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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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クオンツの提案



 嫌な夢を――毎日のように見る。


 その都度不安は肥大していく。

 そして肥大した不安が嫌な夢をみせる、悪循環である。


「ルティ。顔色が悪いが、どうした」

「……お兄様」


 部屋にばかりこもっていると、嫌なことを繰り返し考えそうになる。

 久々に日の光を浴びながら庭を散策していると、クオンツがやってきた。


「殿下の婚約者は、それほどまでに重荷か?」

「……そういうわけではないのです。分かっています。必要なことだと」

「必要? あぁ、お前の魅了の魔法がどうこうと言っていたな。まぁ……お前のことをよく知らない者たちにとって、それは脅威に感じられるのだろう」

「知っていても、おそろしいです。きっと」


 クオンツはルティナの手を引いて、庭園のベンチに座らせる。

 それから、ルティナが使えるものと同じ闇魔法で、影を操りラベンダーを何本か切ると花束をつくって、ルティナに持たせた。


「心が安らぐ効果がある。枕元にでも置いておくといい」

「ありがとうございます、お兄様」

「ルティ。……あの時お前は六歳だった。多くの者たちに囲まれ罵られることは、さぞ恐ろしかっただろう。だが、もうお前は十五。来年には学園に入学する」

「……はい」

「ここから一歩外に出ると、様々な人間がいる。いい人間も、そうではない者も。私も人と付き合うのはあまり、得意ではない。だから少しは、お前の気持ちが分かるつもりだ」


 ルティナは顔をあげた。

 クオンツの秀麗な横顔を見あげる。美しい庭園の花々がよく似合う。

 立派な兄だ。弱音を吐いている姿を見たことなどなかった。ルティナにとっては、自分以外の皆はそつなく人生を謳歌することのできる遠い世界の人々だ。


 暗い部屋の窓から、楽し気に笑いあう人々をいつも、視界の端で見ている。

 自分には手が届かないものだと、その中になど入れないのだと割り切って、膝を抱えていることしかできない。


「何かが変わるというのは、おそろしいかもしれない。けれど、楽しいこともある。学園では私がいて、殿下もいる。何かあれば、頼れ」

「お兄様。……ありがとうございます」

「あぁ。まぁ……殿下はお前が他者と交わることは、快く思ってはいないだろうが」

「カイネ様は、私が問題を起こすことを気にされているのでしょうか」

「そういうことではない。ルティ。殿下のことを、信用できないか?」

「信用は、しています。クワイエット家は王の剣。王を守るのが、私の役割です。そこに疑いなどは」


 クオンツは口元に手を当てて苦笑した。

 それから、指に髪を絡ませる。


「殿下が、お前のことが可愛くて仕方ないという気持ちが、私にはよくわかる」

「お兄様、私は可愛くなどありません。勘違いをするようなことを言われては、私、困ってしまいます」

「お前が自分をどう評価しようが、私はお前が可愛い」


 そう言って、クオンツは立ちあがった。

 それから、ルティナに手を差し伸べる。

 ルティナはラベンダーの花束を片手に抱えて、クオンツの手を取った。


 いつの間にか兄の手も、大人の男性の手になっている。

 ルティナだけがあの時から、あのお茶会の日から、成長していないような気がした。


「いけないな。私の籠の鳥を、外に出したくないと思ってしまう。お前を奪っていく殿下が少し、憎らしい。……ずっと、外を怖がって、ここにいればいいのにと」

「それは……できません。お兄様も奥様を娶るでしょう? 私はきっと、邪魔になります」

「どうかな」

「学園では女性にとても人気だとお聞きしました。私はこんな風ですから……お兄様は私の憧れです」


 クオンツのようになれたらと、いつも思うのだ。

 そうすれば、誰かに迷惑をかけることもなかっただろうにと。

 けれどクオンツにもクオンツの悩みがある。

 そんなことは、考えたこともなかった。


「そうでもないさ。ルティ、緊張や不安で悪夢を見ることは、よくある。何か、別のことを考えなさい。たとえば、そうだな。お前は魔道具を作るのが好きだろう?」

「はい。たいしたものは、作れませんけれど」


 部屋にこもることの多いルティナはその多くの時間を読書と魔道具作りに費やしている。

 他にやることがないということもあるが、何かに集中していると心が楽になる。

 それに、細かい作業をするのが好きだった。


 様々な魔法が練り込まれた魔石から、色々な魔力を帯びた材料を組み合わせてつくった魔道具に、魔力を抽出して練り込むことが好きだ。

 クワイエット公爵家には魔道具関係の蔵書も多いために、基本の魔道具作りからはじめて、今は本の最後のページに載っているものまでをつくることができるようになっている。


「最近は、していないのか?」

「このところは……」

「趣味を持つのはいいことだ。学園にも、魔道具研究会があったのではないかな。好きなことに打ち込めば少しは気が晴れる。辛い怖いとばかり考えなくてすむだろう。お前がそうしたいのなら、私も、同席してもいいと考えている」


 魔道具研究会――。

 それは、ルティナの心にほんの少しの光を差し込ませた。


 このままでは、カイネルードのことばかりで頭がいっぱいになってしまう。

 夢の中のルティナは暗い嫉妬に身を焦がしていた。


 ルティナには夢の中のルティナの気持ちがよく分かる。

 カイネルードのことだけで頭がいっぱいだから、どうしようもなくなってしまったのだ。


 そうならないためにも、クオンツのいうように他のことに目を向けるのは大切かもしれない。

 ルティナはクオンツの言葉を、胸に刻んだ。




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