第69話 二人の可愛い浴衣姿
「こんな感じです! どうですか?」
「……凄く似合ってるよ。可愛い」
菫の家庭教師の休憩時間に乃々が浴衣を着てその場でターンをする。
夏祭りの時に見た浴衣と同じはずなのに場所がこの屋敷になるとなんだか違う雰囲気を醸し出している。
「なぜ、お嬢様は浴衣を着ていらっしゃるのですか?」
「それはね。私たちのクラスは浴衣カフェをすることになったのだけど、私は当日見回りをしないといけなくて浴衣を着ないという話をしたら陸斗くんが残念そうな顔をしたからこうして見せてあげてるのよ」
「そうなのですね。陸斗様は浴衣がお好きなのですか?」
「う~ん、好きかと聞かれれば微妙な感じがするな。似合ってる人が着れば何でもいいというか。服単体の好みはあんまりないかもしれないな」
個人的な考えではあるんだけど、どんな服を着るかではなく誰が着るかが大事だと思っているので似合う服を着ればいいと思う。
乃々は浴衣がものすごく似合ってるわけだけど。
「では、わたくしが浴衣を着た姿も見てはいただけませんか?」
「……なんでそうなったのかはわからないけど、別にみるだけならいいぞ? 俺が特段何かをするわけでもないし」
「わかりました。では着替えてくるので少し待っていてください」
菫はふんすと意気込んで部屋を出て行ってしまった。
一体どうしたのだろうか?
「菫ったら、陸斗くんへの好意を全く隠していないんですから」
「何か言ったか?」
「何でもありませんよ。ただ、あの子があんな風に誰かのために服を着替えるなんて珍しいなと思っただけです」
「そうなのか?」
「はい。あの子は昔から私以外にほとんど興味を向けない子でしたから」
それは少しだけわかる気がする。
短い付き合いではあるけど、菫が乃々以外に感情をむき出しにしているのをあまり見たことが無い。
というか、全くない気がする。
「でも、最近はなんだか表情豊かだよな。何かいいことでもあったのか?」
「さあ。私にもわかりませんね。でも、いい変化だと思います。菫が生き生きとしてるのは見ていて気持ちがいいですから」
「にしても、本当に似合ってるな。乃々」
「……いきなり何ですか。照れるじゃないですか」
俺が褒めると彼女は顔を背けてか細い声でそう答えた。
本当にこの子は攻めるのが好きなくせに攻められるのに弱すぎる。
まあ、こういう所も可愛いんだけどさ。
「いや、本当に可愛いからさ。似合ってる。俺だけに見せてくれるって言うのも嬉しいよ」
「……陸斗くんやっぱり最近変です。昔なら絶対にそんなこと言わなかったのに」
「そうかもな。だいぶ乃々に染められたのかもな」
乃々の言う通り、昔の俺ならこんな風に誰かのことを真っ向から褒めるなんてことは全くなかったように思う。
だから、変わったというのならそれは乃々と菫のおかげだと思う。
「なんだかいやらしい言い方ですね?」
「事実だから仕方がない。乃々がそう仕向けた節だってあるんだからな?」
前々から乃々のアプローチに晒されているんだ。
俺も気が付かないうちに乃々の思考や好みに寄せられているのかもしれない。
「お待たせしました。どうでしょうか?」
部屋から菫が遠慮がちに入ってくる。
乃々が夏祭りの時に来ていた浴衣を着ているのに対して、菫は俺が見た事の無いデザインの浴衣を着ていた。
白を基調としていて所々に黒色の装飾が施されている。
全体的に落ち着いた雰囲気のデザインだった。
「凄く似合ってる。前に見た時は華やかな感じで可愛かったけど、今着てるのは落ち着いた雰囲気で凄く可愛いと思う」
浴衣の形はしているものの色合い的にメイド服のように見えなくもない。
なんにしても可愛い。
凄く可愛い。
「そ、そうですか。え、えへへ。嬉しいです」
「菫、顔が真っ赤よ?」
「お、お嬢様。揶揄わないでくださいよぅ」
二人は仲睦まじくイチャイチャとしている。
こうやって穏やかにみんなで笑いあえる日常をぜひとも守っていきたいものだ。
まあ、目下文化祭を成功させることを第一目標にしよう。
来年からは受験も始まることだし、今のうちに二人としっかり遊んでおかなければいけない。
「二人とも本当に似合ってる。可愛いよ」
「ありがとうございます!」
「陸斗様、ほめ殺しにする気ですか?」
俺たちはそれから勉強を再開したのだが、二人の浴衣姿が気になって俺だけは勉強に集中できていなかった気がするけどそれは内緒の話である




