第5話 黒影討伐①
「射出します!」
ウェズリーを包んでいた青白い光が弾けた。
ドォォォン!!
ブシュゥゥゥ――!
白煙が一気に噴き上がり、その中から緑と赤の光が天窓を抜けて空へ駆け上がっていく。
ウェズリーは顔を上げ、尾を引きながら遠ざかっていく二つの輝きを目で追った。
(マーベリックさん……アストラ……気をつけて……。)
ビュォォォォ――……
緑と赤の光が風を切り、長い帯を引きながら空へ昇っていく。
マーベリックが眼下へ目を向けると、テセルスの街並みがどんどん小さくなっていた。
やがて二人を包んでいた輝きが弱まり、光の粒が風に流れながら後方へ消えていく。
マーベリックは姿を現したアストラへ振り返った。
(アストラも軌道のズレはない。)
最後の輝きが消えると上昇が止まり、二人の身体が落下を始めた。
ヒュゥゥゥ――……
吹きつける風の中、マーベリックが地上へ目を向けると、荒野に広がる霧が見えてくる。
(あそこか……。)
そのまま落下を続けていると、後方からアストラの声が聞こえた。
「マーベリックさん!着地の時、爆風が飛びますので少し離れます!」
「ああ!分かった!」
アストラが身体に少し角度をつけ、マーベリックから離れていく。
地上が近づくにつれて落下はさらに速まり、マーベリックは両手を前へ伸ばした。
(そろそろだな……。)
「風よ……我が目の前に障壁を――」
シュゥゥゥ――
手の先へ風が集まり、目の前の空間が揺らぐ。
横へ目を向けると、離れた場所を落下するアストラも手を前へ伸ばし、その先に赤い光を集めていた。
再び地上へ目を戻し、迫ってくる地面との間合いを合わせ――
「風障壁!」
ドバァァァン!
衝突する寸前、両手から一気に魔力を放つと、押し込まれた風が地面へ叩きつけられ、その反動を全身に受けながら着地する。
巻き上がった砂煙がローブの裾を叩く中、マーベリックが身体を起こした、そのとき――
ヒュゥゥゥ――……
少し離れた上空から落下音が近づき、
ボガァァァン!!
地面を揺らす爆発音とともに黒煙が噴き上がった。
マーベリックは砂煙の向こうへ顔を向け、立ちこめる黒煙をしばらく見つめる。
(アストラのほうも無事着地できたみたいだな。)
小さく息を吐くと、風に押された砂煙が横へ流れていった。
ゴゴゴゴゴ――……
遅れて響く地鳴りの中、アストラは黒煙に包まれながら何度も咳き込んだ。
「けほ……けほ、けほ……。」
「うぅ……火力強すぎた……。」
袖で目元を擦りながら煙の薄いほうへ顔を向け、霞む視界の中を見渡す。
(マーベリックさんは……。)
風に黒煙が流され、その向こうにローブ姿が見えた。
(いた!)
アストラは袖を下ろすと、そのままマーベリックへ向かって走り出した。
ヒュォォォォ――……
吹き抜ける風にローブを揺らされながら、マーベリックは前方に広がる霧へ目を向けていた。
白く漂う霧の奥へ視線を送るが、黒影らしき姿までは見えてこない。
(黒影の姿はここからでは見えないか……。)
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――
背後から砂を踏む音が近づき、振り返るとアストラが息を切らしながら走ってくる。
「はぁ……はぁ……すみません。離れ過ぎちゃいました……。」
足を止めたアストラの顔を見たマーベリックは、自分の鼻の辺りを指差した。
「黒いぞ。」
「え……。」
アストラは慌てて袖を鼻へ当て、何度か擦る。
「ちょっと火力が強すぎました……。」
「体は大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です。」
その返事を聞いてマーベリックはうなづくと、アストラから視線を外し、再び前方の霧へ目を向けた。
風に押されて霧の表面がゆっくりと揺れている。
「何か感じるか?」
アストラも隣へ並び、同じように霧の奥へ目を凝らした。
「見た目はいつもと変わりません……。」
しばらく霧を見つめたまま、アストラの口が再び開く。
「ですが……ずっと見られている……そんな感じがします。」
風が二人の間を抜け、ローブの裾を揺らしていく。
「ああ。俺もそれは感じている。」
マーベリックは霧の奥から視線を外さず、わずかに目を細めた。
(気のせいじゃない……俺達を監視している……そんな感じだ……。)
そのまま腕を上げ、ブレスレットを口元へ近づける。
「ウェズリー。聞こえるか?」
風の音だけが耳元を抜けていき、ほどなくブレスレットから声が返ってきた。
『はい。聞こえます。』
「二人とも無事着地はしたが霧の内部に違和感を感じる。」
「何か察知できないか?」
『わかりました。今、深く索敵してみます。』
返事が途切れてもマーベリックは腕を下ろさず、揺れ続ける霧を見つめた。
隣に立つアストラも黙ったまま、その奥へ視線を向けている。
(アストラも感じているとしたら気のせいではない。)
吹きつける風に霧が揺れ、その向こうへ目を凝らしても何も見えてこない。
(……霧払い……やはりその場所に何かあるのか?)
ヒュォォォォ――……
強くなった風が二人のローブを煽り、その足元から巻き上がった砂が、霧の広がる荒野へ流れていった――。




