第4話 射出機
昇降機を出た三人は通路を進み、その先に続く階段を上がっていく。
「ウェズリー。今も黒影の数は変わらないのか?」
マーベリックの声に、ウェズリーが足を緩めながら手のひらを前へ向けた。
「霧よ……我の目となれ――。」
手のひらの上に青い発光体が浮かび、同時に眼鏡の奥の目が淡く光る。
「1……2、3……4……」
光を見つめたまま数え、少し間を置く。
「5…………6……。」
青い光が薄れ、ウェズリーの目からも光が消えた。
「一体増えました。霧払いは依然として存在しています。」
「わかった。」
(増えるということは入口は消えてはいないということか……。)
マーベリックは小さく息を吐き、そのまま階段を上がっていく。
登り切った先で視界が開け、薄暗い部屋の中央へ出た。
ランプの明かりが足元を照らし、その光を追うように視線を巡らせると、四方八方の壁に丸い筒状の扉がいくつも並んでいる。
「場所は北東ですからこちらです。」
ウェズリーが一つの扉へ向かうと、アストラも後を追った。
「ウェズリーが飛ばしてくれるんだよね?」
「うん。そのほうが間違いないからね。」
ウェズリーが扉脇の操作盤へ手を伸ばす。
ピピ……ピピピ――
「私が撒いた霧だし、正確にその場所に飛ばせる。」
「了解。弾は大人しく待ってまーす。」
アストラは壁へ背を預け、そのまま腕を組んだ。
ウェズリーは操作盤へ向き直り、並んだ文字盤を指先で打っていく。
ピピピ……ピピピ――
「射出角度……57.55度……」
「射出速度……73……」
数値を確認しながら中指で眼鏡を押し上げ、さらに入力を続ける。
「射出準備できました。」
「お願いします。」
ウェズリーが二人を見る。
マーベリックがうなづき、その隣でアストラが手を上げた。
「じゃあ行ってくるね。」
その言葉にウェズリーもうなづく。
丸い扉を開けると、奥へ伸びる内部も同じ円筒状になっており、人一人が入れるほどの広さしかない。
マーベリックとアストラはそれぞれ隣り合う筒へ向かい、体を屈めながら中へ入った。
「閉めます。」
「ウェズリー。俺達が出たあとも終始観測は頼む。」
「わかりました。」
ウェズリーが扉へ手を掛ける。
ガチャン――
カチン――カチン――
隣の扉へ移り、
ガチャン――
カチン――カチン――
二つの扉を閉め、固定鍵まで掛けると、そのまま操作盤の前へ戻った。
胸元のネックレスを指で持ち上げ、口元へ寄せる。
「マーベリックさん、アストラ。聞こえますか?」
『ああ。聞こえる。』
『私も同じく。』
「射出されたら魔鉱石の濃度は高めにお願いします。」
「通話が途切れてしまう可能性があるので。」
ウェズリーは操作盤へ視線を戻し、指を動かし続ける。
『了解ー。』
『ああ。』
プシュゥゥゥ――……
二人の入った射出筒の周囲から蒸気が噴き上がる。
『ウェズリー。目標地点から距離200手前を狙ってくれ。』
「わかりました。」
ウェズリーは眼鏡を指で押し上げると、すぐに数値を打ち直した。
ピピピ……ピピ――
「目標地点より南に200……設定。」
「射出角度補正……52.41度……固定します。」
ガシャン――
ゴォン――ゴォン――ゴォン――
重い機構が噛み合う音が射出筒から伝わり、床を通して足元まで響いてくる。
「射出機……充填開始――。」
ウィィィ――ン――……
低く唸る音が部屋を満たし始める。
「30……35…………40……。」
操作盤の数値を追いながら、ウェズリーが隣に埋め込まれた魔鉱石へ手を伸ばす。
「出力安定……魔力注入開始――。」
触れた瞬間、魔鉱石が青白く光り、指先から腕へ伝うように同じ光が広がっていく。
プシュゥゥゥ――……
噴き上がる蒸気にも青白い光が混じる。
「45……50……マーベリックさん、アストラ。体に魔防壁をお願いします。」
ウィィィ――ン――……
音がさらに高くなり、
キィィィ――ン――……
耳へ刺さるような甲高い音へ変わる。
二つの射出筒の隙間から、緑と赤の光が漏れ始めた。
ウェズリーはそれを確認し、眼鏡を押し上げる。
「魔防壁確認。」
操作盤へ目を戻す。
「70……75……80……。」
青白い光がウェズリーの体を包み始める。
ゴゴゴゴゴ――……
プシュゥゥゥ――……
床から伝わる振動が強くなる中、ウェズリーはネックレスへ顔を寄せた。
「初速、気をつけてください。いつもより衝撃が強く出ます。」
一度息を整え、操作盤へ視線を固定する。
「射出まで――」
「10――」
「9――」
「8――」
「7――」
『え……いつもより強い?どういうこと!?』
ネックレスからアストラの声が飛び込んでくる。
「6――」
「5――」
プシュゥゥゥ――!!
熱を帯びた蒸気が一気に噴き上がり、ウェズリーの足元を白く覆っていく。
「アストラ!話してると舌噛むよ!」
「4――」
「3――」
「2――」
『ちょっ!』
「1――」
射出筒から漏れる緑と赤の光が一気に強まる。
「射出します!」
ウェズリーを包んでいた青白い光が弾けた。
ドォォォン!!
ブシュゥゥゥ――!
噴き出した白い煙が視界を覆い、遅れて天窓の向こうへ緑と赤の光が駆け上がっていく。
ウェズリーは顔を上げ、その尾を引きながら遠ざかっていく二つの光を目で追った。
(マーベリックさん……アストラ……気をつけて……。)
足元に残った白い蒸気がゆっくり薄れ、やがて消えていった――。




