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風は巡り、再び戻る。~風に導かれた出会い~  作者: 上条四季
第0部 テセルスに吹く風
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第9話 炎柱

ズゥン…………ズゥン…………


地面を踏みしめるたびに重い振動が伝わり、巨体を揺らしながら黒影がまっすぐこちらへ近づいてくる。


「やつの速度はおそらくあれが限界だろう。」


「岩が歩いてるような……そんな感じですね……。」


「私は何をすれば?」


アストラが近づいてくる巨体から視線を外し、マーベリックを見る。


「やつの体は岩、鉄を結合してる。瞬間火力だけでは貫通までいかない。」


「はい。それは感じました。私の零距離爆炎でも体の欠片が少し削れるくらいでしたから。」


マーベリックは小さくうなずき、再び黒影へ目を戻した。


「なら……消滅するまで燃やし尽くす。」


「燃やす……。」


「ああ。高温になれば鉄は溶け出し、岩はボロボロになる。」


ズゥン…………


また一歩、黒影の足が沈み込む。


「そしてそのまま本体を消滅させる。」


「なるほど……で、でも私は瞬間火力なら得意ですが持続力となると……。」


アストラがわずかに目をそらすと、マーベリックはその肩へ手を置いた。


「だから俺が燃料になる。風の力でな。」


アストラが顔を上げる。


「炎は風を吸って大きくなる。何倍にも火力は上がるんだ。」


「何倍にも……。」


「俺が風を巻き上げる。アストラはそれに炎を合わせればいい。」


アストラがうなずく。


「ただ持続力勝負は変わりはない。」


「はい……必ず維持します!」


「風と炎が交じ合えば……業火……いや、灼熱にすることも可能だ。」


「風が炎を巻き上げる……わかりました。やります!」


ズゥン…………ズゥン…………


巨体との距離が縮まり、低く濁った唸り声まで届いてくる。


グロロロ――


「よし。あのくぼみに足を踏み入れたら風で気流を作る。アストラはそれに炎を乗せてくれ。」


「はい!」


(これが今、俺達ができる精一杯だ……。)


二人は黒影から目を離さず、息を呑む。


ズゥン…………


(1歩目……)


重い足が砂を踏み固める。


ズゥン…………


(2歩目……)


さらに一歩、巨体がくぼみへ入り込み、踏みつけられた砂が大きく沈んだ。


ズゥン…………


(3歩目!)


マーベリックは瞬時に両手を突き出し、息を吸う間もなく詠唱へ入る。


「風よ!我が魔力に呼応し、大地を這いて――天へと昇れ!」


ヴォオオオオ――!!


黒影の足元から噴き上がった風が砂を巻き込み、そのまま巨体を包むように渦を描いて空へ駆け上がる。


足元をすくわれた黒影の巨体が傾いた。


グォ……グゥ――


「アストラ!」


「はい!」


アストラは腰を落として踏ん張り、両手を風の中心へ向ける。


「紅蓮の炎よ!我が魔力に呼応し、風を纏いて――天を焦がせ!」


次の瞬間、黒影の足元から紅い炎が吹き上がった。


巻き上がる風へ炎が絡みつき、その勢いのまま空高く立ち昇る。


グロロロォォォ!!


巨体が灼熱の炎柱に飲み込まれる。


熱気が一気に押し返され、マーベリックは歯を食いしばりながら両手を突き出し続けた。


「ぐぅ……アストラ!堪えろ!」


「はい!」


ゴォォォォ――


炎柱が唸りを上げるたび、焼けつくような熱が二人の頬を打つ。


チリ……チリチリ……


熱にさらされたローブの端が焦げ始め、その匂いが鼻を刺した。


ズゥン…………


「!?」


炎の奥から、重い足音が響く。


ズゥン……


紅い炎を押し分けるように巨体の影が少しずつ近づいてくる。


「炎柱の中なのに……」


アストラの視線が揺れた。


グ……ココココ――……


炎の向こうで黒影の頭がゆっくりと動き、その目が真っ直ぐ二人を捉える。


「アストラ!やつから目を離すな!」


「は、はい!」


アストラは息を詰めると、すぐに視線を戻して黒影をにらみ返した。


炎に包まれた巨体の表面が次第に赤みを帯び、岩と鉄が絡み合った結合部分から鈍い赤が広がっていく。


「アストラ!やつの体が赤く変化してきた!もう少しだ!」


アストラが歯を食いしばる。


ズゥン…………


まだ止まらない。


その一歩に合わせるように、赤く焼けた結合部分が膨らみ――


ボタ……


粘りを帯びた赤い塊が足元へ落ちる。


ボタボタ……


さらに鉄の溶けた赤が巨体を伝い、砂の上へ垂れ落ちていく。


ゴォォォォ――!!


「早く……消えろぉぉ!」


アストラが両手へさらに力を込めると、炎柱が一段大きく膨れ上がった。


ボタボタ……ボタ……


赤く溶けた鉄が滴り続ける中、


パキッ――


乾いた音が炎の奥から響く。


パキッ――


結合されていた岩に亀裂が走り、欠片が次々と剥がれ落ちていく。


ガァァァ――!


ズゥン…………


それでも黒影は一歩を踏み出した。


だが足が地面へ触れた瞬間、支えていた膝が崩れる。


ドシャン!!


砂を巻き上げながら巨体が沈み込んだ。


「もう少しだ!アストラ!」


「はい!!」


アストラは歯を食いしばったまま両手を突き出し続け、額から流れた汗が頬を伝って落ちていく。


グロロ――……


膝を失った黒影が体を傾けながら、それでも二人へ向かって腕を伸ばす。


指先が届くより先に赤熱した腕へ亀裂が走り、岩と鉄が崩れながら地面へ落ちた。


ゴォォォォ――!!


炎柱がさらに勢いを増す。


グゥ……グガガ…………


残った頭部だけがゆっくりと持ち上がり、黒影の目はなお二人から離れない。


その頭頂から溶けた赤い鉄が垂れ始め、額を伝いながら黒い目を覆っていく。


白い煙が巨体の隙間から噴き出した。


グガァァァァ!!


次の瞬間――


ドッシャァァァン!


黒影の巨体が前へ倒れ込み、熱に焼かれた地面から砂と煙が舞い上がる。


シュゥゥゥ――……


炎の中で輪郭が崩れ、黒い体が灰へ変わりながら風にさらわれていく。


「!?かはっ……」


バシュゥゥン――……


張り詰めていた炎柱が弾けるように消えた。


力が抜けたアストラの膝が落ちるより先に、マーベリックが腕を伸ばしてその体を抱き止める。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


肩を大きく上下させるアストラを支えながら、マーベリックも荒い息を整える。


「アストラ……よくやった。」


アストラの口元にほんの少し笑みが浮かぶ。


「はぁ……はぁ……はい……。」


二人の上では、炎柱の名残が風に巻かれながら空へ昇り――そのまま静かに消えていった。

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