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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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フェルズ・オーウェンの謝罪



 幼い日のフェルズは、ルティナの魅了にかかっていた。

 お茶会に来ては、ルティナに「どうか僕と結婚をして、辺境伯家にきてください」と言っていたことを思い出す。


 申し訳なさといたたまれなさでいっぱいになりながら、ルティナはフェルズに手の甲に口づけられている間、じっとしていた。


 これぐらいは貴族間ではよくある挨拶である。

 けれど、カイネルードにそうされたときのような、腰が据わらないような落ち着かなさは感じない。

 むしろ、今すぐ逃げてしまいたいほどの困惑に、指の先から体温がひいていくようだった。


「オーウェン様、私はオーウェン様に残酷なことをしてしまいました」

「覚えています、ルティナ様。幼い僕はあなたに夢中でした。なんて愛らしい人なのだろうとそれだけで頭がいっぱいで、あなたと結ばれることばかりを考えていました。……それが魅了の魔法だと知った時は、裏切られた気がしたのです。あなたに恋をしていた、自分の心を」

「……ごめんなさい」

「しかし、あなたに酷い言葉をぶつけるべきではなかった。年上の男として……恥ずかしいことをしました」

「オーウェン様……」


 フェルズの懺悔を、クオンツは部屋に置いてあるソファに長い足を組んで座り、静かに聞いている。

 動揺している様子はないことから、クオンツは先にフェルズからの謝罪を受けていたのだろう。


「殿下の隣にいるあなたを見た時、なんて美しいのだろうと思いました。もちろん俺は魅了にかかっているわけではありません。あなたの首飾りは魔力を封じていると、クオンツ様に聞いています」

「はい。……オーウェン様、私のことを褒める必要はありません。自覚、しているのです。私の髪や目は、不気味な色だと。華やかでも美しくもない、陰気な色を持つ女です」

「まさか! あなたはクワイエット家の黒真珠だ。俺のあなたに感じた陶酔や崇拝のような気持ちは、幼い日と同じもの。魅了にかからなくても、俺はあなたを美しいと思っていたでしょう」


 あまりにも熱心にフェルズが言うものだから、ルティナはますます困ってしまった。

 手を振りほどけば失礼になる。

 フェルズの謝罪は受け入れたい。そもそも、フェルズは何も悪くない。悪いのはルティナである。

 けれど――こうも熱心に見つめられると、どうにも居心地が悪い。


「先に、クオンツ様と話をしました。あなたが俺に近づいてこない限りは、俺もあなたに近づかないと約束をしました。俺はあなたを傷つけた。俺とは、話もしたくないだろうと思っていましたから」

「……そんなことは」

「けれどあなたはここにきてくれた。歓迎します。俺は、魔道具研究会の部長をしています。部員は、俺とクオンツ様だけ。他にもいましたが――クオンツ様が追い払ってしまいました」

「お兄様……?」


 クオンツは悪びれもなく肩を竦めた。


「あれは部員などではない。毎日ここにきては、私にうるさく話しかけてくる。集中できないから出ていけと言っただけだ」

「クオンツ様が来たとたんに、女性の部員が増えたのですよ。そうすると、元々いた部員は皆、やめていってしまいました。そして、クオンツ様が女性たちを追い払って、今、というわけです」

「それは、お兄様がご迷惑を……」

「私は迷惑などかけていない。そうだな、フェルズ」

「そうですね。俺としても、素材ひとつ理解していない女性たちが毎日来ては、お茶会の会場のように部室をつかわれるのは迷惑でしたから」


 フェルズとクオンツによって、ルティナは歓迎された。

 作業机を与えてもらい、部室にある素材は自由に使っていいという説明を受ける。

 魔道具研究会は、新しい素材の採掘や採集なども行う。

 新しい魔道具ができたら皆でその効果を確かめて、本に書き留めていく。

 そして、商品化ができるようなら商品化を行う。


 部室はいつ使ってもいい。活動日は特に定められていない。

 けれど素材の採集は危険だから、皆で行く必要がある。


 等々を、フェルズが丁寧に説明をしてくれる。 


「俺は元々、魔道具を作るのが好きなんです。というよりも、辺境は魔物が多いですから、それに付随して素材がとれるのですよね。魔物は魔力が濃い場所に現れる性質がありますから。魔物討伐のついでに良質な素材を手に入れて、魔道具を作る――という感じで。気づけばすっかり趣味になっていました」

「そうなのですね。……私も、カイネ様に、竜の花をいただきました」

「竜の巣に咲く花ですね、とても貴重なものです。そういえば殿下は、竜の守護指輪をしていますが、あれは」

「私が、つくったもので……」

「すばらしい!」


 フェルズが突然両肩を掴んでくるので、ルティナは目を白黒させた。

 幼い頃は友人だったが、ルティナはフェルズがどういう人なのかをよく知らない。


 ただ――怖い、という気持ちが先行してしまっていた。


「あれはつくることがとても難しいのです。素材の難度もそうですが、純粋に作成が困難で……ルティナ様は、才能がある」

「そんなことは……私も、オーウェン様と一緒です」

「俺と?」

「はい。……部屋にこもってばかりいましたから、時間は、多くあって。それで、手慰みに魔道具作りを。何もしないで部屋にこもっていられる恵まれた環境にいたのです。ただそれだけで」

「ルティナ様……本当に、俺はあなたにひどいことをしました。許してくれとはいいません。ですが、俺はあなたに償いたい」


 フェルズはルティナの手を取って、懺悔をするようにその手に額を付けた。

 どこかで、パン! という破裂音が聞こえる。

 視線を向けると、クオンツが熱したビーカーを割っていた。


「クオンツ様……ご無事ですか」

「あぁ。熱しすぎたな」

「クオンツ様は不器用なのですから、一人で火をつかってはいけませんよ」

「そんなことよりもフェルズ。ルティが迷惑をしている。私の妹に、不埒なことをするな」

「していません!」


 割れたビーカーの中央で、アルコールランプの炎が高くあがっている。

 慌ててそれを消すフェルズの様子を眺めながら、クオンツは何もせずに優雅に腕を組んでいた。



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