手品でニワトリを召喚しようとしたら、ただの鳥の糞が降ってきた件について
オリエンテーション2日目、それは「ポンコツ3人組」にとって、まさに忍耐の限界を試す試練の1日だった。
当然だろう。今のアクティビティは、魚も一瞬で焼き上がるほど熱いグラウンドでの屋外活動なのだから。
「このオリエンテーションのルール作った奴、マジで7日7晩、足が攣り続ける呪いにでもかかれよ」
ザビエルは首にかけたスポーツタオルで顔を仰ぎながら毒づいた。
「おいおい、そんなこと言うなよ。これも『洗礼』ってやつだろ」
ルカはなだめようとしたが、彼自身、髪がペッタリするほど汗だくだった。
「神様、雨を降らせてください。脳みそが沸騰して、可愛い先輩たちを拝む余裕すらありません」
ルカはドラマチックに祈りを捧げた。ザビエルはその頭を軽く小突いた。
「お前は女のことばっかだな!たまには学校の勉強のこととか考えろよ!」
ルカは小突かれた頭をさすった。
「だってさ、今の人生、金持ちの家に生まれちゃったから、お金の心配がないんだよ。……なぁ、アリの養殖ビジネス始めない?」
「は?何のためにアリを育てるんだよ?」
ザビエルは眉をひそめて怪訝そうな顔をした。
「戦場に送り込むんだよ。アリがゾウを倒す話、知ってるだろ?ゾウに勝てるなら、人間に勝つなんて余裕じゃね?絶対大儲けできるって」
ザビエルは呆れて目をそらした。目の前にいるこの男、本当に金の亡者である。
「お前さ、少しは感謝しろよ『お荷物』。昔と違って、今はクソほど金あるんだろ?」
「感謝してないわけじゃないよ、相棒」
ルカは芝生の上に大の字に寝転がった。
「ただ、正直者がいつもバカを見るこのシステムに退屈してるだけさ」
「出たよ、哲学者モード」
「いいか? なんで悪人が目立つか分かるか? この『金がすべて』の世界じゃ、ただの善人は格好の餌食になるだけだからさ。悪人になれって意味じゃない。でも、『牙を持つ善人』にはならなきゃダメだ。強さのない優しさなんて、ただの都合のいい足拭きマットにされるだけだぞ」
「おいお前、ニュースの見すぎだろ」
「世間は『成功するまで死ぬ気で働け』とか言うけどさ、現現実はメンタルが崩壊するだけ。もし努力だけで金持ちになれるなら、現場の作業員が世界一の大富豪になってるはずだろ。マインドセットも大事だけど、結局は環境(親ガチャ)と公平なシステムの方が圧倒的に重要なんだよ」
「ルカ――」
「ぶっちゃけ、壁にぶつかっただけで夢を諦める今の若い奴らの気が知れないよ。他人の人生の『章』と自分のを比べるのをやめればいいのに。他人は今、物語のクライマックスにいるかもしれないけど、自分はまだ『チュートリアル』の段階かもしれない。スローペースでいいんだよ、立ち止まらなければさ」
「こんなに暑いと、お前の脳みそ、逆に冴え渡るんだな」
「アニキの頭は暑いときほど回転が速くなるんだよ。お前みたいにガチガチに固まってないの」
ラッファはザビエルを忌々しそうに睨みつけ、睨まれた本人は訳が分からず困惑した。
(は? 俺が何したってんだよ。何もしてねぇだろ、このブラコンめ!)
ザビエルは心の中で毒づき、不機嫌そうな顔のままルカの隣に大の字に寝転がった。
休憩していると、突然ヒロが3本のペットボトルを持ってやってきた。
「ルカ先輩、ラッファ先輩、ザビエル先輩……これ、飲み物です。購買で買ってきました!」
寝転がったばかりのザビエルはすぐに起き上がり、ボトルをひったくるように受け取ると、鋭い目つきで品定めしてからヒロを無表情で見つめた。
「警告。これは『有名ブランド』のラベルを真似た、ただのノーブランドの激安ボトルだ。腎臓の機能を維持したいなら、飲まないことを勧める」
ルカは思わず自分の唾でむせた。
「は? ヒロ、これどこで手に入れたんだよ?」
ルカも一緒に起き上がりながら言った。
ヒロはきょとんとして、無垢な目を瞬かせた。
「え、ええっ? さっき職員室のウォーターサーバーから汲んできたんです、先輩。タダで飲めるものかと思って……」
ラッファはこめかみを指で押さえた。
「あれは先生専用のウォーターサーバーだろ、バカ! しかもこれ、まだちゃんと沸騰してないぞ!」
「ごめんなさい、先輩……本当に知らなかったんです。ただ、先輩たちの力になりたくて」
ヒロはうつむき、肩を震わせた。その目は今にも涙をこぼしそうだった。
見かねたルカは大きなため息をつき、ヒロの肩をそっと抱き寄せた。
「よしよし、もういいよ。気にするな、ヒロ。気持ちは嬉しかったからさ。それに、ここの水道水はフィルターがついてるから、きっとまだ安全だよ」
ザビエルは、そのうち自分たちの愚かさのせいで絶滅するであろう二匹の原始人を見るような目で彼らを見つめていた。
すると驚いたことに、突然学校のスピーカーからアナウンスが流れた。『続きまして、各グループの代表者はステージに上がり、かくし芸を披露してください!』
「誰が行く?」
ルカが尋ねた。ラッファはザビエルを指差した。
「ザビエルでいいだろ。ヒューマンビートボックスとか何かできるだろ」
「通知。私に芸術的な才能は一切ない。私の才能は、10秒以内に人間の死亡確率を計算することだけだ」
ザビエルはまだ不機嫌そうな声で言い返した。
ヒロが目を輝かせながら元気に手を挙げた。
「はい! 先輩、僕、手品ができます!」
「手品?」
ルカは興味をそそられた。
「よし、乗った! いけ!」
ヒロはうなずくと、そのままステージの前へと歩み出た。
彼は空っぽの箱を取り出した。
「タラーン! 今から、イケメンのルカ先輩を……チキン(ニワトリ)に変えてみせます!」
「ニワトリだと?」
ラッファのオーラが一瞬で禍々しいものに変わり、ヒロを射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけた。
「落ち着けよ。これ、ただの手品だから。俺が本当にニワトリになるわけないだろ」
ルカは必死に弟をなだめようとした。
「それでは、始めます!」
グラウンドが静まり返った。
全員が固唾をのんで見守る。ヒロは箱を閉じ、わけのわからない呪文をぶつぶつと唱えた後、勢いよく箱を開けた。
……空っぽだった。
「あれ?」
ヒロは頭をポリポリと掻いた。
「どうやら、ニワトリさんが照れちゃったみたいです」
「……」
グラウンドを包んでいた静寂が、一瞬にして凍りつくような沈黙へと変わった。
聞こえてくるのは、どこからか飛んできたカラスの「アホ、アホ」という幻聴と、ルカの諦めきった顔を通り抜ける熱い風の音だけだった。
「ヒロ、ニワトリはどこだよ?」
ステージの下からルカが声をかけた。
引きつる目元を隠しきれないまま、必死に笑顔を作っている。ヒロはパニックになりながら空の箱をひっくり返した。
「え、ええっ? おかしいな。昨日の夜の練習では、隣の家のニワトリをこれに閉じ込めるの成功したんですよ、先輩!」
ザビエルはすぐに体を起こし、分析するような鋭い目でステージを見つめた。
「通知。箱の構造と物理法則から導き出される結論は一つ。ニワトリが底の穴から逃げ出したか、お前が昨夜、無自覚に家畜の窃盗を働いたかのどちらかだ」
「違いますよ、ザビエル先輩!」
ヒロは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして叫んだ。
「ちょっと待ってください、予備の呪文を試しますから!」
ヒロは目をぎゅっと閉じた。震える手をルカに向け、ステージのマイクに向かって大声で叫んだ。
「チちんぷいぷい! ニワトリになれーー!」
キーーーーーン! バチバチバチッ!
呪文が唱えられた瞬間、学校のスピーカーから激しいハウリングが発生した。
鼓膜を突き刺すような高音がグラウンド中に響き渡り、全校生徒が耳を塞ぐ。
同時に、校舎の屋根にとまっていた鳩の群れが驚いて一斉に飛び立った。不運なことに、その中の一羽がお腹を下していたらしく、見事なホワイト「ボム」をルカの頭の真上に落とした。
ベチャ。静まり返っていたグラウンドは、一瞬にして何百人もの新入生と生徒会の先輩たちの爆笑に包まれた。
「うそだろ?! ルカが本当に鳥になったぞ! しかも、鳥のフンっていうボーナス付きで!」
後ろの列の生徒が叫んだ。ラッファの周囲のオーラが一瞬で漆黒に染まった。
目は血走るように赤くなり、今すぐにでも誰かを切り刻みそうな勢いだ。
「ヒロ……お前、俺のアニキに何しやがった……?」
ラッファは首の筋を浮き立たせ、一歩一歩前へ進みながら低く唸った。
「ごめんなさい、ラッファ先輩! 鳥の呪いをかけるつもりじゃなかったんです!」
ヒロはすぐにステージの上に這いつくばり、役に立たない手品の箱の影に隠れた。
一方、ルカはその場で完全に固まっていた。
頭のてっぺんに触れ、指についた液体を見つめると、虚無の表情で空を見上げた。
さっきまで熱く語っていた人生の哲学が、熱風と共に一瞬で蒸発していくのを感じた。
「ザビ……」
ルカは震える声で静かに呼んだ。
「なんだ、お荷物」ザビエルは淡々と返した。
「俺、さっき『善人は牙を持たなきゃいけない』って言ったよな?」
「あ言ったな」
「じゃあなんで、この金がすべての世界で、善人が登校2日目に鳥のフンを頭に落とされなきゃいけないんだ?」
ザビエルは無表情のままルカの肩をポンと叩き、どこから取り出したのか分からないハンカチを差し出した。
「通知。強さのない優しさは、ただの足拭きマットにされる。だが、優しさにヒロの失敗手品が組み合わさると、鳥たちの公衆便所にされることが科学的に証明された。諦めろ、少なくともお前の冷え切った脳みそは、その冷たい液体のおかげで少しは冷やされたはずだ」
「ザビエルのクソ野郎ーー!」
ルカがついにキレて崩れ落ちた。
その頃、ステージの前では、ラッファが泣き叫びながら手品の箱を抱えてジグザグに逃げ回るヒロを、本気で追い回していた。
オリエンテーション2日目、それは「ポンコツ3人組」のプライドが跡形もなく粉砕された日となった。
長いドラマを経て、ルカ、ラッファ、ザビエル、ヒロの4人は現在、相談室にいた。
彼らがそこで何をしているかと言えば、部屋のソファに寝転がって涼んでいるだけである。
「あんたたち、入学してまだ2日目なのに、もう問題を起こすなんてね」
床のゴザに座り、今朝学校の近くで買ってきた大盛りの牛丼とかき揚げを食べながら、ハスナ先生が言いました。
「いや、さっきのは予期せぬアクシデントですよ、先生。大目に見てください」
ルカはそう返しながら、ハスナ先生のかき揚げを一つ、ひょいとつまもうとした――。
パシッ!!!!
「いったーー!!!」
この大雑把なカウンセラーの先生は、自分が血の滲むような努力(皿洗いのバイト)で手に入れた食べ物を奪おうとしたルカの手を、
容赦なく軽く叩いた。
「日頃の行いが悪いから、そんな罰が当たるのよ。あんたたち、将来が手遅れにならないように、もっと死ぬ気で勉強したほうがいいんじゃない?」
ハスナ先生はかき揚げをもぐもぐと食べ進めた。
「はぁ、先生。そんなの綺麗事だって知ってるでしょ。必死に勉強するのはただの前提条件。今の時代、明るい将来ってのは『何を知っているか』じゃなくて『誰を知っているか』のコネで決まるんですよ。毎秒スキルをアップデートしろって言われるくせに、いざ卒業して就活したら、企業が求めるのは『未経験可、ただし実務経験5年以上』。あれは社員を募集してるんじゃなくて、ただの労働の生贄を探してるだけでしょ?」
ルカは皮肉たっぷりに言い返した。
(神様、私、前世でこの子を政府への恨み辛みを詰め込んで創造しちゃったのかしら? マジで口が達者すぎるんだけど……)
ハスナ先生は心の中で頭を抱えた。
「それだって、経験を積めってことでしょ。経験は最大の師って言うじゃない――」
「何が師ですか。確かに経験は先生かもしれないけど、その先生がブラックすぎるんですよ。燃え尽き症候群になるまで追い込まれて、サービス残業をさせられて、それを『メンタルを鍛えるプロセスだ』とか言われる。メンタルを鍛えたいならジムにでも行きますよ。最終的にトラウマしか残らない『経験』のために、貴重な労働力を搾取されたくありませんね」
「まあ、耐えなさいよ。神様の導く道なんて、誰にも分からないんだから――」
「神様の道はミステリアスですけど、この国の『金持ち』が通る法律の道はめちゃくちゃ明確に見えますよ? 渋滞なし、最短ルートのVIPアクセスですから」
(このガキ、論破モードに入ると怖すぎるんだけど!)
若い女性教師は心の中で悲鳴を上げた。
「それに先生、僕たちってのは――」
「ストップ! 口を閉じなさい。私はご飯を食べたいの。あんたが喋り続けると食欲が失せるわ」
「食欲が失せる? そのセリフ、1000円分のかき揚げと大盛り牛丼を2杯完食してから言います?」
ハスナ先生は最後のかき揚げを、ルカの口に力ずくで押し込んだ。
「んぐっ……ほら、これで静かになったわ」
「何するんですか先生! このイケメンの僕に、なんて乱暴な食べさせ方を……あ、でも……このかき揚げ、めちゃくちゃ美味いですね。これどこで買ったんですか?」
ルカは文句を言いながらも美味そうに咀嚼した。
「あ、そうだ、思い出した!」
かき揚げを飲み干したルカは、そのまま机の上にあったハスナ先生のコップを奪い、中の水を一気に飲み干した。
(この非道なガキめ……)
型破りな先生は心の中で毒づいた。
「隣のクラスの奴から聞いたんですけど、この学校には、昔の共通テストでカンニングがバレて卒業できなかった女子生徒の幽霊が出るらしいですよ」
ルカはわざとらしい怪談口調で囁いた。購買で買ってきたパックの牛乳を静かに飲んでいたザビエルは、冷めた目でルカを見つめた。
「統計的に見て、この手の学校の怪談の95%は、黒髪ロングの女性、校庭の大きな木、そして学業の失敗という要素で構成されている。都市伝説としてのクリエイティビティが著しく欠如しているな」
「でも先輩! 僕、さっきその近くを歩いていたときに、これを見つけたんです!」
ヒロが突然、黄色く変色した古びた紙切れを机の上に差し出した。
ラッファがその紙を取る。そこには赤インクで殴り書きされた文字があった。『正午12時に、この扉を3回叩く者、10秒以内に最も大切なものを失うだろう』ルカの目が一瞬で輝いた。
彼の冒険心(という名の暇を持て余した魂)が暴れ出す。
「ヤバい、これ完全に陰謀論のやつじゃん! 今日のオリエンテーションが終わったら、放課後に調査しに行かない?」
「嫌だ。カロリーの無駄」
ザビエルは冷たく一蹴した。
「頼むよザビ! この謎を解き明かせば、生徒会の連中相手に一発有名になれるって! もうただの『お笑いトリオ』なんて呼ばせないからさ!」
ルカは熱を帯びた声で説得した。ラッファはルカをチラリと見てから、ヒロを鋭く睨みつけた。
「俺も行く。このアニキを一人で放っておいたら、文字通り学校を火の海にしそうだからな」
ハスナ先生はさっきから彼らの会話を聞きながら、呆れたように目を丸くしていた。
「もし化け猫か何か見つけたら私に報告しなさいよ。そいつが死んだ命日を訊きたいから」
「え、何のためにですか、先生?」
「占い師に持ち込んで私の式神(部下)にするのよ。そしたらお金持ちの家に忍び込ませてお金を盗ませられるじゃない。私が汗水垂らして働く必要がなくなるわ」
「だったら、いっそのこと先生が『化けタヌキ』になって化かし合いの術でも使えばいいじゃないですか。僕が化けの術を維持する葉っぱを見張ってますから、先生はタヌキになって村を一周してきてください。もし村人に見つかったら、僕、即座に葉っぱを燃やして自分だけ逃げますけど」
ルカは満面のビジネススマイル(ポンコツ仕様)で言った。
「あんた、本当にビジネスパートナーには向かないわね」
「えー、なんでですか?」
「タヌキになった相方が村人に袋叩きにされてる間、あんたは葉っぱを裏切ってぐっすり寝てるでしょ。私は御免だわ」
そう言い捨てると、ハスナ先生は立ち上がり、学校の給湯室へと足を向けて歩き出した。
オリエンテーション2日目、それは「ポンコツ3人組」のプライドが完全に粉砕された後、さらなる混沌へと向かう日となった。
ちょうど正午12時、昼休みの時間。ほとんどの生徒が食堂や教室でご飯を食べているため、校内はどこか静まり返っていた。
ポンコツ3人組とヒロの4人は、埃をかぶり、大きな南京錠がかけられた旧多目的室の木製扉の前に立っていた。
「よし、誰が3回扉を叩く?」
ルカは生唾を飲み込みながら尋ねた。
大きな古木の木陰にあるその場所は、急に肌寒く、不気味な空気に包まれていくようだった。
「通知。ヒロがその手がかりの紙を見つけた以上、因果応報の法則に基づき、ヒロが責任を取るべきだ」
ザビエルは淡々と言い放ち、ヒロの背中を前に押し出した。
「え、ええっ? でも先輩……」
ヒロはガタガタと震えた。竹箒を握る手が激しく震えている。
しかし、断るのも気まずかったため、ヒロは意を決して前に進み出た。
コン…… コン…… コン……
ヒロが3回、扉を叩いた。全員が息をのむ。
1秒…… 2秒…… 3秒……。
何も起こらない。
「なーんだ、ハズレか。ただのデタラメじゃ――」
ルカが言葉を言い切るよりも早く、突然……
ザザザザーーーッッ!!!




