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悪霊心理カウンセリング」の組織図の策定と、空き家に潜む最初のカモ(お客様)。

黒のアルファードは、モダンミニマリズム様式の豪邸のガレージに滑らかに停車した。


ルカは、車内で一時中断されていたザビエルの荒唐無稽なオカルトビジネスの勧誘から逃れるように、素早い動きで車のドアを開けて外に飛び出した。


ラッファとザビエルがそれに続く。彼にとって、この車から一歩外に出ることは、あの忌々しいビジネスの脅威から解放されることを意味していた。しかし、家の玄関扉が開いた瞬間、ルカの本当の人生の試練が幕を開けた。


「まあ、セナァーー! ママの一番イケメンな息子ちゃんが帰ってきたわ!」


高級シルクのルームウェアを身にまとったアウレルが、勢いよく外に飛び出してきた。この美しい女性は、息子の後ろに二人の見知らぬ他人がいることなど微塵も気に留めず、ルカの顔が瞬時に引きつったことにも気づかないまま、彼の両頬を愛おしそうにムギュッとつねった。


「ママ……頼むから、人前でセナって呼ぶのやめてよ。俺の名前はルカ。ル・カ! セナなんて女の子みたいな名前じゃん! 俺は男らしくてマチョな男なんだよ!」


ルカは即座に抗議した。前世のバイクタクシー運転手としての魂が、こんなフェミニンな名前で呼ばれるたびに激しくのたうち回るのだ。


「嫌よ! この家の中では、あんたはどこまでいってもセナ。以上、決定!」


アウレルは腰に手を当てて、つんとそっぽを向いた。その不毛な言い争いを聞いていたザビエルは、後ろでスッと背筋を伸ばした。


普段は死んだ魚のようにつぶらな彼の瞳が、親友の新たな弱みを発見したことで、突如として意地悪にギラついた。


(お荷物、お前は前世に比べて、今世ではずいぶんとマシな家族を引き当てたようだな。少なくとも、母親に愛されるという経験をこの人生では味わえている……だが、それはそれとして……)


ザビエルは邪悪な笑みを浮かべると、わざとらしくフォーマルな咳払いをし、まるで中世の宮廷仕えの執事のように、美しく洗練されたお辞儀をしてみせた。


「こんばんは、アウレル伯母様。お初にお目にかかります。私はザビエルと申します。ご息女……失礼、機能的な本名が『セナ』であらせられる彼の、学校の友人でございます」


ザビエルはわざと「セナ」という言葉を強調し、勝ち誇ったような視線でルカをからかった。


「ザビエルのクソ野郎、黙ってろ!」


ルカは首の筋を浮き立たせながら、小声で毒づいた。


アウレルは自分に味方ができたと感じ、満面の笑みを浮かべた。


「あら! セナの今度のお友達、ものすごく礼儀正しい子ね! さあ、中に入ってちょうだい。ちょうどご飯をたくさん作ったところなのよ」


この家へ初めて足を踏み入れたラッファは、どこか気まずそうに後に続いた。彼にとって、これほど「普通」の、そして温かい母親と息子のやり取りを見ることは、まだ少し縁遠いものに感じられた。


広々としたリビングに到着した瞬間、室内の空気が一変した。高級本革ソファの上には、読書用眼鏡をかけ、iPadの画面を鋭い目で見つめる一人の初老の男性が座っていた。彼の名はデオ。ビジネス界の表舞台で恐れられている、冷酷無比な凄腕CEOである。Divマネージャーを一睨みするだけで震え上がらせるほどの威厳を持っていた。


足音に気づいたデオはiPadを置いた。彼はルカを鋭く睨みつけ、それからラッファとザビエルへと視線を移した。大企業の支配者としての圧倒的なオーラが放たれ、初めて彼を見る者を容赦なく威圧する。


「今何時だと思っている? 帰りが遅い。そこの連中は誰だ?」


デオは低く、重みのある威厳に満ちた声で冷たく問い詰めた。


(はん、あのクソ親父、どうせ服の下に体型補正のコルセットでも巻いて背伸びしてんだろ。まあ、今のところ俺やママに恥をかかせないように、人前でだけは体裁を保ってくれてるみたいだけどな……)セナ(ルカ)


は心の中で鼻で笑い、面倒くさそうに目をそらした。


ラッファとザビエルは反射的に息を呑んだ。この大富豪CEOの放つオーラは伊達ではない。


冷酷無比な大ボスの典型であり、実のところ、自分たちの新たな父親であるアジズやアルヤのオーラとも引けを取らないものだった。


しかし、なぜかその空気感には、どこか奇妙な違いが含まれていた。


「お前たち……私の息子をいじめているわけではないだろうな?――」


パシッ!


丸められた分厚いファッション雑誌が、突如として冷酷なCEOの肩口へ綺麗に不時着した。


「あなた! セナのお友達にそんな怖い顔をしないでちょうだい! 眉間にシワを寄せないの。シワが増えたら、私、マダムのお茶会で新しい若い男でも捕まえちゃうんだからね!」


お盆にのせたシロップジュースを抱え、給湯室から戻ってきたばかりのアウレルが頭ごなしに叱りつけた。


わずか一秒にも満たない時間で、伝説のCEOが誇る冷徹な防壁は、ラッファとザビエルの目の前で跡形もなく崩壊した。先ほどまでの鋭い眼光は一瞬にして消え失せ、百パーセントの


「愛妻家・恐妻家モード」へと完全移行したのだ。「えっ……あ、ああ、ごめんよ、ハニー。そんなつもりじゃなかったんだ」


デオは狼狽しながらも、すぐに妻の腰に手を回し、持ちうる限りのとろけるような甘い笑みを浮かべた。


「若い男だなんて言わないでくれ、ハニー。私の心臓は繊細なんだ。君が昨日おねだりしていた化粧品会社の株、丸ごと買い占めてあげようか? だからもう、お茶会には行かないでおくれよ」


ルカは己の額を手で押さえた。新しい家族の威厳が、ものの数秒で消滅したのを感じたからだ。


「親父、頼むから俺の友達の前ではCEOとしてのプライドを保ってくれよ……」


我に返ったデオはわざとらしく大きな咳払いをし、床に散らばった威厳を必死にかき集めようとした。彼はぎこちない動作でザビエルとラッファに視線を向けた。


「ゴホン。……まあいい。お前たち三人、まずは部屋に行って着替えてきなさい。それから一緒に夕食にしよう」


「はい、おじ様。ありがとうございます」ラッファは、兄の新しい父親が見せたあまりの豹変ぶりに、まだ少し呆気に取られながらもそう返した。


一方、ザビエルはうんうんと頷きながら、ルカの後を追って二階へと階段を上っていった。


その道中、ザビエルはわざとルカの耳元に顔を近づけ、淡々と、しかし致命的な低音で囁きかけた。


「セナ……。私に洗面所の位置を教えてくれないか、セナ。埃まみれになったこの手を洗浄したいんだ、セナ」


ルカは拳を限界まで固く握りしめた。今すぐにでもザビエルを二階から突き落としたい衝動を必死で抑え込む。


「ザビ、お前次その名前で呼んだら、お前の『悪霊心理カウンセリング』の事業、リリース前に確実に破産させてやるからな!」


ザビエルは片方の眉をピクリと上げただけで、今夜の勝負に完全勝利したと言わんばかりの余裕を見せた。


「もういいよアニキ、あんな奴の言うことなんて放っておきなよ」


ラッファが兄の肩をポンと叩いてなだめた。ルカは深くため息をついた。


「今日の夕食はパスだ。それより、さっきの件で重要な話をしたい」ザビエルとラッファは納得して頷き、そのままルカの部屋へと足を踏み入れた。


部屋の扉がカチャリと閉まった瞬間、ルカは即座に内側から鍵をかけた。ザビエルに「セナ」とからかわれた怒りはどこへやら、彼の瞳の奥には突然、きらきらとした「円(お金)」のマークが浮かび上がっていた。


守銭奴としての魂が激しく燃え上がったルカは、勢いよく勉強机を叩いた。


「ザビ! さっき車の中で言ってたアイデア……ヤバい、天才すぎる! なんで今まで気づかなかったんだろ!?」


大興奮のルカは、すぐさま白紙の紙とボールペンをひったくるように掴んだ。上着を脱ごうとしていたラッファは、あまりの温度差に唖然としながら兄を見つめた。


「おい、アニキ? 車内であの話をしてた時は、今にも死にそうな顔してただろ。なんで今になってお前が一番乗り気になってんだよ」


ザビエルはルカの学習椅子にゆったりと腰掛け、部屋の壁と同じくらい無表情な顔のまま、胸の前で腕を組んだ。


「ラッファ、理解してやってくれ。君の兄の魂は、一時的な金融刺激に対して極めて敏感に反応する構造になっている。要するに、ただの守銭奴だ」


「おい、元・クソ毒舌システム! 黙ってろ!」


ルカはザビエルに鋭いツッコミを入れ、再び手元の紙へと意識を集中させた。


「過去の話を引っ張り出すなよ。いいから俺の話を聞け。このビジネスチャンスはデカいぞ。現代の悪霊どもは、人間のモラルの低下のせいでメンタルがボロボロになってる奴が多いんだ。この未開拓の市場、俺たちが絶対に独占するぞ!」


ルカは目まぐるしい速さで紙に文字を書き殴り始めた。


「よし、それじゃあ『悪霊心理カウンセリング・エージェンシー』の組織図を分けるぞ。まず俺。俺は天よりも高い共感力を持ってるし、将来のための資金も必要だからな。役職はチーフ・サイコロジスト(首席心理カウンセラー)だ。一回あたりのカウンセリング料は……金の延べ棒か、歴史的価値のある高級アンティーク骨董品で手を打とう」


ザビエルは片方の眉を上げた。正直なところ、このあまりにも適当な役割分担には困惑を隠せない。


「極めて自己中心的な組織分析だな。では、私とラッファの機能は何だ?」


「お前だよザビエル。お前は洗濯板みたいに顔が無表情だし、喋り方はフォーマルだけど人の心をえぐる天才だろ。だからお前は受付兼・登録管理アドミン(事務)にピッタリだ」


ルカは何の悪びれもなく指を差した。


「お前の任務は、幽霊たちが俺の部屋に入る前に、最初の愚痴や相談内容を記録することだ」


ザビエルは静かに頷き、この新しい世界での己の宿命を受け入れた。



「了解した。幽霊たちがあなたと対面する前に、メンタルヘルス問診票を正確に記入させることを保証しよう。セナ先生」


「ルカだ!! 俺の名前はルカだろ、ザビエルのクソ野郎!!」


ルカは階下に声が響かないよう、必死に声を抑えながら激怒した。ラッファは諦めたようにため息をつき、部屋の壁に背中を預けた。


「で、俺は何をすればいいんだ、アニキ。まさか幽霊の買い出し係とか言わないよな」


「そんなわけないだろ、ラッファ! お前はアグレッシブで狂暴だし、そのオーラは日本の『おに』よりもよっぽど恐ろしい。お前は今日から正式に警備部門のトップ、つまりセキュリティ(用心棒)だ!」


ルカは誇らしげに胸を張った。


「任務はシンプルだ。もし暴れる患者の幽霊がいたり、集団ヒステリーを起こしたり、カウンセリング料を踏み倒そうとする奴がいたら……その不届きな怪異の組織ごと、跡形もなく速攻で叩き潰せ!」


ラッファは鼻で笑ったが、その口元は微かに釣り上がっていた。


「悪くないな。ちょうどさっきから、何かをぶちのめしたい気分だったんだ」


ラッファは静かに窓の外へ視線を向け、車内で見せたヒロのあの不気味な表情を思い出し、再び苛立ちを募らせていた。


(集団ヒステリー? 患者は全員幽霊なのに、幽霊が別の幽霊に憑依することなんてあるのか……?)


ザビエルは一人でそんな数理的な矛盾について思考を巡らせていた。


「よし、そこで今の一番の問題はオフィスの場所だ」


ルカはボールペンの頭でトントンと顎を叩いた。


「まさか俺の家で開業するわけにはいかないだろ? 下にいるCEOの親父に見つかったら、即座に神社から神主を総動員されて、この部屋ごとガチの『お祓い』をされちまう」


ザビエルは指をパチンと一度鳴らし、かつてのシステムとしての機能さながらに、正確な位置データを提示した。


「私のローカルメモリから周辺環境をスキャンした結果、この住宅街の最果てに、極めて不気味な放置された空きアキヤが存在する。建物の構造は未だ堅牢であり、純粋なホラーの美学を備えている。


そして最も重要なのは、所有者不在のため賃料が無料であるという点だ」ルカの目が一瞬でギラギラと輝き出した。


「路地裏の最果てにある空き家!? 完璧じゃん! そこを俺たちのメイン本部にしよう!」


「よし、じゃあ今夜からさっそく――」


コン

コン

コン


突如として外から扉を叩く音が響き、おかしなビジネスプランに熱中していた三人の少年の動きがピタリと止まった。


「セナ、夕ご飯の時間よ。お友達も一緒に連れてきなさい」


ザビエルは期待を込めて扉を見つめた。実のところ、彼もすでに腹が減っていたのだ。あとはルカの返答を待つだけだ。親友である彼なら、当然自分に食事を振る舞ってくれるはずだ。そう、当然――


「みんなお腹空いてないって、ママ!! 俺もまだいらない!」


ザビエルの目が限界まで見開かれた。何食わぬ顔で「お腹は空いていない」と言い放ったルカを、蛇のような鋭い眼光で睨みつける。


おい勘弁しろ、俺は腹が減っているんだ。この親友は他人の胃袋に対する配慮という概念が欠如しているのだろうか?


(ルカのクソ野郎……。こいつは人間を精神的に効率よく痛めつける天才だな……)


当のシニカルな視線を浴びている少年は、何の罪悪感もない無垢な表情を浮かべていた。


「あら、本当に? 嘘ついちゃダメよ?」


外からアウレルの声が返ってくる。


「本当だって、大好きなママ。みんなさっきもう食べてきたんだよ。なぁ、そうだろ?」


ルカは逆にザビエルを鋭い目で睨みつけ、「話を合わせろ」と無言の圧力をかけた。


「私は腹が――」


ザビエルが言葉を発するより早く、ルカは電光石火の動きでザビエルの口を自分の手で力任せに塞いだ。


「早くお腹空いてないって言え」


ルカの囁き声に、ザビエルは再び限界まで目を丸くして呆れた。


「早くしろ!!!!」


(このバカ、俺の口をあんたの手で完全に塞いでおきながら、一体どうやって声を出せって言うんだ、クソが)


ザビエルの顔面から溢れ出る殺意を、ルカは正確に読み取った。少年は慌てて親友の口から手を離した。


「わりぃ、お前。つい勢いで」


「セナ? セナちゃん!?」


「……お腹は空いていません、伯母様」ザビエルは少し不機嫌そうな声で、外に向かって返答した。


「あら、そうなのね。じゃあ、後でお腹が空いたら下に降りてきなさい。使用人の子にお菓子でも部屋まで届けさせるからね」


「はーい、ママ!! ありがとう!!」


ルカは素早く大声で返した。母親の足音が遠ざかっていくのを聞届けた後、ルカが再びザビエルに視線を戻すと、そこにはすでに漆黒の闇のようなオーラを身にまとった元システムが立ち尽くしていた。


「お荷物、お前は今日、俺の精神力を限界までテストしやがったな……。おかげで今日、人生の貴重な教訓を得たぞ」


「教訓って何だよ、お前」


「本日の教訓。友人の親の親切なオファーは信じるべきだが、『もうお腹いっぱいだから大丈夫』という友人の言葉は絶対に信じるな、だ。俺の胃袋だってお前の友人だぞ。これ以上、不当な虐待ギブ・アンド・テイクを強いるのはやめろ」


ルカはザビエルの抗議を聞くどころか、完全に聞こえない振りを決め込んでいた。


「はいはい、俺が悪かったよ、悪かった。……ラッファ、お前もお腹空いてるか?」


ラッファは短く一度だけ頷いた。彼はまだ車内でのヒロのあの奇妙な眼差しが頭から離れず、苛立っていた。


「まじか、ラッファ。ごめんな。よし、今すぐご飯を持ってこさせるから」


ルカは言うが早いか、すぐに部屋の扉を開けて階下へと走っていった。


(ラッファが相手の時だけは電光石火の動きだな。俺がさっきから空腹を訴えてた時は、完全に耳の聞こえない障害者みたいな振りをしやがって……)


ザビエルは不機嫌そうに鼻で笑った。


しばらくして、ルカがようやく戻ってきた。しかし一人ではなく、彼の後ろにはたくさんの料理が載った大皿を抱えた数人の使用人メイドたちがついてきていた。


すべての料理を机の上に並べ終えると、使用人たちは丁寧に一礼して部屋を退室していった。


「おいお荷物、本気でこれ全部俺たちに食わせる気か?」


「アニキ、これ量が多くないか?」


「いいんだよ。実は俺もちょっと腹減ってたしな。たっぷり食え、この後の『夜の活動』のためのエネルギー補給だ」


ザビエルとラッファは、珍しくケチではないルカの太っ腹ぶりに内心感心しながら、さっそく三人で夜食を貪り始めた。


それからしばらくして、あの大盛りだったはずの料理は綺麗さっぱり消滅していた。驚くべきことに、彼らはそれぞれ大盛りご飯を5杯ずつ完食していたのだ。


「ヤバいな。俺たち、ただ腹が減ってただけか? それとも単なる大食いか?」


ルカは空っぽになった大量の皿を信じられないといった目で見つめた。「両方だろ」ラッファが淡々と答えた。


「最初からこうして飯を配給していればいいんだよ、お前」


ザビエルは満足そうにソファの背もたれに頭を預けて呟いた。


「お前さ、人間になってから本当に大食いになったよな。元システムだった頃のお前からは想像もつかない変わりようだけど……まあいい。これはこの後の徹夜の労働のための前祝いだ」


ルカが壁の時計に目をやると、針はすでに夜の11時を指していた。


家の外は完全に静まり返っており、階下からは消されたテレビの砂嵐の音さえ聞こえない――彼らの新しい両親が、すでに寝室へと入って眠りについた証拠だった。


「親父もママも寝静まったことだし……どうだ? 今夜のうちにさっそく、あの場所へ現地調査ロケハンに行かないか?」


ルカは陰謀を企てるような小声で囁いた。


「俺も行く。ついでにセキュリティの安全性を確認しておきたいからな」ラッファが乗る気になり、指の関節をパキパキと鳴らした。ザビエルは少しヨレた制服の襟をピシッと整えた。


「出発しよう。悪霊心理カウンセリングの開業準備は、極めて効率的に進めるべきだ」


「じゃあ、さっさと着替えてこい。すぐに出るぞ」


二人はルカの言葉に頷いた。そして数分後、三人が私服に着替え終えると――。


まるでプロの窃盗集団さながらの洗練された隠密行動で、転生者である三人の少年はルカの部屋の窓から静かに這い出し、庭のフェンスを軽々と飛び越えた。


そして、夜の静寂に包まれた住宅街の路地裏を、最果ての空き家に向かって早足で突き進んでいった。彼らは知る由もなかった。


その暗黒に包まれた放置された空き家の内部で、すでに彼らの記念すべき『最初のクライアント』が、部屋の片隅で膝を抱えて己の不条理な運命を呪いながら泣いているという事実を。


街灯が電力不足でチカチカと不気味に点滅する中、夜の空気は一層冷たさを増していった。


路地の突き当たりに、その建物はひっそりと佇んでいた。2階建ての古い洋館。四方を鬱蒼とした椎の木と雑草に囲まれた、最果ての空き家だ。


普通の人間が見れば、この建物は純粋な悪夢の具現化そのものだった。


外壁の塗装は剥がれ落ち、まるで乾いた血痕のような黒いシミが至る所にこびりついている。


窓ガラスはことごとく粉砕され、建物内部から漏れ出る冷気は非常に濃密で、半径10メートル以内に近づくだけで常人の総毛を逆立たせるには十分だった。


要するに、普通の正気な人間が夜中にここを通りかかれば、恐怖のあまり悲鳴を上げて、全力でおきょうを唱えながら逃げ出すレベルの場所である。文字通り、自ら進んで死地に飛び込むようなものだ。


しかし不幸なことに、錆びついた鉄格子の門の前に立つ三人の少年の中に、正気な人間は一人も存在していなかった。


「ふむ、建物の構造は悪くないな。大規模なリフォームは必要なさそうだ」


ルカはスマホのフラッシュライトで前庭を照らしながら、平然とコメントした。


「埃を少し掃除して、ザビエルのための受付カウンターを設置すればすぐに使える」


「鉄門には、人間を遠ざける結界のエネルギーをコーティングしておく必要がありますね。怪異のカウンセリング中に、近隣の住民に余計な介入をさせないために」


ザビエルがかつてのシステムのような無機質なトーンで付け加えた。ラッファが先頭に立ち、朽ち果てた巨大な木製の玄関扉を躊躇なく蹴り飛ばした。


バターン!!!!


扉が勢いよく開き、夜の静寂を切り裂くような長い軋み音が響き渡った。


彼らの到来を歓迎するかのように大量の埃が舞い上がり、鼻を突くようなカビ臭い湿った空気が押し寄せる。


「アニキ、物理的な罠はなさそうだ」


暗黒に包まれた室内の周囲を見渡した後、ラッファが告げた。彼の天才的な戦闘本能は、この不気味な空間の圧力に対しても一切の動揺を見せていなかった。


三人は一歩、また一歩と足を踏み入れ、かつての住人が残していった壊れた家具の残骸が散らばるリビングへと進んだ。ルカは満足そうに笑みを浮かべた。


彼の目には、この呪われた心霊スポットが、莫大な富を生み出す新たな『ガリ(現金の山)』にしか見えていなかった。


「よし、空間の機能性は非常に高いな」


ルカは埃のついた両手をパンパンと叩いた。


「明日からいくつかの機材を運び込むぞ。ザビエル、お前はさっそく登録用の問診票のフォーマットを――」


ルカの言葉が、突如として途切れた。


ズズズ……ズルズル……ヒック……ううっ……。


2階の方向から、微かだが何かが擦れるような音と、小さなむせび泣きが聞こえてきたのだ。


その声は非常に哀れで、しかし奇妙なことに、その泣き声からはこれまでの怪異オンリョウが放つような怨念ではなく、どこか現代風の、強烈な『生きづらさとフラストレーション』の波動が感じられた。ラッファは即座に警戒態勢を取り、ルカを庇うように一歩前に出ると、右手でいつでも殴りかかれるよう拳を固く握りしめた。「上に、何かがいる」ラッファの声は一瞬で氷点下まで冷え切った。



ザビエルは片方の眉を上げ、2階へと続く古い階段に冷徹な視線を向けた。「音響分析に基づき結論を導き出します。対象は現在、深刻な情緒的うつ状態にある可能性が高い。


これが我々の潜在顧客クライアントである確率は98%です」ルカの顔に、この上なく邪悪で満面のビジネススマイルが広がった。


暗闇の中で彼の瞳がギラリと円のマークを輝かせる。


「まだロケハンに来ただけだってのに、おいおい……『日頃の行いが良い子』には神様のご褒美が早いね。最初のカモ(お客さん)が、もう上で待っててくれてるぞ!」


恐怖などという概念を微塵も持ち合わせていないルカを筆頭に、三人は軋む階段を一歩ずつ静かに上り始めた。ラッファが迎撃の構えで背後を固め、ザビエルはすでにスマホを構えて最初の管理データを記録する準備を整えている。


2階の、扉が半分開いた部屋の手前に到着した。中からは、あの哀れな泣き声と、どこか『みじめな負のオーラ』がはっきりと漏れ出していた。


ルカは静かにドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を押し開けた。その先に一体何が待ち受けているのか、扉を開けるその瞬間まで、彼にはまだ知る由もなかった――。



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