺は乃亜の背後に回って背中合わせで立った。
「コツとしては受け渡しをするために魔力を流す部位に意識を集中させること。乃亜としては権能を使うときに魔力を手に集中させていたようにそれを背中でやればいい。あ、力んでも意味無いからそこは注意な」
「分かってるんだけど、ちょっと……」
まぁ出会ったばかりでボディタッチがやけに多いのは認めざるを得ない。どうしても魔力の動きには感情が作用しやすいため、こうして物理的に親身に接するというのはちゃんとした意味があるのだ。
そうして魔力の受け渡しが為される。
これに関しては互いに技量が要るため、乃亜がちゃんと魔力を放出とは言えずとも纏うくらい出来れば俺がある程度はカバー出来るのだが。
「おい。さっきから背中じゃないところから魔力出てるよな?明らかに接触面から意識外そうとしてるだろ」
「し、してないし!」
「真面目にやらないなら抱きついてでも設置面積増やすぞ。その方が早くて楽だからな」
「抱ぁ──っ!わ、分かってたから。ちゃんとやるよ!」
流石に吹っ掛けただけだ。そんなことするつもりは無いが、乃亜らチョロすぎるので通用すると確信しての発言だ。
「あぅ、ふ、んっ」
「喘ぐな変態女」
「しょ、しょうがないじゃん!何でか知らないけどジェスに触ってるところが凄く敏感に反応してるんだもん!」
「まぁ繋がりのせいで最初はそうなるけど、それにしても過剰過ぎるだろ」
乃亜の言う通り、実際にこういった副作用は付き物なのだ。なんというか、俺としては入り混じる感触が気持ち悪いといった感覚になっていたのだが、人それぞれ別々で感じるものがあるらしい。
それも魔力操作によって解決するため、もう苦にはなっていないのだ。だからこそもはやこの副作用を完全に失念していた。
それで肝心の魔力の受け渡しなのだが、それなりに上手くいった。これは精神的に相性が良いと上手くいくというのがあり、必要が無かったのでやった試しは無いが俺の場合は仲が良いクリフに一番渡しやすくなると思われる。
「思いの外上手くいったな。多分魔力が少なくなってへばると思うからあとはゆっくりしていてくれ」
「ハァ〜。疲れた(色々と)」
「私は二人が繋がって乃亜が感じてるのを眺めてるだけでしたけど、その魔力どうするんですか?」
「先ずはその語弊が生まれる言い回し止めろよ」
乃亜は言葉が出せずに奏波にポカスカと殴る──というよりはたいる。弱。
「取り敢えずはこの俺の最大魔力量の過剰分を奏波に渡す。正直言って自分の限界量を超えたらキツイんだ」
ちなみに俺の最大魔力量とは、乃亜によって失われた一割は計算に入れていない。元の九割を指す言葉だ。
「それで、私も背中合わせになれば良いんですか?」
「いやさっきのは渡す側が下手だからやっただけで俺が渡し手ならどこか触らせて貰えばいい。というわけで背中貸してくれ」
流石に背中に触れるくらいは承認してくれた。
これも駄目なら本当に泣いて帰るところだった。
「一応受け取り手もそれなりに技術いるんだ。自分に触れたと感じた魔力をなるべく離すなよ」
それだけアドバイスして、奏波に魔力を渡す。
ちなみに奏波は特に奇声を上げることは無く、平然としていた。乃亜も逆の意味でおかしいが、奏波がここまで魔力を操れるのはもっとおかしい。凄い意味で。
「元の乃亜からの回収率三割ってとこだな。十分出来てる」
「少なくないですか?」
「そんなもんだって。寧ろ俺という仲介人がいたんだからかなり多い」
ちなみに俺を経由していなければ、乃亜のとんでもなく雑な渡し方により奏波が魔力を捉えきれずに回収率が一分を切っていたと思われる。
「これで奏波の魔力も回復したことだし、もう一回戦いっとくか。今度は暁圏を展開しながらでやってもらいたいから、先ずは展開したまま動けるようになろう」
この前にも暁圏を右腕に纏わせたまま木をぶん殴らせたことがあったが、アレは攻撃力にな意味なく単純に範囲を狭める技術を掴ませるためだった。
そして身体強化で独自で掴んだであろう粗のある魔力操作により暁圏の維持も良い傾向に進んでいる。
こうして二回戦目に入った。
結果、
「何っっにも変わらないじゃないですか」
奏波が悪態を吐いていた。
「フェイントに引っかかりすぎなんだよ」
「それはやられた私も分かってますよ」
何がどうなったのかというと、暁圏を展開しながら闘えるようになった奏波だったが俺の所作の一つ一つに気を配れるようになった結果これまで認知できていなかったありとあらゆるフェイントを警戒するようになり、結果的に対処できずにむしろ一回戦目より俺が一方的に圧倒する事になった。短く言えば駆け引きの数が多くなり過ぎて着いてこれなかったのだ。
だかこれはそもそもの実戦経験に差がありすぎるのだから当然の結果ではある。
「対応しようとしてもそれを見越してフェイント対策の裏を掻いてきますし」
「俺もこういう駆け引きは自信ないんだけどなぁ」
「お師匠様って、比較対象を一々アルネーブさんにしているだけで言ってること何も参考にならないことがよーく分かりましたよ」
これはジェスの自己肯定感がもとからあまりにも低いというのもあるがそれ以上にアルネ―ブに削がれまくっているということもあり、奏波の言う通りジェスの技量は世界的に見ても抜きん出ていることは間違いないのだ。アルネ―ブに技術で対抗可能と言うだけで栄誉賞を貰えるほどではあるが、本人がそれを認知する日は来ない。
「そうか?……確かに思い返してみれば、この世界で全力で闘ってことがあるのってアルとラグナだけかもしれない」
「え?そんなにラグナちゃんと仲悪いときがあったの?」
あー。そういや言ってなかったか。その証拠に奏波も少し驚いてそうだ。
あのおおらかに笑うラグナしか知らない二人としては俺とラグナが敵対している様子を想像するのが難しいのだろう。
「ラグナのはお互いに不可抗力ってのはあったけどな。いやぁ片腕と片脚焼き切れたからなー。マジでまぐれ勝ちだった」
「ぐ、グロすぎる」
「それで今お互い仲良く出来てるの凄いですね」
蹴りを受ける手が蒸発するほど火力馬鹿だから反応が少し遅れてたら危うくその勢いのまま頭も蒸発するところだった。遠距離攻撃も炎というよりレーザーだろあれ。
「脱線したけど、奏波。さっきの模擬戦で最後の方の一回だけ暁圏以外を判断材料に動いてなかったか?」
奏波は最後の一瞬だけだが、俺のフェイントに一度だけ先に反応して飛び退いたことがあったのだ。結果としては俺が間髪置かずにフェイントを中断して普通に攻撃を当てることにはなったが。
「しましたね。殆ど勘でやったことですけどお師匠様が踏み込んだ足に違和感を感じたので飛び退きました」
「足。……音か?」
もしかしたら地面が土ということもあり、体重が乗っていないと判断できる微かな音があったのかもしれない。俺自身では全く聴こえないような音が。
「もしかしたら《振動魔法》の効果で揺れに鋭敏なのかもしれないな」
「一応耳が良い自信はありますけど」
「……後ろ向いてくれ。暁圏は使わずに」
俺の指示に従って後ろを向いてくれたところで即席の実験を行うことにした。
俺は足元の落ち葉を一枚手に取る。
「俺が今から一枚の葉を幾つに切り分けたか当ててくれ」
「はい」
適当に葉を空に手放して風の刃を無詠唱で発動させて切り分ける。当然それは重力に従って音無く地に舞い落ちる。だがそれは比喩表現であり、本当に音が無いということは有り得ないわけだ。
「……27分割」
「正解。思ったとおり、耳が良いで済ませていいものじゃなさそうだな」
意識さえしていればこの超常的な揺れの観測が可能とならば──将来的には可能性が多岐に渡る。
魔力の観測にもこの揺れで捉えることが出来るなら俺のように魔法の発動前段階に入っているということを見極められる力になるかもしれない。
「ひとまずは地上戦限定技になるかもな。暁圏より《振動魔法》の方が出力と精度ともに安定しているから、近接戦では暁圏と併用する方針で行こう。実際にするのは明日からということで」
「明日もこれするんですか……」
「そりゃあ魔力操作は才能フル活用でギリギリかたちになってきてはいるけど、いかんせん戦闘技術のほうがお粗末過ぎる。平和を生きてきた証でもあるがな」
この世界では半端に名が知れた者が殺されるなど珍しくも無い。それ以前に戦争以外の場でもゴロゴロ死人が出てしまう以上、殺しに対する恐怖心が募り自衛として凶器を持ち歩くことが当たり前になりつつある。
殺人犯に死罪を与えようとも死人が蘇ることは無い。だが分かっていながらもそうせざるを得ないという主張もある。そうして連鎖していくものだ。
「乃亜も奏波もヘトヘトみたいだから少し俺の魔力を分けるよ。歩くのに不便は要らないくらいには回復するだろうから、先に帰っててくれ。
ユラ、わざわざ待っててくれてありがとな」
俺がそこらへんの木に向けて言葉を放つと、その話しかけた人物が木陰から出てきた。
乃亜と奏波も驚いているようだった。二人ではユラがいつからいたのか全く分からなかっただろう。
「……恐れ入るな。某は隠れ潜むことにはある程度自信があるが、これではある程度すらも失う」
「それは相性の話だろ。潜伏する者は感知系統に弱いのは当たり前さ。それにしても、昨日の午前中に頼んだのにもう準備出来たのか?」
「準備と言ってもただの人寄せ。寧ろ一日余りというのはかかり過ぎであろう」
いや選りすぐりを百人くらい集めると言ってたしかなり早いと思うのだが。少なくとも俺は乃亜達と次の門を潜る直前くらいを想定していた。
「それじゃあ行こうか。『ネメシス』へ」
「道中はワタシも同行しますよ」
「……失言だが某の役は全てアルネーブに押し付けたほうが良いのでは?」
アルがユラに気付かれずにここまで歩いてきたので、ますます自信を無くさせてしまっている。
「隠行の本質も、突き詰めて行けば魔力操作技術に辿り着くのです。貴方にはその分野で特筆する才を持っていますが、再現自体は誰にでも可能と思いなさい」
出来るわけないだろ。
いや理論上不可能では無いが要求値があまりにも高いので誰にでも出来るという表現はおかしい。
「そういやお前宮殿の修繕とかはいいのか?」
「当然終わらせて来ましたよ。設計図は全て頭に有るのでそれを再現するだけです」
さらりと言ってのけているがアルは宮殿の細部にまでこだわっていたので、素人目線としては一見規則性の欠片も無さそうな模様が壁面やその他備品と装飾品にあり、尚且つサイズもまばらに違ってくる。
これに加えて宮殿にはある程度の防衛機構があるのだがそれも全て元通りにして来たということだろう。
設計図を本当に紙に起こそうと思ったらA4くらいの紙が千枚を超える。そしてこれはあくまでも今回破損した宮殿の一部のものであるため全体を頭に入れているとなると、脳が機械で出来ていることを疑いたくなる。それだけ演算能力が高いのだ。
「ユラ殿とその部下は道中、ワタシにより一時的に全員の五感を奪った上で移動させますが、構いませんね?」
「無論。皆には既にその手筈を行うだろうと伝えている」
アルの言うこと目的は門の場所を秘匿することだ。
【封護者】に門の場所がバレるとコチラも守りの戦力を増やす必要が出てくる訳だが、そちらに戦力を割くと今度は世界維持に不安定が生じる。
さらに今現在、門を閉鎖させているのも【封護者】であるため開門されれば何処の門に入られるか検討がつかないのも厄介だ。
だからこそ情報漏洩が絶対に無いように所在はほんの一部の人物にしか共有されていない。
その少ない例の内三人が乃亜と奏波にラグナという訳だ。ラグナ以外の師団長にも教えていない。
「では行きましょう。加えて乃亜殿、奏波殿はこの会話についても秘匿しておくように」
「は、はい」
そうして俺達一向は一時『ネメシス』へと向かった。
ジェスがアルネーブの弟子入りした時の強さは奏波と同じくらいとか言ってますが、謙虚過ぎる表現です。
実際には現時点の奏波に余裕で勝てるくらいはあったと思われます。




