第10話 星空
静か――
どこだろ……ここ――
ヒュゥゥゥ――……
風が鳴いてる――
私何してたんだっけ……
たしか……巨体の黒影を相手にしてて……
巨体――
黒影!?
ガバッ!
アストラが勢いよく体を起こすと、すぐ隣にいたマーベリックへ視線を向けた。
「あ、あれ?黒影は……。」
「もう少し横になっていてもいいぞ?」
「……私達……勝ったんですか?」
「ああ。アストラのおかげだ。」
「私の……ですか?」
マーベリックがうなづく。
「すみません。記憶が少し……。」
「魔力を消耗しすぎたからな。今はあまり考えなくていい。」
「……はい。」
「さ、もう少し横になっていろ。」
アストラは小さくうなづいて再び体を横たえると、マーベリックとの間に置かれた小さなランプの明かりが視界に入り、その淡い光を目で追った。
「今日はここに泊まりだ。アストラも仮寝床も組み立てておいた。」
顔を横へ向けると、少し離れたところに小さな仮寝床が二つ並んでいる。
「ありがとうございます。」
「それと、ウェズリーにも報告はしておいた。」
マーベリックの口元がわずかに緩んだ。
「あとウェズリーからの伝言だ。帰ったら、好きなのごちそうしてくれるそうだ。」
「ふふっ。めずらし……。」
アストラの口元にも笑みがこぼれ、そのまま視線を上へ向けると、夜空いっぱいに広がる星が目に入った。
(星……きれいだな……。)
今日から君は――アストラだ――
「マーベリックさん。」
「どうした?」
「星……満天ですね。」
マーベリックもつられるように夜空を見上げる。
「ああ。今日は特にだな。」
アストラはしばらく星を眺めていたが、やがて視線を戻した。
「明日は夜明けからすぐにテセルスに向かう。」
「はい。じゃあ……寝ますね。」
「ああ。」
体を起こしたアストラは小さな仮寝床まで進み、身を屈めながら中へ入る。
「おやすみなさい。」
マーベリックがうなづき、
「おやすみ。」
前垂れを下ろすとランプの淡い光が遮られ、マーベリックはそのまま外に残った。
風の音を聞きながら、先ほどまでアストラが見ていた夜空へ目を向ける。
(あの大型の黒影は理性があったのか?)
(行動自体は小型、中型と変わらなかった……。)
視線を夜空に置いたまま、思考だけが先ほどの戦いへと戻っていく。
(それだけじゃない。黒影が黒影を捕食して耐性を強化する……。)
(そしてダンゲルが唯一の帰還者。)
ヒュゥゥゥ――……
吹き抜ける風にローブの裾を揺らされながら、マーベリックは星を見つめ続ける。
(何かがズレてきている……最近は特に……。)
(何が起こるんだ……これから……。)




