表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/69

星降りの頂



 夏季休暇を目前に控えたある日のことである。


「そろそろ素材採集に行きませんか。星降りの頂という、採取地があるんです。クオンツ様の好きな魔法植物の採取ができますし、魔石の元になる鉱石も多くとれますよ」


 フェルズが魔道具研究室にいる皆に言った。


「星降りの頂?」


 クオンツが鸚鵡返しに尋ねた。


「はい。オーウェン辺境伯領にある山の山頂のことで、朝から登りはじめれば、夜には山頂に到着します。とても美しい場所ですが、危険な魔物が多いのであえて近づこうとする者は少ないですね」

「魔道具師の、憧れの場所です……」

「ルティも憧れているのか?」

「ええ、はい。聞いたことがあります。よい素材がたくさんあって、それから、夜空が綺麗だと。まるで、星の中に浮かんでいるような景色なのだそうですよ」

「それなら、教えてくれたらよかったのに。俺がいくらでも、ルティを行きたい場所に連れて行くよ。だから、いつでも言って欲しい」


 カイネルードは、研究室にいるときは常にルティナの隣に座っている。

 何をするでもなくルティナをじっと見ているのが常で、暇さえあればルティナの髪に触れたり頬に触れたりしている。

 ステラもルティナの反対側に座って、あれやこれやと話しかけてくるような状態である。


「今すぐ行こうか、ルティ。二人で」

「カイネ様、素材採集ですから、みんなで」

「それは危険な場所なの? 私、皆のように魔法は使えないのよ」


 怯えたように、ステラが言う。

 カイネルードはにこやかに「では、ステラは来なくていい」と冷たいことを言った。


「まあまあ、殿下。ステラ姫もせっかく、魔道具に興味を持ってくださっているのですから。大丈夫、ステラ姫のことは俺たちが守りますよ」


 取り繕うように、フェルズが口を挟んだ。

 クオンツは肩をすくめて小さな声で「ステラ姫も、諦めないな」と不思議そうに呟いた。


 その週の休日、皆で学園寮の前に集まった。

 ルティナは腕にウリちゃんを抱えていた。学園の中には連れていけないが、外なら別だ。

 いつも部屋で留守番をさせているので、連れていってあげたかった。


「まぁ、犬だわ」

「守護聖獣です。ウリちゃんといいます」

「守護聖獣? 何ができるの?」

「一緒にいてくれます」

「ふぅん」


 フェルズは近くで見るウリちゃんに興奮していたが、ステラはすぐに興味をなくしたようにルティナから離れて、カイネルードの腕にしがみついた。


「カイネの魔法で、山頂まで行けるのよね? ねぇ、カイネ。きちんと守ってね、私を」

「……ステラ。君のことはクオンツとフェルズが守ってくれる。俺はルティを守ることで忙しい」

「意地悪だわ」

「カイネ様、私は、自分の身は自分で守れますから」

「ほら、ルティナもああ言ってるじゃない」


 ルティナは肩をぐいっと抱かれた。誰かと思ったら、クオンツだった。

 どことなく勝ち誇ったような顔で「殿下、ルティは私の妹ですから、私が守りますよ」と言う。

 フェルズも恭しく礼をすると「ルティナ様。私もいます、ご安心を」と続けた。


 カイネルードは、無言で転移魔法を使った。

 ルティナたちは学園の敷地から、天高くそびえる山の麓に立っていた。


 山道ではあるが、一応人の手が入っている。

 それでも、岩が転がり、枝が突き出した悪路である。

 かろうじて道だとわかる場所の左右には鬱蒼と木々が茂り、一歩踏み出したら帰り道を見失ってしまいそうなほどに暗い。

 けれど、その暗さの奥に、魔法の気配が満ちている。

 魔力に満ちた植物たちが暗い森の中でふんわりと輝いている。


「森に分け入っても、素材を採集することはできます。けれど、頂上までのぼりましょう。せっかくですから、星を見ましょうか、ルティナ様」

「星を?」

「はい。あなたに謝罪をしたいと考えていた時からずっと、あなたに見せたいと思っていました。きっと、気に入ります」

「……ありがとうございます、フェルズ様」


 恥ずかしそうにしているフェルズの顔を見上げていると、カイネルードがやや強引にルティナの手をとった。

 そのまま手を引いて、山道をあがっていく。


「カイネ様?」

「ルティ。俺だけ見ていろと、言ったはずだ」

「は、はい。カイネ様だけ、見ています」

「いつの間にか、フェルズと仲良くなっている」

「フェルズ様のことを、私は昔傷つけてしまいましたから……仲直りできて、嬉しいのです」


 傷つけてしまったから、できれば今は、優しくしたい。

 仲良くしたい。

 そう考えて、ルティナはふとその感情が、ルティナの傷について悔やんでいるカイネルードの気持ちと同じだと気づいた。

 

「カイネ様、私は大丈夫ですから。ステラ様を」

「ルティ以外を優先するつもりはない」

「外交問題になります」

「なればいい」

「カイネ様」

「ルティ。俺はステラにどう思われようがどうでもいい。君の友人だからと思い、ある程度譲歩をしていた。だが、そろそろ限界だ。彼女と俺の立場のせいで君を優先できないのなら、俺は立場などはいらない」

「……そういうわけには」


 カイネルードは真剣だった。

 冗談で言っているわけではない。そう聞こえる時もあるが、カイネルードはいつでも真剣で、嘘をつかないのだ。

 ルティナはそれを、よく知っている。

 

「俺は、君がいてくれたらそれでいい」

「……ありがとうございます」

「ルティも同じ気持ちでいてくれるのなら、嬉しいが」

「私も……」


 カイネルードが好きだ。

 その気持ちは、揺らいだりはしない。

 けれどステラも、友人だ。はじめてできた、友人だった。

 

「カイネ、待って! 私、そんなに早く歩けないの。ルティナとは違うわ!」

「エルナン王国の男は屈強だろう。女性は違うのか?」

「女は、戦うことはしないの。鍛えたりもしないわ。足や腕が太くなったら困るもの」

「そうか。では、フェルズ。ステラを連れてゆっくり登ってくるように」

「え」

「これは、皇太子命令だよ、フェルズ」


 優しくカイネルードに言われて、フェルズは青ざめた。

 クオンツはフェルズの肩に手を置いて「かわいそうに」と呟いた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ