第71話 さっそく問題発生!?
「俺……生きててよかった」
「ああ、俺もだ」
「わかるぜ。急ピッチで作業を進めた甲斐があるな!」
文化祭当日の朝のホームルームにて男子たちが涙を流しながらそんなことを言っている。
クラスには浴衣に身を包んだ女子生徒たちがいて、全員レベルが高い。
確かに涙を流すのもわからないでもない光景がそこには広がっていた。
「陸斗くん? 何女の子を眺めて頷いてるんですか?」
「……いや、女の子を眺めていたとか決してそんなことは無い」
後ろから殺意にも似た圧を感じて咄嗟に言い訳が口からこぼれ出た。
怖すぎる。
いつもの可愛い声ではなく、ドスの聞いた恐ろしい声だった。
もし、乃々と付き合うようなことがあっても浮気なんて絶対にしたらだめだ。
命がいくつあっても足りない。
「ならいいんですけど。それよりも、私たちは運営委員会本部に行きますよ。腕章を受け取ってから巡回開始です」
「了解だ。じゃあ、行こう」
「はい!」
乃々が自然と俺の手を握ってくる。
俺の手よりも小さくて柔らかい手がきゅっと添えるようにしてくる。
そんな乃々の手を俺は包み込むように握り返した。
「なあ、ずっと気になってたんだけど。あの二人って付き合ってるのかな?」
「どうなんだろ? でも、いつも一緒にいるし今だって手を繋いでるよ?」
「あの天才お嬢様に恋人が……」
「「「いやぁぁぁ」」」
俺達がクラスを出て行くときに変な話が聞こえてきたけど、いったん無視することにした。
俺と乃々の関係性か。
確かに、考えてみれば奇妙なものだ。
友達と言うには近すぎるし、恋人と言うほど触れ合っているわけでもない。
この関係性に名前を付けるとしたら一体どのようなものになるんだろう。
「陸斗くん。何か考えていますか?」
「ちょっとな。俺と乃々の関係って何なんだろうと思って」
「どうしたんですか? いきなり」
「いや、ふと考えちゃっただけだから深い意味とか訳はないんだ。気にしないでくれ」
乃々にはすぐに異変を見抜かれたようだ。
俺ってそんなにも顔に出るタイプだったっけ?
自覚はないけど、こうやってバレている以上はわかりやすいってことなんだろうな。
「恋人じゃダメなんですか?」
小首をかしげながら俺に上目遣いをしてくる仕草があざと可愛い。
下手したら、今すぐにでも抱きしめてしまいそうだ。
「……まだ保留で」
「なんでですか? 最近の私達って完全に恋人みたいなことしてると思うんですけど?」
「恋人って流れでなる物でもないだろ。そう言うのはしっかりやりたい」
「それはつまり……陸斗くんが告白してくれるってことですか?」
乃々が耳元でそうささやく。
本当に、最近はこういう小悪魔みたいな行動をすることが増えたような気がする。
昔みたいに一直線で結婚してとは言わなくなったのはありがたいけど。
こんな風に小悪魔ムーブされるのも考え物である。
「そのうちな」
「ふふっ。じゃあ、その日が来るのを楽しみにしていますね」
乃々は上機嫌に運営委員会本部に向かっていく。
手を繋ぎ、隣を歩く俺もそれに続くのだが周囲の人からは生暖かい視線を向けられるのだった。
◇
「じゃあ、最初は菫のクラスに向かいましょうか。何をやるかいまだにわかっていませんしね」
「だな。大した問題がおこるわけないだろうし。ぶらぶらしますか」
腕章を身に着けた俺たちは適当に巡回を始める。
文化祭は既に始まっており、外部から人も来ているためかなり賑わっている。
「きゃぁ!?」
そんな悲鳴がさっそく俺たち二人の耳朶を打ったのだった。




