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流離う世界に私は  作者: 眠井ネタイ
第二章『スティグマ』篇
26/37

23.魔法の扱いは慎重に

気付いたこと。

私って世界線や新情報の設定を盛り込む時に投稿が遅くなるんですねー。


「ほれ。パフェ四人前だ。面倒だから大皿一つの巨大バージョンだけど半々だからな」

「ちゃんと分かってるぞ!溶けるまでに早く釈放祝いの御馳奔を食べようではないか!」


俺はかなりバランス感覚が求められるかたちでそれを運んだ。

ちなみに場所は警備本部の休憩室。現在職場にいる人達の分も作って分けてあげると、畏れ多いとか言われて返されそうになったが関係無く押し付けた。

働かざる者食うべからずと言うが、逆も然りだ。働いているのだからはらりと幸が舞い落ちて欲しいものだ。俺は少なくとも、本腰に手を入れながらも片手間で届く場に何かしらもたらせたら良いなと考えている。

今は俗に言うインターバルだ。どれだけ急ごうともその時が縮まることは無い。ならばその束の間を楽しく過ごしたい。もちろんクリフと違い、やることはやりながらだが。


「むぐぅー!美味いな!疲れ果てた脳に痺れる!」

「んー。少し甘ったる過ぎたな。甘さをもう少し控えめにして、トッピングは口直しが効きそうなものに変えるべきだな」

「お前はまだ満足していないのか。ハッキリ言って世界中の戦争意識が強烈な最中でここまでちゃんとした食事が出来ることが珍しいのだぞ。事実このぱふぇとやらも絶品ではないか」

「お前だって口に入れるものが美味い程良いに越したことは無いだろう?」

「それはそうだがなぁ。あむ。それでも何と言うか、こう──自分はな、もぐもぐ、お前は他者よりもジェス・ノスタルジアという一人の人間を、むしゃむしゃ、重んじるべきだと言いたいんだ。お前は振り返れば反省の繰り返しで、ばくばく、それは決して悪いことでは無いが、ぱくり、たまには自らに褒美を与えてもぐもぐもぐもぐもぐ」

「何故だろうか。心配されてるのにすんごくイラついてきた」


心配事の台詞の中に咀嚼音が多過ぎる。最後の方などは面倒くさくなったのか、もはや食べることのほうがメインになってる。


だがクリフの言う通り、俺自身を肯定することを考えることは少なかったのかもしれない。


「まぁつまり、自より他を優先するのは素晴らしいことだが、お前が多くの人から慕われていることも忘れないでくれと言うことだ」

「まとめましたみたいな感じで言ってるけど最初からそれを言えば良かったのでは?」


でも、いくら慕ってくれていると言っても俺はいつかそれを蔑ろにしてしまいそうだ。

そのくらい、()()()()が──


考えふけていると俺達のいる休憩室の扉を何者かがノックした。


「お師匠様。いますよね?」


問いかけてきたのは奏波だが、奇妙なことに足音が一つということは乃亜と一緒ではないということになる。


「入っていいぞー」

「失礼しま───どんだけ大きいパフェ食べてるんですか」

「クリフの仕事が終わった祝い。ついでにここにいる全員分作ったんだ」

「それで行き当たった人全員が片手にパフェ握ってたんですか。滅茶苦茶しますね」


ふむ。確かにここには計百人近くいるが、同じ作業を何度も繰り返していただけなので、そこまで大変でもなかった。それにここに百人というのは設立当初並に少数だ。

理由としては現時点で前線に張らしている軍を一度一斉に返したいからだ。異界攻略後に向かわせる軍は真っ先に今から引き戻すレザシーかシグのところを使うことになる。

理由は消去法で、ユラはこれから『ネメシス』に行ってもらうことが確定している。フィレーナは国の防護結界支援が主な仕事なため動かしづらい。ラグナは戦力的に過剰すぎるのと、かえって他所に迷惑をかける可能性があるので最終手段だ。

話を戻すと、とにかく今は国軍の前後を総入れ替えする必要性があるのだ。

よってある程度の戦闘能力を持つ警備人達で一時的に極小箇所における前線の交代と道中の安全確保をしてもらうように数週間前から企画書を各方面に流していたのだ。当然だが秘匿性を持つルートからだ。一瞬守り手が少なくなるこの時期を見計らって何者かにテロを起こされようものなら世界中からとんでもない赤っ恥を受けることになる。

だがしかし、そういうことを懸念しているものの大掛かりなことをするような裏組織などはアルが軒並み牛耳りつつあるため心配いらないだろう。俺の見立てではアルが扱える金額は最早ノスタジルの国家予算を超えている可能性が高いと思われる。


「というか乃亜はどうした?」

「••••••汗を流したいからと浴室に。それと疲れが見えたので今日は休むように、と言って来ています」

「大丈夫か?体調が悪いなら直ぐにでもデイファに頼んでもらっ」

「大丈夫、なので」


何故か凄い圧を感じる。何かあったのだろうか。


「というわけでお師匠様。風魔法を教えてください」

「その話に繋がる要素あった?」


弟子にしたからには強くなってもらいたいわけで、この向上心は嬉しくあるのだが───いくら何でも飛躍し過ぎでは無いだろうか。それに『風魔法』と指定しているのも引っかかる。


「一応聞くけどなんで?」

「学校とかで風次第で音の届き方が変わると聞いたことがあるので上手く活用出来れば良いかなと思いまして」

「•••••••」

(どうやら、相当舐められてるみたいだな)


俺には経験上分かるのだ。これは事前に用意していた台詞であると。

これまで俺は奏波にも砕けた態度で接していたが、乃亜のいないこのタイミングで少し師匠としての威厳を取り戻しておく必要があるようだ。


「──奏波。俺の権能(フォルトゥーナ)について少し教えてやろう」

「何をですか?」

「俺がこれまで王様をやってこれたのがアルやラグナみたいな化け物だけのお陰じゃない。これでもアイツらに絶対に負けない特技があってな」

「だから何ですか?」

「俺の権能(フォルトゥーナ)の効果は大部分が空間に付随するものだ。かつて空間魔法という魔法体系が出来たが、その当初から今現在まで使用者は極小数と言われている。少なくとも俺以外で空間魔法を使う奴を見たことが無いし、たとえいても絶対に俺に比肩することは無いと断言出来る」


空間魔法の体系があまり広まらなかった理由は『暁圏』と比較して劣っていると言われたからだ。その理由として空間魔法は確かに精密な情報を読み取ることに関しては優れていたが、情報過多だと判断されてしまっていること。芝生の揺らぎだけにとどまらず空中戦をしようとも空気中の粒子まで感じ取ってしまうため明らかに必要のない情報を取り込むことになる。

空間魔法を展開し続ける魔力とそれを処理し続ける演算能力。ハードルが高過ぎたのだ。

それに比べてオーソドックスな暁圏は範囲内で起きた事象を感覚的に認知することが出来るために、特定の事象を選別することもなく『これ』と思ったものだけを捉えられる。そして何よりこちらは熟練度次第では魔力消費が格段に抑えられる。

これらの理屈が正しいのは、全ての魔法系統を網羅しておりその内の大部分を使いこなせるであろうアルが、空間魔法だけは一ミリも必要性を感じていないことで証明される。

そして俺の権能(フォルトゥーナ)は主に空間概念の拡張にある。


「端的に言おう。俺はその気になれば探知範囲は世界全域に及ぶし、感知精度においても絶対の自信がある」

「今更ですけどこの話って何で始まってるんです?」


それは奏波が嘘を吐いていると予想したからだ。

だからこそ、これは尋問に近い。


「俺はこの能力で特殊なことが出来てな。魔力を物質的に捉えることが出来るんだ」

「それって普通に魔力を見るのとなんら変わらなくないですか?私も初心ですが一応暁圏を使えますし、大差無いと思いますけど」

「これが随分と違ってな。大気中の魔力超精密視覚している内に分かったんだが、生物が発する魔力には一定量の感情が乗るんだ。でも普通に考えてみれば魔法とかにだって撃つぞという意思が乗るんだから当然っちゃ当然のことなんだが、その意思を観測出来るのは俺だけだと思う。

これよって俺は、()()()()()()()嘘か嘘では無いかの判別が出来るようになった。王様でもあるんだが尋問官を兼任しているのもこれが理由というわけだ。言いたいことは分かるな?」

「••••••••」

「さあ、素直に白状したまえ。何で乃亜はここにいないのかと何故急に風魔法を憶えたいとなったのかを洗いざらい」


勝った。これは完膚なきまでの完全勝利だ。

少しは師匠をする人間の威厳を取り戻せただろうか。

鏡が無いので正確には分からないが、おそらく今の俺は渾身のドヤ顔を披露していることだろう。

さぁ、奏波の返答は如何に。


「黙秘で」

「•••••••」

「やはりそうですか。今の発言からすると、真偽の判別が可能なだけで真実をつまびらかにして隠し事を暴ける訳では無いのでしょう?」

「•••••••まぁ当たりだな。フッ、我が弟子ながら中々鋭いじゃないか。だが俺の最大探知範囲が世界全域なのは本当だ。ここから宮殿内部を盗み見ることが可能ではある」

「いいえしませんね。私の嘘に最初から気付いていたのなら先ずはそれをすべきでしょう?これも発言的に未だやっていませんしね」


てっきり優勢待ったなしと思いきや、かなり対等な交渉になってきている気がする。


「はははははは──!まさか、ジェスを相手に口喧嘩で実質的な勝ちを収めるとは本当にやるな!」


先程から黙ってパフェに齧り付いていたクリフがいつの間にか仲介役のようになっていた。


「心配しなくても、ジェスが女性の部屋を盗み見することは無いから安心して良い。そこは自分が保証する。それにジェスが嘘発見の力を使う事は滅多に無いしな。事実先程から一度も魔力を使ってはいない」


せっかく頑張ってハッパ掛けてたのにペラペラとばらしやがって、と内心睨んだ。

どうやらこの感知には受け側に一定以上の実力があると「見られているな」という感覚が付くらしいのだ。そしてクリフは当然の如くそれを感じ取ることが出来るため、「見られていない」と断言出来るのだ。

ただし戦闘中にこれがデメリットになる事はない。どのみち必中なのだからバレたところで同じなのだ。


「あれ?てっきり先程から使われているものかと思っていましたが」

「確かにジェスは今のところ魔力の使用をデイファに禁じられているようだが、実はそれ以外にどうしても使えない事情があるんだ。それは───」

「おいクリフ。それ言ったら一年おやつ抜きくらいじゃ済まさないからな」

「すみませんでしたー」

「口止めする程ですか?それはそれで気になりますね」

「奏波も食べるか?」

「うーん。ひとまずは問いたださない対価としてもらっておきましょう」


そこら辺から椅子を寄せて奏波もパフェを食べる為にそこに座る。

しかし当然、もとは俺とクリフの二人で食べるはずだったのでスプーンは二つしかない。


「クリフ。頼んだ」

「ああそうだな。ちょっと待ってくれ」


目の前でクリフが『物質生成(マテリアル)』で即席スプーンを完成させ、それを奏波に渡した。


「凄いですね。お師匠様にこういう無から創り出すことが出来るとは言われてましたけど、実際に使うところは初めて見ました。ありがとうございます」

「『物質生成(マテリアル)』はそこそこ使用者が限られるからな。自分も相当長い年月練習してようやく出来るようになったんだしな」


クリフの言うことに補足すれば、正確には四肢の再生に使うレベルの『物質生成(マテリアル)』の使用者が限られる。

この国内だと俺とアルとクリフ。それと条件が重なればギリギリだがフィレーナにも可能で、しめて四人だ。

ラグナは肉体構造の演算に限らず繊細なことが苦手で、他はそもそも出力不足だ。

レザシーがクッキーを『物質生成(マテリアル)』で創り出すという珍行動をしていたが、あれが実はかなり凄いことだったりするのである。無機物とはいえそこそこ難しい処理能力と出力が要るため、引きこもりのプライドを守る為に成長しているのである。半分褒められたことでは無いが。


「そういえば、デイファさんが今日の夕暮れにお師匠様に大棟病院に足を運んで欲しいと言ってましたよ。大掛かりなことをする為に承認サインが欲しいらしいですけど、中々時間が空かないようで」

「それは良いんだけどさ••••••デイファって日労働時間どのくらいあるんだ?今度ほかの職員に確認取ってみるか」


このままではデイファの目元のクマが更に濃くなることを危惧せねばならない。

必要とあらば俺にも少しくらいは変われる。

手術などの本格的治療は無理だが患者の容態確認や健診くらいなら、何度か入れ替わりで行ったことがある。何故かその日から名物にされたけど。

そこでふとデイファの言っていたことを思い出し、一つ難点があることに気付いた。


「そうだ。俺、デイファに魔力使用禁じられてた。どうやって奏波に魔法を教えようか」

「自分の魔力を使っていいぞ。むしろあれだけ手伝ってくれたのだからそのくらいは手伝わせてもらわねばバツが悪い」

「分けるのとは何か違うんですか?」


奏波の疑問は当然のことだ。

おそらく奏波はまだ魔力への理解が浅いので、クリフの言ったことを『魔力を使った後に分ける』というアルがやったことと同じだと思っているだろう。


「クリフが言ってるのは、俺がクリフの魔力を扱うことを指しているんだ」

「それ大丈夫なんですか?強い人に魔力全部分けて終わりません?」

「魔力が多いところで上限ってものがあるし、出力が変わるわけでもないからな。それに発動と受け渡しを刹那の狂いも許されない絶妙なタイミングを図る必要もあるしな」


具体的には「貸してほしー」と「いいよー」の過程をノータイムですること。つまりはやろうとすることが互いに完全一致する必要がある。しかもこの方法攻撃するまでの間にかなり大きいデメリットが有り、「渡すための魔力を放出」「魔力を取り込む」「魔力を使い事象を起こす」という三つの間に余計なところに力がかかり実際に事象を引き起こすのに使った魔力は元の一割くらいにまで減少することがあり得る、というかこれが普通だ。なので互いに高い技量を持つことが限定で、土壇場でタイミングを合わせるのには信頼関係が不可欠になる。

それと物理的に触れ合う状況でなければならない。魔力というのはそこまで便利なわけではなく、基本的に自身の魔力を放つときは魔法や魔弾などの事象を引き起こさなければならない。さらに言えば漏れ出た魔力やロス魔力などの意思無き魔力は世界に取り込まれるため使用できないため、接触という魔力回路の接続(パス)が要る。

と、これに加えてもう少し詳しく奏波に教えたところでちゃんと気づいてくれた。


「でもこれって、『相手の魔力を扱うための魔力』を使いません?」

「あ」


クリフの提案は当人の失念によって棄却される。俺が魔力を使えないから無理だ。

一応今日の明朝にアルに魔力をもらったときのような誤魔化し方もあるが、可能な限り言いつけを守るべきだという方針俺の方針には奏波も同意しているらしいのでそれを口に出すことは避けている。

そこでクリフがならばと別の提案をした。


「よし、じゃあ自分にも風魔法を教えてくれ」

「何でそうなるんだよ。教わる側が増えてどうするんだって話だし、お前魔法使えないじゃん」

「いやジェスの前で使ったことはないが結界魔法はある程度使えるぞ」

「でも結局素体のほうが硬いから使っていないと」


クリフの言うことを一言一句信じるとするなら多分そういうことだろう。

実際にクリフが魔法どころか権能(フォルトゥーナ)使わずとも、ダメージを負っているところは見たことがない。


「そういうことだ。単純に自分が細かいことを苦手としているからアルネーブにも『お前はちまちまと小細工を弄するよりゴリ押しの方が強い』と言われたからな」

「だったら尚更他の魔法を覚えようなんて無駄じゃないのか?」

「いや、自分は本来なら風魔法だけならお前よりも適性があるはずなのだ。ただ意識して風を起こそうとしたことが無いだけでな」

「お前の言う風って衝撃波のことじゃ無いだろうな……。まぁいいか、とりあえずやるだけやってみよう。適性が確実に有ると言うんなら奏波の手本くらいにはなるかもしれないしな」


こうして風魔法を習得するためにパフェを食べ切った後にみんなで場所を移すことにした。




ちなみに、


(にしても、これだけは威厳的に口が裂けても言えないな)

(それにしても、風魔法を使えなくちゃいけない本当の理由は口が裂けても言えませんね)


(尋問に使う感知は精度の高さのあまりに半ば強制的にスリーサイズどころか突起なり秘部なり際どい──いや、アウトなところのかたちまで判ってしまうとは)

(風魔法で乃亜のベットシーツを乾かして証拠隠滅をしたいだけですとは)


なんだかんでジェスと奏波が似ている師弟である事は、誰の目から見ても分かるはずが無かった。



*****



絶対に必要な隠し事をしたまま俺と奏波とクリフの三人で昨日と違う場所に訪れた。

クリフはあの溜め込みがありまだ時間がかかるだろうと判断されていたらしく、一先ず今日のところは回す仕事がないとのこと。さっきまで一人で喝采を上げていた。

というわけでこの場所は


「随分と広い場所ですね。国立競技場くらいはありそうですけど、なぜか妙な圧迫感があって気持ちが悪いですけど」

「対魔法結界を張り巡らした特殊な防壁で造った。とはいえ恒常的に機能を働かせるためにそこまで高い強度は出せてないが、今の奏波くらいなら全力で壁に八つ当たってもびくともしないはずだ」


ここは短く練兵場と呼ばれている。

現時点では師団長たちの部下とかが戦闘訓練や、デルードたちが作る魔道具の試し使いをする場所になっている。

ゆくゆくは訓練場と同等サイズと性能を持ち併せたものをつくったうえで学園を立ち上げて、養成所のようなものの実施場にでもつくってみたいと思っている。まだまだ夢に近い幻想なのだがこのまま戦争が減っていけば不可能というほどでは無くなってくるだろうし、そういうしきたりごとに関してはアルも協力的なのでそこまで考えれば割と現実味を帯びてきているのかもしれない。


「圧迫感があるのはここの魔力濃度の高いからだな。大気圧が出鱈目に高いようなものだと思ってくれていい」


正確に云うならば、魔力密度が抵抗力に直結するからだ。

日常的な話にたとえれば。大気中の魔力よりも生物の魔力密度の方が高いから影響が少なく歩ける。

魔法戦では属性相性を考慮しなければ衝突時で魔力密度が高い方が押し勝つ。

そして今の俺と奏波は魔力量の少なさならかなり抵抗を感じるが、クリフはなんてことなさそうだ。

鍛錬方法としては某バトル漫画の重力室に近い感覚になっている。


「一応今の時点で正午を回っているからな。せっせと終わらせよう」

「それは勿論です。早い方が助かるので」


何故かはもう聞かないことにする。互いに隠し事がある以上は詮索しない方が良いという意思が双方にあるからである。


「先に言っておくが、奏波が風魔法を使えるとは限らない」

「え?」


奏波はいつも通りの真顔だが、すっごい呆然とした顔をしている気がする。


能力(スキル)ってのは先天的と後天的な二種があるんだが、ラグナみたいな特異例でも無い限り魔法は後天能力扱いだ。そして当然だが魔法もスポーツ同様に向き不向きがある。俺が使うのは数ある魔法体系の中でも主なのは風魔法と精神干渉魔法の二つだけ。他のは全く使えないという事は無いんだが、実戦では目眩しに使えれば御の口ってかんじだな」

「ま、まさかのランダム仕様ですか」


困りましたね、どうしましょうか、とか聞こえてくる。しかしもう一々構わずに先に行きたいが、得意魔法を調べるのは結構難しい。


「基本的には風魔法、火炎魔法、水流魔法、氷結魔法、地魔法などの属性魔法が通流。別枠で精神干渉魔法と空間魔法がある。これらは既にセフィロスって人物によって術式回路が開発された確立された技術でな。炎の動きとかの事象概念から魔力の動きを読み取って普遍的にしたものらしい」

「ちゃんとそういう技術って歴史があるんですね」


それはそうだ。文明利器というものには必ず発案者というものが存在している。


「セフィロスは昔から『無欠の魔王』として今も君臨してるからな。手を出す者はいないだろうな」


それはそうだ。この前から議題に挙がっている《神の命縛(グランドオーダー)》が一人【統監者】その人だ。

あんな化け物だけは絶対に敵にしたくない。

多分だがノスタジルを単独で壊滅させられるレベルだ。

しかしこの国の立ち上げの裏方役になってくれたため、逆に世界の権力たちがノスタジルに手を出せなくなったことでトントン拍子で立ち上げに成功している。

っと、脱線してしまっていた。


「この前も言ったがこういう魔法術式は理論上は誰でも習得可能な前提で存在している」

「それで何故私が風魔法を使えないかもみたいになるんです?」

「これに関しては生まれ持った才能とか運としか言えないんだ。短く云えば肉体に刻まれやすいか否かってところで、複雑な座標計算や魔力操作技術の掛け合わせや魔法陣の構築でどうにかならないことはないんだけど、とてもじゃないが暇人くらいしか習得しようとしない。どちらもとんでもない練度か相当な時間がかかるものばかりで戦闘に活用するのはとても現実的じゃない」

「アルネーブが空間魔法以外の全系統を扱えるのはやはり相当凄いのだな。よく考えてみれば全系統の魔法を扱えるのはアルネーブとセフィロス以外には見たことが無いかもしれない」

「やってみれば分かるけどマジで難しい。アルネーブくらいの炎や氷を出そうとしたら俺あと百年くらい欲しい」

「そんなに難しいんですね。それで刻みやすいというのは?」

「……ごめんちょっと待ってくれ。よく考えたら今スルー出来ないこと言った奴がいた」


クリフだ。今さらりととんでもないこと言わなかったか?


「クリフ。お前セフィロスが闘ったところ見たことあるのか?」

「……い、いや!無い無い!気のせいだったようだな!」


また流された。奏波はよく分からないという顔を……多分しているが首を傾げているので多分そうだろう。

何しろ【統監者】はつけられる異名が物騒だが相当に温厚な人物で、俺の知る歴史の限りでは五千年前の終末戦争以来では戦闘記録は無い筈なのだ。

つまりはクリフがとんでもない長命者な可能性が浮上してきた。せいぜい数百年くらいだろうなと思っていたのに。

だが、俺の知らない方法でコンタクトを取っているだけの可能性も考慮出来るためその場合は隠れたところで一悶着あったりしたかもしれないので決め付けるのは良くないだろう。

クリフの下手くそな口笛が気のせいではないことを肯定している。


「まぁいいや。とにかく刻まれやすいってのは適性のことだ。生物の骨の髄に至るまで刻まれた魔力回路の違いによって変わるものでな。人体で喩えるなら骨格(フレーム)みたいななものだ。扱えない魔法は当然出てくる」

「成程。でもそれなら乃亜だけじゃなく誰でも魔法を扱えることになりません?」

「魔力が一定以上あればな。大前提魔力が無いと魔法は使えないし、あったとしても魔法に適する回路を何一つ持たない方が例が多い。その上で操作技術が無いと実用性に欠ける」

「ふるいにかけられる要素多すぎません?」

「普通だろ。出来る人数が多すぎたら殺し合いが当たり前の無法地帯が発生するんだから」


魔法なんて簡単に人を殺せるし、使い方次第では殺されるより苦しいことをされる。俺が実際に目にした中では精神干渉魔法で性奴隷にされていた例もある。便利なのは間違い無いのだが、人そのものが殺戮兵器にもなる技術だ。


「さっきの俺の発言には少し語弊があったな。正確には刻み直すと言ったほうがいい」

「元から体に刻まれているものを掘り起こす、という感じですかね」


正解だ。ちゃんと俺の話を聞きながらも、しっかり自らの解釈で話を理解しようとしてくれている。師匠としては非常に嬉しい傾向だ。


「それじゃあ早速、『詠唱』をしてもらおうか」


そう言って俺はポケットから取り出したのは、前もって紙に記しておいた一般的に広まっている比較的簡単な魔法の詠唱記だ。


「こういう胡散臭そうなことって本当に意味あるんですかね?」

「この前も言ったが滅茶苦茶大事だぞ。詠唱に魔法陣とか祭壇に信仰の諸々の儀式を総称で『譚燈昇華(だんとうしょうか)』なんて名前を付けられてるし、実際に威力や精度が上がることも研究で証明されてる」

「自分も使ってる者達を見たことがあるな。今の魔法体系に広まっているようなありきたりなものではなく、己を象徴する独自の詠唱などを扱い格上を破っていた」

「アポクリフさんも言うなら信じましょうか」

「お前の師匠は俺だからな?一回お前に勝って実力証明してるからな?」

「はいはい分かっていますよ。揶揄っただけじゃないですか。それで、これを詠んでいったらいいんですよね?」


一応俺は師匠という名目になってはいる筈なのだが、奏波からすれば知り合いになったくらいなのかもしれない。

異界に赴いた時にでも師匠としての威厳を取り戻してみせる。


「そうだな。この詠唱に魔力が呼応するから、それを見て判断するって感じだ。俺は魔力を使えないからそこはクリフに頼もう」

「えっと、それじゃあまず風魔法からいきますね。

『柔肌撫でるそよ風よ、荒ぶることなくただ囁け』───奔れ、『ワインド』」


奏波がそう唱えると、詠唱の通り心地良いくらいの風が奏波から発せられた。春のこの季節に丁度気持ちの良い風だ。だがそれと同じくらい衝撃的だった。


「なんか、弱くないですか?もしかして適性無いってことですかね」


その奏波の失望にクリフが結果を正直に伝える。


「いや、とんでもなく適性が高いな。おそらくジェスとしては、魔力が一部風に変質すれば上出来だと思っていたのではないか?」

「そうだな。逆に風が起こる方がおかしい。意味分からん」


初めての球技で中級者をあしらうくらいにはおかしい。

俺は奏波が自分だけが僅かに感じられるくらいの風になれば上出来だと考えていたのだが、蓋を開けてみれば魔法使いに一歩踏み込むレベルである。

そしてこれで奏波が小さくガッツポーズしていたのだが、そこは見ないことにしておく。


「それじゃあ次に──」

「自分もやってみていいか?」


そういえばクリフも風魔法を教えて欲しいと頼まれていた。


「まぁいいぞ。奏波、その紙をクリフに──」

「いや、自分も風魔法の詠唱を聞いたことがあるから大丈夫だ。ちゃんと覚えている」


クリフも紙が無ければ何を言えばいいか分からないだろうと思ったが、そうでは無かったらしい。

クリフは俺たちからるんるんで数歩距離をとって唱え始めた。

最初は詠唱を加えて覚え始めたほうがやりやすいというのは知っているらしかったが、


「『天穹巡る不可視の理「ストォーーップ!!!」


ダッシュしてドロップキックを喰らわせてやった。


「馬鹿かお前!初見で禁忌クラスの魔法を使おうとする奴が何処にいるっていうんだ!」

「だってだって!誰だって格好よくドカーンと撃ってみたではないか!」

「国がドカーンと滅ぶだろうが!自分の魔力量と出力を考えろ!」


危うくこの大陸の半分が更地になるところだったと考えると恐ろしい。いくらこの訓練場が対魔法に優れているとはいっても限界がある。こんな化け物を相手にしたところで紙切れだ。


「普通に。初級魔法を。使ってくれ。いいな?頼むぞ?」

「わ、分かった」


相当強く念を押したことで、クリフが再度距離を取り言う通りにしてくれた。のだが、


「『柔肌撫でるそよ風よ、荒ぶることなくただ囁け』───奔れ、『ワインド』!」


奏波の詠唱よりもノリノリ──だけなら良かった。だが、初挑戦ということが災いし奏波の時よりも無造作に全方位に放たれた。

それもとんでもない出力で。


完全に屋内で突如として竜巻──はまだ可愛い。

風速が音速並みの早さに達したことでクリフから爆圧が発生した。


(出力考えろって言ったのになぁ!?)


俺と奏波はなす術なく跳ね飛ばされた。

こうなるとデイファの言いつけを守る余裕は無い。ここで渋れば最悪二人とも死ぬことになる。

一瞬で最高出力の身体強化まで持っていきながら吹き飛んできた瓦礫から奏波を庇いつつ、その身体を抱き抱えたまま空間魔法を展開して風圧の少ない方向を見つけて移動する。

クリフの粗い魔法が不幸中の幸いを生み、要所要所で出力に偏りが見られている。

そこに入り込んで、丁度そこにあった頼り無い壁の後ろに回りその壁を魔力で補強する。これで即興のバリケードくらいにはなるはずだ。

そのまま風は荒れ続けて内部の圧力が限界に達した結果──()()()()()

つまり、天井が遥か上空に飛んでいったのだ。

抜け道を見つけた風はそこから上空に向かうことで内部がようやく落ち着き、


いや、落ち着かないな。


その飛んでいった天井の飛んで行った方向が不味かった。直上にとんだのではなく、放物線を描くようにとんでいったのだ。

そしてそれが落下して──宮殿を掠めた。


奴が来る。


「クリフ!俺たちは帰るから後は任せた!」

「な!?ま、待て!頼むから弁明を手伝ってくれ!これは本当に殺されてしまいそうな勢いだ!」


現在進行形でとんでもない超スピードでその男、アルネーブが来ていることに今まさに顔面蒼白のクリフも気付いたようだ。


「さようならクリフ!お前のことは忘れない!多分!」

「待──」


その遺言を聞かずに俺は訓練場を全力疾走で出た。時間にして約二秒。

訓練場を後にしたときには既に中では激闘が始まっていた。


今度クリフの墓のレプリカでも作っておこう。

安らかに。


何故アルネーブが宮殿にカウンター式の結界を敷いていなかったか。

大気中の魔力濃度がなりすぎることで人間の不可侵領域が出来るからです。ノスタジルが中立国家のため人間と魔族のどちらも贔屓しないためにこうしています。

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