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トネリコの木3


 今日は公爵とセオドアは本邸に泊まった。珍しくみんながそろって、楽しい夕食になった。

 就寝前に、メルトは意を決して公爵の書斎の扉をノックした。返事がしたので、大きな扉を少し開けて不安な面持ちで中を覗いた。公爵は一人で書斎机に向かい何か書き物をしていたが、メルトを見ると立ち上がり、柔らかい笑顔で招き入れソファへ導いた。紳士だ。こういう大人に僕もなりたい。公爵は何か言いたげなメルトを根気よく待った。メルトはこれが最善の策だと自分に言い聞かせ、声を震わせながら、魔法が使えなくなったことを告白した。驚いた公爵は、かつて見せた氷柱を出してみるように言った。メルトは自分の掌を公爵の前に差し出し、魔力を込めるた。しかし指の間がじわっと滲んでそれきりだった。泣きたくなった。本当に泣いてしまったかもしれない。

「僕はどうしたらいいですか。」

公爵なら魔法の家庭教師をつけるなり、魔法の研究者に聞くなりメルトにはない解決方法があるのではと期待した。公爵は黙り込んで暫く考えた。立場とか年齢とか他に知られることの不利益とか、大人なので魔法が戻れば何でもよしとはいかなかった。そして結論を出した。

「ワイズマンに聞こう。」

ワイズマン?

公爵は、ワイズマンはこの世界のことを全て知っている不老不死の魔法使いで、何にも従属しない存在だと説明した。ただ問題はワイズマンがどこにいるか知れないことだ。森ということはわかっているが、気分次第で移動するので今どこにいるかわからないというのだ。正直がっかりした。これでは自分一人で闇雲に本を漁るのと大してかわらない。ただ、公爵はワイズマンを必ず探しだすと約束してくれた。太陽と月にかけて。


 僕は一晩考えて、次の日、実用魔法読本を放り投げ、ルルと一緒にトネリコの木に行った。フルドラが森の精霊かどうかはよくわからない。でも、知らない間に現れて気づかないうちに消えるので、不思議な存在なのだとは思っている。だから、まず森の精霊かどうか確かめて、森の精霊だったらワイズマンを知っているかを聞いてみるつもりだ。あくまで聞いてみるだけ。そこから先は保護者と要相談だ。

 木に登って、いつもの場所でいつものように寝そべり、いつものように愚痴を言う。「大人だったらもっとマトモなことを言え!」とか。これはフルドラを呼び出すおまじないのようなものだ。

すると木がざわざわして、いつもの木の股を見上げるとフルドラがいた。

「会いたかったよ、フルドラ!」

いつも通りの優しい笑顔で、いつの間にかルルの頭を撫でている。

「なあに?嬉しいな。」

「あのね、聞きたいことがあるんだ。でも怒らないでね。うーん、嫌なことだったら答えなくていい。君が消えてしまっては寂しいから。」

「なあに?聞いてあげるよ。」

「あのね、フルドラは森の精霊なの?それとワイズマンって知ってる?」

フルドラの表情が強張った。

「あれは、祟るばっかりでいいことなんて何もない。関わっちゃいけない。」声も固い。

やっぱり知っている!そう思ったメルトは、フルドラの表情が曇ったことを気にも留めず、ぱっと顔を明るくして、自分の事情を話し、居場所を知っているなら教えて欲しいと頼んだ。するとフルドラが言った。

「食べても無くならないパンと、ただの短刀、それから、どこまでも歩き続けられるポーション、どれが欲しい?」

意味がわからない。メルトは首を傾げると「食べても無くならないパン?」と答えた。

フルドラは、とんとんと木の枝を下りてメルトの目の前に来てルルを差し出した。受け取ると、くるりと背を向けて言った。

「ちょっと、このファスナー開けてくれない?」

上着はファスナーが背骨のように上から下まで走る後ろ開きの服なのだ。やっぱり意味がわからない。首を傾げながら、背中についているファスナーを下ろしてあげた。

こう?

「中を覗いてみてよ。」

?フルドラの服を左右にひっぱると、そこに体はなく、満点の星空のようなものが入っていた。

メルトは、あっと思った瞬間、ぐいっと中に引っ張り込まれた。


Good luck!





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