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第八章 近すぎる距離

月曜日の放課後。


教室にはもうほとんど人がいなかった。


夕日が窓から差し込み、

机の影を長く伸ばしている。


高橋悠斗は帰り支度をしていた。


その時。


「悠斗くん」


声がした。


振り向く。


白石美月だった。


「まだ帰ってなかったんだ」


悠斗は少し笑った。


「今帰るところ」


美月は少し迷ったように言った。


「ねえ」


「少しだけ付き合って」


「屋上」


悠斗は少し驚いた。


「屋上?」


美月はうなずく。


「うん」


二人は屋上へ向かった。


ドアを開ける。


夕方の風が吹いた。


空はオレンジ色。


街が静かに光り始めていた。


フェンスの前に立つ。


美月が言った。


「悠斗くん」


「なに?」


美月は少しだけ近づいた。


思ったより距離が近い。


悠斗の心臓が少し速くなる。


美月は言った。


「昨日の電話」


「うん」


「途中で何か言おうとしてたよね」


悠斗は少し固まった。


(ばれてた)


美月は少し照れたように笑った。


「気になって」


夕日が彼女の髪を赤く染める。


風が吹く。


その時。


美月の髪が悠斗の顔に触れた。


ふわっと甘い匂い。


悠斗の心臓がドクンと鳴る。


距離が近い。


かなり近い。


悠斗は少し目を逸らした。


「えっと……」


美月は少し笑った。


「顔赤い」


「赤くない」


「赤いよ」


美月はもう一歩近づいた。


悠斗の背中がフェンスに当たる。


完全に逃げ場がない。


美月の顔がすぐ近くにあった。


目が合う。


長いまつげ。


少し赤い唇。


悠斗の頭が少し真っ白になる。


美月は小さく言った。


「悠斗くん」


「なに?」


「私」


「転校するかもしれない」


「うん」


「だから」


少し沈黙。


そして。


「後悔したくない」


悠斗の心臓がさらに速くなる。


美月は言った。


「悠斗くん」


「昨日言おうとしたこと」


「聞きたい」


風が吹く。


夕焼けの屋上。


二人の距離は


ほとんど触れそうだった。


悠斗はゆっくり言った。


「俺さ」


「美月のこと」


そこで止まる。


心臓の音がうるさい。


美月はじっと見ている。


そして。


悠斗は言った。


「好きだ」


静かな屋上。


その言葉が


夕空に溶けていく。


美月は少し驚いた。


そして。


少し顔を赤くした。


「……ほんと?」


悠斗はうなずいた。


美月は少しだけ笑った。


そして。


そっと手を伸ばした。


悠斗の手に触れる。


指が絡む。


手をつないだ。


初めてだった。


美月は小さく言った。


「私も」


悠斗の胸が大きく鳴る。


その時だった。


屋上のドアが開いた。


「やっぱりここか」


そこに立っていたのは――


黒川蓮。


そして。


その後ろには


橘さくらもいた。


四人の視線が交差する。


夕焼けの空の下。


恋の物語は


さらに大きく動き始める。

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