第6話 黒影討伐②
(……霧払い……やはりその場所に何かあるのか?)
ヒュォォォォ――……
吹き抜ける風にローブを揺らされながら、マーベリックは霧の向こうへ目を凝らしていた。
『マーベリックさん。索敵の結果、黒影が11体まで増えました。』
「11体……。」
『なお霧払いはいまだに存在しています。』
目を細めても、ここからでは霧の先までは見通せない。
(ここからじゃまだ黒影は見えない……。)
「わかった。俺達はこれから霧に近づく。ウェズリーはそのまま観測を頼む。」
『はい。わかりました。』
ブレスレットから手を離し、隣にいるアストラへ目を向ける。
「アストラ、行くぞ。」
「はい。」
二人は風を受けながら、そのまま霧へ向かって歩き出した。
同時刻、テセルス記録室――
カタカタ……カタカタカタ――
ウェズリーの指が検索操作板の上を走り、並んでいた文字が次々と切り替わっていく。
カタカタ……タン!
指を止め、表示された記録へ目を走らせる。
(霧払いの事例は過去に64件……。)
そのまま再び操作板へ指を戻す。
(追加検索……黒影が増える事例……。)
カタカタカタ……タン。
切り替わった検索結果を見たまま、ウェズリーの指が止まった。
(4件……。)
一件ずつ記録を追っていくうちに眉が寄り、次の記録へ視線を移す。
(対応魔道士、未帰還……行方不明……黒影化――。)
ウェズリーは息をのみ、そのまま残る一件へ目を移した。
(1件だけ、処理帰還がある。)
文字を追っていた目が、途中で止まる。
(……大型の黒影出現……黒影が黒影を捕食。)
「捕食……。」
さらに最後まで目を通し、報告者の欄で視線が止まった。
「記録報告者……ダンゲル……。」
ウェズリーは天井へ目を向け、大きく息を吐いた。
『ウェズリー!聞こえるか!?』
「!?」
突然ネックレスから響いた声に顔を戻し、慌てて口元へ引き寄せる。
「ど、どうしました!?」
『11体どころじゃない!ドカァァン!』
『ボォォォン!』
爆発音がネックレス越しに響き、ウェズリーは握ったまま耳を澄ませる。
『14……16……もっといる……。』
頬から血の気が引いていく。
『アストラが今迎撃している!俺も加勢しに行く!』
「ま、待ってください!マーベリックさん!」
返事を待つ間もなく声が遠ざかり、ウェズリーはネックレスを握り締めた。
「マーベリックさん!」
そのまま操作板に両手をつき、俯いたまま息を吐く。
(このままだと……二人が……。)
小さく息を吸い直すと体を起こし、両手を前へかざした。
「我が霧よ……視界を照らせ――」
指先から淡い光が広がっていく。
ウェズリーはその光から目を離さず、浮かび上がってくるものをじっと見つめた。
「……どうして……こんなに増えてるの……」
淡い光の中を、無数の黒い点が埋めていた。
同時刻、荒野――
ボォォォン!!
爆炎が弾けると同時に、アストラは次の黒影へ顔を向ける。
「17!次!」
地面を蹴って一気に距離を詰める。
「だぁぁぁ!」
黒影の胸元へ潜り込み、そのまま手を押し当てた。
「爆炎!!」
ドカァァァン!!
「グギャァ!」
手のひらから爆炎が弾け、黒影がその中へ消えていく。
「はぁ……はぁ……これで18……。」
アストラは肩を上下させながら息を吸い、手のひらから立ち上る白い煙を見つめた。
シュゥゥゥ――……
指を曲げ、その手をゆっくりと握る。
(まだいける……。)
「アストラ!」
声に振り返ると、マーベリックがこちらへ向かってくる。
「マーベリックさん。見えてる黒影は全部消滅させました。」
「障壁、ありがとうございました。」
マーベリックがうなづく。
アストラも息を整えながら周囲へ目を向けるが、先ほどまで響いていた爆発音も黒影の声も消えていた。
静寂――
「終わったんでしょうか?」
アストラがマーベリックを見上げる。
「…………。」
返事をせず、マーベリックは霧の奥へ目を凝らした。
「いや……。」
その視線を追うようにアストラも霧へ顔を向ける。
白く霞む奥に、黒い影がうっすらと浮かんでいた。
「1……2……3、4……」
マーベリックが目で影を追いながら、無意識に数えていく。
「5……6……7……。」
アストラも残る影を数え、その大きさに目を細めた。
「7体……しかもあの影の大きさは……。」
「ああ……中型だ。」
ヒュォォォォ――……
吹き抜けた風に砂が巻き上がり、二人が見つめる黒い影が再び霧の向こうへ霞んでいった。




