第74話 菫が陸斗を好きな理由
「メニュー色々あるんだな。普通こういう文化祭の出し物って三品くらいだと思ってた」
「私たちの浴衣カフェもメニュー数はそれなりにありますよ? 知らなかったんですか?」
「いやぁ~メニュー表を見て無かったんだよな。そんなにたくさんメニューを考えてたんだな」
男子連中も中々やるようだ。
うんうん。
「ですが、途中で監督した時に女体盛だとかその他いかがわしいメニューを考えていたので却下してきました」
「……」
前言撤回。
やっぱりあいつらバカだわ。
それを案に出して女子たちに見せていた点も含めていただけない。
あいつらは本当にバカだった。
「それよりも、注文は決まりましたか?」
「ああ、俺はオムライスにしようかな。ドリンクは紅茶でいいや」
「私はパンケーキとコーヒーにしましょうかね。菫、注文いいかしら」
「かしこまりました!」
教室内に立っていた菫に乃々が声をかけるとすぐに菫がこっちにやってくる。
相変わらず綺麗な所作で歩いている。
どれだけ長い時間訓練をすればあんな風に歩けるようになるのだろうか。
「それではご注文をお伺いします」
「俺はこの、ふわとろオムライスと紅茶で」
「私はパンケーキとコーヒーでお願い」
「かしこまりました。10分ほどで出来上がると思いますのでお待ちください」
菫がうやうやしく頭を下げてキッチンとなる教室の方に戻っていく。
「楽しそうですね。菫」
「そうなのか? 俺はいつもとあまり変わらないように見えたが」
「確かに、表情にはあまり出てませんけど足取りが凄く軽いんですよ。ほら」
「なるほど。確かに軽い。てか、スキップしてんじゃん」
先ほどまで全く表情を崩していない菫であったが、感情が足元に出ていた。
なんだか、尻尾を振る犬みたいで見ていて微笑ましい。
「にしても、文化祭と言うのは良い物ですね。みんな笑顔で楽しいです」
「だな。面倒な事務作業とかを頑張った甲斐があるってもんだ」
問題はまあまあ起きているけど、それでも今回の文化祭はかなり楽しい物であると胸を張って言える。
このまま何事もなく、終わってくれればいうことが無い。
「ですね。ひとまずは菫が持ってきてくれる料理を待ちますかね」
「ああ。文化祭とはいえ、この学園の料理はかなりレベルが高いからな。凄く楽しみだ」
さっきのチョコバナナも凄くうまかったし。
しかも、今回は菫のクラスだ。
全員料理ができるとは思えないけど、菫が教えているのであればかなりおいしい物が出てくると期待しても良いと思う。
「陸斗くんってこういう催しにはあんまり参加した事が無いんですか?」
「う~ん、そう言うこともない……と思う?」
「なんで疑問形なんですか? この前の夏祭りの時もかなり物珍しそうに屋台を見てましたし」
「昔はよく参加してたんだけどな。中学に上がってからはそこまで積極的に参加とかはしてなかったからな」
中学に入ってからはヤンキーやったり喧嘩したりで色々忙しくてなかなか祭りとか文化祭に参加できてなかったからな。
言われてみれば、この前の夏祭りが本気で久しぶりなのかもしれないな。
「一つ聞いてもいいですか?」
「答えられることならいいぞ?」
別に今更乃々に隠すようなこともないだろうしな。
何を聞かれても答えようと思い俺は乃々の目をしっかりと見据える。
「陸斗くんはなんでヤンキーになったんですか?」
「ああ、別に特段理由があったわけじゃないぞ? 成り行きで気が付いたらヤンキーって呼ばれるような人間になってたんだ」
「成り行きでなれる物ですか?」
「さあな。でも、実際俺がそうなってるんだから仕方ないだろ。で、中学の時に父親が蒸発してから俺はヤンキーをやめて母親に楽をさせるために勉強を頑張ってるってわけ」
「そんな事情があったんですね」
乃々は少し気まずそうに眼を伏せる。
別に、重い話をしたつもりもないし俺にとってはもう割り切った話だからそこまで気にする必要は無いんだけどな。
「それよりも、俺もお前に一つだけ言いたいことがあったんだ」
「ん? 何でしょうか」
「お前はなんで俺と結婚しようとしてたんだ? 今まで何回も聞いてきたけど明確な理由を教えてくれたことなかったよな」
ずっと気になっていた。
なんで好きなのかは正直そこまで興味が無いんだけど、もし彼女が過去に俺に助けられた恩返しがしたいとかそう言う理由ならやめて欲しい。
そんな事で俺は彼女を縛り続けたくはないから。
「理由はですね……」
「お待たせしました! こちらご注文のパンケーキとコーヒー、ふわとろオムライスと紅茶になります」
飛び切りのスマイルを浮かべた菫が注文品を持ってやってきたのだった。




