第7話 黒影討伐③
ドカァァァン!!
爆音と同時に爆煙が噴き上がり、アストラの視界を一気に塞いだ。
「アストラ!あまり前に出るな!霧の範囲外に出る!」
「は、はい!」
マーベリックの声に足を止めると、横から吹き抜けた風が爆煙を押し流していく。
グガァ……
グオォ……
薄れていく煙の向こうから、人の形をした黒い影が姿を現した。
「マーベリックさん……。」
アストラが息をのむ。
「ああ……通常の火力では通らない……やはり中型だな。」
黒影から目を離さないまま、マーベリックがわずかに姿勢を落とした。
「アストラ。いけるか?俺が風で障壁を張る。」
「はい。まだいけます。」
アストラは炎を握り込むように右手を構え、息を整える。
「紅蓮の炎――」
「我が手にその力を宿せ――」
ヒィィィ――ン――
右手に集まった光が強まり、指先まで包み込んでいく。
「爆炎!」
ボバァァン!!
言葉と同時に炎が噴き出し、右腕を包むように燃え上がった。
「そして形を成せ――」
「我が心と共に――剣となれ!」
吹き出していた炎が一気に収束し、細く伸びながら剣の形を作る。
ゴオォォォ――
アストラは炎の剣を握り直し、黒影を見据えた。
「いきます!」
マーベリックがうなづき、その背後で風が渦を巻き始める。
「風よ……その力を紡ぎ、障壁の形となれ――。」
足元から巻き上がった風がローブを大きくはためかせ、そのままアストラの周囲へ流れていく。
「爆炎速――」
アストラの足元へ光が集まり始める。
キィィィ――ン――
甲高い音が細く伸び、消えていくにつれて足元の光が強さを増す。
炎の剣を低く構え、アストラが前へ重心を落とした。
「爆速!」
ボバァァァン!!
足元が弾けた瞬間、体が前へ押し出される。
黒影との距離が一気に消え、そのまま懐へ滑り込み、
「たぁぁぁ!!」
ザシュ!!
炎の剣を振り抜き、黒影の脇をそのまま駆け抜ける。
グァ!?
地面へ足を着けたアストラは勢いを殺しきれず、そのまま滑りながら振り返った。
斬り抜けた傷から炎が這う。
「……1!!」
ヒィィィ――ン――
炎が黒影の体を包み、
「!??」
ボバァァァン!!
次の瞬間、内側から弾けるように爆発した。
爆煙の向こうから2体の黒影が飛び出してくる。
アストラは滑っていた足を踏み直し、そのまま向き直った。
「爆速!!」
ドカァァン!!
再び足元が弾け、爆発に押し出された体が1体目へ一直線に飛ぶ。
炎の剣を突き出し、そのまま黒影の胸へ突き刺した。
ドス!
グギャ!!
「2!」
アストラの口元がわずかに上がる。
「さよなら――」
「!!?」
剣を突き刺したまま魔力を流し込む。
バァァァン!!
黒影が爆発し、その爆風が背中を押した。
アストラは勢いを殺さず、爆煙を抜けた先にいた3体目の懐へ飛び込む。
「!!」
踏み込んだ瞬間、黒影の腕から黒い刃が伸びた。
ガキン!
炎の剣とぶつかり、目の前で火花が散る。
「くっ!」
押し合ったまま、もう一方の腕から2本目の刃が伸びる。
刃が頭上から振り下ろされた。
「紡げ!障壁!」
アストラの目前で風が一気に巻き上がる。
バキィィン!
「!?!?」
振り下ろされた黒い刃が風に弾かれ、黒影の腕が大きく跳ね上がった。
「アストラ!」
「はい!」
空いた懐へ踏み込み直し、アストラは炎の剣を突き刺す。
ドス!
「ガアァ!!」
柄を握る指に力を込め、そのまま魔力を流し込んだ。
「滾れ!炎!」
ヒィィィ――ン――
剣を中心に炎が膨れ上がる。
「そして――焼き尽くせぇぇ!」
ゴオォォォ――!
噴き出した炎がそのまま黒影を包み込み、火柱となって立ち上がった。
「グガ……ガ……」
熱風をまともに受けながら、アストラは歯を食いしばり、剣を握る手にさらに力を込める。
「ぐうぅぅ……!」
ゴオォォォ――!
炎の中で黒影の輪郭が崩れていく。
「……ガ……グ……」
やがて形を失い、灰となって炎の中へ消えた。
火柱が弱まると、アストラは肩を上下させながら剣を支える。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
息を整えきれないまま、残る黒影へ視線を向けた。
「あと……4体……。」
マーベリックも前へ出て、アストラと並ぶように身構える。
(まだ出てくる可能性がある……。)
視線を黒影から外さず、横で荒い呼吸を続けるアストラを一瞬だけ見る。
(アストラも限界が近い……最悪は――)
「マーベリックさん!」
声に引かれて前へ視線を戻す。
「黒影の動きが止まりました……。」
こちらへ向かっていた黒影たちが、一斉に歩みを止めていた。
「どういうことだ……。」
動かない黒影を見据えたまま、マーベリックが眉を寄せる。
『――さん!』
途切れた声が耳に入り、遅れて通信だと気づく。
『マーベリックさん!アストラ!返事をしてください!』
マーベリックはすぐに応答した。
「ウェズリー、どうした?」
『大型が出ます!』
「どこにだ!?』
『霧払いがあった場所です!』
アストラが息を止めるようにマーベリックを見る。
同時刻テセルス記録室――
ウェズリーは記録を追う手を止めず、通信へ顔を寄せた。
「今記録室で履歴を追っていて見つけたんです!」
呼吸を整える間もなく、そのまま言葉を続ける。
「私の霧でも大型を捉えました!」
「間もなく……出現します。」
一度息を吸い込み、
「ですから――」
そこで言葉を止めた。
『ウェズリー。俺達も目視で確認した。』
通信越しにマーベリックの声が返ってくる。
『南にはハクの村がある。今退くわけにはいかない。』
ウェズリーは大きく息を吐き、手元の記録へ視線を落とした。
「霧払いから出現した大型は黒影を捕食し、耐性を強化する。」
指先で追っていた記録が、ある一文で止まる。
「同じ状況で唯一帰還したダンゲルさんの報告です。」
少し間を置いて、通信から声が返る。
『ダンゲル……わかった。無理はしない。』
ウェズリーは目を閉じ、もう一つの声へ向けるように口を開いた。
「アストラも。わかった?」
『了解。ちゃんと記録よろしくね。』
その声を聞きながら、ウェズリーはゆっくり目を開ける。
「ちゃんと霧で見てるから。記録も全部しておく。」
『アストラ、行くぞ。』
『はい!』
そこで通信が途切れた。
ウェズリーはしばらく耳元から手を離さず、やがてゆっくりと目を閉じる。
(どうか……ご無事で……。)




