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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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フォドレアの遺跡の探索



「う、ぁああ……っ」


 情けない悲鳴をあげながら、ルティナはカイネルードに担がれて二階の窓から一階まで落ちた。

 軽々と着地をするカイネルードにしがみついて、子犬のように震える。


「な、なにを、するのですか……っ」


 ルティナたちをウリちゃんが追いかけてくる。こちらは何の問題もなくスタッと着地して、ころりと転がった。


「驚いたか。悪いな」


 笑いながら、カイネルードは言う。何一つ悪いと思っていなさそうな顔だった。

 ルティナの部屋の窓の下からはえている木に寄り掛かり、クオンツが待っていた。


「本当に連れ出してきたのだな」

「ルティと一緒がいい」

「確かにルティは可愛いですが、どうしてそこまで殿下が、ルティに拘るのですか?」

「どうして? 友人だから、落ち込んでいるのなら心配して当然だろう。それに、一緒に遊んだほうが楽しい」


 ルティナはカイネルードを苦手だと思っていた。

 それなのにカイネルードはルティナを友人だと言う。


 それが申し訳なくもあり、嬉しくもあり、そして――カイネルードはやはり魅了にかかっているのではと疑わしくもあった。


「カイネルード様、私から離れてください……っ、私は……!」

「ルティ。殿下は自分ではあまり言うことはないが、光の大精霊ルークスレドの加護を受けている。光と闇は対をなす存在。つまり、お前の闇魔法に対する耐性がある」

「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。魅了がかかっていようがいまいが、僕はルティの友人であることに変わりはないのだから」


 カイネルードはルティナを降ろすと、乱れた服を直してくれる。

 強引に外に連れ出されたルティナは、空の青さや光の眩しさに眩暈を覚えた。


 カイネルードの傍から離れたい。

 できれば部屋に戻りたい。

 できることなら吸血鬼のように棺などに入って眠りについてしまいたい。


「ルティ。私と殿下とお前だけだ。他には誰も来ない。だから怯える必要はない」

「……はい」

「さぁ、出かけようか。今日はフォドレアの遺跡に行こう」

「フォドレアの遺跡……!?」


 カイネルードの口から飛び出した言葉に、ルティナは慌てた。

 フォドレアの遺跡とは、皇国南の大森林の奥にあると言われている、古い時代の遺跡である。

 森を踏破した先にある石造りの建物で、その大きさは一つの街がすっぽりと入ってしまうぐらいだと言われている。


 貴重な宝物が眠っているという噂はあるが、危険なので行く者は少ない。

 よほど無謀な冒険者ぐらいだ。その冒険者さえ、遺跡に辿り着くことさえままならない。

 大森林は迷いやすく、危険な魔獣も多いのである。


 魔獣とは、精霊たちに祝福された土地である皇国で、精霊の魔力を浴びて進化をした動物のことだ。

 総じて動物とは違う魔力を帯びており、人に対して攻撃的なものもいれば、友好的なものもいる。


「殿下。やめておきましょう。子供は子供らしく、森の中の探検でもしたほうがいい」

「フォドレアの遺跡には魔力を抑える封魔の首輪があるのだという。ルティのために取りに行きたい」

「……なるほど」

「ルティ。あるかどうかはわからないが、行ってみないか?」

「……危険なことは、しません」


 ルティナは首を振った。

 もちろんそんな首輪があれば欲しい。二度と力が使えないようにしてしまいたい。

 けれど、そんなことのために危険を冒すよりは、部屋に籠っていた方が賢明に思えた。


「大丈夫。ルティは僕が守る。僕に任せておけばいい。僕は、万能だからな」


 自信満々で胸を張り、カイネルードは言った。

 その姿はルティナには、太陽のように光り輝いて見える。

 そんな自信はルティナにはない。


「ルティ。確かに殿下の言う通りではある。殿下は……ルティ以上に、強い力をお持ちだ」

「そうなのですか……でも」 

「では、手を繋いで」


 カイネルードが手を伸ばす。ルティナはもう反論することができなかった。

 流されるままに、カイネルードの手を取る。そして、軽く眉を寄せた。

 他者は恐い。恐いのに。カイネルードの手の平は力強く、あたたかい。

 

 ウリちゃんがルティナの足にぴったりしがみつく。クオンツとも手を繋ぎ、円をつくるような形になった。

 足元から光があふれだす。光はルティナたちを包み込み、景色が蜃気楼のようにゆらりと揺らめいた。


「……わぁ」


 ルティナは思わず声をあげる。

 ルティナたちが立っているのは公爵家の庭ではなく、深い森の中だった。

 見たこともない木々が連なって、大きな葉の植物や、原色をした艶やかな花が咲き乱れている。

 眼前には、遺跡がそびえている。


 どこまで続いているのか分からないぐらいに広大な遺跡の入り口は、長い年月を経て劣化した石壁にあいた空洞のように、ルティナたちの前にぽっかりと口を開いていた。


「今のは、転移魔法。帰り道も一瞬だから、危険があればすぐに二人を連れて戻る。だから、僕の傍を離れないように」

「私も闇魔法が使える。ルティ、私の後ろにいるように。お前は私が守る」

「クオンツ。ルティは僕が守るから大丈夫だ」

「私はルティの兄ですよ、殿下」


 ウリちゃんを両手に抱えて黙り込んでいるルティナをよそに、話が進んでいく。

 頭の中に『行かないほうがいい』と誰かが囁く声がする。


 それは、圧倒的な大きさの遺跡を前にして怯えるルティナ自身の心の声だったのかもしれない。



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