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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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一緒にいたいと思えること



 カイネルードは名残惜しそうに、ルティナの指先や手首に唇で触れて、それから切なげに眉を寄せる。


「ずっと、ここにいたくなる。朝も昼も夜もずっと、こうして君に触れていたい」


 そんなカイネルードの腕を、どこからともなく現れたウリちゃんががぶりと噛んだ。

 カイネルードはいつも通り気にした様子もなく、ウリちゃんを抱っこするとよしよしとその頭を撫でる。


 ようやく、魔力酔いの症状から立ち直ったルティナは、慌てて体を起こした。


「ウリちゃん、カイネ様を噛んではいけないわ」

「問題ない。嫉妬と思えば可愛いものだ。俺とルティの仲のよさを妬んでいるのだな――ヴァレリー」

「カイネ様、ウリちゃんです。ヴァレリー様から名前を頂きましたが、ウリちゃんです」

「ヴァレでも、レリーでもなく」

「ウリちゃんです……」


 深い意味はない。

 ヴァレリーとは闇の大精霊の名なので、その名で守護聖獣を呼ぶのはさすがに不遜であるという配慮で、ウリちゃんとなっただけだ。


「そうか。では、ウリちゃん」

「……!」


 ルティナは両手で口をおさえる。

 それから、俯いて、肩を震わせた。

 カイネルードがウリちゃんをウリちゃんと呼んだのははじめてではないだろうか。

 守護聖獣と呼ぶことは何度かあったが。

 

 その響きが妙に可愛らしく、ルティナはくすくす笑った。


「……どうにも、ウリちゃんと呼ぶのが照れくさくてな」

「もっと、格好よい名前にすればよかったですね」

「いや、可愛いと思う。ルティらしくて、いい」


 カイネルードはルティナの髪を軽く撫でると、そのひと房を手にして口づける。


「また明日、ルティ」

「……はい、カイネ様」

「明日も明後日も、君を愛しているよ」

「……っ、は、はい」


 信じなくてはと、思ったのだ。

 カイネルードの気持ちを。ルティナの知らないところで、ルティナのためにしてくれていた努力を。


 いつまでも、部屋に閉じこもっていてはいけない。

 カイネルードを好きになってはいけない、嫉妬をするのはおそろしいと怯えてばかりでは、彼に気持ちを返すこともできなくなってしまう。


 立ち去ろうとするカイネルードの手を、ルティナはそっと握った。

 震える手で、力の入らない指で、赤子が大人の手を握るように。

 

 それがルティナの精一杯だった。

 自分から動くことのなかったルティナの、本の小さな一歩だ。

 けれど小さな一歩でも、踏み出さなければ――何も、伝わらない。


「か、カイネ様……」

「どうした、ルティ」

 

 ルティナの手を握り返してくるカイネルードの力が強い。

 ルティナは視線をさまよわせて、それから、カイネルードをまっすぐに見つめた。


「今日のことは、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。俺の説明不足のせいだな。ステラやアルヴァイスに何か言われたら、俺にすぐに相談をしてほしい。一人で、思い悩まずに」

「はい。カイネ様に、相談します」

「あぁ。そうしてくれ。君は一人ではない。俺がいる。君の傍に」

「……また、明日。明日も、お会いしたいです」

「もちろんだ……!」


 カイネルードは今までで一番といっても過言ではないぐらいの、嬉しそうな笑みを顔じゅうに浮かべた。

 曇り空から光が差し込んでくるような、美しく輝く笑顔だった。


「どうしようか、ルティ。君が可愛らしくて、帰りたくなくなってしまったな」

「……カイネ様、また明日も、あえますから」

「あぁ、そうだな。君がいるから、明日が待ち遠しい。それはとても、素晴らしいことだな」


 カイネルードは立ちあがると、ルティナの部屋の窓から外に向かって飛び降りた。

 ルティナは唖然とそれを見守った。

 カイネルードはどうしても窓から出ていきたいのだろうかと思いながら。


 ややあって、遠慮がちに寝室の扉が叩かれる。

 入っていいと返事をすると、セシアナが顔を出した。


「殿下はお帰りになりましたか?」

「ええ。今、窓から」

「まぁ……それはそれは。女子寮は男子禁制ですから、窓から出たのでしょうか」

「カイネ様は、転移魔法を使えるわ」

「それではきっと、どうしても体を動かしたい気分だったのでしょう」


 具合はどうかと聞いてくるセシアナに、ルティナは「もう大丈夫」と答えた。

 軽い夕食をすませて、湯あみをさせてもらう。

 学園寮の部屋には浴室がついている。セシアナが「お嬢様がリラックスできますように」と、ラベンダーのオイルをお湯に混ぜてくれていた。よい香りが、お湯から立ち上っている。

 セシアナに髪や肌の手入れをしてもらいながら、ルティナは口を開いた。


「……セシアナ。私、カイネ様とキスをしたわ」

「そうなのですね、お嬢様!」

「ええ」

「それはおめでとうございます。まだしていなかったことが、驚きなのですが……殿下はお嬢様を連れ出していたでしょう? とっくに……と、思っておりました」

「カイネ様は、私を大切にしてくれていたの」

「ええ、ええ、分かります」


 セシアナは何度も頷いた。

 ルティナは自分の言葉を確認するように、頭の中で反芻する。

 カイネルードはルティナを大切にしてくれていた。ずっと、昔からずっと。

 

「私……もっと、頑張らなくてはいけない。カイネ様と一緒にいたいと思ったの」

「素晴らしいことですね、お嬢様。その気持ちが一番大切です」

「大切?」

「夫婦とはこれから長い時を過ごすのです。死が二人を分かつまで、共に歩んでいくもの。一緒にいたいと思えるのなら、どんな悪路も二人で歩いていけますよ」

「……うん」


 ルティナは――微笑んだ。

 ずっとうまく、笑うことができなかった。

 けれど確かに、カイネルードのおかげで、ルティナの中の何かが変わり始めていた。


 

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