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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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ステラの帰郷



 あの事件のあと、学園はすぐに夏季休暇に入った。

 そのため、生徒たちはそれぞれ自分の家に戻り、学園寮に残っているのはステラぐらいだった。


 アルヴァイスによって怪我を負わされたステラだが、擦り傷などの軽傷ですんでいた。

 それでも一度意識を失っているのだから、頭に怪我をした可能性があると、大事をとってしばらくは学園寮で静養を続けていた。


 ルティナは何度か会いに行ったが、ステラの侍女に「今は誰にもお会いしたくないそうです」と言われてしまい、会うことはできなかった。


 ルティナを守ろうとしてくれたことについて――まだ、礼も言えていない。

 手紙を書こうかと何度かペンを手にしたが、大切なことは直接言いたいという思いもあり、文字を少し書いてはやめてを繰り返していた。


 ステラにとって自分は――どんな存在だったのだろうと、最近はよく考えている。

 カイネルードに恋をしているのだとしたら、ルティナは邪魔だっただろう。

 それでも最後には、信じてくれた。

 ルティナは友人だと考えているが、ステラにとってルティナはカイネルードを奪った嫌な女でしかない。


 確固たる信念もなくカイネルードの婚約者の座におさまり、周囲の悪口も甘んじて受け入れている。

 姫たるステラにとって、ルティナのその態度はとても王配となるには相応しくないものに映っただろう。


 今思えば、ステラははっきりとカイネルードが好きだと態度に出していた。

 それはルティナにはできなかったことだ。

 

 それでもカイネルードは、ルティナを選んでくれた。何もかもを忘れて、不穏な夢のせいでカイネルードのことを疑ってさえいたのに。

 言葉でも態度でも、ルティナを愛していてくれたから――ルティナの心は絶望に染まったりしなかった。


 カイネルードを失いたくない。忘れていた分も含めて、ルティナはカイネルードが大好きだ。

 たとえそれが誰かを不幸にすることであっても、自分の気持ちを否定して、遠慮して、カイネルードを傷つけるようなことはしたくないと思うのだ。


「――お嬢様、ステラ様がいらっしゃいました」


 夏季休暇の間、ルティナは公爵家のタウンハウスに戻っていた。

 何度か城に呼ばれて、アルヴァイスとの間に何があったのかの説明をカイネルードやその周囲の者たちにした。

 ルティナに手伝うことができたのはそれぐらいで、その後の処理はカイネルードやクオンツやアンバーに任せて、ルティナはクワイエット家で日々を過ごしていた。


 以前のように部屋にこもることは少なくなった。

 会話ができるようになったウルリカと一緒に庭を散策したり、母やミラと一緒にお茶を飲んだり、時折街に出かけたりしていた。


 セシアナに呼ばれたのは夏季休暇も数週間を過ぎたころのこと。

 ステラが――と、はやる気持ちをおさえながら玄関に向かうと、従者を連れたステラがそこには立っていた。


「ルティナ、久しぶりね」

「ステラ様。お加減はいかがですか? お怪我は、その後は痛みなど出ていないでしょうか」

「……相変わらずね。私の心配をしてくれるのね、私はあなたにひどいことをしたのに」

「ひどいこと……?」


 ステラに何かをされた記憶はない。

 何のことかと首をかしげると、ステラは深く息をついた。


「あなたの悪口を、皆に言っていたのよ」

「あぁ、そのことですか。……それなら、ステラ様が何を言っても、言わなくても、同じだったと思います。元々私は、皆から嫌われていましたから」

「もっと、怒っていいのよ。あなたは私を嫌っていいの。それなのに……」

「怒ったりも嫌ったりもしていません。ステラ様がいてくれて、私は心強かったのです。そう感じた私の気持ちは、ステラ様の想いがどうであれ、変わったりはしません」


 中に通そうとすると、ステラは首を振った。

 それから、深々とルティナに頭をさげる。


「ルティナ、ごめんなさい」

「ステラ様、頭をあげてください。ステラ様もアルヴァイス様に騙されていたのですから」

「都合のいい甘言を信じたの。そうであればいいと思ったから、疑うこともしなかったのよ。アルヴァイスに言われるままに、皆にあなたの悪口を言って……」

「もう、大丈夫です。私に魅了の力があるのは事実です。それは、私が何をしようと変わりません。だから、何を言われてももう気にしないことに決めたのです」


 ステラは顔をあげると、首を振った。


「あなたはそう言ってくれるけれど、それでは私の気がすまない。……皆には手紙を出したわ。謝罪の手紙を。私が嘘をついたことを。私がやってきたひどいことも、全部」

「ステラ様……」

「私、国に帰るの。お父様がすごく怒っていて……カイネを手に入れないと怒られるなんて、あれは嘘。お父様とカイネの間ではもう話がついているの。私が怪我をしたことで国際問題になるといけないと思って、事情を手紙に書いて伝えたら、何をしているのだお前は、すぐに帰って来いと言われてね」


 ステラの背後には、立派な馬車がとまっている。

 今からエルナン王国に帰るのだろう。

 ルティナは寂しさを感じた。

 これからは――本当の友人になれるかもしれないと、心のどこかで期待をしていたのだ。

 だがそれは、ルティナの一方的な思いだろう。

 ステラはカイネが好きなのだ。ルティナを友人だと思えるはずがない。


「……もう、会えなくなるのですね」

「……こんなことを言うのは、勝手だと分かってる。本当に自分勝手で、嫌な女だって。でも、もしルティナがよければ」

「私が?」

「ええ。あなたが私を許してくれるのなら、お父様に謝って謝って、それで許しが出たら、またあなたと過ごしたいと思っているの。魔道具研究会、実は楽しかった。あなたの髪飾りは……失くしてしまったけれど。嬉しかったの。……駄目よね。ごめんなさい」

「髪飾り、また作りますね! ステラ様と一緒に過ごせたら、嬉しいです。私は……あなたを友人だと思っています」


 友人だと伝えることは、あなたが好きだと伝えることと同じぐらいに勇気がいる。

 それでも今、伝えなくては。

 もう二度とステラに会えなくなってしまうかもしれない。


「ありがとう、ルティナ!」


 ステラは瞳を潤ませて、ぎゅっとルティナの手を握った。

 名残惜しそうにしばらくそうしていたが、従者に促されて馬車に戻ろうとするステラに「お兄様やカイネ様にはお会いになりましたか?」と尋ねる。

 

 あまりにも寂しいお別れだと思ったからだ。


「会っていないわ。私はあなたに会いたかった。あなたに謝りたかった。それができたから、それで十分」


 クオンツやフェルズには、お礼の手紙を送るという。

 カイネルードには謝罪の手紙を。


 エルナン王に許してもらえるかはわからないけれど、頑張るつもりだと――ステラは言って「お父様はすごく怖いの。ワイバーンよりも強いのよ。でも、カイネは魔法も使わないでお父様に勝ったわ、あなたのために」と優しく微笑んだ。

 



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