第2話 テセルスから①
2カ月前――
アストディア大陸の中央に位置する、魔法特化型都市。
魔都テセルス――
カツ――カツ――カツ――カツ――
暗い通路に、三人分の足音が一定の間隔で響いていく。
「今、現状として出現している黒影は5体です。」
青い魔道服を揺らしながら歩いていた女性が口を開くと、その横で赤い魔道服の茶髪の女性が顔を向けた。
「5体だけ?なら私一人でも十分じゃない?」
「私は現状として……と言ったよ?アストラ。」
ウェズリーが片手で眼鏡をくいっと押し上げる。
「増えるってこと?ウェズリーの霧でも探知できないんだ?」
歩みを止めないままランプの下を抜けるたび、三人の影が床を長く伸びては後ろへ流れていく。
「黒の入口から出てないのはさすがに探知できないよ。」
「それに……」
ウェズリーの声がわずかに落ちると、アストラが横から顔をのぞき込んだ。
「それに?」
「霧が通らない空間があるの。だから今回はマーベリックさんにも同行お願いしたの。」
二人は同時に足を止め、そのまま後ろへ振り返る。
少し離れて歩いていた男の足音が、ゆっくりと近づいてきた。
コツ――コツ――コツ――
「霧が通らないと言うことはそこに何かがあると言うことだ。」
声とともに男がランプの下へ入り、深青のローブと顎に蓄えた髭が光の中へ浮かぶ。
ウェズリーが小さくうなづいた。
「はい。マーベリックさんの言うとおり、その場所だけ霧払いを受けてます。」
マーベリックは歩みを緩めず、顎髭へ指を添えた。
「……あまり聞かない事例だからな。調べる必要がある。」
ウェズリーが隣のアストラへ視線を戻す。
「はい。何かの障壁があるような……霧がそこだけ入り込めない……そのような感じです。」
そのまま少し間を置き、アストラへ目を向ける。
「ですので、アストラ一人じゃなかなか……。」
アストラはその視線から逃れるように顔をそらした。
「うん……マーベリックさんいてくれたほうが……間違いない……。」
ウェズリーはふっと笑うと、そのまま先へ歩き出す。
「アストラは前回、調査してって言ったのに全力で――」
「ちょっ!ウェズリー!?」
アストラが慌てて言葉を重ね、そのまま隣へ追いつく。
「だって事実でしょ?」
歩みを止めないウェズリーへさらに身を寄せ、アストラが耳元まで顔を近づけた。
「マーベリックさんに聞こえちゃう……。」
すぐ後ろから声が返ってくる。
「アストラは魔力は高火力だ。制御しても……な?」
アストラの背筋がぴんと伸びた。
「はい……そうですね……。」
追いついたマーベリックが二人の横へ並ぶ。
「得意不得意は必ずある。だから今回は俺も行く。」
そのままアストラへ視線を向けた。
「ウェズリーが言っているのは調査を忘れていなかったか?……そこなんだ。」
ウェズリーが横でうなづくと、アストラは視線を足元へ落とした。
「さ、行こう。」
マーベリックが二人の肩へぽんと手を置き、そのまま前へ促す。
「はい。」
重なった二人の声とともに、三人の足音が再び暗い通路の奥へ続いていった。




