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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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カイネルードの力



 フォドレアの遺跡の入り口付近はすでに採掘がなされているようで、古びた遺跡の中でも人の手が入った跡がある。


 例えば焚き火の痕跡や、瓦礫をどかした跡や、閉じた通路をつなげた跡などだ。

 ルティナはクオンツに手を引かれており、カイネルードが二人よりも一歩先を歩いている。

 ウリちゃんはルティナの腕に抱かれていた。


「危険な遺跡だから、一応王家の管轄にはなっている。発掘をするにも許可証が必要だ。けれど、どこにでも無謀な者はいるもので、無断で入る者も少なくない。ここまで広大な森を管理することは難しいんだ」


 壊された壁に確認するように触れながら、カイネルードが口を開いた。

 恐ろしい場所に来てしまったとルティナは怯えていたが、カイネルードは庭を散歩でもしているような気軽さだった。


「こんなところに来るのは、無謀な者ばかりでしょう。殿下のように、転移魔法が使えるならともかくとして」


 クオンツが嘆息する。

 転移魔法とは有名な魔法である。古の大魔導士が使えたという伝説のような魔法で、その知名度に比べて使用できる者が極端に少ないのが特徴だ。

 ルティナも、もちろんはじめて見た。


 王国の者たちはそれぞれの加護属性に合わせた魔法を使用できるが、転移魔法を筆頭に古式大魔法と呼ばれる過去の異物のような魔法は、その属性含めて未だわからないことのほうが多い。


「殿下は、古式大魔法が使えるのですね」

「ルティ。殿下ではなく、カイネルードと呼べ。僕たちは友人だろう? クオンツにもそう言っているのに、クオンツは頭が硬いのだ」

「私はあくまでも、殿下の臣下です。私が殿下を侮るような態度をとることは、殿下の名を貶めることに通じます」

「ほら、硬い。ルティは、カイネルードと。名前呼ばれたいのだ、僕は。これはそうだな──皇子命令ということでどうだろう」

「……どうだろうと言われましても」

「殿下と呼んだ場合、何かこう、罰ゲームをすればいいか」


 いいことを思いついたとでもいうように、カイネルードは両手を叩いた。

 クオンツは「その罰はとても一方的なのでは?」と首を捻る。


「名前で呼ぶぐらい、減るものではない。私はクワイエット家を継ぐ立場だ。故に、殿下と気安く話すことはできないが、ルティは構わないだろう」

「……は、はい」

「なんだか、無理やり? のような感じがして、気になるんだが」

「若干無理やりでしたよ、殿下」

「友人とは仲良くしたいだろう?」


 カイネルードは人の痕跡の残る遺跡の入り口を真っ直ぐに通り過ぎる。

 ルティナもクオンツに手を引かれながら、カイネルードのあとを追った。


 靴底が、割れた石畳や、石片を踏む感触を感じる。

 薄暗い通路の奥に光の差し込む場所がある。そこは中庭になっているようで、吹き抜けの天井から明るい日差しが降りそそいでいた。


 その光の中に、輝く蝶が飛んでいる。誘われるようにその蝶を視線で追いながら、ルティナはカイネルードに友達と言われた意味を考えていた。


 カイネルードは、王妃様に連れられて、さして興味のないお茶会に参加しているのだと思っていた。

 けれど、ルティナに対する甘い言葉を信用するなと言ってくれていた。

 そしてクオンツの言う通りに、カイネルードには魅了が効かないのだとしたら。


 ──本当に、友人だと思ってくれているのかもしれない。


「あれは、フォドレアアゲハ。遺跡に住み着いている蝶だよ。好事家が欲しがるから、あれをとりにくる者もいる」

「蝶を欲しがるのですか?」


 カイネルードの説明にルティナが首を傾げる。


「綺麗なものは、飾っておきたくなるのだろうな」

「宝石のように?」

「あぁ。大切に、自分のそばに置いて眺めておきたいのだ。宝石でも、生き物でも。それが愛情なのだろう」


 クオンツが付け足した。

 中庭に差し掛かると、急に世界が眩しくなる。

 溢れる光の中にエメラルドグリーンの蝶が舞い、ルティナの顔ぐらいの大きさがある赤々とした花が咲いている。

 蝶は、花の蜜を吸いに来ているのだろう。その花は薔薇に似ているが、薔薇よりもずっと大ぶりで花弁が分厚い。


 中庭を通り過ぎようとしたところで、ルティナの足に何かが絡みついた。

 それはぬるりとした滑りけを帯びている。


「うあ……っ」


 驚き悲鳴をあげながら、ルティナはクオンツにしがみついた。

 足元に視線を落とすと、そこには長い舌をルティナの足に絡みつかせた、パリパリと帯電している両手で抱えられるほどの大きさの、巨大なトカゲがいる。

 雷サラマンダーである。

 

 サラマンダー類には炎と、雷と氷属性のものがいて、それぞれ色が違い、帯びている性質も違う。

 雷サラマンダーの場合はもちろん、雷だ。

 

 サラマンダー類は古い遺跡に住み着いている。人里に現れることはまずない。

 危険度大に認定されているのは、帯びた属性の魔法を撒き散らすからということもあるが、それよりも──。


 カサカサと、音がする。サラマンダー類は基本的には集団で行動するのである。

 中庭の草むらや岩陰から、雷サラマンダーたちがごっそりと現れる。

 

「ルティ、動くな」

「大丈夫、すぐに助ける」


 クオンツがルティナの体を守るようにして抱きしめて、カイネルードが一歩前に出る。

 その体の周囲には、先ほど中庭を飛んでいた蝶がひらひらと、何羽も飛び回っている。


 雷サラマンダーの体に、パリパリと雷がまとわりついて、大きく膨らむようにして体を動かした。

 ルティナの足には、舌が巻き付いている。

 帯電した雷が、舌を伝ってルティナに向かってくる。


 その舌が、そして、雷サラマンダーたちが、一気に弾け飛んだ。


「あ、わ……」


 まるで内側から爆発させられたように、弾け飛んで消えていく。

 カイネルードの周りを飛び回っている蝶が、雷サラマンダーたちに、蝶とは思えないスピードで向かっていき、まるで矢のようにその体を簡単に貫いていっている。


「悪いが、邪魔をするのなら、消えろ」


 一体何の魔法なのか、ルティナにはわからなかった。

 クオンツが声を呑む音が聞こえる。

 クオンツはルティナと同じ。闇の大精霊の加護を受けている。魔法の才能も豊かで優秀だと、教師からの評価も高い。


 そのクオンツが驚き感嘆するぐらいに、カイネルードの力は圧倒的だった。


「ルティ、大丈夫か!? 怪我は!?」

「だ、大丈夫です」

「よかった。見た? 僕の強いところ。格好よかっただろう」

「はい……すごいですね、カイネルード様」

「名前で呼んでくれてありがとう、ルティ」


 ルティナを心配したり、喜んだりと、カイネルードは忙しい。

 いつの間にかルティナは、魅了魔法が判明した日から抱き続けていた罪悪感や恐怖感を忘れてしまっていた。






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