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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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思い出の場所



 投獄されていた皇帝とアラベル、アルヴァイスの処遇がようやく決まったといって、アンバー公爵が久々に家に戻ってきた。


 夏季休暇もそろそろ終わりを告げる秋の手前。

 公爵家の仕事以外ではあまり外に出ず、公務以外では城に拠りつかなかった社交下手なアンバーの人生においては、異例なほどに長く城に詰めていた。


 マライアは「きっと寂しいと言って落ち込んでいるわ。あの人、家族が大好きなのよ。あんなに怖い顔をしているのにね」と言い、ミラは「昔からアンバー様はマライアのことが大好きだもの。私、何度か言われたのよ。マライアと二人きりで出かけるときは、一言を言って欲しいって」と笑っていた。


 疲れた顔をしてアンバーが戻ってきた時には、夏の日差しが和らぎ、秋の香りが近づいてきていた。


「信用できる者を選別するのが一番骨が折れる。殿下はあのような場所でよくやっていると、撫でてさしあげたくなった」

「あら、撫でてさしあげればいいじゃない」

「アンバー様が撫でてくださったら、きっとカイネも喜びます」

「いや、自分よりも背の高い青年を撫でるというのはな」


 そんなことを言いながら、アンバーはマライアとミラと共に菓子を食べながら一息ついていた。

 アンバーを労わるようにたくさんの菓子が用意されている。

 城では威厳を保つために、甘いものは口にしていなかったのだという。


 冷静沈着で冷酷無慈悲なクワイエット公爵という姿を演じるにあたり、甘いものを食べて至福の時間を過ごしている姿を見られるわけにはいかないらしい。


 そんな話を茶会の席に同席しながら、ルティナは聞いて、くすくす笑っていた。


「アンバーは考えすぎなのよ。私は別に気にしないわ。堂々とお酒を飲むわよ」

「マライアのそういうところが好きよ」

「ミラ、ありがとう! 来世は結婚しましょうね!」

「もちろん!」

「……マライア、私も君のそういうところが好きなわけだが」

「じゃあアンバーも女の子に生まれ変わるといいわ。私が二人を娶ってあげるわね」


 うふふと笑いながらおそろしいことを言う母の姿に、ルティナは今度は苦笑した。

 学生時代の三人も、このような感じだったのだろうか。

 在りし日の姿が想像できてしまい、微笑ましいような気恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。


「ルティ、そろそろカイネ様も来るはずだ。お前に話があると言っていた。……まぁ、話と言うのは口実で、お前に会いたくて仕方ないのだと思うが」

「情熱的ね、殿下は。……あ。もう、陛下、だったかしら」

「即位の儀式はまだだがな。儀式の準備ができるほどに落ち着くまでは、まだしばらく時間がかかるだろう。ルティとの結婚式もあるしな」

「素敵ね」

「素敵だわ。とても楽しみにしているのよ、ルティナ。私……女の子のドレスを考えるのが、夢だったの」

「ミラは昔から可愛いものや綺麗なものが好きだものね」

「ええ! でも、ルティナの好みがあるから……」


 ルティナは首を振った。ルティナはあまり、着飾ることに興味がない。

 昔は違ったかもしれないが、今のルティナは、魔道具作りの素材や魔物や、書物などに興味のほとんどが向いてしまっている。

 

 今でもセシアナに毎日服を選んでもらっているぐらいである。

 こうなってくると、自分で選んだら――大変なことになるのではないかという気がしている。センス的な意味で。


「ドレス、選んでくださると嬉しいです。ミラ様が、もしよければ」

「ルティナ……ありがとう! マライアと三人で一緒に考えましょうね。とても楽しみだわ」


 徐々に肉付きがよくなってきているミラは、本来の美しさを取り戻しつつあった。

 ややあって、カイネルードの来訪をセシアナが告げに来た。

 アンバーたちに見送られて、ルティナは玄関に向かう。


 公爵家の入り口から入ってきたカイネルードは、すぐさま両手を広げて駆け寄るルティナを抱きあげた。


「ルティ、会いたかった! 少し軽くなったのではないか? きちんと食べているか? 眠れている?」

「カイネ様、お医者様のようです。私はいつもと変わりませんよ」

「あぁ、すまない。こんなにルティは軽かったかと思って、驚いてしまって」


 カイネルードはルティナを抱きあげたままセシアナに「セシアナも、こんにちは」と挨拶をした。

 セシアナは恐縮しながら頭をさげる。

 

「ルティを借りていくよ。夕方までには戻ると、公爵に伝えて置いてくれるか?」

「は、はい、殿下! 殿下がきちんとした手順で、お嬢様を連れて行ってくださるのははじめてです」

「いつも連れ去っていたからな」

「す、すみません。余計なことを言いました」

「いや。君は心配しただろう、ルティのことを。すまなかったな、もう窓からは入らないようにする。……学園寮の窓はあいているかな。あそこは男子禁制だから、やはり窓からがいいだろうな」

「殿下……」


 セシアナは若干呆れたように目を細める。


「あけておきますね、カイネ様」

「あぁ、ルティ。ありがとう。これで俺は、いつでも君の元にいけるな」


 上機嫌でカイネルードはセシアナに挨拶をすると外に出る。

 セシアナは「お二人とも、お気を付けて」と深々と礼をして、二人を見送った。


 カイネルードが転移魔法でルティナを連れて行ったのは、蛍の原野だった。

 あの日――フォドレアに襲われた以来のその場所は、その痕跡などまるで残っていなかった。

 透明度の高い池や川には魚たちが泳ぎ、日差しに鱗をきらきらと光らせている。


 小さな花がそこここに咲き乱れて、蝶が飛び回っている。

 どこまでも広がる花畑の中には、新しくベンチやガゼボが設置されていた。


「ここも、人が多く来るようになったようだ。今までは、魔物が多くてな。誰もよりつかないような場所だったのだが……ルティがヴァレリーを呼んだからか、ヴァレリーを恐れた魔物たちはどこかに逃げてしまったらしい」

「そうなのですね。ヴァレリー様のお力はすごいです」

「闇の大精霊様だからな」

『なによその言い方! もっと敬いなさいよ、カイネ。ヴァレリー様は立派な方なのよ』

『ウルリカ、落ち着いて。ほら、湖がある。気持ちよさそうだよ』

『本当だ』


 ルティナの足元からするりと顔を出して文句を言うウルリカを、カイネルードの肩からひらりと降り立ったレドが、その尻尾を噛んで湖の方へと誘う。

 ウルリカは恥ずかしそうにしながら、レドに連れられて湖へと向かった。

 ルティナはカイネルードに手を引かれて、ベンチに座る。

 ベンチからは、子犬のようにじゃれ合っているウルリカとレドの様子を見ることができる。


「仲良しですね」

「あぁ。レドもウルリカに会いたいと言っていた。俺がルティに会いたかったように」

「……私も、カイネ様にお会いしたかったです。話したいことが、たくさんありました」

「話したいこと、だけ?」


 不実を詰るように、拗ねたように指が絡まる。

 久々の感覚に、その骨のしっかりした指の太さや硬さに、心臓がどきりと跳ねる。

 自然に頬が染まる。カイネルードの唇が、ルティナの首の傷に落ちた。


「カイネ様……恥ずかしいです」

「もう、嫌だと言わないのだな」

「……これは、魔物憑きの傷ではなくて、あなたとの大切な思い出の傷です。ですから、嫌ではないのですけれど。でも、その場所は少し、恥ずかしく思います」

「……可愛い」


 きちんと恥ずかしいのだと伝えただけなのに、カイネルードは嬉しそうにそう呟いた。

 軽く口づけて唇を離し、今度は繋いだ手のルティナの指先に甘えるように唇をつける。


 ルティナよりも二歳年上で、体格も大きくて立派な人なのに、その様子は指先にじゃれつく子犬を連想させた。


「――皇帝と、アラベルたちの処遇が決まった」

「お二人は、アルヴァイス様は、どうなりますか?」


 ふと真剣な声音で、カイネルードが言う。

 話しがあるとは、このことだったのだろう。


「洗いざらい、その罪を皆の前で吐かせた。母上に毒を盛ったことは大罪だ。厳罰を求める声も多かったが――監視付きで、貴人の塔に幽閉されることになった」

「辺境にある塔ですね」

「あぁ」


 貴人の塔とは、高貴な身分の犯罪者を幽閉する場所である。

 生活に困るようなことはないが、一生塔から出ることはできない。つまりは、牢獄である。


「アルヴァイスは、まだ若い。アラベルに育てられたせいで――ああなってしまったのだ。同情の余地はある。反省もしているようだしな」

「反省をしていらっしゃいますか……?」

「ルティが、命を救ってくれたと言っている。酷いことをしたのに、ルティは最後まで優しかったと。謝りたいと言っていたが……俺は君とアルヴァイスを合わせたくない」

「謝罪をしてくださるのであれば、受け入れます。アルヴァイス様のことは可哀想だと思いますが、怖いとは思いません」

「だからだ。……ルティは優しいから。アルヴァイスが君に恋をしたらと思うと、とても会わせられない。これは、個人的な嫉妬」


 カイネルードは困ったように笑った。「嫉妬深いんだ、俺は。できるだけ、隠していたが」と続けるので、ルティナは思わず肩を震わせた。


「ふふ……カイネ様、隠していたのですか?」

「あぁ。ずっと、隠していた」

「隠せていませんでした」

「……そうか?」

「いつもおっしゃっていました。……俺だけ、見ていろと。私、あの言葉……好きでした」


 何度か言われた言葉を思い出す。

 ルティナのカイネルードに対する疑惑に揺れる心を見透かしていたのかと思っていたが、そうではなくて――あれはただの独占欲。

 そう思うと、全ての記憶を愛しく感じる。


「……ルティが、他の男に取られるのが嫌だったんだ。俺がいない間に、とても美しくなっていたから」

「ありがとうございます。あなたに褒めて頂くと、少し、自信が持てます」

「君は綺麗だよ、ルティ。……アルヴァイスにも、他の誰にも見せたくないと思うほどに」


 アルヴァイスは皇家から除籍をされて、神殿で神官になるという。

 神殿は、一生を人々のために尽くし、精霊たちに祈りをささげる厳しい場所である。

 それでいいと、彼は言っているようだった。多大なる恩赦に感謝します――とも。


「アルヴァイスがあれほど素直に罪を認めたのは――君の優しさに触れたからだろうな。ヴァレリーに助命を求めてくれた君の姿を見て、声を聞いていたのだろう」


 これで全てが片付いたわけではないだろう。

 けれど、カイネルードは少し肩の荷が降りたように、表情を和らげた。


 それから、「堅苦しい話はこれで終わりだ」と言って、ルティナを引き寄せてきつく抱きしめた。






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