表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/69

学園への入学



 なんともいえない緊張で胸を詰まらせながら、ルティナは真新しい制服を着た他の生徒たちと一緒に、エダート学園の広間に並んで立っている。


 入学初日は、入学式のみ行う。

 学園長の言葉のあとに、舞台にあがったのはカイネルードだった。


「三年間の学園生活のあと、それぞれの道にすすむだろう。自由の保障された最後の時間を、皆と共に楽しみたい。そして皆も、楽しんで欲しい」


 カイネルードはどこにいても堂々としている。

 光に照らされた金の髪を、制服に包まれた立派な体躯を、そしてその精悍な顔立ちを、女生徒たちがうっとりと見つめている。


 カイネルードの右手の中指には、ルティナの渡した竜の守護指輪がはめられている。

 遠目にそれを見てしまい、ルティナは密やかに自分の胸に手を当てた。


 ふと目が合った気がした。嬉しそうに目を細められて、ルティナの鼓動は速くなる。


 恋をしてはいけない。

 嫉妬をしてしまうのが怖い。

 いまだに、悪夢を見る日がある。


 けれど――ルティナの中では少しだけ、変化があった。

 カイネルードを信じたい。

 その気持ちを裏切りたくない。


 ルティナもカイネルードのように、強くなりたいと思えたのだ。家族も、カイネルードもルティナを支えようとしてくれている。その気持ちにこたえたい。


 暗い部屋の中から一歩外に踏み出して、カイネルードの手をとってみようと思えた。


 カイネルードの挨拶が終わり、入学式が終わると、それぞれの生徒たちが知り合いや友人たちと連れ立って、広間から出ていく。

 今まで狭い世界で生きてきたルティナにとって、知り合いや友人と呼べる者はいない。

 

 心細さと不安感はぬぐえないが、眩暈がするような恐怖感は今はない。

 カイネルードの婚約者になって一年、様々な場所に連れ出してもらった。

 そのせいか、ルティナは少しだけ――外に出ることに慣れていた。


 多くは望まない。呼吸を密やかに繰り返し、目立たず揉め事を起こさずに、三年間を過ごしたい。 

 その中で楽しいことが一つでもみつかればいい。

 

 ここには、カイネルードとクオンツがいる。だからきっと、大丈夫だ。


「――ルティナ」


 セシアナが待ってくれている学園寮に戻ろうと、徐々に人が減っていく広間から出ようとしたときだった。


 甘く愛らしい名前を呼ばれて、ルティナは足を止める。

 女性の声だ。親しげにルティナの名を呼んでいる。

 そんな知り合いはいないので、驚いて振り向くと、そこに立っていたのは金色のふわりとした巻き毛と、大きな翡翠色の瞳をした小柄な少女だった。


 ルティナは頭から冷水を浴びせられたような感覚を覚える。

 その少女の顔には見覚えがあった。


 何度も、見たものだ。

 繰り返される悪夢の中に、何度も出てきた。


「……あなたは」


 声が震えてしまわないように意識しながら、硬い口調でルティナは呟いた。

 少女は嬉しそうに微笑む。

 それはカイネルードとどこか似ている、太陽のような笑顔だった。


「私は、ステラ・エルナン。会えて嬉しいわ、ルティナ! カイネから、あなたの話はよく聞いていたのよ」


 古くからの知り合いのように、彼女は――ステラ・エルナンはカイネルードのことを語った。

 ステラ・エルナン。エルナン王国の第二王女。

 それをルティナは知っていた。

 悪夢の中で何度も見た。カイネルードの寵愛を一身に受けて、カイネルードの隣で微笑んでいる愛らしい姫君の名前だ。


「ステラ・エルナン様……」

「ステラと呼んで。サラデイン皇国の文化を学ぶために、エルナン王国から留学に来たの。エルナン王家の第二王女よ。でも、そんなことは気にしなくていいわ。私、知り合いがカイネしかいなくて、どうしようかと思っていたの」


 二の句が告げず、ルティナは黙り込んだ。

 人と話すのは得意ではない。だが、それだけではなかった。

 悪夢などただの夢だと自分に言い聞かせてきた。

 それなのに――今目の前に、ステラがいる。

 

 カイネルードとは知り合いのようだ。恐らく、カイネルードが留学中に出会ったのだろう。

 心臓が痛いぐらいに激しく鼓動を繰り返している。指先が冷える。

 

 花が咲いたように笑うステラは、明るく溌剌としていて――とても、優しそうに見えた。


「あなたも一人? 一緒ね!」

「……は、はい」

「よかったら、学園寮まで一緒に行きましょう? 一人は寂しくて、心細かったの。ルティナ、いいでしょう?」


 ステラはルティナの返答を待たずに、その手を取った。

 それから、広間の出口までルティナを引っ張っていく。

 広間の外には、明るい日差しの差し込む庭園がある。

 やや古めかしい外観の伝統のある学園の校舎。それから、男子寮と女子寮。礼拝堂と、訓練施設。

 図書室に、食堂。庭園に、噴水。

 エダート学園は、一つの街のようだ。


「二年前に、エルナン王国にカイネが来たのよね。二年間お城で一緒に過ごしていて、それで、約束をしたの。ほら、サラデイン皇国の人々は魔法が使えて、魔道具が発展しているでしょう? 私もそれを是非学びたいから、十六になったらサラデイン皇国の学園に入学させて欲しいって」

「そうなのですね」

「カイネはあなたのことを、友人だと言っていたわ。カイネの友人なら、私とも友人でしょう? いいわよね、ルティナ」

「……ええ、はい」

「あら? どうしたの? 迷惑だった?」

「そんなことは、ありません。ありがとうございます、ステラ様」

「ふふ、気にしないで。カイネがあなたのこと、人と話すのが苦手な子だって言ってたわ。だから、大丈夫よ。実はね、カイネから、ルティナは人見知りだから、私に友達になって欲しいって言われていたの」


 にこやかにステラは言った。

 カイネルードから、ステラの話をルティナは一度も聞いていない。

 

 繋がれた手に、居心地の悪さを感じる。

 話しかけられて、嬉しい筈なのに。


(駄目。よくないわ。嫉妬はしない。傷つかない。そう決めた)


 ルティナは自分に言い聞かせた。

 もし悪夢が現実になってしまったとしても――嫉妬をしなければいい。

 破滅に向かわなければ、クワイエット家に迷惑をかけることはない。

 両親や兄を悲しませることはないのだからと。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ