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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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封魔の首輪



 雷サラマンダーがカイネルードに怯えるようにして散り散りに逃げていく。

 静かになった遺跡を深部に向かい進んでいく。


「帰りの時間までに戻らないと、母上がうるさいんだ。転移魔法も本当は使用を禁止されてる」

「そうなのですか……?」

「あぁ。転移魔法を使って一人でうろうろしては危険だと言ってな」


 それはそうだろうとルティナは思う。

 ルティナもクオンツもだが、貴族の子供は攫われやすい。

 身代金目的だったりもするし、敵対している隣国に売ればもっと金になるからだ。


 ルティナは一人で外に出たことがない。

 そもそも、公爵家から外に出ることはまずないのだ。貴族の子供はそれが普通である。

 互いの家を行き来することはあるが、本格的に社交界にお披露目になるのは十五歳のこと。

 

 城の舞踏会で、王に挨拶をして、お披露目のためのダンスを行うのである。

 十六歳になれば王都の貴族学園に入学をする。

 そこで三年、学業や社交を行い、十九歳か二十歳で結婚をする。


 家同士の了解があればもっと早くに結婚をする者もある。そうして貴族女性は、家に入り子を産むのだ。


 ルティナも、そうだと思っていた。

 けれど、魅了の魔法など持っていることが知られればきっと、誰もルティナを娶ろうとはしないだろう。

 例えば魔法をコントロールできるようになったとしても、いつ魅了で他者を操るのか分からないような危険な女だ。


 そんな相手に、本当の愛など感じる者はきっといない。


 ただ美しいだけで愛でられる蝶や宝石は幸せだ。


 例えば、カイネルードの言っていたような封魔の首輪があれば、魔法を封じているのなら、皆に危険だと思われないのだろうか。

 嫌われることも、ないだろうか。


 そう思った瞬間、脳裏にお茶会で糾弾された記憶が過ぎった。

 あの目。あの声。


 もう、あんな思いはしたくない。誰かの心を操りたいなんて、思っていなかったのだから。


「ルティ、クオンツ。多分、ここに何かある」


 どこをどれぐらい歩いただろうか。いくつかの扉を越えて、いくつかの階段を降りた。

 カイネルードの周囲に飛んでいる光の玉が周囲を照らしている。


 カイネルードの視線の先には、重厚感のある立派な扉がある。

 どことなく禍々しい雰囲気が漂っている扉だ。扉には、鎖がまとわりついている。

 本物の鎖ではない。紫色に発光をするそれは、魔力で生成された封印である。


 この先に誰かが立ち入らないように、封印を施したのか。

 それとも、この先に大切なものを隠したから、封印を施したのか。


 ルティナの腕の中で、ウリちゃんがみじろいだ。

 行かないほうがいい。行かないほうがいい。


 頭の中で誰かがそう囁いでいる気がする。この先は、危険だと。


(でも、カイネルード様はお強い。お兄様もいる。だから、大丈夫でしょう……?)


 弱気になっている場合ではない。ルティナは、自分自身のために封魔の首輪が欲しい。

 ここまで来たのだ。今更帰ろうなんて、言えない。

 カイネルードもクオンツもルティナのために、封魔の首輪を探しに来てくれている。

 それなのに、行かないほうがいいなんて、口にすることはできなかった。


「さぁ、道を開け。僕たちのために」


 カイネルードが鎖に手を触れさせる。

 鎖は古びた木が朽ちるように、ボロボロと崩れて消えていく。

 

 ぎぎ、と、金属が擦れるような音を立てながら、カイネルードは扉を開いた。


 その先には広い空間がある。丸い柱が何本も連なり、謁見の間のように、入り口から絨毯が奥に向かって敷かれている。


 長年封じられていたのだろう。荒らされた形跡もない、古めかしさも感じない綺麗な部屋だ。


 石造りの床はルティナたちの姿がぼんやりと映り込むほどに、よく磨かれている。


「封印された先にある、さらに封印された宝箱には、大切な宝が眠っているものだ」

「殿下、大丈夫でしょうか。危険はありませんか」

「大丈夫だ。僕は、万能だ。僕に任せて」


 クオンツも、ルティナと同じように不安があるのだろう。

 けれどカイネルードは大丈夫だと明るく笑った。

 カイネルードはやはり自信に満ちている。

 あれほどの力を持っていれば、それは当然だろう。

 立場も見た目も、その力も、人並みはずれて優れている。


 だからきっと、大丈夫だと、ルティナは自分に言い聞かせる。


「もともと、フォドレアの遺跡は、大魔導師フォドレアの研究施設だったと言われている。幻魔大戦の時に活躍した大魔導師で、幻魔大戦後には遺跡を増築しながら研究を続けていたと言われていてね」


 絨毯の上を、広間の奥に向かって歩きながらカイネルードが言う。

 幻魔大戦とは、今から五百年以上前に起こった知恵のある魔物と人との戦いのことである。


 知恵のある魔物は、魔物たちを従えた。

 そして、自分を魔物ではなく幻魔と名乗ったのだ。


 その姿はまるで人であるようだったという。

 人が魔物を倒すのは間違っている。魔物は人である。サラデイン皇国を統べるべきは自分たちであると主張した。


 そしていくつかの街を支配下に置いた。そのために、人対幻魔の争いが起こったのだ。


「だからここには、フォドレアが残した遺物が多く残っている。封魔の首輪もその一つで……あった。あたりだ」


 広間の奥の祭壇の上に、水の膜に包まれたような状態で浮き上がっている、黒い首輪がある。

 中央に涙の雫のような形をしたクリスタルの付いている黒い首輪だ。


 カイネルードは祭壇に駆け寄ると、首輪に手を伸ばした。


 嫌な予感が、ルティナの全身をぞわりとさせる。

 カイネルードが触れると、水の膜が弾ける。おそらくは、封印を解いたのだろう。

 その途端に、カイネルードの足元から光の輪が広がっていく。

 光の輪の中から、ずるりと巨大な頭が現れる。

 それは、角を持った人の頭のように思われた。

 小高い丘のように見える人の頭に、ギザギザの牙を持つ口がぱかりと開いた。


「カイネルード様!」


 考えている暇などなかった。体が、先に動いていた。

 ルティナはカイネルードを苦手だと思っていた。けれどカイネルードはルティナを友人だと言ってくれた。


 ルティナのために、こんなところまで来てくれたのだ。


 カイネルードを守らなくては。


 それだけで、頭がいっぱいになって、ルティナはカイネルードの体に飛びつくようにして、その体を巨大な頭に開いた口の上から突き飛ばした。



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