21.要注意人物
案の定投稿が遅くなりましたが止める気はまだ無いです
あの後はそれぞれ別れることになった。
デイファとレザシーはそのまま大棟病院に残り、他はそれぞれで帰宅することになった。
フェアの家も宮殿近くにあるらしいので道中は一緒に来るようだったが、予想外にジェスがここで別れると言い出した。
「そんじゃ俺もここで別れるから。おやすみー」
「え?ジェスも宮殿じゃないの?」
「昨日の昼に行った俺の別荘扱いの秘密基地みたいなのあるだろ?俺の家って実質あそこなんだよ」
「宮殿に住まない王様なんているんですね」
「そういうのもいいだろ。俺の知り合いの王様にも場所を縛られるのが嫌いだって言ってるのがいるぞ」
「それもおかしい例でしょ」
絶対にそういうものじゃない気がする。王様というのは安全なところに住むのが鉄則のはずではないのか。ジェスとその知り合いはどうせ実力ありきの行動だろう。
「ジェス様、ばいばい」
「うん、ばいばいフェア。本当の本っ当にいつも悪いな。休めとか言っときながら仕事量増やしてしまってるし」
「もし、役に立ててる、なら、むしろ、嬉しい」
長く知り合いであろう二人なので当然仲が良いのだが、なんかヤだ。
「ねぇ、ジェス。今日も迎えに来てくれるんだよね?」
「うん?いやそんなつもり無いけど」
「うん分かったありがとう。……え何で!?」
「あのな乃亜。この際ハッキリ言っておくが、いくら知り合いでも男一人で女五人の集まりに顔を出すのは正味キツイ」
そ、そんな。
「お師匠様って案外そういう情緒あったんですね」
「案外って何だよ。割と普通じゃないか?奏波は知らんが乃亜だって男がワイワイしてるのところに乗り込んだりしないだろ」
「い、言われてみれば確かに無理だ」
私を例に出されてしまっては反論の余地が無い。
何かしら一歩を踏み出そうとしたのにこれでは意味が無かった。
「もう本当に遅いし今日は昼まで寝とけ。起きて色々女子なりのあれこれ準備出来たら、そこを真っ直ぐ行ったところにある警備本部に来てくれ。受付に俺が居るか聞けばどうしてもらえるぞ」
「ん?でもさっき丘の秘密基地に行くって言ったよね?」
「仮眠取るだけだ。五時間も寝てれば魔力は回復しきるからその後で大棟病院に戻ってデイファに診てもらってその後にふらっと警備本部に寄ろうかなと。クリフの進捗を確認しておこうかと思ってな」
アポクリフ。ジェスに愛称でクリフと呼ばれているこの人は一昨日に連行された警備総監の役職の人だ。仕事をサボり過ぎたとかで捕まるのは相当に不名誉だろう。
「っ!?じゃあ、私、今日、行く」
「だぁーかぁーらぁー!良い子は休みなさい!これ厳命!分かった?」
「うっ、分かった……」
フェアが少ししょんぼりしている。
ジェスがフェアに歩み寄ってかがみ、視線の高さを合わせると微笑んで頭を撫で出した。
「フェアは先ず休むこと。ぶっちゃけ言うとラグナと俺が抑止力になってるから火急の事態はそうそう起きないし、心優しい人が一日サボった程度で世の中悪くならないからさ」
「……で、でも、」
「あれは違う。今はそうさせないための味方がいるだろ?頼むから、一人で先走らないでくれ」
「……」
フェアがなんとも言えない顔をして無言でこくりと頷いた。
その言葉が嬉しいかと聞かれれば嬉しいのだが先程の行くという発言の動機とは関係無いから複雑な感情になっている。フェアの心情はざっとこんなところだろう。なんか申し訳ないけど、よし。
レザシーに正論ストレートが効いていたこともあり、多分だが皆がフェアは妹枠で捉えており、ジェスもその例に漏れていないのだ。実際可愛らしいし。
「じゃあ俺はもう行くよ。眠いわけではないんだけど頑張って寝るとするよ」
「お師匠様って寝る気無いですよね?寝るだけならわざわざ移動する必要無いですし」
「……変なところで鋭いな、お前」
奏波の言う通り普通に考えれば寝るだけであれば、あそこよりも上等の物があと少し歩けば着く宮殿にあるだろう。しかもジェスが王様ともあれば専用部屋があろうと不自然なことは無く、むしろ当然だろう。常識的に考えて一般人の私が自由に出入りしていい場所では無い。
つまり奏波の指摘通りジェスには隠そうとしている別の目的があるのだ。
「あの地下で俺自作の小部屋程度の工房とかがあってな。他にも色々作ってる最中なんだ」
「それは凄いけど、別に隠すようなことじゃなくない?」
「いや、この前つい楽しくなって調子に乗ったあまりにちょっとやらかしたんだ。補強しとかないとマジで丘が雪崩れ───「聞き捨てなりませんね」
ジェスの背後にいつの間にかその男、アルネーブがいた。ジェスと対面していた私たち三人が直前まで一切気付けなかったのだ。私はどう足掻こうと無駄だが、奏波の視界に入っている中でその目を騙し通すのはどう考えても普通じゃない。
だがジェスの肩が少し跳ねる可愛い一面も見られたのでナイスである。
「うおっ!?アルお前、白い格好してるのに闇に乗じるの上手すぎないか!?」
「そういう能力です。長く生きてると勝手に身につくものなんですよ」
「いや能力はオンオフ自在なんだから普通に歩いて来てくれよ」
それはこちらも言わせてもらいたい。ジェスとラグナちゃんも普通に声をかけて欲しい。寿命縮む。
「貴方あの丘をどうこうするのは構わないですけどね、宮殿にまで被害が出るようならば〆ますよ」
「わ、分かった分かった。そこはちゃんとやってるよ」
苦笑いを浮かべながらジェスが反応している。ジェスがここまで下手になって会話するのを見るのは初めてだ。
この人がジェスの師匠と知ったからか随分と見方が変わったかと言われればそうではない。アルネーブは最初から底が知れない不気味さを持っている。
すると奏波がその途中に入った。
「そもそもなんですけど、なんで地下なんですか?普通に堂々と作ればいいじゃないですか」
「そこはほら、男の浪漫て言うやつだ」
「そんなもの死ぬ程どうでもいい」
アルネーブが容赦無く即バッサリ切り捨てた。
「いやまだだ。他にも分かる奴いるだろ?な?」
「分からないよ」
「それ、正直、要らない」
「右に同じく」
「クッソこういうときはクリフが欲しい!!仕事サボってんじゃねぇよあの野郎!」
未だ不在のアポクリフへ愚痴の叫びが上がる。
だがアルネーブはそんなことお構いなしに本題を切り出す。
「門を使った界渡り後のことをそこのお二人もいる間に説明してしまった方がいいと思いましてね。すみませんが場所を変えさせてもらいます。申し訳ないですがフェア殿は先にお帰りなって下さい。念の為にシロと断定出来る者に限定したいのです」
「分かり、ました。ジェス様、二人も、気をつけて」
フェアはアルネーブの早く去れという意図通り小走りで離れて行った。
「まったくどいつもこいつも、ワタシのことを何だと思ってるんです?」
「悪魔だろ」
「天使ですが?」
「種族じゃなくて性格の話だろうが」
正直なところジェスがいないとアルネーブがただ触れ難い人物になるため有り難い。奏波もアルネーブと直接会話をしようとしていない点から同様に感じているだろう。
「んで。場所を変えると言っても何処に行くんだ?漏らせない情報って言うなら宮殿の防音付き会議室とか使えば───「『防音』」
アルネーブが一節唱えた。奏波からすれば何が起こったか分かりづらいだろうが、私はこれを知っている。
ジェスが以前に私の部屋を訪れた際にこれと同じことを言っていたため私達──いや、ジェスとアルネーブの二人の会話が漏れないようにするためだろう。
「その程度では弱いですね。貴方が亜空間を作りなさい。そこで語ります」
「いや俺魔力使うなってデイファに言われてるんだけど」
「ならば尚更良いです。魔力を扱えない時間で滞在出来る場は限られてカモフラージュが効きやすい。どのみちワタシの魔力で補填すれば気付かれることは無い」
「それは理解ったが、こんな短い会話のためにわざわざ結界で形状を指定しない『防音』使う程か?」
「その辺りのごたごたも含めて話しますのでさっさと行きましょう。先ずは宮殿最上階の舞踏間まで」
それだけ言い宮殿に赴くために先頭を歩き出した。
どうやらジェスですらこれからアルネーブが語る内容に詳しくないらしいので私と奏波には察することも出来ない。
程なくして宮殿に着き、また風魔法で上階にいく。と思っていたが、意外にもアルネーブが階段を使い出し、ジェスもそれに続いた。
そしてアルネーブはこの宮殿の最上階まで行くと言っていた。元の世界で四十階相当に当たる高さになるのを階段で一つずつ上がっていくとなると私には到底キツすぎる。だがアルネーブに意見するのも少し怖い。
そう困っていると見兼ねたのか奏波が私の肩を叩いた。
「そんなにキツイならお師匠様に抱っこでもして貰えばどうです?経験済みでしょう?」
「……私いつまでこのイジリ受けたらいいの?」
「当然、私が飽きるまでです」
奏波って結構ドSなのかもしれない。
更にジェスも私を心配し出した。
「悪いな二人とも。前にも言ったがこの宮殿の設計者のアルは一々出来栄えを自慢しようとするんだ。これもその一環」
「実際素晴らしい出来でしょう?封天核が邪魔なせいでさほど高さは出せませんでしたが、内装は前回よりも美しく出来ました。おっと、前回の事など思い出すからあのクソ女の顔がちらついた」
「前に城を壊されたって話か」
「ええ。力だけの木偶ではまるで張り合いがありませんでしたがね」
私はアルネーブとジェスの話に横入り出来る知識は無いので黙っておく。
ちなみにこの後、私は奏波におんぶされて移動することにした。どうせばてて同じことになるから遅いか早いかだけだ、とジェスと奏波の総意だったため大人しく従い奏波の背を借りた。
そしてこの時背負うのをジェスか奏波かを問われて奏波に即決したのは言うまでも無い。何度やられても肌身が密着する状態は慣れる気がしない。
三人がノンストップかつ早足で階段を登っていったためさほど時間をかけずに最上階の舞踏間と呼ばれる場所に着いた。
「ここならば、外からの干渉を逆探知しやすいので手を出されることは無いでしょう。ジェス、亜空間を」
「はいはい」
ジェスがアルネーブに応じるかのように何も無い空間に両手を伸ばすと───黒翠の闇が浮かび上がった。
それがしだいに人一人が入れるほどの楕円に広がると拡張を止める。
「先ずは二人が中に。順番が大事なのでとっとと入りなさい」
「分かりました」
奏波が未だ担いだままの私と一緒に中に入る。
中は何も無い。黒翠の闇だけが広がっており薄らと緑色が見て取れるが、それでもよく観察しないことには黒と判断してしまいそうだ。
後に続いてジェスとアルネーブが入ってくるとジェスはその唯一の外界との出入り口を塞いだ。
「先に申しますが、お二人はジェスが亜空間を出現させることが出来るというのはこの面子以外の誰にも伝えないでいただきたい。たとえそれが親しい友人であったとしても」
つまりはラグナちゃんとかの師団長やアポクリフ、フェアにデイファやデルードなども含む訳だ。
この男の静かな圧の前ではそれに従うほか無い。
「では手短に。先ず場所を変えた理由は【封護者】による盗聴を避けるためです。奴が本気で存在を隠せば如何なる感知、探知手段でも発見が困難になるため確実に部外者の干渉を受けないこの空間が必要でした」
「【封護者】?」
「そのあたりの知識はいつかジェスに聞きなさい。あまり時間をかけるわけにはいかない為、質疑は一切受け付けずこのまま通します」
とにかくこれから長々しく話すにあたって、似たような類の単語を用いるため一々答えていられないということだろう。
「ここ五千年、【封護者】の妨害により『ネメシス』へ通ずる以外の門の使用ができなくなっています。しかしそれは当の本人にも同様であり、且つこれまで門は我々の手中にありました。よって【封護者】はうかつに手を出せず、こちらもまた門と封天核を守護する必要があったことにより、双方が無傷のまま時が過ぎました」
その【封護者】というものが誰かしらを指しているものということは分かるが、何の目的があるかとかは知る由もない。
分かるのは敵対しているその人物が五千年という超常的な年月を生きているということ。
「当然、【封護者】本人を討伐出来る戦力はとっくにあるのです。しかし分が悪いと早々に見切られたせいで潜伏されてしまい、現在では所在地が一切掴めません。ですので他界のこともこの四人以外への漏洩は禁じます。
そしてここからが本題のあなた方が他界に赴いた際に注意するべき人物です。【封護者】、もとい現在も『マナグラノス』にて君臨している【統監者】と【先駆者】も含まれる《神の命縛》という八人の内の消息不明の四名です」
【封護者】と【統監者】と【先駆者】に加えて四人で八人の《神の命縛》というのは一人足りないのではないだろうか。
「欠けている一人の【無貌者】は既に死去していますので除外します。
先ず、【観命者】と【煌聖者】。この二名は基本的に自ら戦闘行為に発展する性格ではありません。故に可能ならば対話を試みなさい。十中八九、明確な敵対関係になることはありません。
次に【秤定者】。こいつは出会い頭で殴りかかっても構いません。どのみち我を通さないと気が済まないタチなので間違いなく敵対します。
最後に【識界者】。正直言ってこいつが一番厄介です。とにかく優柔不断。敵か味方か分からないのですよ。終末戦争でもこいつが真面目に侵攻していれば間違いなく我々は負けてましたので厄介度は随一です。かろうじて分かるのは世界滅亡を望んでいるような破壊魔では無いということだけ。中立を決め込んでくる可能性が高い」
流石に情報量が多いからまずは今分かることだけを整理しよう。
最初に《神の命縛》と呼ばれている【◯◯者】と呼ばれている物達が八人いるらしい。
そして何やら『マナグラノス』?、という場所に【封護者】【統監者】【先駆者】という人達がいるらしい。
そしてその場所とは違うところで【観命者】【煌聖者】【秤定者】【識界者】という人達がいるらしいが何処にいるかの具体的な場所は分からない。
加えて【無貌者】は死去。
うーん。明日これ覚えてるかな?
「さらに念押しで。《神の命縛》は別名『原初の生命』とも呼称される最長命です。現在でも存命ならば九千年もの時を生きてきた猛者。つまりはその実力も一筋縄という訳にはいきません。期待するだけ無駄でしょうが、衰えが無いのなら正面戦闘で今のあなた方が勝利するのは不可能と思ったほうがいい」
それはジェス含めということだろう。
正直なところジェスより強い人が闘うところを見たことが無いため今の私ではとてもこれ以上を想像出来ない。しかもそのジェスはまだ本気を出していないというのだから、それでも届かない領域となると完全に未知数だ。
「加えて《神命遡行奔軍 》の将軍・隊長格も気をつけなさい。総じて九割九分が殲滅されているとはいえ、上位勢は軒並み生存している可能性が高い」
まーた知らない単語だ。人任せになって申し訳ないがあとでジェスに解説してもらおう。
「接敵に関することはこれまで。
門の出入りは今現在も乃亜殿の権能で突破出来るかは不明ですが、ここでは"可能"と仮定して話を進めます」
前からずっと気になってたが、もしかしたら私って相当に重圧が乗ってる立場?
「もし他界で全滅の危機に瀕した際、何があろうと乃亜殿だけは必ず生還させるよう動きなさい」
「───え」
それは、最悪の場合にはジェスと奏波を見捨てて私だけ逃げて来いということなのだろうか。
だから無意識に、
「い、嫌だ。です」
言葉が先行した。アルネーブに私の死を彷彿とさせるような凄みがかった圧がかかるが、口の中を噛んで必死に耐えた。それしかさせてもらえない。
だが、これだけは絶対に曲げられない。
奏波は、もしかすると初めての気が知れる友人だ。
ジェスは、私が好きになった人。
二人のどちらかでも死ぬというのなら、先に私がいい。
もう、誰かが死ぬ様を目にするのは、耐えられない。
「お前が好き勝手に駄々をこねられるとでもお思いで?そもそも幽閉していない時点でジェスの温情と思いなさい。お前一人で他界の全てを救えるか否かが決まるのです。私としては、『数十億を救うための一人』など使い潰して──」
「アル。話を戻せ」
「.....失礼。次に進めます」
ジェスに言われて渋々ということ感じだった。
面倒臭そうに小さくため息を挟んで話に戻る。
「《原初の界核》の私用を目論む者がいた際は即時抹殺です。これは相手が誰であれ、国であれ同様です。《原初の界核》はそれ単体で世界の構造を破綻させることが可能とされている。しかし、管理に踏みとどまっていると判断した際は放置で構いません」
この世界にある五つの中の一つというのが《封天核》だと聞いている。
そして加えて、それが壊れると全ての世界が滅ぶとも言われた。
「最後に門に関してです。以前、門は行き先が分かるようにしてありましたが、この世界が一時期滅亡の危機に瀕した際に世界中で散り散りになった結果分からなくなりました。つまりは貴方達が次にどの世界に行くのかは分かりません」
滅亡。隕石でも降ってきたのだろうか。
「そして、門を二つ以上同時に開放するのも禁じます。世界外物がホイホイ流れ込んできたらたまったものじゃないですからね。一つの門先の世界の安全が確保されたうえで次に行ってください」
厄介ごとを一つずつ片していこうという考えだ。
「この界渡りはあくまでも次期終末戦争に対する備え──つまりは調査が主です。あくまでも先遣隊の役であるため可能な限り生還すること。もし必要であればワタシを含める極大戦力を誰か一人絞り出して参入させます。以上です。出ましょうか」
ジェスが指示に合わせて出口を作り出す。私達が外に出たあと、アルネ―ブがジェスに触れていたことから、話の前に言っていた魔力の受け渡しを行ったのだろうと察する。
それが終わればアルネ―ブは夜闇のなかに消えていった。
「アルは良くも悪くも最善を得る卓越した技がある。感情は厄介な不特定情報くらいの認識をしているんだが、それだけに実績を数多く持つものからすれば異議を唱えられない。実際、根っから悪役を気取ろうなんて思っちゃいないと思う。打ち解ければただ人の扱いが荒すぎるだけのふつうのやつだよ」
「お師匠様。それは普通の人ではないです」
「アルが何を考えてるのかは俺も分からないが、俺の知る限りでは一番のバトルジャンキーだからな。もしかしたら奏波もいつか対面する日が来るかもしれないぞ」
確かレザシーがシグのことも闘うのが好きみたいなことを言っていたが、ジェスからしてみればアルネーブはそれ以上ということなのだろうか。
「嫌ですね。あの人は何というか、意図的に力の底を浅く見せてるといいますか、とにかく不気味な感じですし」
「初めて闘った時にわかると思うが、清々しいほどあっさりかつ綺麗に負けると思うぞ。戦闘狂のくせして伊達に長く生きてるだけある」
「……ねぇ、ジェス、奏波」
あの会話の後だ。これだけは聞いておきたい。
「いなくなったり、しないよね?」
「勿論ですよ。何も死に急いでる訳じゃ無いんですから」
「……」
「ジェス?」
何故かジェスは考え詰めるように空を見つめていた。そうしてジェスは自分が呆けているのに気付いて直ぐ私の方を向いた。
「分からない。そうとしか言えない」
「お師匠様。そこは冗談でも──」
「冗談に乗る気は無い。お前達がいた世界よりもこの世界の住人が圧倒的に少ないか分かるか?それだけ死んできてるんだよ。『明日も頑張ろう』なんて気軽に口に出していいものでも無い。『今』に向き合って死ぬ奴がごまんといるんだ。そういう希望的観測での約束事は、いつか誰かを縛り付ける呪いにもなる」
……浮かれていたんだと思う。異世界って割と楽しいところなんだって。
でも私達は、最初からぬくぬく寝ていられる場所しか知らない。それだけだった。
「だが、俺も死ぬ気は無い。死ねないんだよ。帰り着くまでは」
帰り着く?
それについて尋ねる素朴な疑問を投げかけようとしたが、ジェスの顔を見て踏みとどまった。
初めてみる表情をしていた。何かに焦がれているような、憧れているような。
先にジェスが言った『呪い』とは別物。自ら呪われることを望む悍ましくもある表情に一歩引いてしまった。
「なんか工房で遊ぶ気失せたな。俺はこのままクリフのところに行く。二人は宮殿に戻って休んでてくれ。昼まで寝てていいからな」
「わ、分かった」
ジェスは私達を気遣う発言の後、アルネーブとは違いその姿を普通に消えていった。
「何だったんでしょうね。最後のは」
「うん」
ひょっとしてジェスは、昔の私のように、何かが壊れてしまっているのかもしれない。
その予測が当たらないことを願って奏波と歩みを進めた。
無貌者は間違いなく今後変更を入れることになるので仮名と思っててください




