後片付け
アルヴァイスとアラベル、そしてサラデイン皇帝は貴人用の牢獄へと投獄されることとなった。
後宮でのアラベル派閥はそれにて終わりを告げ、サラデイン皇帝の投獄に伴い、カイネルードが皇帝位を継いだことで、今までミラを虐げてきた者たちは戦々恐々と事の成り行きを見守っていた。
カイネルードはそんな彼らを金を与えて後宮から追い出した。
金を与えたのはあと腐れをなくすためである。いらない恨みを抱かせては、反乱の火種になりかねない。
ヴァレリーとルークスレドの降臨の噂は広まり、カイネルードに異を唱えるものは最早いなくなっていた。
ルークスレドを呼び出し、聖獣レドを従えているのだ。
精霊の加護に重きをおく皇国にとって、これほど確かな権力の象徴はない。
サラデイン皇帝の妃たちは、それぞれ王都から離れた各地の離宮へと移された。
これについては、後宮は金食い虫だと言って頭を悩ませていた財務官などはたいそう喜んでいた。
離宮の運営も国費がかかるが、後宮で湯水のように金を使われるよりはまだいい、ということである。
カイネルードの補佐をクオンツと、そしてフェルズが行っていた。
公爵家と辺境伯家がカイネルードの後ろ盾になるという形である。
王国の中でも上位貴族である二家の後ろ盾は強力なもので、特に――人前にはあまり顔を出さないクワイエット公爵アンバーがカイネルードの隣に立ち相談役になっていたということが、城に巣くっていた古い者たちを黙らせる効果が十二分にあった。
その間、ミラはクワイエット家に移り住み、療養をしていた。
手を取り合って無事を喜び合うマライアとミラの様子に、アンバーは苦笑交じりに「昔からあんな風で。恥ずかしながら、時々嫉妬をしていたこともありました」と、カイネルードに謝った。
「――殿下に対する態度には、私情も混じっていたのです。ミラ様は私からマライアを奪い、殿下は私からルティを奪うのかと」
ミラとマライアが仲良く庭を散歩しているのを眺めながら、アンバーが言う。
ミラの様子を見に来たカイネルードと共にいたルティナは、少し驚いた。
父が感情的になっているところを、見たことがなかったからだ。
「お父様、どうしてそんな風に思うのですか?」
「それは――お前は私の可愛い娘だからだよ、ルティ」
「まるで、ヴァレリー様のようです」
「そうだな。気を付けなくてはいけない。愛しすぎると、親は子を、標本の蝶にしてしまう」
ルティナにはまだよくわからなかった。
そのうち子供をもったら、アンバーのように感じるときがくるのだろうか。
「嫌だわ、アンバー。それはあなただからよ。全ての親がそうだと思わないで頂戴! 私はルティの結婚を喜んでいるわよ。殿下、ルティをよろしくお願いしますね。この子、気が弱そうに見えて結構頑固だし、研究者気質というのかしら。何かに熱中し出したら、声をかけても聞こえないのよ」
そんなアンバーの言葉を聞き付けたのか、マライアが近づいて来て笑いながら言う。
「ルティは、ミラと私、アンバーの子になるのね。嬉しいわ! ミラはずっとここにていいのよ?」
「ありがとう、マライア。そういうわけにはいかないけれど、とても嬉しい」
ミラはまだやつれているが、マライアと共にいると、その表情は明るかった。
「――ルティのことは俺が必ず……守りますというのは烏滸がましいですね。ルティのほうが俺よりも強い。俺もルティに頼っています。二人で手を取り合って、よい国にしていきたいと考えています」
「カイネ様、私はワイバーンを殴り倒すことはできませんよ?」
「そうだな、ルティ。その点においては俺の方が、君よりも強いようだ」
「はい。とても格好良かったです」
あの時は驚くばかりだったが――肉体的に強い男というのは素敵だと、細身のクオンツやアンバーと並ぶカイネルードを見ると、その逞しさに胸をときめかせることがある。
「そう思ってもらえるのなら、鍛えた甲斐があったな」
嬉しそうに笑うカイネルードの笑顔はやっぱり眩しくて。
その眩しさに目がくらみそうになるほどに――ルティナは彼が好きだ。
もう否定しない。逃げたりもしない。
好きだから、好きだと伝えたい。
あなたのためになら、いつでも窓を開けておきたい。
窓を開けるだけではなく、そこから飛び出して――両手を広げて受け止めてくれるあなたの腕の中に飛び込みたいと思うのだ。
カイネルードやアンバーを信頼しているからなのだろう、二人の母は城のことや皇帝のことを気にかけるようなことはなく、ルティナとカイネルードの結婚式についてを話し合っていた。
毒殺や、投獄や後宮の解体など。城の中は穏やかではない状況が続いていた。
だが、とても平和な時間が、クワイエット家には流れていた。




