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時の花嫁と滅びの竜7


王宮の大広間で、先の反乱鎮圧の賞罰発表が行われた。

王は杖の先で床を軽く叩いて告げる。

「賞罰を言い渡す。」

居並ぶ武官文官は期待と緊張で息を凝らした。

「王太子。

 反乱鎮圧は成し遂げたが、使者の選定と戦略判断に甘さがあった。

功半ばとする。」

「ありがたく拝受いたします。以後一層励む所存にございます。」

王子は深く頭を下げた。

以降、軍務大臣が武官の、法務大臣代理が文官の賞罰を淡々と読み上げた。

「ワイアット・ブリッジ。

 王太子を補佐した忠勤を認め、役職はそのままとする。」

予想を裏切る寛容な判断にどよめきが起こった。

「あっ……ありがとうございます!」

嬉しくて、ワイアットの声が上ずった。

賞罰発表も終わりに近づいた頃に、メルトの名前が呼ばれた。

「メルト・リリー。

 魔法部隊をまとめ上げ一日にして五つの砦を落とした点は、他に比類なき戦果である。

 よって新たに魔法部隊総監の職を設け、その任を与える。」

「総監って何だ?」「知ってる?」「知らない。」

広間のあちこちで、ささやき声が生まれた。

「謹んで拝命いたします……?」

総監って何?

メルトの戸惑いをよそに、式はどんどん進行していく。

儀礼担当の侍従がメルトを呼んだ。

「どうぞ、こちらへ。」

言われるままについて行くと、柱の陰で侍従が手際よく肩章を付け替えた。

銀糸の簡素な肩章から、青銀の重厚な肩章へ。金具が小さく音を立てた。

「肩章の付け替えが終わりました。おめでとうございます、総監殿。」

侍従が深く頭を下げた。

……総監?


*

小謁見室にて

賞罰発表に臨席していたセオドアは、式が終わるや否やメルトを連れて王に面会を求めた。

セオドアは、逸る気持ちを押しとどめ、礼を保つ。

「陛下。先ほどのメルトの褒賞について、お伺いしたいことがございます。

 妹マリアと王太子殿下のご成婚から五年の内に、メルトを我らの下へ返す――

 そのお約束の件です。」

王は淡々と答えた。

「五年以内に、魔法部隊を、こやつがいなくとも、いるのと同等の働きをする組織に作り変えることができれば、約束は守る。」

セオドアは一瞬言葉を失った。

「……そんなこと、できるはずがありません。」

メルトは、公爵家家門が長い年月をかけて作り上げた最強の魔法使いだ。

その圧倒的な力と存在感があったからこそ、魔法部隊はまとまったのだ。

「それは、あまりではありませんか。」

王子が口を挟んだ。

王は言い含めるように言う。

「個人の意思も、家門の伝統も、約束も、国家の存続には及ばぬ。

 国が揺らげば、民も家門もありはせん。」

セオドアは声を絞り出した。

「それでは、結婚の前提が崩れます。」

王は口の端で笑った。

「今さら解消など、そちらも困るのではないか。

 結婚の布告もしたし、建国の聖女の再来と持て囃されておる。」

そうなるように仕向けたのは、王自身だ。

セオドアは、こみ上げる怒りを必死に抑えた。

「……承服できかねます。」

それだけ告げると、身を翻し、足早に部屋を出ていった。

「セオドア!」

メルトが追おうとしたとき、王が呼んだ。

「メルト。お前は国王直属だ。」

メルトは王に視線を戻し、震える声で聞いた。

「……僕が頑張れば、レディ・マリアは魔法を使わなくてもよくなりますか。」

王は淡々と答えた。

「力を使うも使わないも状況次第だ。

王妃は王妃の役目を、 総監は総監の役目を果たすのみ。」

メルトは涙が溢れそうになる。

しかし、王には理解できない。

「何を悲しむ。

 妃には妃の待遇を、総監には総監の待遇を与える。

 それが秩序というものだ。」

正しいけど、正しくない。

でも、どう正しくないのか言葉にできない。

「陛下の……バカ!」

メルトは駆け出していた。王子が呼んでも、振り返らなかった。

王子は悟った。

――父は、私と国を天秤に掛けたのではなかった。

父は、長子相続という仕組みを選んだだけなのだ。


純度100%専制君主

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