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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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ステラとアルヴァイス



 カイネルードにリアスを紹介すると約束をしたステラは、その足でいそいそと城の敷地内にある騎士団本部に向かった。


「叔父様! カイネに武術を教えて欲しいの」

「サラデインの皇太子に? 何故だ」

「私との婚約を白紙にするために、お父様に決闘で勝たなくてはいけないそうよ。でも、今のままではとても勝てそうにないもの」

「ステラ、お前もあの皇太子と結婚をしたくないという意味か」

「違うわ。勝てない程度に、鍛えて。そして――故郷にいるという彼の好きな女性には、会わないように伝えて。私はエルナン王国の姫として、婚約を白紙にされるなどという恥をかかされるわけにはいかないの」

「それだけの理由か?」

「もちろん、好きだからよ!」


 リアスは困ったように首を振ったが、可愛い姪の頼みを否定することはしなかった。

 ステラの頼み通り、リアスはカイネルードに「ワイバーンも倒せない男が、恋に現を抜かすとは。情は心を鈍らせる。それでは一生陛下には勝てないぞ」と言って、カイネルードがルティナに手紙を送ることを否定した。

 それから「陛下に勝てるまでは、日常生活でも魔法を使うべきではない。魔法に頼るような脆弱な男が、陛下に勝てると思うな」と言って、カイネルードが転移魔法でルティナに会いに行くことを否定した。


 だが――ステラには、誤算が一つあった。

 カイネルードはとても素直だった。リアスの言うことに従い、熱心に鍛錬をする。リアスの無理難題にも必死にくらいつき、寝る間を惜しんで努力を続けた。


 リアスは、カイネルードのその態度に絆された。

 そのために、その指導は真剣さと熱を帯び、カイネルードと個人的に話すことも多くなった。

 そしてカイネルードにかける言葉は、「女に現を抜かす愚か者の皇太子」という嘲りから、「ワイバーンを殴り倒せない男に女は惚れない。逆を言えば、どんな魔物でも殴り倒すことができる男に、惚れない女もいない。もちろんルティナ嬢もな」という優しい声かけに変わっていった。


「ねぇ、カイネ。ルティナとはどういう人なの?」


 表向きはカイネルードを応援するふりをし続けていたステラは、カイネルードからルティナのことを聞きたがった。


「俺の、大切な人だ」

「大切な人って?」

「昔からの、友人」

「ただの友人?」

「俺はずっと──ルティナに片思いをしている」

「どこがいいの?」

「そうだな。全てだ。……言葉にすると、大切な記憶が抜け落ちていく気がする。だから、言わない」


 カイネルードはステラを拒否することはなかったが、必要以上に優しくすることもなかった。

 言葉は嫌がらず、交わしてくれる。誰に対してもそうである。

 話しかけられれば拒否をせず、穏やかに言葉を紡ぐ。


 けして、ステラを特別扱いしてくれることはない。それは一年経っても、二年経っても。

 どれほどステラがカイネルードに親切にしようと、優しくしようと、ステラの手をとることはなかった。


 そうして、二年。カイネルードは結局エルナン国王に勝つことのできないまま、国に帰っていった。

 

「必ず、勝たせていただきます。それが、約束ですから」


 そう言い残して。

 カイネルードがエルナン国王に勝つことができたのは、それから二年後のことである。

 カイネルードは十七歳。線の細い美少年から、すっかりエルナン人と並んでも見劣りしない、体格のいい精悍な青年へと変わっていた。


「カイネルード。お前のその思いの強さには感服した。ステラとの結婚は白紙に、このことについて両国に禍根は残さないことを手紙に書こう。サラデイン皇帝に渡すがいい」

「国王陛下、感謝をいたします。四年も、私との決闘を受けてくださったこと。そして、私の我儘を許してくださったことを」

「王族の結婚とは、不幸なものが多い。どんなことをしてでも添い遂げたいと思える女性がいるとは、幸せなことだ。それほど、ルティナとはすばらしい女性なのだろうな」

「はい。私にとっては。彼女の為ならこの命を落としてもいいと思えるぐらいに――愛しています」


 国王はステラに言った。

 カイネルードは四年間、ルティナに会っていない。それでも想い続けていた。

 そんなに想うことのできる女性がいる男との結婚など、不幸になるだけだ。

 これでよかったのだと。


 ステラは、納得がいかなかった。

 それならば自分のこの気持ちはどうなるのか。

 ルティナがどんな女なのか、その顔さえもステラは知らない。

 それなのに、負けるなんて。


 ――あり得ない。


「わかりました。でも、せめて私の我儘もきいて。私、サラデインの学園に入りたいの。サラデインの文化を学びたい。本当なら、カイネと結婚をしてそれができたのでしょうけれど、それは叶わぬ夢に終わってしまったもの」


 皆が、ステラに同情をしていた。

 そして、その状況でも笑顔を忘れず、前向きに行動をしようとするステラを褒めたたえた。


 カイネルードはもちろん、拒絶はできなかった。

 婚約を白紙にしたあげく、ステラの留学まで拒否することなど、当然できなかったのである。


 一年経ち、ステラはサラデインに留学する年齢になった。

 サラデインに行く前に、カイネルードに手紙を送った。

『サラデインには知り合いはいない。頼れる人はカイネだけ。学園に行くから、迎えに来て欲しい。学園では、できることなら傍にいてほしい。私はエルナン王国の姫なのだから、それぐらいはしてくれるでしょう』と。


 手紙の返事は『可能な限り努力するが、できないこともある』と、やんわりと書かれていた。

 ステラが学園寮に入ったのは、入学の一日前である。

 頼んでおいたのに、カイネルードは会いに来てくれなかった。


 落胆するステラの前に現れたのは、カイネルードにどことなく似た面差しの、線の細い男だった。


「ステラ・エルナン姫。はじめまして。僕はアルヴァイスといいます」

「アルヴァイス……?」

「ええ。カイネルードの弟です」


 アルヴァイスはステラにうやうやしく挨拶をして、ステラを薔薇園の奥のガゼボに案内してくれた。

 アルヴァイスはステラをきちんと、『まとも』に扱ってくれた。

 ステラの最低な気分は、少しだけ浮上した。


「ステラ姫は、カイネルードに会いにサラデインに来たのではないですか?」

「ええ。そうよ。それから、ルティナに会いに。カイネを虜にしたルティナが、どんな女性か気になるもの」

「なるほど。けれど、虜というのは――正しい言い方か、否か」

「どういうこと?」

「きっとあなたもすぐに知るでしょう。ルティナは魅了の魔女と呼ばれています。他者を魅了する魔法を使えるのです」

「魅了とは?」


 ステラは訝し気に眉を寄せ、首をかしげる。

 男を魅了する女。

 その意味は知っている。つまりルティナとは、それほど魅力的な女性ということなのだろうか。

 まるで、毒婦のような──。


「そのままの意味です。魔法を使い、相手を意のままに操れる。己の虜にすることができるのですよ。兄上は、ルティナの元に通うようになってから、様子がおかしくなってしまった。他の貴族の子供たちは、神殿で魅了を浄化してもらい、ことなきを得ましたが。兄上には魅了がかかったままなのです」

「そんな、ひどい」

「そう。残酷なのですよ。ルティナは皆から嫌われている。兄上がいなくなれば、ルティナは孤独だ。だから、兄上を離そうとしない。そして、誰も兄上の魅了を解くことができない」


 アルヴァイスはとても悲しそうに目を伏せる。

 ステラはその手をきつく握った。こんな酷い話はない。

 そしてそれなら、ステラが拒絶されたことも理解できる。

 誰もが褒めたたえる自分を拒否する男など、いるわけがないのだから。


「私はどうしたらいいの、アルヴァイス」

「では、僕に協力をしてくれますか? 僕は兄上を救いたい。そして、ルティナも。二人とも、このままでは哀れだ」


 ステラは強く、頷いた。

 アルヴァイスに協力をして、カイネルードを救わなければ。

 

 ステラはアルヴァイスと共に計画を練った。

 まずは――ルティナに近づく必要がある。

 近づいて、その信頼を勝ち取って。

 そして――。



 

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