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トネリコの木3


今日は公爵とセオドアが本邸に泊まった。

珍しく家族がそろい、楽しい夕食になった。

就寝前、メルトは意を決して公爵の書斎の扉をノックした。

返事があったので、大きな扉を少し開け、不安な面持ちで中を覗く。

公爵は一人で書類に向かっていたが、メルトを見ると立ち上がり、柔らかい笑顔で招き入れ、ソファへ導いた。

紳士。こういう大人に、僕もなりたい。

公爵は、何か言いたげなメルトを根気よく待った。

メルトは、これが最善の策だと自分に言い聞かせ、声を震わせながら――

魔法が使えなくなったことを告白した。

驚いた公爵は、かつて見せた氷柱を出してみるように言った。

メルトは掌を差し出し、魔力を込める。

指の間がじわっと水で滲んで、それきりだった。

泣きたくなった。

本当に泣いてしまったかもしれない。

「僕はどうしたらいいですか。」

公爵なら、魔法の家庭教師をつけるなり、研究者に相談するなり、

自分には思いつかない解決策を持っているのでは――

そう期待した。

公爵は黙り込み、しばらく考えた。

立場、年齢、他者に知られることの不利益。

魔法が戻れば何でもよしとはいかない。

そして、結論を出した。

「ワイズマンに聞こう。」

ワイズマン?

公爵は説明した。

ワイズマンは、この世界のことをすべて知る不老不死の魔法使いで、

何にも従属しない存在だと。

ただ問題は――

ワイズマンがどこにいるか、誰にもわからないことだった。

森にいるらしいが、気分次第で移動するので、今どこにいるかは誰にもわからないという。

正直、がっかりした。

これでは自分一人で闇雲に本を漁るのと大して変わらない。

ただ、公爵は言った。

「必ず探し出す。約束する。」

*

僕は一晩考えて、次の日。

『実用魔法読本』を放り投げ、ルルと一緒にトネリコの木へ向かった。

フルドラが森の精霊かどうかは、よくわからない。

でも、知らない間に現れて、気づかないうちに消える。不思議な存在なのは確かだ。

だからまず、森の精霊かどうか確かめる。

もし森の精霊なら、ワイズマンを知っているか聞いてみるつもりだ。

あくまで“聞くだけ”。

そこから先は保護者と要相談。

木に登り、いつもの場所で寝そべり、いつものように愚痴を言う。

「大人だったらもっとマトモなことを言え!」とか。

これは、フルドラを呼び出すおまじないのようなものだ。

木がざわざわと揺れ、三又の枝を見上げると――フルドラがいた。

「会いたかったよ、フルドラ!」

いつも通りの優しい笑顔で、いつの間にかルルの頭を撫でている。

「本当? 嬉しいな。」

「あのね、聞きたいことがあるんだ。

 でも怒らないでね。嫌なことだったら答えなくていい。

 君が消えてしまったら寂しいから。」

「何? 聞いてあげるよ。」

「あのね、フルドラは森の精霊なの?

 それと、ワイズマンって知ってる?」

フルドラの表情が強張った。

「あれは、祟るばっかりでいいことなんて何もない。

 関わっちゃいけない。」

声まで固い。

――やっぱり知っている。

そう思ったメルトは、

フルドラの曇った表情に気づくこともなく、ぱっと顔を明るくして事情を打ち明け、居場所を知っているなら教えてほしいと頼んだ。

するとフルドラが言った。

「食べても無くならないパンと、

 ただの短刀、

 それから、どこまでも歩き続けられるポーション。

 どれが欲しい?」

意味がわからない。

メルトは首を傾げて、

「食べても無くならないパン?」と答えた。

フルドラは、とんとんと枝を下りてきて、

メルトの目の前に立ち、ルルを差し出した。

受け取ると、くるりと背を向けて言った。

「ちょっと、このファスナー開けてくれない?」

背中にファスナーが上から下まで走る、奇妙な後ろ開きの服。

やっぱり意味がわからない。

首を傾げながら、ファスナーを下ろしてあげた。

「こう?」

「中を覗いてみてよ。」

?

フルドラの服を左右に引くと――

そこに体はなく、満天の星空のようなものが広がっていた。

あっと思った瞬間、ぐいっと中へ引っ張り込まれた。

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