アリスとアリサ
途中で語り手変わります。
私は死んだ。ギロチンで、首を刎ねられて。
私は目を覚ました。玉座の上だった。ドレスを着ていた。これじゃ、まるで女王みたいだ。
訳がわからない。どうして私は生きている?
部屋の中に白ウサギが入ってきた。
「…お目覚めですか、女王陛下。」
私が女王?勝負に負けた訳じゃない。勝負する前に私が死んだから。
そんな私の考えを見透かしたような顔をして、白ウサギが話し出した。
「まず、あなたが新しい女王です。勝負に負けた訳ではありません。ですが、勝負になる前に女王候補が死んでしまうというのは前例がありません。ですので、特例として、生き返らせ、女王となって頂きました。」
そんなのありですか。
「というか、今まで、女王候補が女王にならなかったことがないんです。女王も、勝負に勝たなければもとの場所に戻れませんから。」
なるほど。では質問。
「次に女王候補が来るのはいつですか?」
「未定ですが、今まではだいたい二、三年ごとでした。」
じゃあ、私は少なくとも二年はここで女王をしなくてはいけない。
「ちなみに、私がいた場所とここの、時間の進み方って…」
「同じです。」
もとの場所では、私は行方不明扱いになるのかな。
ふと、家族のことを思い出した。優しかった父と母。可愛い妹。
女王候補との勝負には、絶対に負けられない。先代の女王もこんな思いだったのかもしれない、なんて思った。
そして、次の女王候補を待つことにした。
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「まぁ、次の女王候補がアリサだなんて思わなかったけれど。」
私は目の前の妹に、ここに来て女王になるまでのいきさつを語った。アリサは、信じられないという表情。
「…じゃあお姉ちゃん、三年前に行方不明になってから、ずっとここにいたの?」
「そうよ。次の勝負で勝たなきゃいけないと思いながら、ずっと女王候補を待ってたの。」
アリサは驚きと悲しみが入り混じった表情を浮かべた。
「…つまり、私とアリサは何かしら勝負をしなければいけない。私が勝てば、私が戻り、アリサが女王。アリサが勝てば、アリサが戻り、私は引き続き女王をする、ってことよ。」
「え、…無理だよ、お姉ちゃんとの勝負に勝つなんて…」
さも当然のように、アリサは言った。
アリサは自分に自信がない。勉強が出来ないから、運動が出来ないから。
でも、それでも良いと言ってきた。それらがアリサのすべてじゃないから、と。
アリサは決まってこう返した。
『何でも完璧なお姉ちゃんにはわからない』と。
でも、私は知っている。アリサが必死に努力していたことを。
それをアリサに伝えた事が一度だけあった。努力できる事がアリサの長所だと伝えた。
アリサの口から出た言葉は、悲しいものだった。
『私は努力しても結果にならないんだもんね。何もしなくても完璧なお姉ちゃんと、努力しても何も出来ない私。どうして姉妹でこんなに違うの。』
妹の劣等感を煽ってしまった事実とその場の雰囲気に耐えられなくて外に出た。そこで白ウサギにあって、そのまま『不思議の国』に来た。
アリサはそんな事、もう忘れているかもしれない。
大丈夫、どんな勝負になっても、私がアリサに負ければ良い話。アリサをもとの場所に帰す為。
アリサに何か声をかけようと顔を上げた。
アリサは私に剣を向けていた。
扉の横に置いてある、装飾品の鎧。片方の鎧が持っているはずの剣がない。それは今、アリサの手の中にある。
どうして剣を向けられているのか、どうすればいいのか、わからなくて思考が止まった。
アリサはゆっくりと口を開いた。
「…勝負しなくても、どっちかが死ねば、もう片方はもとの場所に戻れるんでしょ?お姉ちゃんの場合みたいに。」
「そうなりますね。特例ですが。」
白ウサギが答えた。
待って。アリサは私を殺そうとしている?自分が戻る為に?勝負をしない為に?
そんなの駄目だ。私が殺されたくないのは勿論。でも、アリサに人殺しの罪を背負って欲しくない。
「…ねぇアリサ、こんなの駄目だよ。他に方法が」
「黙れッ!」
アリサはその剣を私の首の高さで横に振るった。
剣が赤く染まる。私の血だ。
うまく呼吸が出来ない。視界がぼんやりする。
アリサ、こんな事する必要無かったのに…。
朦朧とする意識の中、聞こえた言葉。
「じゃあね、お姉ちゃん。ありがとう、完璧でいてくれて。」
妹の思いを理解できないまま、私は死んだ。
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「…こちらが、『不思議の国』から出られる扉です。」
前を歩く白ウサギが立ち止まって言った。
私はさっき、姉を殺した。そうするしかなかった。
私はもう、『アリサ』ではいられないから。私は何も出来ない『アリサ』なんかじゃない。完璧な姉、『アリス』なんだ。
三年前からそうしてきた。姉が行方不明になってから、ずっと。
チャンスだと思った。クズみたいなアリサを捨てて、アリスになるチャンスだと。
その為に、髪型も服装も、全て姉の真似をした。
父と母はそれで喜んでくれた。
だから私もそれで幸せだった。
私が『アリス』でいる為には、本物の『アリス』はいらない。いてはいけない。
だから殺した。
それで良いんだ。私がアリスだ。
心の中で呟いて、扉を開けた。
見慣れた風景。うちの庭だ。
驚きながら庭の芝生を踏んだ。
家がある。数歩だけ、その家に近寄った。あれは私の家だ。
振り返ってもそこにはもう、扉はなかった。
母が走って近づいて来た。
「―アリス!どこに行ってたの?捜したのよ!」
「…ごめんなさい。人間の言葉を話すウサギを見つけたものだから…」
「何を言ってるの。もうじきご飯よ。家に入りなさい。」
そう言う母の笑顔は、とても優しい。
「はぁい。」
私もそう答えて家に入った。
「ただいま。」
「おぉ、おかえり。今日はどこへ行ってたんだ?」
「聞いてよお父さん、アリスってば、言葉を話すウサギを見つけたなんていうのよ。」
「そうか、アリスは面白いなぁ。」
「笑わないでよ、本当なんだから!」
そこにあるのは、幸せそうな家族の姿でした。
書いてて、アリサもアリスも可哀想かなって思った。




