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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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窓辺の侵入者



 ステラ・エルナンがカイネルードの心を奪うとしても。

 それ以外の女性が現れるとしても。


「……私は、静かにしていればいい。嫉妬に身を焦がさず、静かにそれを受け入れることができれば」


 たとえばカイネルードに疎まれて、婚約が破棄されてもいい。

 望まぬ王妃と婚姻を結ぶのならば、婚約などは破棄されてしまったほうがずっといい。


 カイネルードとこれ以上親しくならないようにしなくてはいけない。

 心を預けるようなことはあってはならない。

 

 開かれた窓は閉じて。その奥に心を隠していなければ。

 嫉妬心はおそろしい。処刑は――怖い。けれどそれ以上に。


 今まで優しくしてくれた両親やクオンツの悲しむ顔は見たくない。


「趣味に没頭していれば、他のことは目に入らなくなるはず。そうよね、ウリちゃん」


 自室の作業机の前に座って、ルティナは呟く。

 膝の上に座っているウリちゃんを撫でると、同意をするようにぱたぱたと尻尾を振ってくれる。


「ありがとう。ウリちゃんがいてくれて、よかった」


 作業机の上には、様々な道具が並んでいる。材料を溶かすためのランプ、組み合わせるための工具、色ごとに別れた、飴のような小さな魔石が入った小瓶。縫い針に、布。鋏に、ナイフ。

 参考書の数々は、古いものから新しいものまで様々だ。


 サラデイン皇国は魔法の国である。だが、全ての人が全ての魔法を使えるわけではない。

 皆が豊かに暮らすことができるように、魔道具がある。

 皇国では魔導具師になるものも多く、それは皇国内でも、隣国でも流通している。


 魔石ランプは最も一般的な魔道具の一つである。


 ルティナは魔石ランプをつくることが好きだった。それはただ光ることのみに重要性があって、他の装飾はある程度自由だからだ。

 それ以外には、他属性の魔法を使用することのできる魔石の装飾品もよく作る。


 もう少し珍しいところでいえば、神秘のヴェールや、各種の紋章や髪飾りなど。

 これは、魔物討伐を行う冒険者たちや騎士たちが使用するものだ。

 精霊の加護を引き出す装備品である。


 あとは、薬の類。ともかく、ルティナには時間だけはたっぷりあった。

 クワイエット公爵家に保管されている本や素材の類などは好きに使っていいと父に言われていたし、足りないものはセシアナに買って来てもらっていた。


 セシアナに頼むことは気が引けたが、セシアナは「お嬢様から頼みごとをされるのは嬉しいのですよ」と笑っている。


 魔道具の参考書をぱらりと捲る。特別なものはつくることができないが、何かをしていると気がまぎれる。

 作ったものは、セシアナが売りに行ってくれている。売った代金をお小遣いとして、また新しい素材を買うのである。これなら、クワイエット公爵家にも迷惑をかけなくてすむ。


 両親もクオンツもそんなことは気にするなと言うのだが、ルティナは己が誰かに迷惑をかけるということが、どうにも許せなかった。

 ただでさえ『まとも』ではない自分は、皆に迷惑をかけているのだから。


「そういえば、お父様が頭痛がするとおっしゃっていたわね」


 ルーメルヴァの葉を薬研でごりごりと細かくして、粉末状にする。

 そこに銀月の雫を垂らし、先につくっておいた魔力安定剤を入れる。


 このままでは味が悪いので、エトワールミツバチの蜂蜜と、アニムス薄荷の粉末を混ぜて、錠剤の型にいれて一粒ずつかたどりをする。

 

 こういう作業の時、まったく魔力がないものが行うと、素材の魔力に体がおいつかずに極端な魔力酔いを起こす。それなので、魔道具師はある程度の魔力を有していないといけない。

 一応は、適正があるのだ。

 ルティナの場合は、首飾りで魔力をおさえているとはいえ、魔道具を作るには十分な魔力量がある。

 

 それぐらい元々の魔力量が凄まじいということなのだが、ルティナはそれについてはあまり考えないようにしていた。

 封魔の首飾りは、今や体の一部ぐらいに身に馴染んでいる。


 出来上がった錠剤はあとは乾燥させて瓶につめるだけだ。

 頭痛薬のレシピ通りに作ったので、効果は間違いないだろうが、口に入れるものなので先に自分で試してみないと。


 そんなことをしていたら、一日が終わった。

 湯浴みの手伝いをしながらセシアナが「お嬢様、新しい魔道具ですか?」と、にこにこしながら聞いてくる。

 頭痛薬の話をすると「では私が、飲んでみます。お嬢様の大事な御身で効果を試すなど、いけません」と言ってくるので、それは断った。

 大事な体ということに関しては、自分もセシアナも同じだ。

 同じ命だと、ルティナは思う。


 侍女たちはルティナを恐れているが、セシアナだけは態度をを変えない。

 ルティナを傷つけないように、無理をしてくれているのかもしれない。

 それが、ルティナには、切ないぐらいにありがたかった。


 翌日は、心地のよい青空だった。爽やかな風が窓から吹き込んでいる。

 窓辺に置かれている香炉は虫よけの効果があるものだ。

 これは、窓をあける癖のあるルティナが考え抜いた末につくったものである。


 窓をあけていると、虫がはいる。蝶ならばいいが、ハチや他の羽虫は困る。

 香炉を作ってからは、窓からは何も入ってこなくなった。

 何も、誰も。訪れたりはしない。


 身支度を済ませて軽い朝食を終えると、ルティナはさっそく作り終えた錠剤を手にした。

 昨日もあまり眠れなかった。そのせいか、最近ではルティナも少し、頭痛がする。


 頭痛薬の効果を試すにはちょうどいい。

 小さな錠剤を口に含む。ラムネのような味わいがする。カリッと噛んで、飲み込んだ。


「味は、悪くないわね。寧ろ、美味しい」


 際限なく食べてしまうことができそうな味をしている。こういった薬が、お菓子のように美味しいというのも考え物だと思いながら、ルティナはソファに座ってあくびをした。


 割りきったつもりでいるのに、どうして悪夢を見続けるのだろう。

 ドレスの裾が、ふわりと広がる。服の好みというものがあまりない。それなので、毎日の服はセシアナが選んでくれている。

 セシアナは既婚者だが、子供はまだいない。「お嬢様に愛らしいドレスを選ぶのが趣味」だといつも言っている。


「――ルティ」


 薬を飲んだせいだろうか。柔らかい眠気に身を委ねながらソファに座ってうとうとしていると、声がする。


「寝ている。俺の、お姫様」

 

 また、夢だ。

 いつも、カイネルードは夢にでてくる。

 そして、愛し気に囁くのだ。ルティナではなく、ステラという見ず知らずの女性に。


「……可愛い」


 指先にぞわりとしたものが走る。

 まるで、羽ペンの羽先で、手の甲を撫でられているようだった。

 はっとして目を開くと、カイネルードがルティナの前に膝をついて、ルティナの手を取っていた。

 

 指先や手の甲に唇が落ちる。

 青空のような瞳が細められる。そして「起こした? すまないな」と、嬉しそうににっこり笑った。



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