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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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フォドレアの万能解毒剤



 学園寮から学園校舎に向けて、滑空するようにウルリカは飛んだ。


「ウリちゃ……ウルリカは、お話ができたのですね」


 何かに守られているかのように、浮遊感も振り落とされるような風圧も感じない。

 ウルリカの速度はルティナが走るよりもよほど速いのに、ゆったりと空から地上に降りていっているようだった。


『私は、ヴァレリー様につくっていただいたの。ヴァレリー様の手足であり、目であり、耳よ。ルティナのそばに遣わされたのは、ヴァレリー様がルティナを見守るため。いざとなったら、本当に命の危険が迫ったときは、ルティナを守るのが私の役目』

「今までずっと、犬の姿でいたのは?」

『ルティナが喜ぶのだもの。でも、私の本来の姿はこちら。以前はね、私とレドと、ヴァレリー様とルークスレド様。皆で一緒にいたの。ルークスレド様の聖獣レドと私は仲良しだったの。けれど、ヴァレリー様がルークスレド様の元を去ってから、会えなくなってしまって』

「喧嘩をなさったのですか?」

『すごく長い、長い長い喧嘩よ。でも、ヴァレリー様もルークスレド様も長生きだから、すごく長い喧嘩なのに、すごく長い喧嘩だとは思っていないの』


 ウルリカは魔道具研究室の前にふわりと降り立った。

 黒い竜に乗り空を飛ぶルティナの様子を、他の生徒たちが驚いた表情で見上げている。

 その視線も、何かを言われているのだろう陰口も、何一つ気にならない。


 魅了の魔女だと言われても、竜を従える恐ろしい魔女だと言われても──それが何だというのかと、今は思うことができる。

 首飾りはもうない。魔物憑きの傷は剥き出しになっている。

 でも、魔力を隠すことも、傷を隠すことももうしたくない。ヴァレリーの加護があれば、カイネルードを守ることができる。魔物憑きの傷はカイネルードを守った名誉の傷だ。

 誰に恥じることもない。


 外側に続く扉の鍵を開けて、ルティナは中に入る。

 ウルリカは肩に乗る程度の小さな竜の姿になって、ルティナの傍にすいっとついてくる。


 魔道具研究室に置いてある私物の本の中から、フォドレアが書き残した魔法薬の本を出して、作業机に置いて頁をめくった。


『万能解毒剤』と書かれている頁を開いて、材料を確認する。


「よかった、揃っている! 先日、星降りの頂に登ったから……竜の花も、まだ残りがあるわ」

『よかったわね、ルティナ』

「ええ!」


 材料を作業机に並べて、道具を準備する。

 竜の花、星の草、月見の雫、洞窟キノコ、濾過鉱石。

 慎重に作り方を確認しながら、薬草をすりつぶしていく。


 鉱石やキノコは煮出して、成分を抽出する。静けさの中にガリガリ、ゴリゴリ、ボコボコと、作業の音だけが響いた。


「──ウルリカはどうして話せるようになったのですか?」

『多分、ヴァレリー様が許可を与えてくれたのね。私が、ヴァレリー様に怒っていたから。だから、ごめんねの気持ちだと思うわ』

「怒っていたのですか?」

『そう。怒っていたの』


 抽出した成分を粉状になった薬草と混ぜ合わせて、秤を使い一回分の分量を計測して瓶に詰める。

 作り始めてから、あっという間に一時間以上経っていた。

 急いで王妃の元に届けなければと、ルティナは立ち上がる。


 再びウルリカに乗ってカイネルードの部屋に戻ると、カイネルードがミラの手を握りしめていた。


 その周囲には「どうにか助けろ!」と連れてきた医師に詰め寄るエミリオと、今にも泣き出しそうなセシアナ。

 そのセシアナをクオンツが支えていて、フェルズが今だ目を覚さないアルヴァイスを見張っている。


「カイネ様!」


 バルコニーに降り立ったウルリカから飛び降りて、ルティナは小瓶を持ってカイネルードの元に向かう。

 もし間に合わなかったら、駄目だったら。

 何も、出来なかったら。


 恐ろしさに体が震えそうになる。誰かを助けるとは、守るとは、とても怖いことだ。

 己の無力さを眼前に突きつけられたような気持ちになるのだから。


 フォドレアの遺跡に冒険に行ったあの日から、カイネルードはずっとこんな気持ちで過ごしていたのだろうか。

 一歩踏み出すには勇気がいる。もう一歩踏み出して、前に進んでいくにはもっと勇気がいる。


 カイネルードはルティナの光だ。

 今も昔も、変わらない。


「ルティ」

「ミラ様はご無事ですか……!?」

「あぁ、まだ息がある。だが、もう時間の問題だろう」

「……ミラ様」

「よい母だった。俺はよい息子ではなかったが……君の母のことが大好きでな。母にとっては、君の母と共に過ごした学園での記憶が、一番幸せなものだったようだ」


 せめて最後に会わせてあげたいと、カイネルードは呟いた。


「カイネ様、薬が出来ました。初めて作る薬です。……もしまた、失敗してしまったらと、不安ですが……ためさせていただけますか?」

「あぁ、もちろんだ。ありがとう、ルティ」


 ミラの元に近づくルティナの肩に軽く触れて、カイネルードは言い聞かせるように言う。


「だが、ルティ。もし母が助からなくても、それは君のせいじゃない。それだけは、心に留めておいてくれ」

「わかりました。カイネ様、ミラ様を少しだけ起こしていただけますか?」


 助けられなかったら──なんて、今は考えたくない。

 きっと大丈夫だ。

 大丈夫。


 カイネルードとエミリオが、ミラの背を支えて起こした。

 セシアナが水を持ってきて、ルティナの隣に控えた。

 ルティナは小瓶の蓋をあけて、中の粉薬に水を少し入れて溶くと、ミラの口にそっと押し当てた。


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