第十三章 桜の約束
五月の朝。
空はよく晴れていた。
でも。
高橋悠斗の胸は少し重かった。
今日は――
美月が引っ越す日だった。
駅へ向かう。
歩く足が少し重い。
駅前にはもう美月がいた。
スーツケース。
そして少し寂しそうな笑顔。
「悠斗くん」
「おはよう」
悠斗は笑おうとした。
でも少しうまくいかなかった。
「早いな」
美月はうなずいた。
「電車、もうすぐ」
ホームへ向かう。
朝の駅。
人が行き交う。
でも。
二人の周りだけ
少し静かな気がした。
電車がホームに入ってくる。
風が吹く。
美月は言った。
「悠斗くん」
「なに?」
「泣かないって言ったよね」
悠斗は苦笑した。
「努力してる」
美月は笑った。
でも。
その目は少し潤んでいた。
「私」
「この学校に来てよかった」
悠斗は言った。
「俺も」
「美月に会えてよかった」
電車のドアが開く。
発車まであと少し。
美月は悠斗を見た。
そして言った。
「約束」
悠斗はうなずいた。
「桜が咲く頃」
美月は言った。
「また会おう」
悠斗は言った。
「絶対」
美月は少し迷った。
そして。
最後に一歩近づく。
悠斗の胸に顔を埋めた。
「……好き」
悠斗は優しく抱きしめた。
「俺も」
その瞬間。
発車ベルが鳴る。
美月はゆっくり離れた。
電車に乗る。
ドアが閉まる。
窓越しに笑う。
電車が動き出す。
悠斗はずっと手を振っていた。
電車が見えなくなるまで。
ホームに一人残る。
春の風が吹く。
でも。
悠斗は思った。
(また会える)
約束したから。
それから三年後
春。
桜が満開だった。
大学一年生になった悠斗は
あの公園へ来ていた。
桜の木。
ベンチ。
小さい頃の場所。
そして。
約束の場所。
悠斗は空を見上げた。
(来るかな)
その時。
後ろから声がした。
「悠斗くん」
振り向く。
そこに立っていたのは――
白石美月だった。
少し大人になった笑顔。
でも。
あの頃と同じ目。
悠斗は少し笑った。
「遅い」
美月は笑った。
「三年待ったんだよ?」
悠斗は言った。
「俺も」
桜が舞う。
春の風。
二人は並んで歩き出した。
あの日の約束が
やっと叶った。
そして。
二人の物語は
ここから
また始まる。




