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流離う世界に私は  作者: 眠井ネタイ
第一章『ネメシス』篇・後日談その1
13/23

12.異物の確認作業


垂直落下しながら門に飛び降りると、すぐさま暗がりの空間に放り出され猛スピードの加速をスライディングで徐々に緩和していった。


「ふぅ。乃亜、大丈夫か?」

「キュゥー」


どうやら怖すぎる体験で脳がバグってしまったらしい。

気を失っている乃亜に巻き付けてあるおんぶ紐を取り外して、土をつけるわけにもいかないのでそのままお姫様抱っこで抱えて近くで待機していたラグナに渡した。そこに様子を見に奏波も合流した。


「これ、乃亜どうなってるんですか?とんでもなく顔が赤いところと青いところがあるんですけど」

「寒くて肌が赤くなってるところと恐怖で青くなってるところだろ」


実際には照れの赤さだと思うが。


「それよりも、ここ何処なんですか?ここは暗いですけど、もう世界を渡ってるんですよね?」

「ああ、ここは言うなれば地下だな。大昔に巻き起こったこの世界における史上最大の闘いの聖地で、大穴が穿たられてそれ以来ここは湖になってるみたいだ」

「ここが湖?水なんてありませんけど」


奏波の言う通り、俺が湖と言っているここに水は無い。もしあれば奏波と乃亜はとっくに溺れ死んでるし、こうして会話が成り立っていない。


「正確には湖の底の地下って言うべきだな。大規模魔法陣に風の魔法で底としての仕切りと、それが自然の底に見える幻術を編み込んであるんだ。この場所は秘匿されてるから誰にも漏らすなよ」

「はぁ。そう言われれば勿論守りますけど、この他の門は?」

「他の世界へ続く門だ。今俺達が出て来た門を入れて六つ。この世界を合わせれば全部で七つの世界が同時に存在しているらしい。試しにどれか開けてみろよ」


そう言うと疑う事知らずで本当に開けてみせた。吸い込まれるとかのホラーあるあるは考えないのだろうか。

開けた先には、黄金に輝く壁によって阻まれており、景色を覗くことさえ出来ない状態だった。


「これが俺達が奏波達の世界から乃亜のような力を持つ存在が欲しかった理由だ。聞くところによると、数千年前に起こされた『終末戦争』にて、今の俺の立場からすると敵対していた大将による仕業らしい。そいつには、世界を隔てる結界の基礎を立ち上げるのに関わった経歴があるらしくてな。門もその内の一つという訳らしい」

「そいつが世界間の出入りを制限していると。戦争というのは、どんな世界でも絶えないものですね」

「•••••本当にな」

「世間話はそこまでにしましょうか。いつまでもひと一人担ぎっぱなしであまり良い気分では無いのでさっさと戻りましょう。病室の申請くらいは、貴方がやって貰いますからね。急がないとラグナ殿が乃亜殿をぶん回して遊び始めますよ」


不機嫌そうにするアルにそう言われて乃亜を担いでいるはずのラグナの方を見てみると、乃亜が中々目覚めないせいか両脚をラグナの脇の間に入れて今にもジャイアントスイングをする構えだった。

そこを急遽、俺が抑えて乃亜は奏波に任せた。


結果的に俺が奏波の荷物を持って奏波が乃亜をおんぶで運び、ラグナが手ぶらでつまらなさそうに「ぶーぶー」と不貞腐れていた。


「それで、この場所については分かりましたがどうやって地上に上がるんですか?」

「もう少し歩いた所に直接地上に出られる俺の別荘みたいなのがあるから、そこから出る」

「別荘?」

「秘密基地みたいなものと思ってくれていい。山奥に置いてあるけどそこそこ立派に仕上げられたと思うぞ。自然の木をそのまま活用して作ったメイドイン俺だ」

「『俺』のところには地名を入れるものですよ」

「細かいことはいいんだよ」

「──んぁ?ここどこだっけ?」

「あぁ、起きたねぇ」


乃亜が目覚めたのを確認するとすぐさまラグナが飛んで行き、頰を伸ばして遊び始めた。

性格的に何かをしてないと気が済まない、多動症とかいうやつなのだ。


「うー。ふぉれふぇ(そ れ で)ほほふぉおのの(ここどこなの)?」

「後で私が説明し直しますけど、取り敢えずは湖の底の地下だと思えばいいみたいです」

「それにしても、なんか寒くない?南極程じゃ無いにしても真冬の外と同じくらいはありそう──ぺくちっ!」


乃亜が寒さに震えながらくしゃみを漏らしていた。確かに身体強化を出来ない唯一の人物が持つ当然の感想だろう。


「さっきも言ったが、ここは大穴が穿たれた影響で星の中心部に近いんだ。中心部からここまで約千キロあるが、それでも本来なら三百度近くある。そこは今俺達が歩いている地面を断熱性が付与された土を埋め立てて快適にしているらしい。だが密閉空間に設計してしまったせいで陽の光が入らなくて気温が上がりづらいって訳だ」


陽の光無しでは氷点下になり、普通の人では生活が苦しくなる。どの世界でもこれは共通認識だ。

そうして雑談を重ねているうちに目的地、正確にはその直下に辿り着いた。先頭の俺と同時に他の面々も動きを止めて上を見た。


「着いたな。ここから上がるぞ」

「上がるって言っても••••••どこに?そんな場所無さそうだけど」

「常人の視力じゃ見えないだろうな。二千キロくらい上にポツンと光が見えるぞ」


嘘では無い。実際に俺とアルとラグナはそこから入って来ているのが証拠だ。


「見えたとして、そんな距離どうやって飛んで昇るんですか?」

「来た時と一緒だ。風魔法で飛んで行く──が、流石に俺は南極まで超スピードで移動してたからもう魔力に余裕が無い。ので、アルとラグナに頼もう」

「言われなくても分かってますよ。ラグナ殿は推進力だけ考えてかっ飛ばして下さい」

「はいはぁーい!ずぅーっと、暇だったからねぇ。それにアルネーブ様なら加減を考える必要も無いからぁ、飛ばすよぉ」


その発言の瞬間にアルが全方位に結界を張り、これからの足場兼ラグナの炎に耐えられるような結界を作る。

完成に合わせてラグナが地面との間にある結界に両の掌をつき、その腕と目がひたすらに紅く発光する。

唯一明確な光源になったラグナによって、とんでもないスピードでぶっ飛ばされる。

乃亜と奏波は結界の中で風を感じられず、且つ周囲が暗すぎて景色の移り変わりによる判断も出来ないから分からないだろうが、空間感知で測る限りマッハ10は出てる。


いや速すぎだろ。


そしてその驚異的な大気圧に耐えられる結界を顔色一つ変えず張っているアルも大概だろう。それでも余力があるからか、上昇の推進力の手助けも並行している。

ラグナも極細のレーザー砲のようなもので推進力を保ち続けている。アレを受けたら俺の結界は何千枚張ろうが全てを貫通してしまうだろう。直撃したら切断待った無しである。

俺も余力で少しばかり手伝い、以前同様に空間の刃で大気を一瞬だけ割いていく。このスピードなら連射するまでもなく同じスピードで───というのは俺の考えが甘かったらしい。

余裕で空間の刃が抜かされて粉微塵に砕け散った。

反省してもう一発。速度を捨てて俺と等間隔になるように上空に空間の刃を()()()。維持に魔力が持ってかれるがそれ以外を意識する必要が無いなら到着までギリギリ持つだろう。


「お師匠様、今更なんですけど」

「ん?」

「これが出来るなら、南極でも乃亜を風で浮かせて緩やかに降りられたのでは?」

「へ?──あ!」

「そこはスリルを愉しまないとつまらないだろ?それに、アレくらいの危険に付き合ってもらうんだから、予行だよ予行」


単に魔力切れ寸前だったというのは師としての威厳を保つために伏せておく。が、そんな事を知らない乃亜が奏波のおんぶから抜け出してコチラにダッシュして来た。殴り込みだ。


「こ、この!よくも!私が!どれだけ怖くて!恥ずかしかったと!」

「もうちょっと強く、上の方を頼めるか?肩叩きで労ってくれるのは有難いんだがこれじゃ老朽化が進んだ故障品みたいに弱い」

「きぃーーーーー!!」


更に火に油を注ぎ込む発言をして勢いがついたがポカスカという効果音をつけるのもおこがましい程に弱い。おそらく今の全力でこれだ。

権能(フォルトゥーナ)を持っている筈なのに魔力が身体を巡っていない所では無い。おそらくこれまで魔力を一切断ち切って生活していたのだ。

魔力は感情の起伏で作用しやすい特殊なエネルギーだ。そして原則、万物の起源は魔力だ(・・・・・・・・・)。だから一般人にもそれは必ずあるし、それをより高い出力で扱える者は運動が出来るものだ。ゼロというのは有り得なず、もしそうなったら空気などの形の無い物でさえ存在が出来ない。

乃亜の魔力保有量は間違い無く俺よりも多く、直感で最低でも三倍はある。ところが魔力が漏れ出ない。

もしかすると、魔力を使える余裕が無いのかも知れない。乃亜の詳細不明の権能(フォルトゥーナ)は絶大な魔力を消費するため、話を聞く限りの過去二回で一時的にすっからかんになり、次を放つまでは身体が勝手に漏出を制限しているのか?


「乃亜、細剣(レイピア)貸しましょうか?鞘が無ければ満足するかもしれませんよ」

「止めろ。それが師匠に対する仕打ちか」

「師匠ならば遠慮の必要も無いでしょう?」


あながち間違ってもいない気がするがこのタイミングで言う言葉では無い。


「それにしても冗談とか言えたんだな。奏波は生真面目でそういうノリにはならないだろうと思っていたんだが」

「ええ。今の今までやった事はありませんよ。ただ、やった事が無いので挑戦してみようと一歩踏み出した結果です」

「初見で上手くいきすぎだろ」


才能がピカイチなのは師匠としてはこの上なく有難い事なんだが、外れたところでその才能を遺憾無く発揮するのはやめてもらいたい。

一方で乃亜は悪態を引き続き吐きながらも必死に怒りを露わにしていたが、それも次第に勢いを失っていった。


「ぜー、はー、」

「疲れたんなら止めればいいだろ」

「い、いやだ。こんなんじゃ足りない。治まらないから、何か他に、他に──えい!」


乃亜が俺の脇の下に手を潜り込ませようとしていたので一歩横にズレて躱した。


「あ、あれ?避けるの?ふっ、えい!」


ならばもう一度、次こそはと何度もこのやり取りの応酬をしているうちに乃亜の体力が又もや尽きた。


「鬼ごっこがしたかったのならもっとハンデ作ってあげたのに。素直に物言いなよ」

「ハァっ、ハァ。じゃあこれは?」


背後に回り込んで何をするのかと思いきや、両手で俺の目を覆った。流石にそれだけではなく片足を上げて俺の膝関節の裏に勢いよく蹴り落とした。

それに反応して内に躱したその足で逆に軸足となっていた乃亜の膝裏をカクンと綺麗に曲げた。

こけそうな乃亜をターンしつつ両手でキャッチ。

もはや本日何回目かすら忘れたお姫様抱っこである。


「イタヅラにもコツがあるもんだ。思いつきだけじゃあ俺には通じないよ」

「──くぅ」


もはや恥ずかしさに慣れているせいか悔しさが勝っていた。

はたして一日に複数回もお姫様抱っこされるヒロインがどの作品にいるのやら。


「乃亜がイタヅラが苦手で私は少し安心しましたね。てっきり私の方がそういう事に疎いと思っていましたが」

「だって、私もそんな経験殆ど無いんだもん」

「はぁ、乃亜はもっと人を観察するべきです。お師匠様なんて、所作から嫌いなことが滲み出ているでしょう」

「え?」


まずい。

乃亜を抱っこしたままでは俊敏な奏波の動きを躱せない。

こんなところで才能を有効活用しやがって。

内心悪態を吐く俺の背後に奏波が素早く回り込んで脇の間に手を入れて、くすぐった。


「こんな感じでしょうか」

「くっ、ふ、ふは、クふっ」

「──嘘」


乃亜が信じられないものでも見るかのように目を丸くしていた。

そりゃあ、俺にだって少しは弱点がある。


(コイツっ、地味にくすぐるの上手いのなんなんだよ!)


湧き出る笑みを噛み殺そうとするが、僅かに漏れ出る。

奏波はイタヅラの経験が皆無みたいな事を言っていた割にはベテランの風格を感じる。

俺は仕方無く乃亜を抱っこを解いて放り出し、奏波の手を振りほどいて距離を取った。

奏波が乃亜の介抱をしながらアドバイスをしていた。


「さっき乃亜が手を伸ばそうとしていた時、露骨に避けていたでしょう?殴られるのは平気なのに、です」

「あ、確かに」

「それと、やろうとしている事が一々分かりやす過ぎますね。視線とかで考えている事が見透かされてますから、考えていることは内に秘めておく事を意識するといいかもしれません」

「うんうん」


なんか別の師弟関係が完成しつつある気がする。

ていうか奏波も人に教えられる程イタヅラが上手いという訳でもないから分かったことを共有している感じか?今後バリエーション増やされると中々手を焼く事になるかもしれない。


「ねぇ、ジェス」

「うん?」

「••••••私もいい?」

「そんなに目をキラキラさせてもダメ」


最早今の自分にイタヅラが通用しないからと乃亜が直球でこちょこちょをしたいと申し出て来た。

こちらも両手を脇下に入れて全力拒絶の構えだ。

それならばと奏波が謎の参戦をしようとしたところでアルに待ったがかかった。


「そろそろ着きますので、下らないことやってないでさっさと出れる状態にしておいてくれません?」

「はいはい」


アルにそう言われて逃げの口実になったためここで全員遊びは止めて、奏波は自分の荷物を持った。

到着直前に合わせてラグナも炎の火力を徐々に落としていき、完全に空中で停止したタイミングでアルがドーム状の結界を解いて足場の結界だけ残す事で中の俺たちは全員外に出た。


「ふいー。疲れねぇ。こんなに魔力使ったのいつぶりだろうなぁ」

「そうは言っても、ラグナ殿は一割前後くらいしか消耗していないでしょう」


化物(ばけもん)が。とアルが愚痴を溢していたが、実際その通りだ。

アル曰く、技量以外なら自身はほぼ全てにおいてラグナに劣る。という事らしい。

それでもこの二人が闘ったらアルが勝つと思うが。


「二人ともお疲れさん。じゃあ行こうか。少し山道を歩くから足場に気をつけてくれ」

「なんか遠足みたいだね」

「実際にそうだろうな。ここまで来たら魔法的な事をする必要は無いし」

「グヴァァァァァァ」


言った途端コレである。

だが俺達がどうこうするまでも無く、木陰から飛来した氷の矢が魔物の頭に深々と突き刺さった。


「ひぃっ!?」


どうやら一瞬の出来事だったので、乃亜の目にはすでに死んだ魔物が飛んで来たように見えたようだ。

そして今氷の矢を放った本人が潜むのを止めて顔を出した。


「君達ここで何を?危ないからまずは山を降りて──って、ジェスが何故ここに?加えてアルネーブとラグナを連れてなんて豪華な面々を揃えて」

「久しぶりだな。たった今お出掛けから帰って来たところでな。そっちこそ、こんな山奥で何やってんだ?」

「遠距離通信の魔道具の精度を測るために、複雑な地形でも実験してみようと思ったんだ。しかしながら発信の設定をしていた設置型魔道具が移動したから何故だろうか、と。その確認のためにここに出向いたんだ」


そう言いながら腰のベルトに刺していたダガーを手にとって魔物の腹に突き刺さして切り開いき、そこに躊躇無く手を突っ込んで宝石のような輝きがアクセントになった魔道具を取り出した。


「やっぱり食べられてたな。道理で逆探知に手間取った訳だ。では、我はこれにて失礼」


そう言ってそそくさと木の間を進んでやがて見えなくなった。


「ね、ねぇ。あれって普通のこと?」

「普通だな。そっちの世界の動物とは訳が違う。コンクリートを豆腐みたいに壊してくる魔物だっているんだ。共存なんてのはまずこっちの命があることから始めるもんだ」

「まぁ、真理としか言えないですね」

「••••••••」


奏波の同意にも乃亜は理解出来ても飲み込み難いのだろう。次の発言を出すことはなかった。

助け手を増やしたいのなら、まずは自分がそう出来るほどの器と余裕が必要だ。安寧を確立させたその後で。


「さてと、辛気臭い事は忘れようぜ。長旅ご苦労様」


山の下方に至ったところで一帯の木が少なくなり、程良い高さで辺りを見渡せるようになった。

だからここで、目的地の名称を自慢するように紹介する。

そこは文字通り広大な湖の上に浮かぶように存在していて、陸と繋がっているのは南北にある二本の巨橋だけ。

そして城壁で街が覆われており、中に行く程低くなる緩い勾配になっている地形だ。

そして何よりも目を引くのは、国の中央の城隅に佇む巨大な何か。遠目でも建造物とは言い難いそれは巨大な石を一つの輪っかが囲い、その更に周りに尖った石のようや物が浮かび旋回している。

これはこの国のトレードマークも言っても差し支えない、この世界において最も重要なものだ。

ここはまるで、周囲から立て篭もるための場所。


「ようこそ!水上無属要塞国家『ノスタジル』へ!」


高らかと言い切った。

ここが俺の中間地点だ。

俺の、仮の居場所。


帰り道をようやく手に入れた。

またあの日々を取り戻すためなら、何だってやってやるよ。

例えばそう、人の心を使い捨てるとか。


一章完です。

編集内容(2026.4/5)魔物を氷で刺したデルードというキャラの口調を敬語からタメ口に変更しています。以上です。


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