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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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悪夢



 ◆



 花々の咲き乱れる美しい庭園で、カイネルードと愛らしい姫君が並んで座っている。

 微笑みあう彼らには、遠目に見てもただの友人ではない親密さがある。


 美しい金の巻き毛に、翡翠の瞳を持つ愛らしい少女の名前は、ステラ・エルナン。


 エルナン王国の第二王女で、先立ってカイネルードが留学をしたためにその代わりにサラデイン皇国の文化を学びにエダート王立学園に入学をした一年生である。


 ルティナと同学年で、十六歳。暗い色合いのルティナとは真逆の、太陽のような美しい少女だ。


 青空のようなカイネルードと、太陽のようなステラはお似合いであると、皆は言う。

 ルティナはカイネルードの婚約者だが、二人の姿を物陰から見ていることしかできなかった。


(……あんなに、楽しかったのに)


 カイネルードの婚約者に選ばれた時に、ルティナはそれを拒絶した。

 とても、皇帝妃になどはなれないと思ったのだ。

 それでもカイネルードが優しくしてくれれば嬉しく、他者の感情を恐れているルティナは、カイネルードと過ごすにつれて、心を開きかけていた。


(好きだったのに)


 ルティが好きだと囁いてくれた言葉も。ルティしかいらないと臆面もなく言い放っていたことも。

 全ては、幻想だった。

 ルティナはいつも、幻想の中で生きている。

 封魔の首輪から力が漏れて、カイネルードのこともきっと魅了をしてしまったのだ。


 けれど本当の思い人と再会して、正気に戻った。

 ただ、それだけの話だ。


 今やカイネルードはルティナのことなどすっかり忘れたように振る舞っている。

 ルティナは、ひとりぼっちだった。


 悲しかった。寂しかった。憎らしかった。

 カイネルードは部屋から無理やりルティナを連れ出した。

 それなのに、全て忘れたような顔をして、他の女に愛を囁いている。

 

 それならばと、ルティナは首飾りに指をかける。

 首飾りは、カイネルードに貰ったものだ。こんなもの、外してしまいたい。

 ルティナの気持ちを裏切った。

 初めから、心などなかったのかもしれない。


 ルティナを好きだと囁いた言葉こそが嘘で、危険な魔力を持つルティナを仕方なく監視をしているというのが本当。

 言葉巧みに騙されたルティナは、一人でのぼせあがっていただけだったのか。

 それとも、本当に、カイネルードを魅了してしまっていたのか。


 あぁでも、魅了をしていた間は、幸せだった。

 愛を囁かれて、大切にしてもらって。カイネルードになら、全てを捧げてもいいと思えた。信じようと、思えたのに。


(今までが魅了の魔法にかかっていたのだとしたら、再び魅了の魔法をかけても、同じこと)


 そうして、ルティナは禁忌を犯した。

 封魔の首飾りを外して──カイネルードを魅了しようとして。


「ルティ。首飾りを、外したな」


 それは、光の大精霊の加護により阻まれてしまった。

 首飾りを外したルティナの前に、ルティナを冷たい目で見据えるカイネルードが立っている。

 まるで、崖から突き落とされたような気分だった。

 足先が冷たく、感覚を無くした。膝にも腰にも力が入らずに、その場にぺたんと座り込んだ。

 流れた涙を拭うものは誰もいない。誰もが恐ろしい魔女だと、ルティナを拒絶の色を浮かべた瞳で睨みつけている。


「ルティナ。信じていた。だが、君は俺を裏切った」


 縄を打たれて、首飾りをはめられて、ルティナは断頭台に連れて行かれる。

 王国に混乱をもたらす魔女だと、誰もがルティナに石を投げる。


 両親が、泣いている。クオンツは青白い顔で、絶望に沈んだ表情で、目の前の光景を眺めている。


 ただ、好きだったのだ。

 それだけだった。


 けれど──やはり、恋などはしてはいけなかった。

 感情の箍が外れて、してはいけないことをしようとしてしまった。

 あれほど、人の心を操ってはいけないと、自分を戒めていたのに。


「魔女を、殺せ」


 騎士の振り下ろした刃が首に食い込む──。

 ルティナは目を閉じる。目の前が白く濁り、一瞬自分が誰で、どこにいるのかさえ見失う。


 嵐の後の増水した川に流されているようだった。

 ルティナは必死に、何かを掴む。これ以上流されないように。これ以上、溺れないように。


「っ、あ、あ……っ」


 ベッドの上で、飛び起きた。掴んだものは、己の寝衣だった。

 びっしょりと、寝汗をかいている。起き上がったためか急速にそれが冷えたせいで、体が震えた。


 今がどこで、自分が誰なのかわからなくなり、混乱しながらルティナは視線を部屋に走らせた。

 ようやく、今が真夜中で、自分がルティナ・クワイエットだと思い出す。

 

 ルティナの隣では、ウリちゃんがすやすや眠っている。

 平和な寝顔を指先でつついて、ようやく落ち着いて、深い安堵の息を吐いた。


「……今のは、予知夢?」


 まさかと思う。

 予知夢など一度も見たことはない。

 けれどずいぶん、現実的だった。知らない少女が夢に出てきた。

 けれど、顔と名前を知っているかのようだった。


 考えすぎかもしれない。

 けれど──。


 ステラ・エルナン。

 その名前を、ルティナは心の中で何度か繰り返した。


 もし本当にそんな少女と学園で出会ってしまったら。

 いや、出会わなくても。


 今のは一つの可能性だ。カイネルードと踊ることが楽しく、その余韻に浸っていた。

 浮かれていたのだ。


 カイネルードに相応しい女性は星の数ほどいることを、失念していた。


「私は……」


 カイネルードを好きになってはいけない。

 もし、他に好きな女性がいて、婚約破棄になったとしても、己はそれを粛々と受け入れるべきだ。


 それが、家を守るためである。そして、自分自身を守るためである。


 はあはあと落ち着かない呼吸に胸をおさえながら、ルティナはそう自分自身に言い聞かせた。

 朝が来るまでずっと、そうしていた。




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