第63話 俺だって男だからな?
「にしても、出てきた案がこれか」
「……なんだか、薄汚い欲望のようなものを感じてなりませんね」
次の日のホームルーム、文化祭の出し物についてアンケートをとった結果があまりにも酷かったのだ。
大体がメイド喫茶や水着喫茶などのコスプレと飲食を兼ねたようなものばかりだった。
金持ちの学校であっても、通っているのは所詮学生という事か。
「流石にそれは言い過ぎかもしれないけど、まあ男子の願望(欲望)が顕著に出ているのは否定できないな」
「ですよね! 陸斗くんもそう思いますよね」
「まあな。何なら案を出し合っている時に天城さんの水着姿が見たい! って涙を流しながら熱弁している生徒がいたくらいだからな」
「正気じゃないですよ。秋ですよ秋。この時期に水着なんか着て接客したら風邪を引くに決まってるじゃないですか」
そうなのである。
文化祭は例年秋に行われるものだし、行われている期間はそれなりに肌寒い。
そんな気温の時に水着なんか着ようものなら確実に風邪を引いてしまうだろう。
「確かにな。まあ、正式にアンケートを取るのは明日だからそれまでに不可能な案と実現困難な案は除外しておこう」
「ですね。全く、水着は絶対にありえないです。それに、チャイナ服とか露出が多すぎる衣装も却下にしましょう」
「だな。流石にこれは容認できないしな」
露出が多すぎる出し物はそもそも生徒会からの許可が下りないだろうし、降りたとしても乃々を多くの人が見れる環境下で露出が多い衣装を着て欲しいとは思わない。
というか、絶対に却下だ。
「……でも、陸斗くんにだけならいつでも水着姿見せますけどね?」
「言ってて恥ずかしくないか?」
「……めっちゃハズイですよ! 改めて言わないでくださいよ」
「ごめんごめん」
ポコポコと俺の肩を叩いてくる乃々が愛おしく思えて仕方がない。
最近の乃々は可愛すぎる。
いや、昔から可愛かったんだけど最近は更に可愛いと感じる。
「でも、本当に言ってくれたら見せますよ」
「……お前なぁ」
あまりにも無防備すぎる。
今は俺の家で二人っきり。
一人暮らしだから、何かが起きても水を差す人間がいないのだ。
「ちょっと、無防備すぎるぞ?」
「ふぇ?」
俺は乃々の両肩を掴んでそのまま押し倒す。
そこまで勢いをつけていなかったから痛くはないはずだ。
「俺だって、ちゃんと男なんだからな。いつまでも、我慢できるとは限らないんだぞ?」
「え、あ、その……」
見る見るうちに顔が真っ赤になっていく。
耳まで真っ赤にした乃々は何かを言おうとしていたけど、結局は何も言えずに黙り込んでしまう。
「どうした? そんなに顔を赤くして」
「こ、心の準備と言うかえっと、あの」
目をぐるぐる回しながら乃々はあたふたとしていた。
彼女は誘惑してくるくせに、俺がこうして乗ると動揺するのだ。
押すのは好きなのに押しに弱いという何とも残念な性格であることが最近わかってきた。
「って、ことが起きるかもしれないから誘惑するのもほどほどにしてくれ」
「……ふぇ?」
「だから、誘惑をするのはほどほどにしてくれよって」
俺は起き上がりながら苦笑いを向ける。
乃々は数秒ポカンとしてからやっと自分が揶揄われていたことに気づいたらしく、うが~といって暴れ始める。
「まさか揶揄ったんですか!? 乙女の純情を弄んだのですか?」
「なにが純情だ! 純情な奴が男を誘惑するかよ」
こいつにはぜひとも純情の意味を辞書で引いてみて欲しい。
絶対に乃々のような子を純情とは言わない。
「ぐぬぬ、そう言われたら何も言い返せないです」
「だろ。まあ、揶揄ってごめんな」
「許しません。ですのでお詫びを要求します」
なにやら面倒なことを言い始めたけど、ここは乗っておかないと更に面倒なことになる気がする。
「わかったわかった。何をして欲しいんだ?」
「抱きしめてください。ギュッと」
「そんなのでいいのか?」
「今は抱きしめて欲しい気分なんですよ」
普段なら結婚してくださいとかとんでもない事を言いそうなものだが、今回は違いらしい。
いつになく、しおらしくて可愛げのある乃々にときめいてしまう。
なんだか、最近本当におかしい。
前はこんな感情を彼女に抱くことは無かったというのに。
「これでいいか?」
「もっと、強く抱きしめて」
「こんな感じか?」
乃々に言われて抱きしめる力を少しだけ強める。
こうやって強く抱きしめている方が乃々の存在をよりハッキリと感じるような気がする。
なんだか、幸せだ。
「うん。凄く安心する。ずっとこうしていたいくらい」
「それは流石にダメだろ」
乃々もそろそろ家に帰らないといけないし、明日だって学校がある。
どれだけ一緒に居たくても流石にそう言うわけにも行かないのが現実だ。
「ですよね。わかりました。じゃあ、これくらいで」
素直に乃々が離れてくれる。
少しだけ名残惜しい気分になるけど、それを表情に出したら揶揄われそうだから顔には出さないようにする。
「そろそろ帰る時間だろ? 下まで送ってく」
「ありがとうございます! 優しいですね」
「そんなんじゃない。それに家まで送るわけじゃないしな」
乃々の家はここからそれなりに遠いし、いつも迎えの車が来るから俺が送るのは玄関先くらいまでだ。
「それでも、私は嬉しいですよ。では、また明日」
「ああ、また明日」
乃々は俺にブンブン手を振って車の中に消えていった。
俺は車が見えなくなってから自分の部屋に戻るのだった。




