第四章:身バレの狂気と、解かれる手
可奈の妄想は、ついに引き返せない極限へと達した。画面の向こうでエスカレートしていく要求を突きつけてくる客たちを、心から「私の熱狂的なファン」と呼び、危険なリクエストさえも「アイドルとしての最高のファンサービス」として、虚ろな笑顔ですべて受け入れ始めた。
課金額が加速度的に増えるのと比例して、可奈の妄想は現実を完全に侵食していく。彼女は二十四時間、カメラを回し続けるようになった。食事中も、外出中も、薬を求めて夜の街を彷徨う時でさえも、スマホのレンズは彼女の生活のすべてを無防備に世界へと垂れ流し続けた。
カチ、カチ、カチ――。
二十四時間カメラを回したまま、可奈は新宿の路地裏でリリエの前に現れた。スマホを向けながら「プロデューサー、次の曲をちょうだい!」と笑う彼女の姿は、完全に壊れていた。
リリエは、画面の向こうで数千人の男たちが可奈の現在地を特定しようと、チャット欄で狂乱しているのを見た。背景に映り込んだ景色から、彼女の居場所が暴かれるのはもう時間の問題だった。
リリエは可奈を諭すような「正しさ」を突きつけたりはしない。彼は何も言わず、いつも通りに薬の包みを渡すと、ただ淡々とその手を解くだけだった。
可奈にはその拒絶の意味すら届かず、「またね!」とカメラにピースサインを作り、再び街へと躍り出ていく。その裏側で、スマホの向こうの「目」たちはついに可奈の居場所を特定していた。歪んだ執着を胸にそれぞれの行動を起こし始めていた。




