18.神殺しの力
「権能とは、魂に独自で形成し刻まれた特殊な魔力機関のことを指す。よってその効力は各個人で千差万別である」
「なんかナレーションみたいな口調になってる」
「いや何かビシッと決めたいじゃん。こういう話の本筋みたいなのは」
「要するに格好付けたいだけですね」
「間違っては無いんだけど辛辣」
弟子に浪漫を分かってもらえなずに少し寂しいが、今日の目標はこの二人に権能の使用感を刷り込むことである。
「奏波は自分の権能についての理解とか出来てるか?」
「何となく、物を振動させるだけの力だと思ってますよ。あまり便利だと思ったことはないですが」
「いや魔法系の権能は大体当たりだからな。シンプルな増強系よりも初見殺しが決めやすくて、その場のインスピレーションで格上に勝てる可能性を秘めてるんだからな」
その中でも奏波の権能は俺と同様かなり上位に入るレベルで強力だと考えている。
「振動」と言うのは常日頃からそこら中にあるものだ。些細な羽音や地震まで幅広い解釈ができる優れ部類である。
「奏波。今までの権能の用途を可能な限り全て挙げてくれ」
「用途ですか••••••。まず直近がお師匠様にした振動カッター。他には手で触れて高速振動で多段衝撃を与えて壊す。頭に触れて脳震盪を起こす。直ぐに思いつくのはこの辺りでしょうか」
「お前そんだけ殺傷能力ましましの使い方しててよく役立たずなんて言えたな」
デルードへの暴言といい、見た目の無表情のクールさに反して中々殺意が高めであることにギャップを感じる。正直俺の中で読書好きのようや大人しいイメージがあった。
「権能に名前とかあるか?」
「はい?ある訳ないですよ。いつの間にか宿っていた力なんですから。それに、技名とかそう言うものには興味無いですし別に良いでしょう」
「いや、これは本当に何でも良いから名称を付けた方がいい。詠唱みたいに儀式の一瞬で、危機的状況下で効力が強くなることがザラにある」
俺が一度、《ワインド》を詠唱有りで発動させた時も高威力のものを出している。儀式というのは魔力を運用するものにとって魂や一生の在り方を証明するものだからこそ意味があるのである。
「はぁ。その言い方だと、名付けだけなら無料ということでしょう。確かに一々『私の権能が』なんて言うのは面倒ですし効率的には必要かもしれませんね」
「そういうことでは無いんだけどな。でも付けてくれるというならまず助かる」
「では適当に《振動魔法》とでも」
「雑過ぎだ。あと類似してる実の名前を出すのは狙ってないよな?」
「何のことです?」
どうやら本当に分かってないらしい。意図的では無いにせよ有名なのをパクるのは大分いたたまれないので却下だ。
「そうだな。《振動魔法》なんてどうだ?中々良いセンスしてるだろ」
「別にセンスを問いてるわけではないのですけど。それで納得してくれるなら結構です」
弟子と中々ノリが合わず、一人で勝手に盛り上がってるみたいになって少し恥ずかしいと思ってしまった。
「前から思ってたんだけど、権能と魔法ってどちらも同じことを言ってるの?」
「俺の権能が魔法系で、空間魔法の拡張だからな。奏波も振動関係なのがあってそう見えるだけなんだ。視覚で物事を捉るじゃなくて魔力の流れを読み解けるようにならないと認識外ってことになるんだ」
‘空間’とは形の無い概念のようなものだ。具体的な説明は少し難しいが存在自体は全ての場に存在しているため環境に左右されづらい。
「魔法は理論上は誰にでも覚えられるニュートラルな能力だ。適性とかが各個人あって出力差が出たりするけどな。どうせ聞かれるから先に言っとくが、能力というのは各個人の秀でている長所みたいなものと思っておいてくれ。シェフだったら《調理人》みたいな感じでな」
「そこに何魔法というのが加わる形ですね。皮肉にも随分と気づきづらい仕様ですね」
「そうだな。そっちでも使われることなく終わる才能ってのがあるだろ。手首の柔らかさを活かしづらいサッカーをする奴とか良い例だな」
ちなみに俺が認知している主な戦闘関連の能力は、《空間魔法》《剣技》《格闘術》《風魔法》《精神操作魔法》《魔弾》《結界魔法》《演算》《分身》《物質生成》《魂割》と大体このくらいだろうか。
とはいえ、余り使い物にならないのもある。
《分身》に関しては自動で独立した思考を持つなんて都合の良いことは無い。カカシとして使う以外はむしろ自分を弱体化させる結果になる。
それと《魂割》だ。俺の場合はこの能力の出力が低すぎて殆ど使う場面が無い。魂の分割なんて受け入れる奴はまずいないので使う機会が本当に無い。
(いや、能力という型として残っているなら必ず一回は使ったはずだ。いつ、どこでだ?)
しかし俺は気にしてもしょうがないと諦めた。使い物にならないという情報さえ有れば充分だ。
「私って能力を身につける必要もある訳ですけど、後回しで良いんですか?かなり戦闘の勝敗を決めるものだと思いますが」
「それはそうなんだが、魂に刻まれる権能というのは大抵そいつの最も出力の高い技となる。だから奏波が能力を磨くのは《振動魔法》をある程度鍛えて、さっきの暁圏や身体強化みたいな単調な魔力の基礎操作を使いこなせるようになった後のつもりだ。あぁでも何の魔法が得意かとか次第では最低限のラインまで習得してもらうことになるかもしれないが、それはまた今度やろう」
「私は何をしたらいいの?」
「乃亜は自分だけじゃ権能以外の魔力を運用出来ないから論外だ」
ハッキリ言って乃亜を戦わせるために一々さっきのようなジャミングはやっていられない。それに運用出来たとしても扱いが下手すぎるのでおそらく威力は俺の方が高くなる。
誤爆してこっちに被害が出たら元も子もない。
「それよりも乃亜は界断結界を確実に突破出来るようになるために色々と微調整を行っていきたい。俺も同伴でサポートするから頼むよ」
「うん!」
「じゃあ奏波はまず俺相手にやった振動カッターのやつをさっき教えた魔力の扱いと混ぜて起こしてみてくれ。出来たら適当にその辺の木を勢いを付けずに斬ってみてくれ。身体能力任せに斬らずにあくまでも振動魔法だけで斬るように」
「分かりました。これから乃亜と二人きりになりたいと言うなら退いておきます」
「か、奏波。語弊が出そうな言い方やめてよ」
別にこの面子なら語弊が生まれることも無いだろうに。そもそも内緒にしてるのだって既にモロバレだし。
奏波は少し離れた場所に座って木にもたれかかって細剣に魔力を流し始めた。
魔力の調整と勢いを付けずに斬ることだけなので別に座って行っていても何も問題は無い。
「じゃ、こっちも始めようか。ここでデルードのところから持ってきたこの不用品たちの出番だ。必要無い物だから遠慮なくバンバン消していってくれ」
「これそういう目的だったんだ」
不用品を焼却もせずに捨てられるのだ。エコである。まぁそんなことを気にかける程この世界の環境に異常は無いし、そもそも次の日生きられるかを競っている時点で最後回しくらいになるだろう。
乃亜が濁った宝石のようなものが備え付けられている腕輪のようなものを手に取って、回して色んな角度から怪しむように確認している。
「これ本当に大丈夫だよね?なにかの拍子でドカーンとかないよね?」
「さっきも言ったけどあそこはもう効力付けられない失敗作だけを捨てる場所だからな。そんなことならないって」
俺がそう言っても乃亜は疑心暗鬼に俺を見つめる。
「••••••絶対?」
「多分」
「嘘でも絶対って言ってくれた方が良かった」
だってしょうがないじゃないか。
他の研究員の人たちはまだしもデルードに関しては「ものを捨てるのに手続き?前置きなんてなくてもガラクタはその場で潰せばいいんだ」と過去に言っていて、実際に失敗作はバラバラに破壊してはいるが魔力の流れが若干残っているので何かのはずみで事故になることは大いにあり得る。
これは過去に数件あった事故の実例だ。破損により低出力なのは確かだったため死傷者は出ていないが騒ぎにはなるので厳命はしてあるが、何食わぬ顔で反省の色は出さなかった。
「心配しなくても怪我するほど変なのが入ってる訳じゃ無いから大丈夫だ。せいぜいイタズラの部類に入るようなレベルだから」
「私さ、ジェスとラグナちゃんに驚かされて死にかけた覚えがあるんだよね」
「現に生きてるんだから気にすんな」
「気にするでしょ」
「無駄話はいい加減にしてそろそろ真面目に始めるぞ。これでも王様させられてるせいで色々忙しいから時間が惜しいんだ」
何度も言うがこの国『ノスタジル』はまだ国として機能する程安定していない。
数々の事情から絶対に成功する保証はあるが、それでも時間はかかるのだ。俺は『ノスタジル』のあらゆる方面で最高権力を持っている訳だから、色々と監査をしたり承諾書などとやる事が山積みになっている。
いづれは各方面の総監達に、その分野に限り俺と同等の権力を持たせるつもりだ。そうすれば俺は一人気楽に余生の大部分を休暇にでき、この国を空けやすくなる。
「なんか、ジェスが王様ってことよく忘れそうになっちゃうな。こんなこと言うのも失礼だけど、どうしても『向いてない』なって感じがするの」
「本当に失礼なことをストレートに言ってきたな」
だが恐れながら当たっている。
ぶっちゃけ王様とか戦争とか、そんなことに興味は無いし自分からわざわざ巻き込まれたいとは思わない。俺がこの国の王様として居るのはこれが最も近道と判断したからだ。やはり『クアッドシフト』とのコネが得られるのは相当に大きい。
「あんまりダラダラしてたら奏波が退屈するかもしれないしな。こっちもせっせといこう」
奏波は少しずつゆっくり、細剣に魔力を帯びさせて振動魔法を乗せようとしている。あれなら効果が以前よりも発揮されやすくなるだろう。
「まずは乃亜が今手に持っている腕輪からやってみてくれ。俺は実際に物が消える様子を観察しておきたい」
「でもそんなにこっちをジロジロと見られてたらどうしても集中出来ないんだよ」
「何で?別に見られて困るものでもあるまいし」
「••••••見る人に問題があるんだよ」
「俺何かした?」
「してないけど──、何でも無いから早くやるよ!」
(分かりやすいわぁ)
内心そう呟いたが、権能の試運転に乗り気になってくれたのなら助かる。
乃亜は「ふっ」とか「えいっ」とかぼやいて発動を試みるが全く腕輪が消える気配は無い。それも当然で乃亜は気合いを入れてるだけで碌に魔力を動かせてない。
これでは子供が一人でよく分からない遊びをしているのを見つめる通りすがりの人のような構図になっているではないだろうか。
「乃亜ってさ、もしかして意識的に発動させたことって一度も無い?」
「うん。確かジェスが死神として現れた時の未発と合わせて全部で三回。存在すら明確に認識出来て無いのに何故か使えてたんだよね」
「認識出来た今はかえって使えなくなっていると。いや、そこはじゃなくて状況の方が大事かもな。例えば自分に敵意がある者に限定とか。よく考えてみたら三回のうち二回は命の危機に瀕した時だ。火事場の馬鹿力みたいに土壇場で本領発揮するのはよくあることなんだが、知った上で発動出来ないとなるとな」
それはある意味で覚醒と呼べる代物だ。
ふとしたキッカケを皮切りに成功感覚を思い返すことで成長する者が大半だと聞く。
だが、もはや感覚頼りどころか身体が勝手に動いてそれを覚えていないという例には乃亜以前に出会した事はない。
「そういえばさっき私が飛んだ時ってジェスが何かしてたんだよね?あれをもう一度すればいいと思うけど」
「多分関係ない。事実乃亜はそれが無い状態で三度使えてるんだ。それ以外の魔力の流れが制限されているだけで、逆に言えば権能への弊害はほぼ無い」
敵意を向けられなければ扱いづらいとなると中々難しい。この何でもないゴミに感情があるわけでもあるまいし。
(••••••待てよ。そういえば思い返せない記憶って、古いものに限りだよな)
「乃亜、昨日とか数年前とかの記憶は普通にあるんだよな?」
「それは勿論あるけど」
至極当然の事だった。
ならば一つ考えがある。
「なぁ。俺が今からすることに抵抗しないでくれないか?心配しなくてもそこに俺が助けに入ることは既に決まってるから」
「いいけど何をするの?」
「悪いがそれを言ってしまうと意味が無いんだ。とにかく何か不快感があっても受け入れてくれ」
乃亜は疑心になりつつも首を縦に振ってくれた。
今から俺が使うのは精神操作魔法だ。だが普通はやらない、というかやったことは無いのだがそれでもこれ一つに集中できるのなら成功させる。
記憶を再現してそれを脳の命令機関に貼り付ける。乃亜の顔が一瞬苦悶に満ちるが、これは中断する方が危険なので全工程通し抜く。
俺がしようとしているのは夢遊病と言われる状態に乃亜を持っていくことだ。つまり、前の記憶を基盤にもう一度同じことをさせる。
今回の場合はケルベロスに遭遇した時のものだ。先程俺が「助けに入ることは既に決まってる」と言ったのは実際に俺がその場に駆けつけた過去の出来事だからビビるなという意味である。
準備出来しだい俺は乃亜を動かした。開いた目が俺ではなく何も無い空を見ているようで、乃亜からすればそこにケルベロスがいるのだろう。乃亜の指に腕輪を掛けた手にあの時と同じ禍々しい魔力が纏わる。
再度見ると本当に異質だと思わされる。魔力の密度が高いという訳では無いが、誰が見てもそれが触れてはいけない悍ましいものと判断してしまう。
このまましていたら乃亜の記憶の中で俺が登場して発動間際のそれを消してしまうため、乃亜を現実に還した。
「うわぁっ!?き、急に景色が変わってる!?」
「とにかくビビってうっかり解除しなくて良かったよ。その纏わりついてるやつの感覚をよく覚えとけよ」
「え?あ、いつの間に」
知らぬ間にことが進んでいるという状況に思考が追いついたようだ。
「こうしてるのは初めてのはずなんだけど──」
乃亜が手を開いて閉じるを繰り返して感覚を覚えている。
「さっきみたいな不快感とは違って『使う』じゃなくて『使わされてる』ような感覚」
「血統とかの生来持ち合わせのものなのかもな。実際そういうのは見覚えがある」
特定種族の血筋に刻まれて、前任の死のタイミングで権能が次世代へと受け継がれることもある。
時折、強力な種族は世界存続の『役割』が設定されている存在がいた。
先程の話と少しズレるのだが『マナグラノス』の世界にもいて、太古より【統監者】と【先駆者】と呼ばれる者がいる。聞く限りでは神話の一頁目から存在するらしい。
それとは違った形でも過去を重んじたしきたりのようなものに乃亜が当たるのかもしれない。
「それに関しては、大して考え詰めなくていい。そもそも覚えてないどころか知らないことを考えてるだけじゃ絶対に正解に届かないんだから。取り敢えずはそれで腕輪を消してみてくれ」
「うん。この状態からなら出来る気がする。いくよ•••••」
その瞬間、乃亜の言った通り本当に腕輪が消滅した。
壊れる過程は無くワンフレームで消え去った。
最初からそこには何も存在していないと言わんばかりに。
「•••••まだ検証が足りてないけど、想像よりずっとヤバい能力かもな」
「でしょ?」
「たぶんだが乃亜の想像しているものよりもずっと常識外れなことだ。とにかく次を使えるか?」
「今度はいけると思う。さっき発動の感覚はまだあるから」
そう言うとまだ不慣れに見えるがしっかりと権能が表に出た。
「けど、まだ逆の手では使えないかもしれない」
「それは要練習として、まずは効力が確認出来れば充分だ。ほれ次」
そう言って次はブローチのようなものを手渡してノータイムで消え去ったが、当の使用者は慌てふためいていた。
「あ、あれ?まだ壊すつもりはなかったのに」
「数をこなすうちに慣れてくれればいいさ。うっかりが無くなってオンオフ自在まで出来れば理想だ」
「それならなんとかなりそう」
危険な力だからこそ慎重に扱いたいと考えての発言だったが、もしかしたらプレッシャーを与えないための言葉だと受け取られたかもしれない。
その後も多少の解釈違いは気にせずに確認作業は続いた。
三十分後
ここまでくれば乃亜にも慣れが出てきていた。
「次いくよ」
「いいよ」
「はいどーんどん」
「次」
「はいどーんどん」
「もっともっと!」
「はいどーんどん」
「余裕余裕!」
「はいどーんどん」
「さっきから掛け声がわんこ蕎麦じゃないですか。そして乃亜もそういうのノるんですね」
ふざけすぎているのを見兼ねた奏波に指導を入れられた。だが少なくとも俺だけは真面目にやっていたところもあったので心外だ。
「いやぁ、なんか気づいたらノせられちゃった。お恥ずかしい」
「その言い方だと俺が悪者に仕立て上げられてないか?」
「乃亜からそんなノリに繋がること絶対に無さそうじゃないですか。消去法でお師匠様になることは自然では?」
「そうだよ。こういう時は大体ジェスが悪いってことに気づいた」
「寄ってたかって虐められる師匠ってなんだよ。あと俺は本筋を逸らしたつもりはない」
真面目にもう一人男をこの中に入れて男女比を同じにするべきだろうかと本気で考えた。しかし正直この二人に並ぶポテンシャルを持つ若手は見つけられない気がする。
双方がそれだけ異常なのだ。
「それとある程度『振動魔法』の扱いが分かってきて、細剣に纏わせることには成功しました」
「早すぎてビックリだよ。それ以上魔力を使うと明日に響くからもうそこまでにしておいてくれ」
「分かりました」
「あれ?さっきジェスが魔力は渡せるみたいなこと言ってなかったっけ?」
乃亜がふと気付いたことをそのまま口に出すと、奏波にムッと少し睨まれた。
「分かっててもあまり言うものじゃないですよ。このままなら合法的に休めたのに」
「あー、ごめんね察しが悪くて」
乃亜が両手を合わせて申し訳なさそうにしているが、そこまでするようなことでも無いだろうに。
「別にちゃんと休んでいいから。あと、俺の魔力を貸し与えてもそこまで長時間活動出来はしないよ。俺と比較しても魔力量には何倍も差があるわけでは無いし」
「そういえば私の魔力量に関しては言及されていませんね。乃亜のようにお師匠様と比較すればどのくらいなのですか?」
「約三分の一ってとこだな。だが俺自体が魔力量は少ない方だからあまり当てにしない方が良いと思うけど。奏波には近いうちに魔力量だけなら追い越されるかもしれないな。持久戦では俺が勝つけど」
実際に無駄な魔力消費の削減する技術は俺の方が上だし、権能にも関連していることだ。
「この前から魔力量とか出力とか権能とかの話ばっかしてるけど、結局は総合力で決まる訳だから負けている要素が多いとかで勝敗に直結することは無い。駆け引き以外に不意打ちとかも一対一でも出来るんだから」
今までの強かった者たちの共通点はこれだ。経験や直感を含んだ技量を持つ者たちは勝つためにあらゆる手段をつくり、選択を迫られる闘い方をする。
ある程度実戦が出来るようになってからも、アルに気付かぬ内に詰みの状況に持ち込まれて滅多打ちにされたものだ。
「それに勉強とかと同じで一気に教え込んでも次に行く時に前にしたことを忘れたら本末転倒だしな。奏波が平然とやったもんで霞んでしまってるが、一応は高等技術なんだぞ」
「はぁ」
「褒めてやってるんだから喜べよ。なんだよ真顔で『はぁ』って」
「なまじ、その言葉が聞き飽きてるんです」
奏波があらゆる面で秀でているあまり各方面からの賞賛で心が動かないのだろう。羨ましいと思う反面哀しい奴だなとも思う。喜怒哀楽の起伏が通常よりもずっと小さい。
「よし、これで危険物処理も最後だな」
「やっぱり危険物なんだ」
そこはさっきも言った通りなので否定は出来ない。
それよりも最後の陶器のような魔道具にこれまでとは一味違う細工を施して乃亜に渡した。
すると乃亜は期待通りにそれを消滅させた。
「成程ね。やっぱり強度や術式の複雑さは無視か」
「強度って魔道具自体の?」
「違う。実のところ俺はかなり前から渡す魔道具に結界を覆わせて、乃亜はそれごと全部ぶち壊して貫通して魔道具を消滅させていた」
「えぇ••••••。そんなことしてたの」
「段階を踏んで強度や複雑さも上げていったが、全部消滅したから関係無かったな。しかも最後のやつは俺の限界まで改良を施した自信作だったんだけどあっけなく無くなった。これで俺も一撃で倒せることが証明出来たぞ」
「要らないよその証明」
明らかな硬度無視の即死能力。ラスボスにもたれたら嫌な能力トップクラスだな。やられる方は磨き上げた技術が全部台無しになるんだからたまったもんじゃない。
これに関しては当てればアルも殺せるのではないだろうか。仮説だからなんとも言えないが。
「あともう一つ。異質だったのが消滅の対象が内包されている魔力にも向いたところだな」
「どういうこと?」
「板を壊すとするだろ?どれだけ細かく壊すことができたとしても、元々板だったものは原始レベルまで見ればちゃんと存在している。乃亜の場合はそれどころか物質中の魔力すら残らずに消滅させていた」
「別に何かおかしいところはなさそうだけど」
「魔力の循環鏡を完全に破綻させてる。世界の魔力は常に総計で一定になる筈なんだ。簡単な話、タンクの水をどれだけ多くのコップに注いだって総量は変わらないみたいなもんだ。何者にも変えられる筈の無い世界の摂理を完全に逸脱してる」
乃亜のやってることは、ゲームの中のキャラクターが意図的にシステムに害を為しているようなものだ。
起こってはいけない、あってはならない。世界から超越、逸脱している。
想像以上に使い方に気をつける必要がある。
この理屈がまかり通るなら『大気』とかを消して世界を一手で滅亡させられる。
もしかしたら『神』とかのあやふやな概念すら打ち破るかもしれない。
しかし最悪の想像をする前に俺には現実的な経済や人手などについて考えて議論する必要がある。
「とにかく今日はこれで終わろうか。俺も仕事があるし、二人は休んだり気晴らしした方がいいし。明日も今日と同じくらいの時間に迎えに来るから、まだ全然早いけどおやすみ」
日が暮れるまで未だ数時間もあるにも関わらずに俺は一時解散の言葉をそれに選んだ。
俺はここに来た方向とは全く違う方向へ走って行く。
念の為に
ほのぼのしておりますが、一応この作品はダークファンタジーのつもりで執筆しております。
心配しなくても物語が中盤に差し掛かってくれば死人くらいホイホイ出します。
私自身、自作キャラを如何にして殺すかを妄想するのは楽しいです♡




