22.いろはの話(6)
(※)本作品には、児童虐待・養育放棄の描写が含まれます。
幼少期の不遇な描写が苦手な方はご注意ください。
次の日もどれだけ待っても、いろはは来なかった。
先生になんでお休みかと聞いても
「ご用事があるんですって。」
と言うだけ。
その日は何をして遊んだか覚えていないし、全然楽しくなかった。
ずっと一人で過ごし、ご飯も味がしなくてほとんど食べられない。
お迎えの時間、心配そうにする先生と話している父の姿が見える。
「妹さんが生まれて、入院中のママと会えないから寂しいのかもしれませんね。」
と話しているのが聞こえてきた。
ちがう、ちがうよ。
帰宅後すぐにカレンダーにチェックを入れる。
今日寝たら、3回目。明日はいろはと会える。
きっと、会える。
本棚のすみっこに置いてある宝箱を開ける。
入園式の日にいろはにもらったきれいな貝殻。
てのひらに乗せ、握りしめ、どうか、明日はいろはと会えますように、と祈った。
ーーーーー
次の日、登園してすぐにいろはを探す。居ない。
先生に聞きに行く。
「今日も来ていないわね……」
園児は全員揃い、すでに遊び始めている。
いろはだけが来ていなかった。
セヴァは頭が真っ白になった。
何だっけ。3回寝て、いろはと会えなかったら。
パパとママに話す。今日このまま待っていたら4回目が来る。
……セヴァは限界を迎えた。
涙が溢れ、呼吸ができなくなる。
泣き叫び、どうしようもない気持ちを、吐き出したい。
でも息ができない、苦しい。助けて、助けて!
いろはを助けて!!!
先生が慌てて駆けつけセヴァを介抱する。
「セヴァくん!息をして!セヴァくん!」
先生に抱きとめられるが、苦しさは終わらない。
息ができない、寒い、寒い。
空気をちゃんと吸って吐いているのに苦しくてたまらない。
先生の胸にしがみついていると、意識がはっきりとし、段々と息もできるようになってきた。
「そう、ゆっくり、息を吐いて。
大丈夫、大丈夫。
……落ち着いてきたかな?ゆっくりでいいよ、じょうず、じょうず。」
涙でぐじゅぐじゅの顔をタオルで拭ってくれる。
このまま元気になれば、いつも通りの1日が始まってしまうと思ったセヴァは必死に考えた。
そして、今度は意識的に暴れてみることにした。
「うわぁぁぁぁあん、、帰る!!!!!パパを呼んで!!!ヤダヤダヤダヤダ!帰りたい!!ヤダぁぁああ!
パパを呼んで!!!うあああぁん!」
セヴァは先生の腕から逃れ、床に寝転がって思いっきり泣き叫んだ。
普段大声を出さない、落ち着いた子、という印象のセヴァ。
先生が大慌てで先程のように抱きとめようとする。
でも今はわざと暴れているので、やめない。
パパ!パパ!と泣き叫ぶ。
あまりの騒ぎっぷりにとうとう先生が電話をかけるジェスチャーを他の先生へ向かってする。
先ほど父と別れたばかりなのですぐに戻って来るだろうと思った。
喉が痛くなってきたので、叫ぶのは止めて、仮病を使うことにした。
「グスッ……お腹と頭が痛いの。おうちに帰る……」
「セヴァくん、今お父さんに連絡してるからね!」
セヴァの額に手を当て、背中をさすりながら先生が優しく言う。
この大騒ぎを見て、他にも泣き出す子が出てきた。
困らせてごめんなさい、と心の中で思いつつ、泣き真似をしながらひたすら小さい声で「帰りたい、帰る」と繰り返す。
少しすると父が慌てた様子で戻ってきた。
「セヴァ!どうした?体調が悪いの?」
「パパ!」
父に駆け寄り、力を込めてしがみついた。
先生も父も今まで見た事がないセヴァの様子に、ただならぬ空気を感じていた。
「お騒がせしてすみませんでした。あの、一体何が……」
「つい先程過呼吸のようになってしまって……
すぐに落ち着きましたが、その後も頭とお腹が痛いと泣いていて……
念のため受診された方が良いかと……
お力になれず申し訳ありません。」
「わかりました。今日は連れて帰ります。ありがとうございます!」
先生は何にも悪くないのに、ごめんなさい。と心の中で謝る。
また明日登園した時にちゃんとごめんなさいしようと思いながら、父の手を引っぱり、急いで保育園を後にした。
父に車に乗せられた瞬間
「パパ、いろはを助けて!!」
突然の息子からの言葉に父は動きを止める。
「……いろは君に何かあったのか?」
「ぼく、いろはと約束してたんだ。
3回寝て、その間に1回も会えなかったら、パパとママにお話してって。
いろはにお願いされてた。
今日寝たら、4回目になっちゃう!!」
父の顔がこわばる。
「いろは君は、保育園に来ていないの?」
「来てない!昨日も、今日も!!」
また涙がとめどなく溢れてくる。
早く、いろはを見つけて!




