第三章 彼女の秘密
次の日の朝。
春の空はよく晴れていた。
高橋悠斗は少し早めに学校に着いた。
理由は自分でもよく分かっていた。
(……美月に会えるかな)
教室に入る。
まだ生徒は少ない。
窓から朝の光が入っていた。
そして。
窓際の席に、もう一人座っていた。
白石美月だった。
「おはよう」
悠斗が言う。
美月は振り向いた。
そして少し驚いた顔をした。
「おはよう」
その笑顔を見ると、悠斗は少し安心した。
「早いね」
「うん」
美月は窓の外を見た。
「朝の学校、好きなんだ」
校庭には誰もいない。
風だけが桜を揺らしていた。
静かな時間。
その時だった。
教室のドアが勢いよく開いた。
「おはよー!」
元気な声。
入ってきたのは健太だった。
「悠斗!」
そして美月を見る。
「お、また一緒か」
悠斗はため息をつく。
「うるさい」
健太は笑った。
「いやー昨日の帰り道、噂になってるぞ」
「は?」
「悠斗が白石さんと帰ったって」
悠斗は顔をしかめた。
「誰が言ったんだよ」
健太は肩をすくめた。
「女子ネットワーク」
美月は少し困った顔をしていた。
その時。
教室の入口にもう一人の女子が現れた。
長い茶色の髪。
整った顔。
自信のある歩き方。
クラスの中心人物。
橘さくら
彼女は悠斗の机の前で止まった。
「ねえ悠斗」
「なに?」
さくらは美月を見る。
そして少し笑った。
「昨日一緒に帰ったんだって?」
教室が少しざわつく。
悠斗は少し困った。
「ただの帰り道だよ」
さくらは腕を組んだ。
「ふーん」
そして美月に言った。
「白石さんってあんまり人と話さないよね?」
美月は少し黙った。
「……うん」
さくらは笑った。
「悠斗と仲良くなるなんて珍しい」
その時だった。
チャイムが鳴った。
担任が入ってくる。
さくらは自分の席に戻った。
授業が始まる。
だが。
悠斗は少し気になっていた。
(さくら、なんか機嫌悪かったな)
昼休み。
美月は屋上にいた。
一人で。
フェンスの向こうに広がる青空。
風が髪を揺らす。
その時。
ドアが開いた。
悠斗だった。
「やっぱりここにいた」
美月は少し驚いた。
「どうして分かったの?」
悠斗は笑った。
「なんとなく」
悠斗は隣に立った。
二人で空を見る。
少し沈黙。
そして悠斗は言った。
「さっきのさ」
「橘」
美月は少し黙った。
「……気にしてないよ」
でも。
その声は少しだけ寂しそうだった。
悠斗は言った。
「俺はさ」
「美月と話すの楽しいよ」
美月は驚いた顔をした。
「え?」
「本当」
風が吹く。
桜の花びらが屋上に舞った。
美月は少し黙った。
そして。
小さく言った。
「悠斗くん」
「なに?」
美月は少し迷った。
そして言った。
「私ね」
「たぶん」
「この学校、すぐいなくなる」
悠斗は驚いた。
「え?」
美月は空を見ていた。
「転校するかもしれない」
その言葉は
静かだった。
でも。
悠斗の心を強く揺らした。
「どうして?」
美月は少し笑った。
「秘密」
その笑顔は
どこか悲しかった。
その時だった。
屋上のドアがまた開いた。
そこに立っていたのは――
黒川蓮
彼は二人を見ていた。
そして静かに言った。
「美月」
「話がある」
空の色が少し変わる。
春の風が吹いた。
悠斗はまだ知らない。
美月の秘密。
そして。
この恋が
大きく動き始めることを。




