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第四章 彼女の過去

屋上のドアが静かに閉まった。


そこに立っていたのは

黒川蓮だった。


夕方の風が吹く。


フェンスの向こうに広がる空は、少し赤く染まり始めていた。


蓮はまっすぐ美月を見た。


「久しぶりだな」


美月は少し目を伏せた。


「……うん」


悠斗は二人を見ていた。


(やっぱり知り合いなんだ)


蓮は言った。


「少し話せるか?」


美月は少し考えた。


そして小さくうなずいた。


「悠斗くん」


美月は申し訳なさそうに言った。


「ちょっとだけ」


悠斗は笑った。


「大丈夫」


「俺、先に帰るよ」


そう言って屋上を出ようとした。


だが。


ドアを開ける直前。


蓮の声が聞こえた。


「美月」


「まだ逃げ続けるつもりか?」


悠斗の足が止まる。


美月は静かに言った。


「逃げてない」


「ただ」


「ここにいたいだけ」


蓮は少し苛立ったようだった。


「お前の家が決めたことだろ」


「転校」


悠斗は驚いた。


(やっぱり本当だったんだ)


美月はフェンスの向こうの空を見ていた。


「まだ決まってない」


蓮は言った。


「決まってる」


「来月だ」


その言葉は冷たかった。


屋上に沈黙が落ちる。


悠斗は静かにドアを閉めた。


(……帰ろう)


それ以上聞くのはよくない気がした。


廊下を歩く。


窓から夕日が入る。


悠斗の頭の中には

美月の言葉が残っていた。


転校するかもしれない。


胸の奥が少し苦しくなる。


(なんでだろう)


(まだそんなに仲良くなったわけじゃないのに)


でも。


なぜか。


失いたくないと思った。


その日の帰り道。


悠斗は一人で歩いていた。


いつも通る川沿いの道。


桜が並んでいる。


夕焼けが水面に映っていた。


その時だった。


「悠斗くん!」


後ろから声がした。


振り向く。


美月だった。


少し息を切らしている。


「帰ったと思った」


悠斗は笑った。


「帰ったよ」


「追いかけてきたの?」


美月は少し照れたように笑った。


「うん」


二人はまた並んで歩く。


少し沈黙。


そして悠斗は言った。


「さっきの」


「転校の話」


美月は少し黙った。


そして静かに言った。


「……本当」


悠斗の胸が少し痛む。


「いつ?」


「たぶん」


「来月」


風が吹く。


桜が舞う。


美月は言った。


「家の事情」


「父が転勤して」


「また引っ越し」


悠斗は聞いた。


「転校多いの?」


美月は小さくうなずいた。


「三回目」


「だから」


「友達あまり作らない」


悠斗は少し理解した。


だから美月は


いつも一人だったんだ。


悠斗は言った。


「でも」


「あと一ヶ月ある」


美月が見る。


「うん」


悠斗は笑った。


「それまで」


「いっぱい遊ぼう」


美月は少し驚いた。


「え?」


「帰り道とか」


「昼休みとか」


「あと」


悠斗は少し照れた。


「今度」


「どこか行く?」


美月の目が少し大きくなる。


そして。


ゆっくり笑った。


「うん」


その笑顔は


今までで一番嬉しそうだった。


夕焼けの中。


二人の影が並んで伸びる。


その時。


悠斗はまだ知らなかった。


この恋が


本当に始まる瞬間が


すぐそこまで来ていることを。

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