第十二章 最後のデート
転校まで、あと三日。
春の風は少し暖かくなっていた。
高橋悠斗は駅前の時計を見ていた。
今日は――
美月と最後のデートの日だった。
待ち合わせの時間。
人が行き交う駅前。
少し緊張する。
(最後なんて思いたくないけど)
その時。
「悠斗くん」
振り向く。
そこに立っていたのは
白石美月だった。
薄い水色のワンピース。
春の風に髪が揺れている。
悠斗は少し笑った。
「今日も可愛い」
美月は少し照れた。
「いきなりそれ?」
「本当のこと」
美月は笑った。
「ありがとう」
二人は歩き始めた。
いつものショッピングモール。
映画。
カフェ。
ゲームセンター。
前と同じ場所。
でも。
今日は少しだけ違った。
時間がとても早く感じる。
夕方。
二人は川沿いの道を歩いていた。
桜の木が並ぶ道。
もう花はほとんど散っていた。
地面には花びら。
風が吹くと、それが舞う。
美月が言った。
「ねえ」
「なに?」
「ここ」
「覚えてる?」
悠斗は周りを見た。
そして少し笑った。
「小さい頃の公園の近く」
美月はうなずいた。
「うん」
二人はベンチに座った。
夕日が川に映っている。
しばらく沈黙。
そして美月が言った。
「明後日」
「引っ越し」
悠斗は少しうつむいた。
「うん」
美月は続けた。
「でも」
「泣かないって決めてる」
悠斗は少し笑った。
「俺は泣くかも」
美月は笑った。
「悠斗くんらしい」
その時。
風が吹いた。
桜の花びらが二人の周りを舞う。
美月は言った。
「悠斗くん」
「なに?」
「約束して」
「どんな約束?」
美月は空を見た。
夕焼け。
春の空。
そして言った。
「また会おう」
悠斗はすぐ答えた。
「うん」
美月は言った。
「桜が咲く頃」
悠斗は笑った。
「またそれ?」
美月も笑った。
「だって」
「最初の約束だから」
悠斗は言った。
「じゃあ」
「またここで会う」
美月はうなずいた。
「うん」
その瞬間。
二人の距離が少し近くなる。
夕焼けの中。
美月が静かに言った。
「悠斗くん」
「なに?」
「好き」
悠斗の胸が大きく鳴る。
「俺も」
風が止む。
静かな夕方。
そして。
二人は
そっと
キスをした。
短くて
優しい
初めてのキスだった。
でも。
二人にとって
一生忘れない瞬間だった。
その時。
悠斗は思った。
(絶対また会う)
(この恋は終わらない)
でも。
その約束が
本当に叶うかどうかは
まだ誰にも分からなかった。




