第二章:白の檻、夜の泥
同じ頃、白妙雫は、大学病院の真っ白な病室のベッドの上にいた。かつては「完璧な白」と世間を魅了した元モデル。しかし、精神を病み、自ら命を絶とうとした自殺未遂の傷――。
包帯を剥ぎ取った鏡の中に映る、醜く引き裂かれた自傷のケガの痕跡を見た瞬間、雫はモデルとしての自らの未来が完全に終わったことを悟り、絶望の奈落へと叩きつけられた。
大人たちは「治療に専念しなさい」「あなたのために言っているのよ」と、哀れみに満ちた正しい言葉で彼女を縛り付ける。だが、その白い病室は、雫にとっては自分の死と非行をただ管理されているだけの檻に過ぎなかった。
これ以上、大人の正しさに消費されたくない。雫は点滴の針を引き抜き、退院という名のエスケープを決行した。何の宛てもなく、ただすがるような思いで逃げ込んだ新宿のネオンの底。そこで、リリエから薬を買い終えて赤いマウンテンパーカーのフードを深く被った朱音と、必然のように肩をすれ違わせた。
高い感受性を持つ雫は、すれ違いざま、朱音から漂う自分と同じ「壊された人間の匂い」を敏感に察知した。
朱音もまた、震えながら夜の街に立ち尽くす雫の、あまりにも危うい白さに目を奪われていた。
「……行くところ、ないの?」
朱音がぶっきらぼうに差し伸べた手。大人の欺瞞に満ちた優しさとは違う、夜の街の底にしか存在しない剥き出しの体温。
雫はその手を握り返した。それが、お互いの人生を永遠に損ない合う、歪な聖域の始まりだった。




